冬の運転前に必見! ブラックアイスバーンから身を守る対策【交通事故鑑定人が解説】
濡れて見えるだけの恐怖「ブラックアイスバーン」に備える! 気温3℃以下で注意すべき場所と対策
12月中旬の早朝、中央道下り線の大月IC付近で、乗用車やトラック9台が絡む交通事故が発生した。当日の天候は晴れ。それでも事故の原因は路面凍結、特に危険なブラックアイスバーンと見られている。冬の早朝の運転は危険と隣り合わせ。冬に向け、危険性の高い路面凍結からドライバーを守る方法を元千葉県警察の捜査官で、現在は「交通事故調査解析事務所」の代表を務める交通事故鑑定人・熊谷宗徳氏が徹底解説する。
晴天の早朝に発生した多重衝突、その原因は?
2021年12月15日の午前5時45分頃、中央自動車道下り線の大月ICから東5㎞の地点で、乗用車とトラックなど計9台が絡む事故が発生した。一部のクルマは横転しており、男性5名が救急搬送され2人が骨折、2人が軽傷を負った。当時の天候は、気圧の谷となる低気圧が前日に関東・甲信エリアを抜けており、事故当日の15日は高気圧に覆われた晴れの日となっていた。そのため、15日早朝は、放射冷却によって気温が低下。事故直後の午前6時にマイナス2.4℃を記録。山梨県の警察本部によると、警察官が現場に着いたときには路面が凍結していたという。
陽光に照らされて濡れているだけに見えるこの道も、実はアイスバーンの可能性大。特に早朝や夕方、日中に溶けた雪が再び凍りつく「再凍結」によって発生するブラックアイスバーンは、発見が非常に困難。 ※写真はイメージです。撮影場所は記事内容と関係ありません
濡れたようにしか見えない!
「ブラックアイスバーン」の危険性と滑りやすさ
「この事故は、雪も見当たりませんから、いわゆる“ブラックアイスバーン”と呼ばれる路面の凍結が原因と見ていいでしょう」と熊谷氏は断言する。ブラックアイスバーンは、道路上の水分が薄い氷の膜となって凍り付く現象だ。まるでアスファルトが黒く濡れているようにしか見えないため、“ブラックアイスバーン”と呼ばれている。
「危険な冬道には、雪が踏み固められた圧雪路面と、雪のない凍結路面があります。圧雪路面は、タイヤの滑りやすさが通常の3~4倍にもなりますが、凍結路面はさらに悪く、通常路面の7~8倍も滑りやすくなります。これは時速30~40㎞程度の走行の場合で、速度が高くなればなるほど、さらに滑りやすくなります。高速道路で路面が凍っているのであれば、非常に滑りやすく危険な状態だったと言えるでしょう」と熊谷氏。
「このブラックアイスバーンは、一見、濡れているだけのようにしか見えないため、気が付かずに凍っている路面に進入してしまうと、いきなり滑り出してしまいます。1台がスピンして路上を封鎖してしまうと、後から来たクルマも急ブレーキをかけて滑ってしまいますから、避けることも止まることもできずに、多重衝突になってしまったのでしょう」と熊谷氏は事故を分析する。
晴天でも路面は凍る!
ブラックアイスバーンが発生しやすい条件とは
「また、ブラックアイスバーンは雨天や雪といった悪天候でなくても発生します。夜間から早朝にかけての放射冷却もありますし、夜間に氷点下に気温が下がったときにも路面は凍結します。気を付けてほしい場所は、橋の上、トンネルの出入り口、そして日の当たらない場所です。橋の上は水蒸気がたまりやすく風が吹き抜けやすい場所なので路面の温度が下がりやすく、特に注意が必要でしょう。また、日が当たらない場所は、なかなか氷が溶けません」と熊谷氏は危険な状況を指摘する。
「気を付けてほしいのは、路面凍結は気温が氷点下にならなくても発生するということです。外気温がプラス3℃以下になれば、状況によって路面は凍ってしまいます。クルマに外気温計があれば、3℃以下になったら注意するようにしましょう」
一見、濡れているだけの路面に見えるが、樹木に囲まれ日陰になりやすい山間部のカーブは、ブラックアイスバーンが発生しやすいスポット。※写真はイメージです。撮影場所は記事内容と関係ありません。
交通事故鑑定人・熊谷宗徳氏が教える、事故を起こさないための3つの対策
・危険な状況の察知
「天候が悪くなくても外気温が3℃を下回ったら、路面凍結があるかもしれないと注意しましょう。特に、橋の上やトンネルの出入り口、日の当たらない場所は、凍結しやすいと覚えておくのも大切です。路面が黒く見えたら、濡れているのではなく、ブラックアイスバーンである可能性も考慮しておきましょう」
・速度、車間距離、運転操作の注意
「凍結路面は非常に滑りやすいため、危険な状況にあると感じたときは、車間距離を長めにとりましょう。普段の乾燥した路面を走るときの2倍以上の車間距離を空けることをおすすめします。もしも、速度規制がかかっていれば、当然、それを守るように。意外と速度規制を守らない人が多いものですが、他の人に引きずられないようにしましょう。本当に危険だと感じたら、自分の身を守るために速度規制がなくても、走行する速度を落としましょう。運転操作は、急ハンドル、急ブレーキは厳禁です。下り坂では、フットブレーキではなく、エンジンブレーキを使うようにしましょう」
・冬タイヤの装着とタイヤチェーンの携行
「滑りやすい路面への対策は、やはり冬用タイヤの装着が大切です。冬になる前にスタッドレスタイヤや、スノーフレークマークの付いたオールシーズンタイヤに履き替えておきましょう。ただし、オールシーズンタイヤだけでなくスタッドレスタイヤでも状況次第では凍結路面で滑ってしまいます。あくまでも夏タイヤよりも、滑りにくいだけという点を、よく理解してください。最も有効なのはタイヤチェーンとなります。最近は、金属製ではない樹脂製や布製のチェーンも存在します。そうした製品を、冬場は、常に携行しておきましょう」
危険な路面凍結に備える! 冬の運転に必要な心構えと対策のまとめ
冬場の危険のひとつが路面凍結だ。その対策には、路面凍結の危険と凍結していそうな状況を理解しておくことが前提となる。その上で、走行時には、普段よりも長い車間距離と、速度の調整、そして丁寧な運転操作が必要となる。
「冬場の運転は注意が必要で、私でも胃が痛くなるほどです。北海道などの降雪エリアに住んでいる人は、雪道や凍結路面の恐ろしさを肌身で感じているからこそ、非常に慎重に運転しています。降雪エリアでない地域の人こそ、意識して安全運転に心がけることが必要ではないでしょうか」と熊谷氏はアドバイスした。
関連リンク

熊谷宗徳
くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。