文=山岸朋央/撮影=乾 晋也

高齢者だけでなく若者も、ペダルの踏み間違いには要注意

人身事故件数は24歳以下が最多

写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

過去の交通事故から、安全運転の方法を探る事故ファイル。今回は、若年ドライバーが起こしたブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故について取り上げる。


運転歴2年目の21歳。追突しそうになり慌てて踏んだペダルは、ブレーキではなくアクセルだった

ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故と聞けば、コンビニや病院などの駐車場で店舗や施設に車が突っ込んだ事故、あるいは繁華街などでの暴走事故を思い浮かべるドライバーは多いだろう。
そして、それらの事故を起こしたのは「どうせまた高齢者だろう」と疑うことなく思うドライバーもまた、少なくないだろう。

しかし、それは半分当たっているが、半分は外れだ。ペダルの踏み間違い事故が新聞やテレビなどで大きく扱われるのは、死亡重傷事故のときだけ。
この場合、加害者となったドライバーは確かに高齢者がほとんどだが、軽傷事故を含む人身事故件数で見れば、24歳以下の若年ドライバーが65~74歳、75歳以上の高齢ドライバーを上回り、最も件数が多いのだ。
踏み間違いは、高齢ドライバーに限ったことなどではない。


2021年9月下旬のある日の夜、南関東を縦断する片側1車線の県道を一台の普通乗用車が南進していた。
黒色の車を運転するのは21歳の男性会社員・A君。
20歳の誕生日前に免許を取得した彼は、運転歴が1年を超えたのを機に実家の車から卒業し、自分専用の新車を購入したばかり。
この日は、高校時代からの友人2人への新車のお披露目だった。

「走りがすごくスムーズだな」
「ボディの色も内装の色合いも最高だね」

などと褒め言葉を連発する助手席と後部座席左側に座る友人に自然と頰が緩むA君は、数十m先に見える赤色の信号機とその手前で停止している2台の車両を視認。
アクセルを踏んでいた右足をペダルから浮かせたA君がエンジンブレーキを利かせながら減速し始めた直後、信号の色が赤から青に変わった。

「夕めしだけど、高校のときによく行ったラーメン屋にしない?」

後部座席左側に座る友人からの提案に、思わず後方に顔を向け、賛同の声を上げるA君。

「おいっ、危ないぞ!」

助手席に座るもう一人の友人の叫び声に、顔を前方に戻したA君の両目に飛び込んできたのは、停止中を示すブレーキランプを点灯させた中型トラックの後ろ姿だった。
慌ててブレーキペダルを踏むA君。
しかし車は彼の意に反し、減速することも止まることもなく、速度を増した。

「えっ、踏み間違えた!?」

ブレーキとアクセルを踏み間違えてしまった自らの行為に驚き動揺しつつも咄嗟(とっさ)にペダルから右足を外し、左側のペダルへと踏み替えるA君。

キーッ、ガシャン!

事故は起きた。A君の必死のブレーキも間に合わず、乗用車は中型トラックの後部バンパー下に潜り込むようにして追突した。
エンジンブレーキで減速していたなかでの踏み間違いに対し、A君が即応できたこともあり、自車よりかなり軽い車に追突された中型トラックの運転手にケガはなく、追突側のA君ら3人も含め、人身被害のない物損事故で済んだのは不幸中の幸いだった。


購入したばかりの新車で起こしてしまった想定外の事故。
高齢者でもない21歳の自分がペダルの踏み間違いをするとは思わず、恥ずかしくて他人にはもちろん、家族にも話せなかったと頭を抱えるA君。

「事故のことを聞かれたら、脇見運転とごまかしています。信号が青に変わったのを見て、信号待ちしていた車は動き出すものと思い込んでしまって、右足をそのままアクセルペダルの上に浮かせたままにしていたのですが、タイミング悪く、その直後に脇見というか後ろ見をしてしまったんですよね」(A君)

想定外の追突の危機にパニック状態になってしまったというA君は、自分の右足がどこにあるかも忘れ、ブレーキペダルのつもりで、咄嗟にアクセルペダルを踏んでしまったようだ。

ペダルの踏み間違いを犯すのは高齢者のみではないというこの事実から、ドライバーは目をそらしてはならない。
数年前、コンビニ駐車場に駐車しようとした23歳の大学生がペダルを踏み間違えて店舗に突っ込んでしまったという事故も発生している千葉県警の調べによると、2017年からの5年間で県内のペダルの踏み間違いによる人身事故件数を年代別に見た場合、全国の統計と同様、20代が最多を占めたという。

「20代の場合、96%超が『車両相互』の事故で、そのほとんどが『単路での追突』。大学生によるコンビニでの事故もそうでしたが、負傷者がいないために物損事故となるケースも少なくなく、実数はもっと多いと思われます」(千葉県警交通総務課・高戸敦課長補佐)

若年ドライバーによるペダルの踏み間違いは、その原因として経験不足と運転技術の未熟さが考えられるが、まずは速度を守ることが大切だという。

「若者は速度を出しがちですが、速度を抑えて走れば、踏み間違い時の対応にも余裕が生まれますから。そもそも若者は何が危険か、どこが危険かということに関して経験不足の部分があるので、事故のもとでしかない速度超過が加われば事故を起こす確率が増すのも当然です。一方、高齢者は運転操作には慣れているし経験も豊富ですが、心身の衰えや認知能力の低下のため踏み間違いを起こしやすいし、死亡重傷事故となる確率も増すわけです。若者の場合は軽傷や無傷で済むことがほとんどですが、歩行者等を巻き込めば一瞬にして死亡事故となることを忘れてはなりません」(高戸課長補佐)


ドライビングポジションや靴に気を付けて、ペダルの踏み間違いを事前に防ごう

初心者からベテランまで幅広い層のドライバーに安全運転講習を30年近く行っているモータージャーナリストの菰田潔氏は、運転する車に慣れていないことも原因といわれる若者の踏み間違いについて、運転に慣れてきたときに起きる、気の緩みも大きく関係していると思われると警告する。

「全員が運転にも車にも慣れていない教習所で、ペダルの踏み間違いが起きているのかというと、ほとんど間違えたりしないわけです。車の運転にはさまざまな危険があると脅かされて免許を取った直後は、びくびくしながら運転していますが、自分も運転できるようになったな、慣れてきたなと思い始めると、『なんだ、こんなものか』と気が緩み、運転を少し舐(な)めてしまうドライバーが出てくる。若葉マークを外したばかりで脇見するなどはその最たるもの。慣れてきた頃が一番危ないという話がありますが、これはどんな機械操作にも共通することです」(菰田氏)

運転に慣れてきたと思ったときこそ、基本に戻ることが肝要だ。
安全意識を常に持って運転に集中することはもちろんだが、踏み間違いを未然に防ぐためには、正しいドライビングポジション と運転に適した靴を履くことなどが重要だと菰田氏はアドバイスする。

「若者に限ったことではないですが、事故を起こす人は、シートを後ろに下げ過ぎて身体がペダルから遠い人が多い。ブレーキをしっかり踏み込める距離ならば、ブレーキとアクセルを踏み分ける際の角度が大きくなるため踏み分けがハッキリわかるのですが、ペダルから遠くなるとつま先で踏み分けることになり、角度が小さくて踏み分けがわかりにくくなる。また、厚底の靴はNG。運転に適さない履物ということでは、サンダルと同じくらい危険。ぐっと踏み込んだときにどのペダルを踏んでいるのかわかりにくいんです。そして、基本的にかかとをフロアに付けてペダルを操作すること。かかとが浮いていると足の向きが多少違っていても気が付かないので、踏み間違いにつながりますから」(菰田氏)

高齢ドライバー向けのセーフティ・サポートカーだけでなく、後付けのペダル踏み間違い防止装置も3万円台から付けられるものも出てきた。
しかし、これらの技術はまだ、完璧に事故を防いでくれるものではないという。
菰田氏の「サポート技術に頼りすぎてはいけない」という警告を、ドライバーは忘れてはならない。

かかとを浮かせてペダルを踏む

かかとが浮いた状態でペダルを操作すると踏み間違いにつながることがあるのでNG、と菰田さんは語る。基本的にはかかとをフロアに付けて操作しよう。

厚底靴でペダルを踏む

厚底の靴は、ぐっと踏み込んだときにどのペダルを踏んでいるのかわかりにくいので、運転には適さない。

まとめ

ペダルの踏み間違いによる事故は高齢者が起こすものと思いがちだが、軽傷事故を含む人身事故件数で見れば、24歳以下の若年ドライバーが65~74歳、75歳以上の高齢ドライバーを上回り、最も件数が多い。
経験の浅い若年ドライバーは、そろそろ運転に慣れてきたと思ったときこそ気を緩めず、安全意識を常に持って運転に集中すること。
また、正しいドライビングポジションと運転に適した靴を履くことで、踏み間違いを未然に防ごう。

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