生死を分ける5秒! 走行中、ホワイトアウトに遭遇したら? 事故を防ぐ対策と7つ道具【交通事故鑑定人が解説】
視界ゼロの恐怖から命を守る! 冬道運転の最重要対策と備蓄品リスト
2021年1月の東北自動車道にて、50台以上が巻き込まれた多重衝突事故が発生した。その原因は、雪によって視界が白一色となり、周囲の状況や方向感覚がわからなくなるホワイトアウトであったという。
視界が一瞬でゼロになるこの現象により引き起こされた大きな事故。本記事では、交通事故鑑定人である熊谷宗徳氏が、ホワイトアウトのメカニズムから、高速道路での多重事故の危険性、そして、万が一遭遇した際の「命を守るための具体的対処法」までを徹底解説する。
多重事故を引き起こす
「視界ゼロ」ホワイトアウトとは?
東北自動車道の宮城県内にある、古川ICから築館(つきだて)ICの間の区間で、2021年1月19日午前11時50分頃に多重衝突事故が発生。1人が死亡、18名が重軽傷を負った。約800mの区間で複数の衝突事故が発生し、50台以上が破損し、約140台が立ち往生したのだ。事故当時の現場では1月の観測史上最も強い、最大瞬間風速27.8m/sもの強風が吹いていた。暴風によって、積雪が吹き上げられ地吹雪が発生、ドライバーは視界が極端に悪くなる「ホワイトアウト」に遭遇したと考えられている。
約800mの区間で、複数の衝突事故が発生。「ホワイトアウト」に遭遇したことで、ドライバーは視界が極端に悪くなったと考えられる
※写真はイメージです。撮影場所は記事内容と関係ありません
2種類あるホワイトアウト
特に「地吹雪型」が危険な理由
「普段なら車間距離を保つことで防げる事故も、視界が利かない状態のホワイトアウトでは車間距離のとりようもなく、高速道路などではこの事故のように、数十台にも及ぶ大事故がたびたび発生しています」と熊谷氏は、ホワイトアウトの危険性を指摘する。
「ホワイトアウトには2種類があります。大雪になって、空から降ってくる雪で視界が利かなくなる場合と、強風によって地上に降り積もっていた雪が舞い上がる地吹雪の場合です。今回の事故のあった東北道沿いの平野部の場合は後者で、周囲に田畑が多く、平らで、風で雪が巻き上げられることで急激に視界が悪化することがあります。そのため、一瞬で前が見えなくなり、先行車に追突してしまったのでしょう」と熊谷氏は語った。
命を守る! 交通事故鑑定人が推奨する
「ホワイトアウト」の緊急対処法3選
・視界確保とアピール! ヘッドライトとリアフォグを点灯
「雪で視界が少しでも悪くなった場合は、ヘッドライトを点灯しましょう。ヘッドライトを点灯させれば、前方だけでなく後方のテールランプも光りますので、後続車に認識してもらいやすくなります。点灯する際は必ずロービームにすること。ハイビームは雪に乱反射して、逆に視界が悪くなるので注意してください。フロント・リアにフォグランプが装備されていれば、それも点灯することで被視認性が高まり、事故防止につながります」
・車間距離は普段の2倍以上を意識
「地吹雪型ホワイトアウトは、突然発生します。一瞬で視界がゼロになると、雪道走行に慣れた方でもパニック状態に陥り、運転を誤る危険性も。そのような事態に備えるために、車間距離は普段よりも長く、できれば2倍以上の距離をとりましょう」
・SAやPA、駐車場へ避難し、不可なら路肩など安全な場所に「停車」の決断を
「万一、視界が遮られるレベルのホワイトアウトに遭遇してしまったら、SA/PAや駐車場など安全な場所に速やかに退避して、視界が開けるまで待機してほしいと思います。もしも、退避できる場所がないようであれば、ハザードランプを点けるなどして、後続車に自車の存在のアピールをしつつ、後続車の位置を確認しながらゆっくりと減速を。前方に突然停車車両が現れても対応できるように速度はできるだけ抑え、「危険」と感じたら、無理をせずになるべく道路の左に寄って停止してください。発炎筒を焚き、周囲へアピールすることも有効です。降雪地帯では、道路の端部がわかるように、固定式視線誘導柱が設置されていますので、それに沿って、路外に逸脱しないように注意を。高速道路であれば、立ち往生を解消する対策(Uターン路など)が用意されていますので、長時間の立ち往生にならないようになっています。積極的に左に寄せて停車して救助を待つという判断をしてもいいでしょう」。万一豪雪により立ち往生してしまった場合、救援を待つ間は、一酸化炭素中毒に陥らないよう排気口周辺の除雪を行うことも忘れてはならない。
積雪で道路の境界が見えなくなった際などに、道路の端を示す矢印、固定式視線誘導柱。積雪や吹雪の際には、これを基準として慎重に走行し、脱輪等に注意を
※写真はイメージです。撮影場所は記事内容と関係ありません
【必携リスト】 立ち往生・遭難に備える
「冬のドライブ7つ道具」
ホワイトアウトをはじめ、予期せぬ大雪に見舞われたことで、スタックなどによる交通渋滞が発生し、立ち往生となることも。過去には2014年に関東甲信地方を中心に記録的な大雪に見舞われ、最大73時間にもわたる立ち往生が発生した例もある。
「立ち往生にへの対策品をクルマに積んでおけば、万が一の事態に遭遇しても、“なんとかなる”という心の余裕を生み出します。
・スコップ
・毛布
・防寒着(アームカバーなど)
・水や食料
・長靴
・手袋(軍手+ゴム手袋)
・スタック対策ボード(脱出ボード)
といった7つ道具を積んでおくことを推奨します。特にスコップは、豪雪でスタックした際にタイヤやマフラー周辺を除雪する必要があるため、ぜひとも常備を。また、東日本大震災の教訓として、ガソリンの残量を燃料タンクの半分以下にしない、というものもあります。燃料タンクの半分があれば、一晩、アイドリングのまま停車していても燃料が持ちます。長距離移動の際には特に、防災面からも燃料の残量が半分になる前に給油するように心がけましょう」
雪による渋滞は、解消に長時間を要する場合も。防災の観点からも、車内に非常時用の水・食料は常備したい
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安心して雪の日を走行するために
運転時の注意点と、事前の準備を
豪雪や強風などにより発生するホワイトアウトは、非常に危険な状況だ。灯火類を点灯して速度を落とし、急いでどこかに退避を。退避が間に合わなくて、視界が極端に悪くなった場合は、早めに停車を。雪の中に停車することは勇気がいりますが、そのためにも普段から、対策のための道具・食料を搭載し、燃料もタンク半分以上を保つようにしよう。
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熊谷宗徳
くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。
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