この曲で宇多丸もLAにトリップ! クルマを“流す”ならヒップホップクラシック〈ドクター・ドレー / Let Me Ride〉
免許を持たないライムスター・宇多丸さんが語る音楽とクルマの深い関係
今月選曲を担当するのは、ライムスターの宇多丸さん。2回目にご紹介いただく曲は宇多丸さんの本領でもあるヒップホップから。クルマ社会と音楽文化が交わることで生まれた、「西海岸」のヒップホップカルチャーを決定付けた大傑作です。
音楽好きの著名人たちが、月替わりで自動車やドライブにまつわる音楽との思い出とともに至高のドライブミュージックを4曲紹介します。
2. ドクター・ドレー / Let Me Ride
ナンバーワンプロデューサーの技が光る決定作
ヒップホップにはクルマのことを歌った曲はめちゃくちゃ多いんですけど、これが一番有名だし、一番売れた曲だと思います。1992年にドクター・ドレーがリリースした『The Chronic』に収録されている「Let Me Ride」。このアルバムはGファンクという、西海岸のヒップホップの音楽像を決定的に形作りました。それまでにもドレーはN.W.A(1986年結成のヒップホップクルー)でやっていたけど、そこでのサウンドは東海岸から学んだものだった。それが『The Chronic』で完全に西海岸のスタイルを確立したわけです。
テンポ、リリック、雰囲気、すべてからはっきりと伝わってくるローライダー感。東京の高速道路とかではない、昼から夕方くらいのロサンゼルスを流しているシチュエーションに最高にハマる曲なんですよね。“ドライブ”というよりも“流す”と言うほうがしっくりくる。さらにクルマ社会のアメリカで生まれたヒップホップの多くの曲は、運転をしながら聴くことを想定されているので、音の鳴りもエンジン音や走行中の音に負けないようにミックスされています。LAのローライダーは僕から一番遠いような文化なんだけど、それでも「運転するっていいものですね」という気持ちになります。数あるヒップホップの名曲の中でもトップクラスの心地よさです。
それまでのギャングスタ・ラップは主に過剰に攻撃的な面みたいなものが強調されがちだったけど、このアルバムではより「リラックスして楽しもう」というモードが押し出されている。スヌープ・ドッグのメロディアスなフローもありますし。それ故の怖さもありますけどね。それが市場にフィットしてメガヒット、誰でもコミットしやすいヒップホップになったんですね。ドレーはヒップホッププロデューサー史上トップの一人ですけど、この頃の彼は曲のブロックに余分な1~2小節を入れるという技をよく使ってたんです。字余り的な意表をつく展開に、ラップが入ってくるタイミングの気持ちよさ。これが絶品なので、普段ヒップホップを聴かないという人にこそぜひ味わっていただきたい。
RHYMESTERに「グラキャビ」という曲があるんですが、ツアー中にトヨタのハイエースワゴンのグランドキャビンで移動してて、そこで音楽を聴いたり寝たりしてる情景を曲にしてるんです。運転はスタッフさんがしてくれてるから、運転席の目線ではないんですよ。「Let Me Ride」も、サビは「乗せてってよ」だから、そういう意味では共通してますね(笑)。目的地に着くことだけがクルマの楽しみじゃない。
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宇多丸さんがドライブ中に愛聴するアーティストの楽曲を紹介!
1曲目 運転も恋愛も知らない、宇多丸少年が憧れた〈ピチカート・ファイヴ / これは恋ではない〉
2曲目 この曲で宇多丸もLAにトリップ! クルマを“流す”ならヒップホップクラシック〈ドクター・ドレー / Let Me Ride〉
3曲目 3月19日(水)9:00公開予定!
4曲目 3月26日(水)9:00公開予定!

宇多丸(ライムスター)
うたまる 1969年東京都生まれ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパー、またTBSラジオ『アフター6ジャンクション 2』を担当するラジオパーソナリティー。1989年、大学在学中に「ライムスター」を結成。日本のヒップホップを最初期から開拓・牽引してきた立役者の一人。また2007年にTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』がスタートすると、趣向を凝らした特集や、愛と本音で語りつくす映画評コーナーが話題を集めて、2009年に第46回ギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」を受賞。音楽、著書など作品多数。近作にライムスターアルバム『Open The Window』(2023)、同ツアーの映像作品『King of Stage at 日本武道館』(2024)ほか。
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