凍結路面、車が滑ったらどうする? 「究極のアイスバーン」氷上を実走‼
シチュエーション別対処法を動画で解説! 菰田潔の“滑らない運転”「あっ、滑った!」。車を運転していてタイヤが滑れば、誰だって怖い。そして、その瞬間はいつ訪れるか分からない……。タイヤが滑れば怖い思いをするのは、ドライバーの常識だ。だが、滑りやすい路面で車はどう動くのか、どう対処したらよいのかは、知らない人が多い。今回は、滑りやすい路面の最高峰・凍結路面を実走。モータージャーナリストの菰田潔さんに、滑りやすい路面に直面した時の対処法や安全な運転方法について伺った。
制御不能! 何もできない凍結路面
想像以上にヤバイ! 氷の上での車はまったく思い通りにならないうえに、予期せぬ動きのオンパレード。滑る路面の危険性と難しさが改めて明らかになった。
舞台は、長野県の女神湖。冬季は分厚く氷が張り、なんと氷上ドライブが可能とのこと。「究極の滑りやすい路面である氷の上で車の動きを知っておくことは、きっといざというときの役に立つだろう」などとのんきに考えながら、走り始め……られない……! スタートからして難しいのだ。氷上ではすぐにタイヤが空転してしまい、発進すらままならない。
直進路でも、ちょっとハンドルを切ってしまったり、ちょっとアクセルを踏みすぎたりすると、車が勝手にアッチコッチへ行こうとする。そうこうするうちにコーナーが迫る。ブレーキを踏むと「ゴッゴッゴッゴッ」とABSが利き、思うように減速できない。ハンドルを切っているのに、車がコーナーの外側に膨らんでいく。
「ああーッ!」と叫びながらいくらハンドルを切り足しても、まったく曲がってくれない。雪の壁が迫る。ヒイイッ! 頑張ってハンドルを切り足し、ようやく少し曲がり始めた! と思ったら、いきなり後輪が滑り始め、スピン状態に陥る。
……どうにもならない……。これはヤバイ。ヤバすぎる。滑りやすい路面で車をコントロールすることの難しさを、改めて思い知った。
コーナーでは後輪がスリップし、最終的にスピン状態に……。
そもそも滑りやすい路面って?
今回走った氷上はかなり極端な例だが、雨で濡れた路面、積雪路、マンホールや工事現場などの鉄板、砂利道など、季節を問わず滑りやすい路面に遭遇することは多い。
滑りやすい路面とは、車のタイヤと路面が接触する面で発生している摩擦(グリップ)力が低い。この摩擦力とは、路面状況はもちろんのこと、車の重さ(荷重)や、タイヤそのもののグリップ、そしてスピードなどによってダイナミックに変化する複雑なもので、解き明かすのが非常に難しい。私たちドライバーは、ハンドルの手ごたえや車体の動きを通じて摩擦力の高低を感じ取っており、それに合わせて直感的に操作を調整しているのだ。
しかし、それは通常時の話。これからの季節いつ訪れるかわからない「凍結路」を走行するシーンに備え、菰田さんに安全な走行のポイントや、緊急時の対処法を伺った。
徹底伝授! 滑りやすい路面でのコントロール法
○発進:雑なアクセル操作では発進不能!
「車が発進するときは、乾燥した一般路面でも、駆動輪がごくわずかに空転し始めた時にタイヤと路面の間で摩擦力が発生し、車体を前に進ませています。
しかし、凍結路面は摩擦力が極端に低いため、『ごくわずかな空転』が発生すると、すぐにスリップ状態を招いてしまいます。つまり、『感覚的にはごくわずかでも空転させてしまうと、前進できない』のが、凍結路面というものなのです。
アクセルはじっくりゆっくり踏み込み、ごくわずかといえども駆動輪を空転させないように心がけることが大切です。
また、凍結路面での発進に際しては、事前に車を止める位置を考慮することも重要です。駆動輪のうち1輪でもいいから滑りにくい路面に乗せるようにします。たとえば凍結路面での発進時は、片側の車輪だけでも積雪箇所など多少でも滑りにくい路面に乗せておけば、その分だけ摩擦力が高まり、発進しやすくなります。
スリップ状態に陥ってどうしても前進できない場合は、後方の安全を確認してからバックし、場所を変えてみてもいいでしょう」
○ブレーキ:ABSが作動しない丁寧な走りを
「凍結路面のように滑りやすい路面では、ABSがすぐに作動します。ABSが作動することでハンドルが利くようになり、制動距離も短くて済みますが、もしABSがなければ、ブレーキによりタイヤの回転は止まった(ロック状態の)まま滑走し、ハンドルが効かず、制動距離も長くなってしまいます。
『ABSが作動すれば制動距離も短めで、ある程度はハンドルも効くのなら、凍結路面ではABSを多用した方がいいのか』という考え方、それは間違いです。ドライバーがミスをしたときに助けてくれるABSですが、それ以上に悪い状況になってしまったものを助ける手立てはありません。
ABSを作動させないようにするには、相当丁寧に、そしてゆっくりとブレーキをかけなければなりません。それは4輪のうちの1輪でもロックするとABSが作動するからです。同じスピードなら、ABSを作動させない方が制動距離が長くなります。凍結路は、車間距離をしっかりと取り、スピードを抑えて走行するのが基本。普段はABSを作動させないよう、ゆっくりと丁寧にブレーキをかけ、事故を回避するためのいざというブレーキは一気に踏み込んでABSを使う、という二刀流が良いでしょう。ABSに頼りすぎず、ゆっくりと、丁寧なドライビングを心がけましょう
○カーブ:「操作の重複」を徹底的に避ける
「極めて滑りやすい凍結路面のカーブを曲がることは、想像以上に難しいものです。それはタイヤのグリップ(摩擦力)には限界があるからです。アクセルとブレーキの縦方向のグリップ力とカーブを曲がるときの横方向のグリップ力は、それぞれ単独で使えばタイヤのグリップ全部を使いきれます。しかし縦方向と横方向を両方いっぺんに使おうとすると、その合力によってグリップ限界を超えやすくなります。なので滑りやすい路面では、ブレーキが終わったらハンドル、ハンドルを戻してからアクセルというように、操作を重複させず片方のグリップだけ使って走るのがタイヤのグリップをうまく使う方法です。
- ハンドルがまっすぐな状態でブレーキペダルを踏む。
- 十分に減速したら、ブレーキペダルを離してからハンドルを操作する。
- コーナーの出口にかけては、ハンドルを戻してからアクセルを踏む。
これが滑りやすい路面でカーブを曲がるうえでの基本となります。
十分にスピードを落としているにもかかわらず「ハンドルを切っても曲がらないな」と感じたときは、ブレーキペダルから完全に足を離すのも有効です。なかなか勇気のいることですし、しっかりとスピードが落ちていることが大前提ですが、ブレーキペダルから足を離せば縦方向のグリップを使う量が減った分、横方向に利用することができ、ハンドルが利くようになります。
また、ハンドル操作にあたっても、操作量をできるだけ少なく、そしてゆっくり行いましょう。大きく速くハンドルを切ると、それだけで横方向のグリップを使い切ってしまうからです。
複合的に操作しがちな、カーブを曲がるという動作。各操作を完全に分離しつつ、ゆっくり丁寧に行うことで、滑りやすい路面でも安全にカーブを曲がれるようになります」
番外編:覚えておきたい緊急回避術
「スピードをできるだけ落とし、丁寧に、ゆっくりと操作を行うことが、滑りやすい路面を安全に走るためのポイント。しかし突発的な事態により緊急回避をしなければならない場合は、そうも言っていられません。ここでは、直進中に緊急回避をする方法をお知らせします。が、これは本当に難しく、簡単にはマネできません。知識として頭に入れておくことは有効ですが、できるだけ緊急回避をしないで済むよう、先読み運転を心がけてください。
突発的な事態に遭遇したとき、まず重要なのはスピードを落とすこと。スピードを落とせば、摩擦力を有効に使うことができます。ブレーキを思いっ切り踏みましょう。ABSが作動しますが、構いません。とにかくブレーキを踏んでスピードを落とすことを心がけます。止まれればラッキーですが、止まり切れない場合は、ブレーキを思いっ切り踏んだまま安全な方向にハンドルを切ります。先ほどまでの説明とは逆の操作になりますが、緊急時に限ってはABS任せにしたほうが得策。ハンドルが利き、曲がれる可能性が高まります。
それでも止まり切れない、あるいは曲がり切れない場合は、自分でブレーキを緩めます。摩擦力を意識し、『ブレーキを緩めれば、縦方向の摩擦力が減る。その分、横方向に使える摩擦力が増え、ハンドル操作が利く』といったイメージをしましょう。
繰り返しになりますが、凍結路面での緊急回避は、非常に難しいものです。とっさに素早く『ブレーキを踏む』『ハンドルを切る』といった操作をしながらでも、やはり操作し始めは丁寧でなければコントロールを失います。
滑りやすい路面では緊急回避をせずに済むよう、先読みをしながらゆっくりと走ることがもっとも重要です」
強烈に滑る「凍結+濡れた路面」
今回、究極の滑りやすい路面としてテストした、湖上の凍結路面。滑らかな凍結路が大変に滑りやすいことは、ドライバーなら容易に想像できるだろう。しかも濡れていれば、それだけ摩擦力も低く、強烈に滑る。これは雪道も同じだ。新雪路などは意外なほど滑りにくいが、濡れた圧雪路などはかなり滑る。スタッドレスタイヤは細かい切れ込み(サイプ)を入れることで、路面表面の水を吸収するなどの工夫が施されている。
滑りやすい路面で車のコントロールが難しいワケ
「凍結路面でタイヤが滑る」ことについて、もう少し具体的に菰田さんに教えていただいた。
「車が滑るのにはいろいろな要因がありますが、ものすごくシンプルに説明すれば、駆動力がタイヤと路面の摩擦力の限界を超えてしまっているからです。タイヤは、1本あたりハガキ1枚分ほどの面積で、地面に接しています。そして走行中、路面や車の状況に応じて摩擦力は常に変化しています。そんな中、滑ることなく加速、減速、旋回などの走行ができるのは、駆動力が摩擦力の範囲内にあるからです。
タイヤの摩擦力は、複雑な物理現象が起きていて非常に難解なものですが、ここでは説明を簡単にするためにグッと単純化してみます。
走行中のタイヤは、縦方向の摩擦力と横方向の摩擦力を発生します。縦方向の摩擦力はアクセルやブレーキ操作による加速と減速で使われ、横方向の摩擦力はカーブを走行する時など左右のハンドル操作で使われます。
この縦方向の軸と横方向の軸によって作られる摩擦力の円を、ここでは便宜上、『摩擦円』と呼ぶことにします。縦方向の摩擦力と横方向の摩擦力の合力がこの摩擦円の外にはみ出したとき、車は滑ってしまうのです。摩擦力を使い切ってしまっている状態ですね。
摩擦円は、路面状況によって大きさが変わります。摩擦力が高い路面なら摩擦円は大きくなり、低い路面なら小さくなります。今回の凍結路面は、摩擦円が極小レベル。ちょっとした操作ですぐに摩擦力を使い切ってしまうため、滑りやすく、コントロールが難しいのです」
もっとも怖いブレーキ。ABSは頼りになるのか?
凍結路面ではABSが作動してもハンドルが利きにくい!?
「ABSは、ブレーキによりタイヤがロックしそうになると、自動的にブレーキ圧を弱め、ロックしないようにコントロールしてくれます。タイヤと路面間の滑り度合い(ズレ)を示す数値にスリップ率があります。タイヤがロックして滑走している状態がスリップ率100%、車と同じスピードでタイヤが回転しているのが0%ですが、どんな路面の場合でも、10〜15%くらいのスリップ率が一番グリップが高くなります。ABSはそこに合わせるよう、1秒間に10回くらいブレーキ圧の制御をします。
しかし、表面の氷が溶けているようなアイスバーンのように極端に滑りやすい路面では、いくらABSが作動してもグリップが低すぎてハンドルが効かないこともあります。そんな場所ではスピードを落とすしか方法はありません。
凍結路面におけるカーブでの事故は、曲がり切れずにまっすぐに進んでしまうか、スピンを起こすケースがほとんど。いろいろなパターンがありますが、たいていはオーバースピードが最大の要因。スピードが出過ぎていると、ブレーキをかけても思い通りにスピードが落ちず、思い通りにハンドルも効かなくなる場合も。氷上特設コースなら『コースアウトしちゃった』と苦笑いで済みますが、実際の公道では大事故ですよね。そして皆さん『ABS(アンチロックブレーキシステム)があるのに、なんで……?』と首をひねるのです。
ABSが作動したということは、摩擦力の限界を超えている証拠です。そして凍結しているなど極端に滑りやすい路面では、ABSといえどもドライバーを助けきれないこともある、ということを覚えておいてください」
頼れる電子制御も過信は禁物
「最近は横滑り防止装置(ESC)もかなり普及してきました。これはタイヤの空転を防止するトラクションコントロールシステム(TCS)によるエンジン制御に加えて、4輪のブレーキを独立して制御するもの。簡単に表現すれば、ブレーキの片利きを使って、ハンドルの向いている方向に車を向ける仕組みです。ブレーキを踏まなくても車が勝手に片側のブレーキをかけて、ドライバーを助けようとしてくれます。ESCは、ハンドルが向いている方向に車を進めようとするため、ドライバーは行きたい方向を見て、そちらにハンドルを切ることが大切です。
しかし、いくら高度なESCといえども、やはり限界を超えればコントロールを失います。急のつく動作は禁物と考えておいたほうが無難。泥濘や深雪などでは、あえてESCをオフにしてタイヤを空転させることで脱出できる場合もあります」
これからのシーズン、緊急事態がいつ、どこで訪れるかわからない。本格的な冬の到来前に、ぜひ今回の記事を熟読し、頭の片隅に入れておいてもらいたい。
氷点下ではここに注意! 雪の日のポイント4選
1.駐車時はフロントガラスにバスタオルを
「積雪などでフロントガラスが凍りつくと、非常にやっかいです。暖機してヒーターの風をフロントガラスに当てれば溶けますが、時間がかかりますし燃料のムダ遣いで環境にもよくありません。解氷スプレーもありますが、結構手間と時間がかかります。お湯をかけるなどもってのほかで、フロントガラスが割れる危険性もあります。私がオススメしたいのは、どの家庭でもたいてい1枚は余分がある、バスタオル。乾いたバスタオルでフロントガラスを覆い、ずり落ちないように、途中で止めたワイパーで挟んでおくといいでしょう。養生テープなどで留めることができれば万全です。雪が積もったり凍りついたりしても、バスタオルを剥がすだけでOK。手間や時間もかからず、環境にも優しい対処法です」
バスタオルをワイパーに挟んでおけば(左)、フロントガラスの除雪も簡単(右)。
2.必須! 出発前は雪を落とすべし
「車に積もったり付着した雪を落とすことは、冬の安全運転の基本と言っていいでしょう。屋根やボンネットの上に積もったり、タイヤハウスに付着した雪は、そのままで発進してはいけません。塊が道路上に落ち、他の交通の迷惑となります。車から落ちた雪は夜のうちに凍結することもあり、非常に危険です。また、屋根の上の雪がズリ落ちてきて、視界がふさがれることも。とかく危険を招きますので、くれぐれも雪を落としてから出発するよう心がけましょう。フロントウインドー周りも要注意です。上で紹介したようにバスタオルをかけておけば問題ありませんが、もし雪が残っていたら確実に落としておかないと、ガラスの曇りを招きます。フロントウインドー下部の外気導入口が雪でふさがれていないかもチェックが必要です。外気が効果的に導入されないと、車内の二酸化炭素濃度が上がり、眠気を催しやすくなります。冬の旅先で駐車中、車に雪が積もってしまった場合は、宿泊施設からデッキブラシなどを借りて雪を落としましょう。車高の高いSUVやミニバンなどの場合は、屋根に届くよう脚立などを用意しておくと安心ですよ」
屋根に積もった雪も必ず取り除いてから出発を。
3.方角を意識し、凍結路面を予測
「乾燥路面、濡れた路面、積雪路面、圧雪路面、そしてもっとも恐ろしい凍結路面……。路面がさまざまに変化するのが、冬の特徴です。たとえばスキー場に向かう途中、乾いたクネクネ道を走っていて、カーブを曲がったらいきなり凍結路面が現れ、なすすべもなくコントロールを失う、ということもあり得ます。凍結路面は、日が当たらない山道の北側斜面で多く見られます。ですから『日陰に入ったな』と思ったら、凍結路面が現れることを予測して、十分注意して走行しましょう。自分が今、どの方角に走っているかを知るために、カーナビをノースアップ(自車の向きにかかわらず、地図の北が必ず上になるモード)にしておくと助けになりますよ」
山道の北側に多い凍結路面。初めて走行する際は確認を。
4.外気温度計をマメにチェック
「最近は外気温度計が装備されている車が増えました。車内をヒーターで快適に暖めていると、外の状況が把握しにくくなります。外気温度計をチェックするクセを付けておくといいでしょう。一般的には、気温が3℃以下になると路面凍結の恐れがあるといわれています。北側斜面など日の当たらない場所では、気温より路面温度のほうが低いことがあるからです。もし外気温度計が付いていない車に乗っているなら、後付けするか、思い切って買い替えも検討してみてはいかがですか(笑)? これ、半ば冗談、半ば本気です。外気温計が付いていないということは、それなりに古い車ということ。最近の車は安全装備が充実していますので、それだけリスクを減らすことができますよ」
外気温計のこまめなチェックを!
- ※この企画で紹介しているのは、菰田潔さんの運転メソッドです。JAFの見解とは異なる場合があります。
菰田 潔
こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。