電動キックボードの安全マニュアルイメージ
監修=(一社)日本電動モビリティ推進協会/取材協力=Lime

もし電動キックボードに乗るのなら、これだけは知っておきたい危険と対策

電動キックボードの走行ルールと安全マニュアル

普及が広がる電動キックボード。一方、走行時の危険も懸念されています。さらに気温が下がるこの季節は、路面状態の悪化や操作性の低下などにより、普段よりも事故の危険が増加します。電動キックボードは、シェアリングサービスの普及などによって街中で見かける機会が増えたものの、まだ自分では利用したことがない方も多いと思います。
正しく使えば便利な電動キックボード。今回、その種類による違いや、適用されるルール、走行するときの注意点などについて、一般社団法人 日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)に話を聞きました。

目次

そもそも「電動キックボード」とは?

まず電動キックボードには、昨今話題となっている運転免許が不要な「特定小型原付」と、従来通り免許が必要な「一般原付」の2種類があります。

ミラー等の付いた一般原付と特定小型原付の電動キックボード

ミラー等の付いた一般原付(写真左)と特定小型原付(同右)の電動キックボード

どちらも形や見た目はほとんど同じですが、最高速度に違いがあります。一般原付(従来の原付一種)の電動キックボードは、50㏄のスクーターと同じく最高速度は時速30kmですが、特定小型原付は最高速度が時速20kmまでしか出ないようになっています。

一般原付では「二段階右折禁止」の道路標識があるところなど、小回り右折をしなければならない場合がありますが、特定小型原付では必ず二段階右折をしなければなりません。

また、特定小型原付の中でも、キックボードの形をしたものと、自転車のようにサドルがついたものがあります。

立ち乗りするキックボードタイプと着座するサドル付きタイプ

立ち乗りするキックボードタイプ(写真右)と着座するサドル付きタイプ(同左)

ただ、こうした形の違いは関係ありません。どちらも最高速度表示灯やウインカーなどのランプ、ナンバープレート等の設置が義務付けられていて、自賠責保険に加入している必要があります。

今回は、この特定小型原付、いわゆる「電動キックボード」について、守るべきルールや走行時の注意点について説明します。

電動キックボードを購入するときに守るべきルールと「危ない電動キックボード」に要注意!

電動キックボードに乗るときに運転免許は不要ですが、年齢が16歳以上でなければ運転も購入もできません。もちろん貸し借りもNGです。これに違反すると罰則があります。インターネットをはじめ、世間ではさまざまな電動キックボードが販売されています。JEMPAでは購入の際、国土交通省による型式認定番号や性能等確認済みシールのある、保安基準を満たしたものを推奨しています。

電動キックボードの性能等確認済シール

国土交通省による「性能等確認済」シール(背景が黒色で文字等が白抜きのシールもある)

ただ、これと類似したデザインで、公的な確認が行われていないシールも出回っていて、安全基準を満たしているかどうか、シールの有無では一見判断できない危険をはらんだ電動キックボードも存在している点にも注意が必要です。こうしたものを購入したり使用したりしないよう、国土交通省のホームページ でチェックすることをおすすめします。

免許はなくても「原付」の仲間! 電動キックボードに乗るとき最低限覚えておくべきルール

街中では電動キックボードで道路の右側を逆走したり、信号が赤に変わった直後に交差点に進入したりと、ルール無視の自転車と同じような(もちろん自転車も車両なので違反)乗り方をしている人を時々見かけます。これは大変危険な行為であるだけでなく、それ以前に電動キックボードに対する考え方として誤っています。まず電動キックボードに乗る際の基本的な考え方として、免許はなくても「原付」の仲間であることを意識してください。

たとえば右折するときは道路の左側端に沿って交差点を渡った後、向きを右に変えて(信号機があるところでは正面の信号が青に変わってから)交差点を渡るという、「二段階右折」が必要です。他にも信号機や一時停止などの道路標識に従うこと、2人乗りの禁止といった、車両として道路を走る上で守るべきあたりまえのルールがあります。スマホを使用しながらの運転、いわゆる「ながら運転」や、歩道を走行(※)したり、道路の右側を走ったりする逆走も罰則の対象です。

  • 「特例特定小型原付」に限り、普通自転車歩道走行可の道路標識がある歩道において、最高時速6km、最高速度表示灯を点滅させる等の条件を満たした場合のみ通行可

右折矢印ではなく青信号に従って交差点を二段階右折

右折矢印ではなく青信号に従って交差点を二段階右折

一時停止の標識に従って停止線手前で停止

一時停止の標識に従って停止線手前で停止

また、原付もクルマと同様ですので、軽い気持ちで飲酒運転するなどという危険行為は絶対に禁止です。

(酒酔い運転)
5年以下の懲役または100万円以下の罰金
(酒気帯び運転)
3年以下の懲役または50万円以下の罰金

飲酒した人に電動キックボードを提供した人や、お酒を提供したお店の側も運転者と同様に罰せられます。

電動キックボードの走行前、走行中の注意点

まず走行する前には、ブレーキを握って利きを確かめたり、タイヤの空気圧を確認したり、灯火類をチェックしたり、車輪や車体にがたつきがないか等、乗車前の点検をしましょう。ワイヤーが伸びていたり、前照灯やブレーキ・テールランプ、緑色の最高速度表示灯が切れていたりすれば、整備不良で捕まります。この点は電動キックボードの所有者だけでなく、街中でのシェアリングによる利用者も同じですので、注意しましょう。

また実際に走行するときには、それぞれ下記のような点に注意が必要です。

【アクセル】停止した状態から片足で路面をキックして、自力で時速1~2kmに達しないと発進できない仕組みが多いです。モーターで動く電動モビリティの注意点として、スロットルを一気に押し込むとすぐに最高速度に達するので、バランスを崩して転倒するおそれがあります。

電動キックボードのスピードを調整するスロットルとブレーキ

電動キックボードのスピードを調整するスロットルとブレーキ(写真は一例です)

発進する電動キックボード

発進直後はスピードが低く姿勢が安定しないので注意

【ブレーキ】左側のレバーが後輪ブレーキ、右側のレバーが前輪ブレーキです。右側のブレーキだけかけると前輪がロックしやすくなるので、減速や停止をするときはブレーキを左右均等の力でかけるよう意識してください。

【ハンドル】サドルに座るタイプの特定小型原付では自転車に近い操作感もありますが、立ち乗りの電動キックボードでは、右左折する場合は重心移動が主になります。とっさにハンドルを切って障害物をかわすといったことはできません。走行中は視線を少し先の路面に向けて、周囲のクルマや自転車の動き、信号や道路標識にも目を配り、足元だけを見ないようにしましょう。

【タイヤ】電動キックボードのタイヤは小さいので、わずかな段差でも乗り越えられません。歩道に入るときもタイヤの向きによってはバランスを崩しやすいので、必ず停止してから押して入りましょう。

【路面】車道の左側は構造的に雨水などがたまりやすくなっています。路面のへこみやゴミ、落ち葉や小石にも注意が必要です。雨天の後は滑りやすいのでマンホールや側溝の蓋の上を走らないよう。また、車道の左側は駐停車車両が多いです。(特定小型原付の)電動キックボードには後方確認用のミラーがないので(※)、右側にかわす際には目視で後方の安全確認をしっかりと。その際はバランスを崩さないように。

  • ミラーを自分で取り付ける際は許容された左右の幅(60㎝以内)に収まるよう注意が必要。

電動キックボードについて最低限覚えたい「10のおきて」

これまで説明した項目以外でも、特定小型原付の電動キックボードには車両として守るべきルールが数多くあります。ここでそのすべてを取り上げることは難しいですが、最低限下記のルールを覚えることと、繰り返しになりますが、免許はなくても「原付」の仲間という、ライダーとしての自覚だけは忘れないようにしてください。

  • 年齢は16歳以上
  • 最高速度は時速20km
  • 車道の左端を走り、逆走はしない
  • 必ず二段階右折をする
  • 歩道や横断歩道は手押しで歩く(※)
  • 信号や一時停止を守る
  • 飲酒運転や「ながら運転」はしない
  • 2人乗りはしない
  • 悪天候時は乗車を控える
  • ヘルメットは着用しよう
  • 特例特定モードでの歩道走行時は歩行者優先で、最高速度表示灯を点滅に切り替えて時速6km以下で走行すること

珍問、愚問が続出? 電動キックボード初心者の質問にお答えします

ここからは電動キックボードのルールやマナーについて、「何がいけないの」、「どこまで許されるの」、「こんな場合はどうすればいいの」といった、初心者が感じる具体的な疑問について、一問一答形式でお答えします。

A:基本的に禁止です。路側帯の白線右側に沿ってを走りましょう。特例特定小型原付は自転車通行可の歩道と同じく、時速6km以下で最高速度表示灯を点滅させるなど条件を満たせば走行できます。

A: 自転車通行可の歩道に限られており、すべての歩道を走行してよいわけではありません。歩道では自転車と同じく車道寄りを走行するのがルール、歩行者の通行を妨げてはいけないのが前提なので、時速が6km以下でも、歩行者の間を縫うように走るのは違反になります。

A:歩道の押し歩きは歩行者扱いになります。その際ルールとしてスイッチを切る必要はありませんが、間違ってスロットルを押してしまうこともあるので、押し歩きの際はスイッチを切るようにしましょう。

A:特定小型原付の場合は時速20km以下で走行できます。一般原付の場合は禁止です。

A:できません。特例特定小型原付は時速6km以下で走行できます。特例特定モードでは、最高速度表示灯をきちんと点滅に切り替えて走行しましょう。

A:電動キックボードは一番左端の車線を走るというのが大前提ですので、そのまま左折レーンを直進してください。そのときは前後の左折車に注意しましょう。

A:走行中のクルマはもちろん、停止しているクルマの横でもすり抜けて走行するのは危険なのでやめましょう。

A:電動キックボードで右側車線に出て追い越しするのは禁止です。後方の安全を確認してから、駐停車車両の右横をゆっくり通過するようにしましょう。

A:電動キックボードは高速道路(高速自動車国道や自動車専用道路)を通行できません。大変危険ですので、誤って進入しないよう、事前にルートをチェックしておきましょう。

A:この場合も二段階右折する必要があります。交差点から30m手前で右側のウインカーを出して、道路の左端に寄って交差点の向こう側に渡ってから向きを変え、安全を確認して直進しましょう。

A:特定小型原付の電動キックボードでは禁止です。危険や不安がある場合は、横断歩道を押して歩きましょう。

A:並進は禁止です。きちんと縦一列に並んで、道路の左端に沿って走るようにしましょう。

A: 駐停車の方法については原付と同じで、まず車道や歩道上に勝手に止めるのはNGです。ではお店の敷地や駐輪場なら止めていいかと言われれば、それはお店の管理者の判断になります。現状では公共の駐輪場でも自転車置き場に止めるのはNGで、バイク置き場であればOKの場合もあるなど、一概に言えない難しさもあって、その都度確認することが必要です。特定小型原付の普及への課題のひとつと言えます。

A:傘差し運転は禁止です。また、雨の日に乗ってはいけないというルールはありませんが、雨天時は路面が滑りやすいので、電動キックボードに乗るのはおすすめしません。

A:自転車も同じく、飲酒運転は絶対に禁止です。酒気帯びでも罰せられます。

A:スマートフォンを片手に持って通話するなどの「ながら運転」は罰則の対象です。

A:たとえ手に持っていなくても、スマートフォンの画面を注視しながら走行するのは罰則の対象です。ナビアプリなどを見るときは停止しましょう。

A:イヤホンが片耳か両耳かではなく、周囲の音が聞こえない状態で乗車するのは危険です。万が一事故を起こせば安全運転義務違反となる可能性があります。都道府県によっては条例でイヤホンの使用禁止が定められている場合もあります。

A:脱げやすいサンダル履きでの乗車は危険です。安全運転義務違反となる可能性があります。停止時など足を着く際に転倒するリスクもあるので、運転に適した靴で乗車しましょう。都道府県によっては条例で禁止している場合もあります。

A:けがのリスクを考えて、肌の露出を控えるように。ヒールも危険です。底が平らな靴や長袖長ズボンといった、運転しやすく動きやすい服を推奨します。上着などに明文化されたルールがあるわけではありませんが、自分の身は自分で守りましょう。

A:冬季など、手がかじかんで運転に支障をきたすようなら必須です。寒くなくても安全面から着用するようにしましょう。

A:電動キックボードのタイヤは小さく、夏タイヤがほとんどなので、滑って走れなくなる可能性があります。ほかの移動手段を検討してください。

A:事故の際の危険を考えて、ヘルメット着用を強く推奨します。努力義務とはかぶらなくてもいいのではなく、かぶるように努力すべきという意味です。実際問題としてシェアリングの場合はヘルメットをどうするかが課題ですが、あくまで原付であることをお忘れなく。

バイク乗りの編集部員が考える、寒い季節の電動キックボードへの備え

冬場は体感温度の低下によってハンドルなどの操作性が低下したり、日没時間が早まることや、朝晩などに路面が凍結したりする可能性といった、普段よりも電動キックボード走行時の不安定さにつながる条件が増えてしまいます。

こうした寒い季節への備えとして、ふだんバイクに乗っている編集部員が考えた、「最低限これくらいは必要では?」という服装と装備を紹介します。

ヘルメット着用イメージ

【ヘルメット】
今回は自転車用ですが、ヘルメットは最低限のマストアイテム。原付にノーヘルで乗るなんてもはや信じられません。万が一生身の体むき出しの状態で転倒したときに、あなたの命を守ってくれます。冬の寒風で頭部から体温を奪われるのを防ぐ効果も。ちなみに編集部員は取材中、道行くカップルに「電動キックボードでヘルメットかぶっている人、初めて見た(笑)」とささやかれ、しばし落ち込んでいました……。

ブーツ着用

【ブーツ】
担当編集に「運転に適した靴でお願いします」と言われ、履いてきたのがこのバイク用ブーツ。足首の動きもしなやかで、しっかりしたソールでボードと路面をグリップできる。意外とゴツさはなく、冬の装いにマッチしているのもポイントだ。

グローブ着用

【グローブ】
手がかじかむ寒い季節は、電動キックボードに限らず、自転車や歩行者でも手袋はありがたい存在。特にバイク用のグローブは、耐久性の高い革製でしっかりと手の指先まで包み込み、寒さからだけでなく、思わぬけがからも守ってくれる頼もしいやつだ。

街中を走る電動キックボード

【ジャケット】
冬の電動キックボードにおけるコーディネートは、寒さと安全への配慮を第一にしつつ、なるべくオシャレでありたいもの。編集部員がチョイスしたのは、寒空の下でも屋外であたたかく安全に働くために開発された、防寒性と耐風性を備えた作業用ジャケットだ。

この黒のジャケット、黒のグローブ、黒のブーツという一見いかついいでたちに、担当編集は、「この世紀末の荒野さながらの電動キックボード界隈に現れた、伝説の救世主か……」と一瞬思ったほど。しかし代官山の街並みを背にさっそうと走り抜ける姿を見て、意外と風景に溶け込んでいると思うのと同時に、「これからは安全な格好こそが普通のスタイルかも」と思いを新たにしました。

電動キックボード乗車時のウェアは安全運転にとても大切。そして着こなしかたは、あなた次第!

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