大日影トンネルの入口は、現役の路線が並走している。
大日影トンネル(右)と、現役の路線が並走している。大日影トンネル遊歩道は長さが1,367.80m にもなる
写真=徳永 茂 / 構成=高橋祐介

旧中央本線の廃線をめぐる鉄道旅。ぶどうやワインの重要な輸送ラインとなった旧路線探訪

各地に散らばる廃駅・廃線探訪

鉄道をこよなく愛するプロカメラマン・徳永茂さんによる厳選された廃線スポットを紹介! 東京都から愛知県までを結ぶJR中央本線。今回は山梨県の勝沼町から長野県の富士見町までの旧路線を巡る。複線化や車両の進化により、段階的に路線変更されてきたことで、使用されなくなった旧路線が点在しているエリアだ。

目次

ぶどうやワイン輸送の要になった旧中央本線

1903(明治36)年に中央本線は東京都・新宿から山梨県・甲府市まで開通していた。しかし、当初は勝沼駅は設置されておらず、所在地の旧菱山村や隣接する勝沼町、祝村による設置運動の結果、1913(大正2)年に勝沼駅が開業した。開通当時は信号設備だけだったが、急傾斜の地形から、スイッチバック式の駅として、輸送の要となった。

腐食部分を修復し、「国鉄色」と呼ばれる青とクリーム色の車体に塗り直されたEF64型電気機関車

腐食部分を修復し、「国鉄色」と呼ばれる青とクリーム色の車体に塗り直されたEF64型電気機関車

現在は、複線化された路線上に「勝沼ぶどう郷駅」として利用されている。当時の駅ホームは勝沼鉄道遺産記念公園として残り、桜の時期にはきれいな花が咲き誇る人気のスポットになっている。さらに、駅の隣には、全国でも貴重な1966(昭和41)年製の国鉄EF64型電気機関車18号を静態展示。2021(令和3)年に行われたクラウドファンディングにより、お色直しされている。

1993(平成5)年に勝沼駅から勝沼ぶどう郷駅と改称された。桜の開花時期に多くの旅客が訪れる

1993(平成5)年に勝沼駅から勝沼ぶどう郷駅と改称された。桜の開花時期にが多くの旅客が訪れる

スイッチバック式の旧勝沼駅のホーム跡は、桜の名所だ

スイッチバック式の旧勝沼駅のホーム跡は、桜の名所だ

レンガ造りの構造や、ホームの幅などが当時の面影を残している

レンガ造りの構造や、ホームの幅などが当時の面影を残している

1993(平成5)年に勝沼駅から勝沼ぶどう郷駅と改称された。桜の開花時期に多くの旅客が訪れる

スイッチバック式の旧勝沼駅のホーム跡は、桜の名所だ

レンガ造りの構造や、ホームの幅などが当時の面影を残している

公園を線路沿いに東京方面へ進むと、現れるのがレンガ造りの「大日影トンネル」。1903(明治36)年から1997(平成9)年まで、中央本線の下り線として利用されてきた。現在は遊歩道として整備され、出口まではゆっくり歩いて20分ほどかかる。

トンネル内には、電化されるまで走っていた蒸気機関車の煤(すす)が残る

トンネル内には、電化されるまで走っていた蒸気機関車の煤(すす)が残る

トンネルに積まれているレンガは、一段ごとに縦と横を交互に使うイギリス積みで造られている。これは英国人技師による指導で建設されたためだ。トンネル内には当時の面影が残る待避所や鉄道標識なども残る。

大日影トンネルは湧き水が多く、排水のための水路が設けられていた

大日影トンネルは湧き水が多く、排水のための水路が設けられていた

出口は深沢川まで続いている。「勝沼フットパス」のコースになっているので散歩にはちょうどいいだろう

出口は深沢川まで続いている。「勝沼フットパス」のコースになっているので散歩にはちょうどいいだろう

斜面にはレンガ造りの水路が建設当時のまま残っている。貴重な鉄道土木遺産だ

斜面にはレンガ造りの水路が建設当時のまま残っている。貴重な鉄道土木遺産だ

大日影トンネルは湧き水が多く、排水のための水路が設けられていた

出口は深沢川まで続いている。「勝沼フットパス」のコースになっているので散歩にはちょうどいいだろう

斜面にはレンガ造りの水路が建設当時のまま残っている。貴重な鉄道土木遺産だ

大日影トンネルを抜けると、深沢トンネル(現:勝沼トンネルワインカーヴ)の入り口前に出る。このトンネルは、大日影トンネルと同時に造られたもので、長さは1,100mほどだ。現在では、ワインカーヴ(ワイン貯蔵庫)として利用され、ワイナリーや個人オーナーのために利用されている。入り口は開放されているので、保管庫の手前までだが無料で見学も可能だ。

トンネルの形状に合わせた門扉は、保存状態をキープするため閉ざされている

トンネルの形状に合わせた門扉は、保存状態をキープするため閉ざされている

貯蔵エリアは立ち入りできないが、ワインの貯蔵に適した気温や湿度を感じられる

貯蔵エリアは立ち入りできないが、ワインの貯蔵に適した気温や湿度を感じられる

トンネルの形状に合わせた門扉は、保存状態をキープするため閉ざされている

貯蔵エリアは立ち入りできないが、ワインの貯蔵に適した気温や湿度を感じられる

深沢トンネルの付近には勝沼ぶどう郷駅〜甲斐大和駅間に残る横吹第二トンネルも残る。単線時代には1つだったが、複線化に伴い新横吹第二トンネルが造られた。今は両方とも使われていない。

横吹第二トンネルの近くには、1997(平成9)年まで使われていた橋梁の跡も残っている

横吹第二トンネルの近くには、1997(平成9)年まで使われていた橋梁の跡も残っている

入り口は封鎖されているが、独特の雰囲気は残っている

入り口は封鎖されているが、独特の雰囲気は残っている

横吹第二トンネルの近くには、1997(平成9)年まで使われていた橋梁の跡も残っている

入り口は封鎖されているが、独特の雰囲気は残っている

中央線の貨物列車を牽引したEF15電気機関車

クラウドファンディングによって当時の色に塗り直されて展示されているEF15型電気機関車

クラウドファンディングによって当時の色に塗り直されて展示されているEF15型電気機関車

山梨県韮崎(にらさき)市の韮崎中央公園には、1958(昭和33)年製のEF15型電気機関車198号が保存されている。この車両は、中央本線の急勾配区間で貨物列車の先頭に連結し走っていたものだ。まさに、戦後の貨物輸送を担った電気機関車として202両製造された中の一両だ。

当時のカラーに塗り直され、修繕されている内装。使用感を残すためにクリア塗装などが施されている

当時のカラーに塗り直され、修繕されている内装。使用感を残すためにクリア塗装などが施されている

貨車は穴開きなどを修繕し、人が入っても大丈夫なように鉄板補強が施されている

貨車は穴開きなどを修繕し、人が入っても大丈夫なように鉄板補強が施されている

当時のカラーに塗り直され、修繕されている内装。使用感を残すためにクリア塗装などが施されている

貨車は穴開きなどを修繕し、人が入っても大丈夫なように鉄板補強が施されている

この車両は、国鉄から貸与されているものだが、内外装ともにリニューアルされ、連結されている貸車も修繕されている。見学用の通路もあるため、車両を細部まで観察するのにオススメだ。

映画の撮影地としても有名になった旧立場川(たつばがわ)橋梁

長さは110mほどあり、橋梁を支える橋台の石は地元のものが使われている

長さは110mほどあり、橋梁を支える橋台の石は地元のものが使われている

長野県富士見町に残る鉄道遺構「旧立場川橋梁」は東京方面から中央自動車道・小淵沢IC〜諏訪南IC間を走行中に左手に見ることのできる橋梁だ。1903(明治36)年に完成されたこの橋は、翌年に開通し、1980(昭和55)年まで運用されてきた。この橋はボルチモアトラスと呼ばれる構造で、三角形の骨組みを小さくし、長い斜材を減らし、軽量化されているのが特徴だ。貨物輸送もあり、重量も大きくなるなかで、アメリカ製の橋の採用に至った。

旧立場川橋梁は現在、立ち入りを禁止しているため、至近距離で見ることはできない。映画の撮影で使用されるなど、この旧中央線ではここにしか残っていない貴重な遺構だ。現在は橋の劣化から、落下の可能性があった枕木やボルトも撤去されている。

現在は入ることはできないが、トラスの上を通過する「上路式」として、貴重な構造をしている

現在は入ることはできないが、トラスの上を通過する「上路式」として、貴重な構造をしている

奥には瀬沢隧道が残っているが、今では旧立場川橋梁同様に立ち入ることができない

奥には瀬沢隧道が残っているが、今では旧立場川橋梁同様に立ち入ることができない

現在は入ることはできないが、トラスの上を通過する「上路式」として、貴重な構造をしている

奥には瀬沢隧道が残っているが、今では旧立場川橋梁同様に立ち入ることができない

この橋の注目ポイントは、部材をピンで結合しているところ。現在は強度的な観点から採用されていないが、ボルト・ナットを使わない当時の接合に驚くだろう。赤錆びた橋梁のノスタルジックな雰囲気をぜひ味わってみてほしい。

中央本線は、その時代の最新車両や鉄道技術を採用してきた路線だ。山には掘削技術の進歩で長大なトンネルが造られ、さらに電気機関車のハイパワー化で急坂も問題なく進めるようになった。そのため、旧中央本線に残る廃線のほとんどは生活道路や住宅地へと姿を変えてきている。今でも残っているスポットは、貴重な産業遺構として歴史を感じながら巡ってみてもいいだろう。

今回訪れた廃線の場所はMAPで確認を

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