右折先が見えない交差点を走る車と、本線を走る車をわき見しながら側道を走る車
監修=菰田潔 /イラスト=北極まぐ /情報提供=一般社団法人日本損害保険協会

全国ワースト1・2の危ない交差点を現地調査! 事故多発の原因と安全運転のポイントを分析

「見えない」と「見えすぎる」が事故を招く? 右直事故と追突事故が多発する理由
菰田 潔(モータージャーナリスト)

交通事故が多発する場所には必ず理由がある。しかし、その理由は単純な「運転ミス」や「確認不足」のひと言では説明できない。

2026年9月に日本損害保険協会が発表した、2025年の交差点事故データで全国ワーストとなった事故多発地点を、JMO特命調査団が現地調査した。今回訪れたのは、東京都江戸川区の高架下交差点と、兵庫県神戸市西区の特殊な合流地点である。前者では右折車と直進車が衝突する右直事故、後者では追突事故が多発している。

一見すると、どちらもごく普通の道路に見える。しかし実際に現場を歩き、運転席から検証すると、事故の背景には道路構造と人間の認知特性が複雑に絡み合っていることが見えてきた。今回はモータージャーナリストの菰田潔氏とともに、その危険要因を徹底分析した。

※調査はJAF Mate Online編集部が独自に行いました。

目次

【全国ワースト2】瑞江駅西通り高速下交差点(東京都)
「見たいのに見えない」東京・江戸川区の高架下交差点

今回の調査場所となった瑞江駅西通り高速下交差点の様子

今回の調査場所となった瑞江駅西通り高速下交差点の様子

東京・江戸川区にあるこの交差点では、車両同士の事故が2025年に20件発生し、全国でワースト2となっており、そのうち19件が右直事故で占められている。

右折車が対向直進車と衝突する典型的なパターンだが、現地を訪れると単なる右折車の判断ミスだけでは語れない状況が浮かび上がる。

まず特徴的なのは、停止線のある位置から高架橋の橋脚が対向車線の視界を遮っていることである。さらに高架下には駐車場があり、大型トラックや商用車が並ぶ。

その結果、右折しようとするドライバーは、対向車線の状況を十分に確認できないまま、そのまま進むか一時停止するかの判断を迫られることになる。

瑞江駅西通り高速下交差点を直進する取材車

交差点手前には右折時の注意を促す看板が並んでいる

瑞江駅西通り高速下交差点を直進する取材車

交差点は高架道路の柱や駐車車両で対向車の動きが見えにくい状態だ

実際に運転席から確認した菰田氏は、「右折するとき、対向直進車がいるかいないかは直前までわからない」と語った。

瑞江駅西通り高速下交差点を観察する菰田氏

瑞江駅西通り高速下交差点の現状を観察する菰田氏

問題は単に見えないだけではない。右折中に対向車が確認できる場所がカーブになっているため、対向車の速度や距離を把握しづらいのである。

右折車が「まだ大丈夫だろう」と判断しても、実際には想像より速いスピードで直進車が接近してくるケースが想像できる。

カーブミラーはあるのに事故が減らない理由

対向車線側に設置されているカーブミラー

対向車線側の交差点には1年ほど前からカーブミラーも設置されている。しかし、それだけで事故は減っていない様子だ。

菰田氏は、「このミラーは対向車の動きを知るのに有効です。でもドライバーにとっては『何を映しているミラーなんだろう』で終わってしまう」と指摘する。

対向車線側に設置されているカーブミラーに映る対向車

カーブミラーには右折車から直接目視しにくい対向車の様子が映っている

確かに現場でじっくり観察すると、ミラーの位置は比較的工夫されている。しかし、それが右折車が対向直進車を確認するためのミラーであることを直感的に理解するのは難しい。

さらに右折車のドライバーは、横断歩道の歩行者や自転車の安全を確認しつつ、信号の変わり目と対向直進車の有無を確認して、右折のタイミングを判断しなければならない。

「見るところが多すぎる」という菰田氏の言葉が、この交差点の本質を表している。

つまり事故の背景には「認知負荷の大きさ」がある。この交差点ではドライバーが処理しなければならない情報量が多く、判断ミスが起きやすい構造なのだ。

交差点を右折する自車からの視点

右折先では対向直進車に加えて横断歩道にも注意が必要だ

一方、右折車だけが悪いとは言えない理由もある。

事故統計だけを見ると「右折車の確認不足」と考えがちである。しかし現地を見ると事情はもっと複雑だ。

この道路は30km/h規制にもかかわらず、それより速い速度で走っていると思われる車も少なくなかった。対向車が高速で接近してくれば、右折車が判断できる時間はさらに短くなる。

交差点を通過する直進車と右折待ちの車

信号の変わり目で交差点に入って来る対向直進車もいる

菰田氏も、「見通しが悪くてもう直進車は来ないと思って進んだら、スピードの速い車が近づいて来たという事故もあるのではないか」と推測する。

交差点で右折待ちの車

交差点で対向直進車の通過を待つ右折車

もちろん右折車には対向車の進行を妨げてはならないという義務がある。しかし、道路線形による視界不良と、橋脚や駐車車両による死角、そこに対向直進車の速度超過という要素が重なれば、事故リスクは飛躍的に高まる。

単なるヒューマンエラーではなく、この交差点の形状そのものが事故を誘発している側面があると言える。

現時点で最も有効な対策は「信号制御を変えること」

交差点を観察する菰田氏

交差点の様子を観察する菰田氏

では、どうすれば事故を減らせるのか。菰田氏が最も有効だと指摘したのは信号制御の変更であった。

「(高架下を通る)東行きと西行きの信号を分けてしまえば、この事故は起きえない」と言う。

現在は対向車同士が同時に青になるため、右折車は安全なタイミングを各自で見極める必要がある。しかしそれぞれを分離した時差式信号へ変更すれば、右直事故は原理的に大きく減少する。

もちろん信号待ちの時間は長くなる。渋滞も今より発生しやすくなるだろう。しかし「交通の流れ」と「事故防止」を比較した場合、この交差点では安全性を優先すべきではないか。現地調査からはそのような結論が見えてきた。

【全国ワースト1】西神中央線合流部(兵庫県神戸市西区)
「見えるから危ない」神戸市西区の特殊な合流地点

全国ワースト1となった西神中央線合流部

全国ワースト1となった西神中央線合流部

続いて訪れたのは神戸市にある西神中央線合流部。

ここは道路の本線同士が交差する一般的な交差点とは異なり、西神2号線の副道から西神中央線へ合流する地点であるが、本線と並行した加速車線を設置するだけの距離が確保できないため、導流帯により車両を誘導しているという特殊な形状である。

ここでは追突事故が多発し、2025年の事故件数が23件と全国ワースト1となっている。しかし現場を初めて見ると、多くの人は「なぜ追突事故なのか」がわからないだろう。

西神中央線合流部の様子

西神中央線合流部で副道から本線に合流する先行車

一般的な合流地点なら、本線車両との接触事故を想像する。しかし、ここで繰り返し起きているのは副道上における前車への追突事故なのだ。

問題は合流手前からの「見え方」だった

西神中央線合流部の様子

西神中央線合流部の様子。ガードレールがなくなり、本線の見通しがよくなる

この地点は通常の加速車線を伴う合流ではない。副道が回り込みながら本線へ接続する丁字路型の特殊構造で、途中には下り勾配とS字カーブが連続している。

さらに副道右側のガードレールが途切れており、本線の様子が合流部のかなり手前から見えてしまう。

本線を走って来る車がかなり手前から見えている

運転席から本線を走って来る車がかなり手前から見えている

「これが事故の原因につながっているのではないでしょうか」(菰田氏)

多くのドライバーはスムーズな合流のために本線の車の動きをいち早く確認しようとして、右側へ視線を向ける時間が長くなる。その結果、合流待ちをしている前車への注意が薄れてしまうのである。

本線への合流待ちで停止する前の車

菰田氏は調査中、「前に車がいる段階で右は見ないほうがいい」と何度も繰り返した。さらに、「前の車から目を離した時点で危ない」とも語っている。

つまり事故の本質は「合流の失敗」ではなく、「前方不注視による追突」なのである。

ドライバーは2つのタイプに分かれていた

西神中央線合流部の様子を観察する菰田氏

西神中央線合流部で副道から合流する車の動きとドライバーの様子を観察する菰田氏

現地観察では興味深い傾向も見られた。ドライバーには、ガードレールが切れた瞬間に本線を見る人と、合流直前まで進んでから見る人の2タイプが存在していたのである。

前者は本線の情報を早く得られる反面、そのぶん前車への注意が散漫になる。後者は前方確認を優先するため追突リスクは低い。

そのため菰田氏は、「自分が合流の先頭になってから、本線を見たほうがいい」と指摘する。

前車がいる段階では、自分の合流タイミングを考える必要はない。まず前車の動きを確認し、自分が先頭になってから本線の確認を行うべきだというのである。

本線に合流する車

「見える」から「見てしまう」という危険

合流地点手前の様子

西神中央線合流部の手前には信号機のない横断歩道もある

この場所で特に印象的だったのは、「本線の様子が見えてしまうことが問題なんです」という菰田氏の言葉だった。

通常は見通しがいいほど安全と考えられる。しかし、この場所は違う。本線が手前から見えるため、ドライバーの意識が前車ではなく本線の車へ向いてしまうのである。

「見えるから見てしまう」という一言が、この合流地点の危険性を見事に表現していた。

合流地点の様子

本線との合流地点で停止する車

合流地点の様子

本線との合流地点で連なる後続車

構造改善よりも難しい「人の心理」

この地点の安全対策について、菰田氏と調査団員の間では、合流手前での一時停止規制やバンプの設置、視界をふさぐためあえてのガードレール延長といった対策も議論された。

しかし、ここで決定打となる改善策は容易には見つからなかった。

一時停止規制を設ければ、今度はこれまで通りに流れで合流しようとしたドライバーにより、予期していない停止を原因とした追突事故が一時的に増える可能性もある。

結果として現状で最も現実的な対策は、「前の車から目を離すな」という極めて基本的な運転行動の徹底であった。

合流地点の先の様子

合流地点の先の様子。「本線に合流した先ですぐに立体交差のための側道があるため、本線に並行する形で加速車線を設置できなかったのではないか?」(菰田氏)

菰田氏が語る「危ない交差点」における安全運転の基本

今回調査した2つの事故多発地点は、一見まったく異なる問題を抱えているように見える。しかし共通点があった。それは、人間の認知特性と道路構造とのミスマッチである。

東京・江戸川区の交差点では「見たいのに見えない」。神戸市西区の合流地点では「見えすぎるから前を見なくなる」。どちらもドライバーの判断を狂わせる要因になっていた。

取材の最後に菰田氏は、「見える範囲内で止まれる速度で走る。それが基本です」と語った。事故多発地点を安全に通過するために特別なテクニックが必要なわけではない。

前車から目を離さないこと。見通しの悪い場所では確実に徐行すること。対向車の速度を見誤らないこと。そして、自分の思い込みを前提に運転しないこと。今回の調査で見えてきたのは、交通安全の原点ともいえる運転の基本であった。

事故多発交差点になったところは限られた場所だが、その存在は、全国すべてのドライバーに、基本の重要性を改めて意識させる場所なのかもしれない。

菰田 潔

こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。

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