文=高橋 剛/イラスト=北極まぐ/問題提供・監修=長 信一

昭和・平成のベテランドライバーが「令和の最新・運転免許学科試験問題」に挑戦したら…

アップデートしてますか? 交通ルールの新知識

免許を取ってウン十年。果たして正しい交通ルールをしっかり覚えているのか。
前回好評だったベテランドライバーたちが難問に立ち向かう「運転免許学科試験問題への挑戦」。
今回用意した模擬試験問題には、ここ数年で改正された道路交通法なども多数反映。
果たして昭和から平成にかけて免許を取ったベテランたちは、令和の最新交通ルールに追いつけているのか? そして気になる正答率は!?

目次

模擬試験出題範囲は、ベテランを悩ませる10ジャンル

今回の模擬試験問題は、自動車運転免許研究所の長 信一先生にご協力いただき、実際の学科試験問題と同様の基準に従って、長先生が独自に作成したもの。
今後、本当に学科試験で出題されるかもしれないクオリティーとなっている。

長 信一

ちょう・しんいち 1962年生まれ。1983年、都内の自動車教習所に入社し、学科や実技の指導員に。24歳のとき、全種類の運転免許証を完全取得。実体験を交えた指導で、数多くの合格者を送り出した。所長代理を経て退所し、現在は自動車運転免許研究所の所長として運転免許関連の書籍を執筆。その数、実に200冊以上。

長先生が選んだ出題の範囲は、ここ10年以内に改正された法律やルールが中心。下記AからJの10ジャンルから各3問ずつ、合計30問だ。

A: 積載物の大きさ及び積載方法に関する見直し 【令和4年(2022年)5月13日施行】
B: 「タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め」の規制標識の新設 【平成30年(2018年)12月14日施行】
C: 環状交差点における車両等の交通方法の特例に関する規定の整備 【平成26年(2014年)9月1日施行】
D: 運転免許の種類等に関する規定の整備 【平成29年(2017年)3月12日施行】
E: 夜間における灯火の方法【平成29年(2017年)3月12日施行】
F: 高速道路における二人乗り規制の見直し 【平成17年(2005年)4月1日施行】
G: 遠隔操作型小型車(自動配送ロボット等)の交通方法等 【令和5年(2023年)4月1日施行】
H: 妨害運転(あおり運転)に対する罰則の創設等 【令和2年(2020年)6月30日施行】
I: 特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)の交通方法等 【令和5年(2023年)7月1日施行】
J: 聴覚障害者保護の推進 【平成20年(2008年)6月1日施行】

受験者は、昭和から平成にかけて免許を取得した運転歴20年以上のドライバー15名。彼・彼女らが実際に学科試験を受けた際には、こうした内容の問題は存在しなかった。
交通ルールに関する知識が受験当時のままなら、完全に未知の世界である。
なお、試験前にはこれらの出題範囲はもちろんのこと、企画趣旨である「ベテランドライバーが最新の学科試験についていけるのか?」といったことも含め、事前情報は何ひとつ伝えられていない。
試験時間は1問当たりの解答時間を実際の学科試験時間に当てはめ、18分とした。
さて、気になる結果は!?

意外と高い正答率!? ニュース性のあるジャンルは特に認知されている

問題作成にあたり、「なるべく引っかけ問題のような要素は排除し、難問奇問の出題は避けています」と長先生。
本当の学科試験の受験ではなく、模擬とはいえ試験という緊張感のなか、正しい交通ルールの理解を深めることが狙いだからだ。
とはいえ、ベテランドライバーたちが学科試験の勉強をしたのは、はるか遠い昔の話。常日頃からアンテナを張っていなければ、出題ジャンルの存在そのものを知っているかどうかですら、かなり怪しい。
結果的に難易度が上がってしまうのではないか……。そんな不安を抱きつつ、いざ全員の解答結果を開いてみた。

結果は……、全30問の平均得点は約23点。正答率は77%! 実際の学科試験の合格には90%以上の正答率が必要で、残念ながらほとんどの人が不合格ということになる。
しかし、昭和・平成の受験時にはなかった未知のジャンルに絞った試験問題にしては、まずまずの結果となった。

模試の合計点分布

学科試験模試の合計点グラフ

ジャンル別正答率

ジャンル別正答率

A:積載物の大きさ及び積載方法に関する見直し、B:「タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め」の規制標識の新設、C:環状交差点における車両等の交通方法の特例に関する規定の整備、D:運転免許の種類等に関する規定の整備、E:夜間における灯火の方法、F:高速道路における二人乗り規制の見直し、G:遠隔操作型小型車(自動配送ロボット等)の交通方法等、H:妨害運転(あおり運転)に対する罰則の創設等、I:特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)の交通方法等、J:聴覚障害者保護の推進

今回出題されたジャンルから、特に注目の問題をいくつかピックアップする。

ジャンルI: 何かと話題の「電動キックボード」関連の問題

いろいろな意味で注目を集めている、電動キックボードなどの最新モビリティ。既存の交通社会に組み込まれるにあたり、「知っておくべき新たな法律」が数々施行されている。

問題:「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識が設置されている場所では、特例特定小型原動機付自転車も歩道を通行できる。

正解:〇 (正答率80%)
令和5年7月1日に施行された「特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)の交通方法等」に関する出題。
設問の場所では、特例特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボードの中でも歩道を通行できるもの)も歩道を通行できる。

長先生の解説

都市部で普及しつつあるとはいえ、地域によっては見かけることも少ない新しいパーソナルモビリティである電動キックボードが話題の中心になっており、報道が多いこともあって、認知度は高いようです。
特定小型原動機付自転車は、車両の一種という扱い。原則として、車道を通行しなければなりません。
ですが、「時速6kmを超える速度を出すことができない」等の基準を満たしていれば、特例特定小型原動機付自転車とされ、「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識等が設置されている歩道を通行できます。
特定小型原付の中に、さらに一定の基準を満たした特例特定小型原付がある。しかも特定小型原付は車道通行で、特例特定小型原付は歩道も通行できる場合がある……。
かなりややこしい構図ですね。昨今はさまざまなモビリティが増えており、法改正がなかなか追いついていません。
しかし運転者としては、交通社会の状況を認識しておくためにも、常に知識をアップデートしたいところです。

ちなみに、特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード)の運転条件は、16歳以上であること。免許は必要ありません。
ですので、免許取得のための学科試験といった交通ルールの勉強をしていない人が電動キックボードに乗っている可能性があるわけです。
運転者としては、常に不測の事態に備える心構えが必要でしょう。

ジャンルB: 今年も発生! 「雪道での立ち往生」に関する問題

毎冬のように、雪による大規模な車の立ち往生がニュースになる昨今。装着しているタイヤも大きく影響する。人命にも関わる重要な事柄なので、決して侮ることはできない知識だ。

問題: 雪道や凍り付いた道は滑りやすく危険なので、タイヤにタイヤチェーンなどの滑り止め装置を付けるか、スノータイヤやスタッドレスタイヤなどの雪道用タイヤを付けて運転する。

正解:〇 (正答率86.7%)
平成30年12月14日に施行された「『タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め』の規制標識の新設」に関する出題。タイヤにタイヤチェーンなどの滑り止め装置を付けるか、スノータイヤやスタッドレスタイヤなどの雪道用タイヤを付けて運転する。

長先生の解説

最近は、大雪などによる大規模な立ち往生が増えています。
雪道の交通はタイヤが生命線。1台でも雪道用タイヤを装着していない車がいれば、その車のスタック(動けなくなること)をきっかけに後ろがどんどんつかえてしまいます。
物流の妨げになったり、小さいお子さんがいる家族連れや高齢者を雪の中に閉じ込めてしまったり、深刻な事態になりかねません。
自分の安全のためはもちろん、周囲の安全を守るためにも雪道では雪道用タイヤを着用していただきたいと思います。

タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め標識

ちなみに、この「タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め」標識が出ている区間では、雪用タイヤを付けていても、タイヤチェーンを付けなければなりません。
今のスタッドレスタイヤは非常に優秀で、ほとんどの雪道をカバーできます。しかし、決して万能ではありません。
積雪量などによってはタイヤチェーンでなければ車を動かせなくなる可能性もあります。
相手は自然。いつ天候が急変し、大雪に見舞われないとも限りません。「スタッドレスタイヤだから大丈夫」と過信せず、冬はタイヤチェーンを携行し、上記の標識を目にしたらすぐに装着しましょう。

また、かつて普及していたスパイクタイヤは、現在は原則として使用が禁止されています。
一部の例外もありますが、金属の鋲が路面を削って道路の損壊を招き、粉じんの発生が人体に悪影響を及ぼすのがその理由です。

ジャンルH: 常識人なら普通は正解! 「あおり運転」関連の問題

社会問題となり、たびたび大きく報じられているあおり運転。にもかかわらず、残念ながらいまだに頻発している。交通ルール以前に、どう考えてもやってはいけない常識の問題だ。

問題: 進路の前方に速度が遅い車がいても、警音器を鳴らしたり車間距離を詰めたりする行為は、いわゆる「あおり運転」になるのでしてはいけない。

正解:〇 (正答率100%)
令和2年6月30日に施行された「妨害運転(あおり運転)に対する罰則の創設等」に関する出題。危険を生じさせるような行為は妨害運転の対象となり、厳しく罰せられる。「あおり運転」は絶対にしてはいけない。

長先生の解説

ベテランドライバーのみならず、運転するすべての人が正解して当然の問題です。言葉からしても、常識的に考えて「やってはいけない行為」ですよね。
細かく説明すると「あおり運転」に対する規制は、正式には「妨害運転罪」といいます。
「妨害運転」とは、他の車両の通行を妨害する目的で、車間距離を詰めて極端に接近する「車間距離の不保持」、不要な急ブレーキをかける「急ブレーキ禁止違反」、威嚇のためにクラクションを不要に鳴らす「警音器使用制限違反」など、10類型に当てはまる危険な運転のこと。
これらを妨害運転罪として、罰則が厳格化されました。
今回出題した問題は「こんなの試験にもならないよ」というぐらい常識的すぎる内容ですが、ここであえて文字にすることで、皆さんの良識にさらに磨きをかけていただくのが狙いです。
ぜひとも「あおり運転」のない交通社会になることを願っています。

知っておきたい、新時代の交通ルール

ここからは、正答率が低く、ベテランドライバーたちにあまり知られていないことが判明した交通ルールについて、長先生に解説していただこう。現時点では認知度が低くても、これから普及する可能性が高いものばかり。ぜひ知っておきたい。

ジャンルC: この標識、見たことある? 「ラウンドアバウト」関連の問題

ヨーロッパが発祥で、欧米やアジア諸国ではかなり普及しているという、ラウンドアバウト。日本では「環状交差点」と呼ばれる。まだ数は少ないものの、増加傾向にある交差点だ。

問題: 環状交差点を右回りで通行するときは、あらかじめできるだけ道路の中央に寄り、環状交差点の中心のすぐ内側を徐行しながら通行する。

正解:× (正答率46.7%)
平成26年9月1日に施行された、「環状交差点における車両等の交通方法の特例に関する規定の整備」に関する出題。正しくは、あらかじめできるだけ道路の左端に寄り、環状交差点の側端に沿って徐行しながら通行する。

長先生の解説

環状の交差点における右回り通行標識

平成26年の施行当時は7都府県・15か所だったラウンドアバウト。9年を経て、令和5年3月現在で40都道府県・155か所にまで増えています(警察庁交通局調べ)。
交通事故件数が減少するとの調査結果も出ており、これからさらに増えていくかもしれません。
さて、図の標識は「環状の交差点における右回り通行」を表すもの。
環状交差点内ではできるだけ道路左側の側端に寄って、右回り(時計回り)で徐行することになっています。
増えてきたとはいえ、まだ未体験の方も多いと思われるラウンドアバウト。手順を簡単に説明すると、下記のようになります。

1. できるだけ道路の左端に寄り、徐行して進入する。合図や一時停止は原則不要。
2. 環状交差点内を通行する車両が優先。その進行を妨げてはいけない。
3. 環状交差点内は右回り(時計回り)で走行し、できるだけ側端に沿って徐行する。
4. 環状交差点を出るときは、左にウインカーを出して合図する。

文字での説明を読んでもあまりイメージできないかもしれませんね。でもルールをよく理解して通行すれば思ったよりも簡単です。
円滑な交通をもたらす安全な交差点として注目のラウンドアバウト。ルールを正しく知っておくことで、よりスマートに通行できると思います。

ジャンルG: これから街中で増えるかも。「遠隔操作型小型車」関連の問題

Uber Eatsのロボットデリバリーサービス

Uber Eatsのロボットデリバリーサービス

モビリティ技術の進化に伴って、多様化しつつある物流システム。
2024年3月から、Uber Eatsが東京都内の一部地域でロボットデリバリーサービスを開始すると発表した。物流の多様化により、今後こうしたモビリティの活用が増えていくことが予想される。
ここで使われるのが「遠隔操作型小型車」というもので、まだ現物を見たことがない人が多いのではないだろうか。
しかし、今回の模試ではそれに関連した問題がしっかりと出題されていたのだから驚きだ。

遠隔操作型小型車標識

正解:× (正答率53.3%)
図は「遠隔操作型小型車標識」。正しくは下の「移動用小型車標識」を表示しなければならない。

移動用小型車標識

長先生の解説

令和5年4月1日に施行された、「遠隔操作型小型車(自動配送ロボット等)の交通方法等」に関する問題です。今はまだ目にする機会が少ないだけに、なかなかの難問と言えそうです。
「移動用小型車」とは、一人乗りのパーソナルモビリティのこと。立ち乗りか座り乗りかでは区別されず、いろいろな形態が想定されています。
2023年4月施行の改正道交法で新設されましたが、わかりやすい例えだと、移動用小型車は既存の電動車いすと同じく、道交法上は歩行者という扱いですね。
一方、問題の標識で示されているのは、「遠隔操作型小型車」。こちらはその名の通り、遠隔操作で移動するもの。人や荷物を運ぶことを想定しています。
「移動用小型車」と「遠隔操作型小型車」の規定はほぼ同等ですが、遠隔操作の有無、運用にあたり届け出が必要かどうかなどの違いがあり、標識も別のものが用意されています。
今後さらに技術が発達し、物流の分野が進化するにつれて、遠隔操作型小型車の標識を目にすることが増えるかもしれませんね。

変化する学科試験問題の傾向。継続的な交通安全の啓発が必要

交通ルールは、日々アップデートされている。今回の問題は、ベテランドライバーたちが変化についていけているかどうかのチェックという意味合いが強い。
さらに言えば、これから起こるであろう交通環境の変化に、ドライバーという当事者としてしっかり注目しているかも重要だ。
たとえば、今回は掲載していないが、スマートフォンなどの「ながら運転」についての正誤を問う問題。
「あおり運転」と同様に100%の正答率となったが、この内容もいつどんな形にアップデートされるかわからない。
というのも、車の自動運転化が進むにつれて、「ながら運転」の定義も変わっていく可能性が高いからだ。
今回は模擬試験なので点数の加減程度の話だが、現実には安全運転に関わる重大な事柄。技術進歩と法改正の両方をしっかりチェックすることが必要だ。

モビリティ技術の進化や多様化に伴い、交通環境はどんどん変化している。交通ルールも、必要に応じてどんどん改正されていく。
さらに、電動キックボードのようにたとえ自分が乗らなくても、あるいは環状交差点のように頻繁に通らなくても、知っておくべき交通ルールも増えていくだろう。
ひとたび免許を取得し、運転のキャリアが長くなればなるほど、交通ルールに関する興味は失われがちだ。「普通に運転できていればいい」と思いやすいからだ。
だが、車をとりまく技術はどんどん進化し、環境も変わっていく。今以上の安全運転をするためにも、交通にまつわる情報には常にアンテナを張っておきたい。

長先生が思う、運転免許学科試験の意義

自動車運転免許研究所の長 信一先生

自動車運転免許研究所の長 信一先生

学科試験にチャレンジするときは、誰もが真剣に勉強しますよね? 「免許を取る」というハッキリした目的がありますから、それも当然です。
しかし、実際の交通安全とは、免許を取得してから始まる、日々の積み重ねです。運転するにあたって知っておくべき交通ルールや知識に関しては、免許を取るとき以上に敏感になっていただきたいものです。
交通に関するニュースに耳を傾けることも大切でしょう。
そして大事な機会としてぜひ生かしていただきたいのは、誰もが受ける運転免許更新時講習です。
ここでは、直近に行われた道交法改正などのトピックスを必ず説明しているはずですので、しっかりと受講してもらいたいと思います。

また、学科試験に出題される『交通の方法に関する教則』には、「歩行者と運転者に共通の心得」や「基本的な心構え」をうたった名文が示されています。運転にあたって大切なのは、道交法や交通ルールを順守することばかりではありません。
マナーや思いやりの気持ちなど、命を預かるドライバーとして身に付けておくべきマインドも重要です。
これもベテランになればなるほど、忘れてしまいがちです。自分だけではなく、相手の安全も守る。模擬試験へのチャレンジが、よりいっそうの安全意識向上につながれば幸いです。

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