危険な電動キックボード走行についてのイメージ画像
※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません
文=鈴木ケンイチ(日本自動車ジャーナリスト協会会員)

「飲酒事故は自転車の16倍」…最新警察庁統計から明らかになった電動キックボードの実態。ドライバー側の自衛運転とは【交通事故鑑定人が解説】

免許不要の落とし穴と、後続ドライバーが守りたい“2m”とは?
熊谷宗徳

近年、街中を颯爽と走る電動キックボード(特定小型原動機付自転車)。自転車以上、一般原付未満に位置づけられる車両だ。そのスマートな外見と利便性とは裏腹に、公道での安全が疑問視される結果が浮かび上がった。

2026年2月26日、警察庁交通局が発表した「令和7年における交通事故の発生状況について」は、ドライバーにとって無視できない数字を突きつけた。自転車以上に手軽に乗れるはずのこの乗り物が、実は自転車と比較して圧倒的に高いリスクをはらんでいることが、データとして証明されたからだ。

今回、交通事故鑑定人である熊谷宗徳氏に、この「最新統計」が示す真実と、ドライバーが身を守るためにはどのような心構えが必要なのかを伺った。

目次

自転車と比べ、対人事故は3倍、飲酒運転は16倍。
「電動キックボード」に潜むリスクとは

警察庁交通局「令和7年における交通事故の発生状況について」より抜粋

飲酒運転の比率は一般原付自動車、自転車に比べて非常に高いというデータが明らかになった。警察庁が今後の対策を提示していることにも注目されている(警察庁交通局「令和7年における交通事故の発生状況について」より抜粋)

「この数値には驚きます」と、熊谷氏は厳しい表情で語る。統計を見て驚かされるのは、その事故発生率の高さだ。人対車両の事故割合は自転車の約3倍。車両単独での事故割合(転倒など)も約2.7倍に達している。しかし、何よりも深刻なのが「飲酒運転」の割合である。

「なんと、電動キックボードの飲酒運転が絡んだ事故率は自転車の約16倍、一般原動機付自転車(50cc以下の原付バイク)と比較しても約19倍です。これは、電動キックボードのシェアリングサービスにより、繁華街などでも24時間レンタルすることができることに一因があると考えられます。『終電が終わってしまって、歩くのが面倒くさい』と、飲酒後、気軽にハンドルを握るユーザーが想定されます」

警察庁は今後の対策として「悪質・危険な違反に対する交通指導の取り締まりの強化」を明示。かつて千葉県警の捜査官を務めた熊谷氏は「この発表をしたということは、この統計結果が看過できない数値であったということ。今後、実際に厳しい取り締まりが行われることは間違いないでしょう」と述べた。

夕方〜夜の道路を走行する電動キックボード(交通安全を考えるイメージ)

警察庁によると、令和6年に特定小型原動機付き自転車の運転者による飲酒運転事故の発生時間帯は、午前0時台から午前5時台までが全体の約7割。シェアリング事業者と連携した飲酒運転対策を推進していくとした ※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません

「免許不要」という言葉の裏にある厳格なルール
「被害者」ではなく「被疑者」となる危険性

電動キックボード(特定小型原動機付自転車)は、特定の基準を満たせば免許不要で公道を走行できる。「長さ190cm以下、幅60cm以下」「最高速度20km/h以下」「ブレーキ(2つ)、最高速度表示灯、ヘッドライト、尾灯、制動灯、後部反射器、ウインカー、バックミラー、警音器などの保安基準を満たしている」などの明確なルールを順守し、さらにはナンバーの登録、自賠責保険への加入が必須であり、この基準を超えたものは「特定小型原付」ではなく、一般原付扱いとなり、ヘルメットや運転免許が必要になる。

「問題なのは、基準を満たしていない違法な電動キックボードも平然と公道を走っていること。ナンバープレートのない電動キックボードは、確実に違法な存在です」と熊谷氏は警告する。

電動キックボードをめぐるトラブルで忘れてはならないのが、2023年12月に起きた死亡事故だ。

30代の女性が、長野県北佐久郡軽井沢町の国道18号の交差点で、大型バスにはねられ死亡したこの事故。電動キックボードを歩行者の延長とした考え方では女性が「被害者」ととらえられがちだが、法律の現場では事故の原因となった「被疑者」となる。女性が乗っていたのは、規定を超えたパワーを持つ「一般原付相当」のキックボード。しかも無免許でヘルメットも非着用、さらには信号無視が原因だった。

「彼女は被害者ではなく『道路交通法違反の被疑者』として扱われました。女性が使用していた電動キックボードは一般原付と同じ扱いであり、無免許かつヘルメットなしで使用してよいものではありません。さらに信号無視をしていた女性は、被疑者死亡のまま、道路交通法違反の被疑者として検察官送致されています。電動キックボードは、量販店や通信販売などで気軽に購入できますが、交通ルールを理解しないまま公道を走ることの『無知の代償』がいかに大きいかを、利用者は一度顧みるべきでしょう」

街中で電動キックボードを利用する人物(交通ルールの周知が課題)

16歳以上から運転免許なしでも使用できる電動キックボード。高校生をはじめとした若者が、交通ルールを把握せず使用することについても熊谷氏は危惧する ※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません

利用者が最低限理解すべき
電動キックボードと交通安全のルール

熊谷氏は、電動キックボードユーザーに対し、以下の点を強く求めている。

・ルール適合車に乗ること
「さまざまな電動キックボードが販売されていますが、そのすべてが特定小型原動機付自転車の規定に合致しているわけではありません。ルールに合った電動キックボードを使用する必要があります」

不安定さを自覚すること
「電動キックボードは車輪が極めて小さく、ほんのわずかな突起や段差で転倒する非常に不安定な乗り物です。過去には駐車場内の車止めに乗り上げ、転倒して死亡したという事故もあります。努力義務ですが、身を守るためにはヘルメットが必須と考えるべきでしょう」

・法的な責任を理解すること
「キックボードは遊具として普及したものがベースですが、電動キックボードは、『車両』です。違反や事故を起こせば刑事責任や損害賠償責任が生じ、違反内容によっては拘禁刑や罰金が科せられます。過去には自転車事故で加害者(自転車)側に約9500万円の賠償が命じられた判例がありますが、電動キックボードも同様に大きな責任があることを理解すべきでしょう」

・交通ルールの遵守
自転車ユーザーの事故にも言えることですが、免許がなくても公道を走行できるため、詳細な交通ルールを理解せず公道を走行している電動キックボードユーザーが危険を増幅させているといえるでしょう。交通ルールの遵守は大前提です。特に、電動キックボードは歩道を通行する場合は最高速度6km/hの制限があり、この速度超過が事故増加の一因とも考えられます」

「2mの間隔」がドライバーを守る
不規則な動きをする車両への防衛運転を

また、街中で電動キックボードを見かけた際、ドライバーはどのように対処するべきか。熊谷氏は、後続ドライバーが加害者にも被害者にもならないための「防衛運転」についても語った。

・「ルールを知らない可能性」を考慮する
「電動キックボードは免許が不要なため、『交通法規を一切学んでいない可能性がある』という認識を。また、事実として夜間に電動キックボードユーザーの飲酒運転事故が多数報告されています。電動キックボード運転者は、『急な進路変更』『予測不可能な動き』をするということを前提に、車間距離を取って走行するよう心がけましょう」

・追い越しは2mの間隔、もしくは徐行を
「2026年4月から、自動車が自転車を追い越す際はおおむね『1.5m以上』の安全な間隔を空けるか、不可能な場合は徐行することが義務化されます。この『1.5m』というのは、自転車が急に転倒しても事故リスクが低い距離、として考えられるもの。運転者が立って乗っている電動キックボードは、自転車ユーザーよりも車高が高いため、より広く間隔を取る必要があるでしょう。

不安定な電動キックボードの場合は、縁石などでバランスを崩して横方向に倒れ込むリスクが高いため、追い越す際のリスクは急増します。

追い抜く際には、自転車やオートバイ以上に余裕を持ち、できれば2m以上の間隔を空けるのが望ましいです。十分な距離があれば、不規則な動きや万一の転倒時もグッとリスクが低減します。住宅街などで十分な間隔が取れない場合は、徐行しなければなりません」

今後は警察による指導・取り締まりが強化
法律が変わる可能性にも注視

警察庁が取り締まり強化を明示した今、電動キックボードを取り巻く環境は変化すると考えられ、状況次第では法改正が議論される可能性もある。

「電動キックボードの利用者は『車両の責任』と『交通ルール』を再認識し、ドライバーは『相手を過信しない』慎重な運転を心がけるべきです」と熊谷氏は語る。互いに加害者にも被害者にもならないためにも、互いの課題を理解した慎重な運転が求められる。

熊谷宗徳

くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。

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