高齢者より“2倍以上”も事故が多い!? 19歳大学生がサークル仲間と同乗中に起こした事故【交通事故鑑定人が解説】
スピードへのスリル、同乗者の盛り上がり、そして経験不足。若年ドライバー事故の裏側に潜む「若者特有のリスク」
晩秋の深夜、千葉県東金(とうがね)市で乗用車同士の正面衝突事故が発生した。19歳の男子大学生が運転する乗用車がセンターラインを越えて逆走していたことが事故の原因だ。こうした運転経験の浅い若年層ドライバーの事故は、実のところ非常に多い。経験の浅いドライバーの事故の傾向、悲劇を起こさないための具体的な対策について、交通事故鑑定人に聞いた。
深夜の有料道路で起きた事故
逆走した19歳大学生に不足していた知識とは
2015年11月の深夜、千葉県東金市にある東金九十九里有料道路で、乗用車がセンターラインを越え、対向してきた千葉市在住の男性(54歳)の運転する乗用車と正面衝突した。男性は、全身を強く打ち、搬送先の病院で約1時間半後に死亡。センターラインを越えた乗用車を運転していたのは19歳の男子大学生で、同乗していたサークル仲間の男女4人もけがをした。現場は片道1車線の直線で、中央分離帯はなかった。5人は海に遊びに行く途中で、運転手の学生は「片側2車線の道路だと勘違いしていた」と警察に話している。
黄色(オレンジ色) 実線のセンターラインは、「追い越しのために」車線の右側へはみ出して通行することの禁止を意味する。工事や駐車車両などの障害物がある場合は、その限りではないが、よく周囲を確認したい
※写真はイメージです。撮影場所は記事内容と関係ありません
【熊谷氏による事故の解説】
「経験があれば起こすことのないミス」
「東金には2つの有料道路があり、東金九十九里有料道路は、東金市内から東に向かい、九十九里海岸へとつながる道路です。ドライバーの大学生は、“片側2車線の道路だと勘違いしていた”と説明していますが、経験豊かなドライバーでは、まずそんな間違いを犯すことはないでしょう。現場は片側1車線の道路で、中央線は黄色の実線です」と熊谷氏は指摘する。真ん中に黄色の実線があるのに、一方通行の片側2車線と勘違いすることは、ベテランドライバーではありえないだろう。
「事故の時間が深夜0時近くであり、交通量も少なかったと思います。それでも、正面から対向車が近づいてくれば、目視できるはず。それなのに正面からぶつかったということは、遅い前車を追い越そうとして中央線をはみ出した可能性もあります。そもそも黄色実線のセンターラインは、『追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止』を示すものです」と熊谷氏。追い越そうと中央線を越えて走行すると、「はみ出し追い越し禁止違反」に該当するが、この事故のケースでは2車線の道路という認識で走行していたため、逆走の違反になっていたのだ。逆走は重大事故となる危険性が非常に高く、「危険運転致死傷罪」など重い刑事罰を科されることもありうる。
16〜19歳の事故件数は
85歳以上の“2倍以上”という現実
「警察が発表する年齢別の交通事故件数のデータを見ると、16~19歳の若年運転者によるものが突出して多いことがわかります。近年、高齢者の交通事故が話題になっていますが、実情としては若年運転者の事故のほうが圧倒的に多いのです」と熊谷氏は説明する。警察庁が2024(令和6)年に発表した年齢別免許保有者の交通事故数データでも、16~19歳の事故件数は、85歳以上の2倍以上となっているのだ。
出典:政府統計の総合窓口(https://www.e-stat.go.jp/
)/一般原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数の推移
「若年層ドライバーによる交通事故の特徴は、速度超過によるものが多いことです。スピードにスリルを求める反面、運転技術が追い付いていないことが事故につながっていると思います」と熊谷氏。東金の事故も、一人が死亡するほどの衝撃ということは、速度も出ていたことが想像に難くない。周囲の状況を見て低速で走行していたら、回避できた可能性もあっただろう。
「本件は、ドライバーが19歳で、大学のサークル仲間が同乗していました。若年ドライバーの場合、車内の会話などで盛り上がり、周囲への注意が散漫になったり、『かっこいいと思われたい』という間違った意識や同調圧力で無謀な運転をしたり、ということが起こるのも特徴でしょう」。特に若年層では、一人で運転しているときよりも同年代の仲間が同乗しているときのほうが、リスク行動が増える傾向にあるという。
若年ドライバーを「加害者」にしないために
家族で共有すべきこと、同乗者ができる「安全協力」とは
「若年ドライバーの事故は昔から数多く発生し、時代が変わってもなかなか解決することができない問題です。特に春は、卒業などを機に運転デビューする初心者ドライバーによる事故が毎年のように起こっています」と熊谷氏。そういった悲しい結末を防ぐためには、何ができるのだろうか?
「ドライバー本人だけでは難しいでしょう。同乗者が多い場合には、同乗者側の心がけも重要です。車内でやたらとドライバーに話しかけたり、大声を出して盛り上がったりしないよう、運転に集中できる環境づくりへの協力をすることが必要です。走り出す前に、ドライバーや同乗者全員で、安全運転するための相談をしておくのも大切です。保護者が若年層ドライバーにクルマを貸し出す際には、よくよく安全運転への注意を促しましょう」と熊谷氏。
若年層ドライバーによる事故・違反には、飲酒運転も多くみられるという。
「飲酒運転は非常に危険な違反であり、言語道断です。年齢を問わず、飲酒運転は、“自分は大丈夫”という過信と、酔って気が大きくなった心理状態が引き金となります。特に若者グループでは、その場の雰囲気で、危険な判断に流されてしまうことも想定されます。運転代行の依頼を予定していても、ドライバーが出払っていて利用できない、ということも起こりがち。最初から電車・バスで会場に向かうなど、物理的にクルマを使えないようにしておくことが最善です」と熊谷氏は語った。
免許取得後1年未満の運転者が、自動車を運転する際に表示する義務がある「初心運転者標識」、通称若葉マーク。周囲へ運転歴を伝えるための重要な役割がある
※写真はイメージです。撮影場所は記事内容と関係ありません
若さゆえの過信が招く悲劇を防ぐ、
「周囲のブレーキ」という役割
東金で起きた正面衝突事故は、若年ドライバーの経験不足と「自分は大丈夫」という過信が招いた悲劇と言えるだろう。前述のように、16〜19歳の事故件数は85歳以上の2倍を超えており、社会問題化している高齢者事故以上に深刻なのが実情だ。
若さゆえのスリルへの欲望や違反に対する認識の甘さを、本人だけで制御するのは容易ではない。だからこそ、車内で盛り上がりすぎないようにする友人の配慮や、鍵を渡す保護者の厳しい助言といった「周囲のブレーキ」が不可欠。未熟なドライバーが、加害者にならないためにも、友人や保護者など周囲の人間が、安全を支える盾となる必要もあるだろう。
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熊谷宗徳
くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。
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