歩道を走る自転車が歩行者とぶつかりそうになる場面と、歩道で自転車を押して歩く場面のイラスト
監修=遠藤まさ子(自転車の安全利用促進委員会委員・自転車ジャーナリスト)/イラスト=北極まぐ

自転車は歩道のどこを走るべき? 調査で見えた「正解率3割」の現実と、青切符よりも考えるべき交通安全の話

青切符時代に大丈夫? 自転車通行可の歩道で守るべきルールとその理由
遠藤まさ子

自転車は車道通行が原則だが、自転車が歩道を走るとき、「中央から車道寄りを徐行する」。これは道路交通法で定められたルールだ。

2026年4月から始まった、自転車の交通違反に対する青切符制度においても、「歩道における通行方法違反」として反則金の対象となっている。しかしこのルール、実際にどれほど守られているのだろうか?

※調査はJAF Mate Online編集部が独自に行いました。

目次

【調査結果は3割】なぜ歩道では「車道寄り走行」が求められているのか

今回の調査場所

今回も前回2024年と同じ場所で調査を行った

JAF Mate Online編集部が2026年7月に実施した調査では、自転車通行可の歩道を走る自転車のうち、車道寄りを走行していた割合は29%だった。

青切符制度開始前の前回2024年7月に実施した調査の36%から大きな変化は見られず、おおむね「3割前後」にとどまっている。

【2026年】

2026年7月の調査では、自転車通行可の歩道を走る自転車80台のうち、車道寄りを走っていたのは23台、それ以外を走っていたのは57台

2026年7月の調査では、自転車通行可の歩道を走る自転車80台のうち、車道寄りを走っていたのは23台、それ以外を走っていたのは57台

【2024年】

前回2024年7月の調査では、自転車通行可の歩道を走る自転車53台のうち、車道寄りを走っていたのは19台、それ以外を走っていたのは34台

前回2024年7月の調査では、自転車通行可の歩道を走る自転車53台のうち、車道寄りを走っていたのは19台、それ以外を走っていたのは34台

歩道を走行する自転車が守るべきルールである「車道寄りを通行する」ことの意味について、今回、自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんにインタビューした。

まず確認しておきたいのは、歩道上で車道寄りを走るルールには合理的な理由があるということだ。遠藤さんは、車道寄り走行の最大のメリットとして「死角の減少」を挙げる。歩道の建物側には店舗の出入り口や路地が多く、歩行者が突然現れる可能性が高い。一方、車道寄りを走れば、そうした飛び出しを早く発見できる余地が生まれる。

遠藤さんは「建物寄りを走っていると店の中から出てきた人を避けることが極めて難しい」と指摘する。一方、車道寄りを走れば、歩行者を認識する時間と距離が確保できる。

実際に今回の調査中、路地から別の自転車が勢いよく歩道へ進入してきたケースがあった。この時は歩道上の自転車が車道寄りを走っていたため衝突を回避できたが、中ほどや建物寄りを走っていたら接触していた可能性が高かったという。

「車道寄りを通行する背景には、事故リスクを下げるという合理的な理由があります。路地や店舗から出てくる人や車を発見しやすくなるためです」(遠藤さん)

車道と反対側を走る自転車

このタイミングで右側の路地から歩行者や自転車、車が出てきた場合、避けるのが難しくなる

歩道を走る自転車で本当に危険なのは“走る場所”より“速度”

今回の調査では、利用者の多くがルールを意識して走っているというより、「なんとなく走りやすい場所」を選んでいる傾向が見えてきた。また、高齢者や子供を乗せた自転車ほど歩道中央寄りを走る傾向も見られた。

その背景として遠藤さんは、自動車から離れたいという心理があると指摘する。さらに街路樹や縁石もあり、車道側は「怖い」と感じるため、無意識に中央へ寄ってしまうのだ。

歩道の中央を走る自転車

車道寄りには街路樹や電柱もあるため、そこから距離をとっておきたいという心理もある

「自転車は気軽に乗れる乗り物なので、『軽車両』という意識よりも、相変わらず歩行者感覚のまま利用している人が多いのかもしれません」(遠藤さん)

しかし今回、遠藤さんへのインタビューで浮かび上がったのは、「車道寄りを走れば安全」、「建物寄りは危険」といった単純な話ではないということだ。

遠藤さんは「どの位置を走るかよりも、直ちに止まれる速度かどうかが重要」と強調する。 歩道上の事故では、走行位置より「徐行していたか」「安全確認をしていたか」が重要視されるケースが多いという。

歩行者は歩道で自転車を警戒する義務を原則として負わないという考え方もあり、自転車側の責任は非常に重い。たとえば建物の陰から突然歩行者が出てきた場合。車道寄りを走っていても、速度が高ければ避けられない。逆に建物寄りであっても、十分に速度を落としていれば回避できる可能性がある。

つまり、「どこを走っているかより、とにかく直ちに止まれる速度で走っているかどうかが重要です」(遠藤さん)

自転車で歩行者とすれ違うなら、どれだけ距離を取るべきか

では歩道上で歩行者とすれ違う場合はどうだろう。遠藤さんは「歩行者の肩幅分の距離をとることが必要」と話す。歩行者の左右にさらに1人分ずつの余裕を取るイメージだ。

歩行者は必ずしもまっすぐ歩くとは限らない。スマートフォンに気を取られたり、急に立ち止まったり、方向を変えたりすることもある。そのため単純に肩が触れない程度の間隔では不十分だ。

複数の歩行者がいれば、必要な空間はさらに広がる。加えて、歩行者は方向転換も簡単にできるなど、次の動きを予測するのが難しい存在だ。つまり、人が多い歩道ですり抜けを続けること自体が、極めてリスクの高い行為なのだ。

このような場合、自転車から降りて押して歩くことも考えたい。

交差点付近を走る自転車

交差点付近では歩行者の行く先も分かれるため、急な方向転換が生じやすい

歩道上で事故になれば、自転車は“車と同類”に扱われる

自転車利用者の中には、「自分は交通弱者だから」という感覚を持つ人も少なくないだろう。実際、自動車との事故では自転車側が被害者になるケースも多い。

しかし法的な位置づけは少し違う。自転車は道路交通法上の「軽車両」であり、歩行者ではない。歩道上で歩行者と衝突した場合、自転車側の責任は非常に重く判断される傾向がある。

遠藤さんによると、歩道上で歩行者に衝突した事故について、裁判所が「歩行者は歩道上を走る自転車に注意する義務を原則として負わない」と判断した事例もあるという。結果として自転車側の過失が100%認められたという。

もちろん個別事例によって判断は異なる。しかし遠藤さんは、「自転車は自動車と歩行者の中間的な存在として扱われることはあっても、歩行者と同じには扱われない」と説明する。だからこそ、「ぶつかったら歩行者にも責任があるはず」という感覚は危険だ。法的には、自転車は加害者になり得る存在なのである。

「基本的には、自転車は車に近い責任を負っています。加害者になる可能性があるという意識はもっと広まったほうがいいと思います」(遠藤さん)

広めの歩道を建物寄りに走る自転車

今回の調査場所とは異なるが、このように広い歩道でも左側の建物寄りを走る自転車が散見された

歩道が混んでいたら、自転車はどうするのが正解か

今回の取材で最も実践的なアドバイスの一つが「押し歩き」だった。歩道は本来、歩行者のための空間である。自転車通行可の歩道であっても、歩行者優先で徐行という原則は変わらない。

ところが実際には、歩行者の間を蛇行しながら進む自転車や、人と人とのわずかな隙間を縫って走り抜ける自転車を見かけることもある。

遠藤さんは、そうした行為は青切符の対象となる危険な運転に該当する可能性があり、人が多い場面では押し歩きが基本だと話す。

考えてみれば当然だ。歩行者は突然立ち止まるかもしれない。スマートフォンを見ながら歩いている人もいる。子供は予測不能な動きをする。そのような環境で自転車だけが時速15kmや20kmで移動していれば、事故のリスクは急激に高まる。

車の仲間という位置づけにもかかわらず歩道を走れることは、自転車利用者に与えられた特例でもある。だからこそ、その特例を生かすためには「歩行者以上に慎重になる」という姿勢が求められるのかもしれない。

「歩行者が多く、十分な空間が確保できないなら押し歩きが基本です。歩道はあくまで歩行者優先ということを忘れてはいけません」(遠藤さん)

歩道で自転車を押し歩きする人

自転車の押し歩き(この場合は歩行者扱い)も散見された

なぜ警察は「車道寄り通行」しない自転車を積極的に取り締まらないのか

道路交通法という厳密なルールがあり、今は青切符適用の可能性もあるのに、あまり徹底されない理由の一つが、取り締まりの難しさだ。

遠藤さんによると、歩道を走る自転車について、警察は現在、「ながらスマホ」や「一時不停止」など、現認しやすく危険性もわかりやすい違反を重点的に取り締まる傾向があるという。

一方で、「車道寄りを走っていない」という違反は判断が難しい。自転車通行可の歩道では通行自体は認められているため、立証や運用の面で課題が多いという。また、地域によって重点的に取り締まる項目も異なる。事故の発生状況や交通環境によって方針が変わるため、全国一律とは言えないのが実情だ。

ただし、これは「車道寄り走行が重要でない」という意味ではない。法が目指す理想と、現場での執行のしやすさにはギャップが存在するのである。

「危険運転をすべて取り締まるのは現実的に難しい面があります。だからこそ、自転車利用者自身が危険を判断できるようになることが大切です」(遠藤さん)

必要なのは「唯一のルールを決めること」よりも「流動的なリスクの判断」

今回の調査と取材で見えてきたのは、「車道寄りが正しい」「建物寄りは間違い」といった単純な結論ではなかった。車道寄り走行には合理性がある。

しかし、バス停付近では別のリスクが生じることもあり、子供に対する指導では車道への転倒リスクが考慮される場合もある。状況によって最適解は変わるのだ。

遠藤さんが繰り返し訴えたのは、「歩行者モード」と「自転車モード」を切り替える意識だった。混雑しているなら押し歩く。危険を感じたら止まる。十分な間隔がなければ追い抜かない。

そうした柔軟な判断こそが重要なのである。

今回の調査では、車道寄り走行の実施率は約3割にとどまった。だが、その数字だけで安全性は語れない。本当に重要なのは、

車道寄り走行には死角を減らす効果がある
しかし最優先は「直ちに止まれる速度」
歩行者には十分なクリアランスを確保する
混雑時は押し歩きを選ぶ
自転車は軽車両として加害者にもなり得る


という基本原則を理解することだ。

遠藤さんがインタビューの最後に語ったのは、「いろいろな疑問を出して、一つずつ考えながら、みんなで安全を守りましょうという話が一番ストンとくるのかな」。この言葉は、今回のテーマの本質を表している。

交通安全の記事では、「何が正しいのか」を明確に示すことが求められる。しかし、自転車の歩道通行について取材を進めるほど、白黒だけでは整理できない現実が見えてきた。

車道寄りを走るべきなのは事実だ。ただし、その理由を理解しないまま形だけ守っても、安全にはつながらない。車道寄りを走っていても速度が速すぎれば事故は起きる。

狭い歩道を走る自転車

歩道が狭く、かつ先の見通しが悪い状況では、見通せる範囲できちんと止まれるかどうかがより重要になる

つまり重要なのは、「ルールを暗記すること」ではなく、「なぜそのルールがあるのか」を理解することなのだ。

それはまず、「今ここで起きるかもしれない危険」を想像することから始まるのかもしれない。

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遠藤まさ子

えんどう・まさこ 自転車業界新聞、スポーツサイクル誌の編集などを経てフリーランスに。2015年より自転車の安全利用促進委員会メンバーとして、知っておきたい自転車の選び方から購入後のメンテナンス、正しいルール・マナーなどの情報を発信。全国の教職員、児童生徒、保護者などを対象に自転車通学セミナーも開催し、これまで延べ1万人以上が受講している。

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