本州で最後の蒸気機関車が走り続けた『日中は走らない』国鉄日中線跡を巡る
各地に散らばる廃駅・廃線探訪鉄道をこよなく愛するプロカメラマン・徳永茂さんによる厳選された廃線スポットを紹介! 今回は福島県の喜多方駅から、1375(天授元)年ごろに開湯されたと伝わる熱塩(あつしお)温泉が近くにある旧熱塩駅までを結ぶ旧国鉄日中(にっちゅう)線をピックアップ。夢の東北中央縦貫鉄道の一部になるはずだった路線をたどる。
「日中は走らない日中線」と呼ばれていた
旧国鉄日中線は、福島県の喜多方駅から熱塩駅までの11.6kmほどの鉄道路線だった。日中線の名前の由来は熱塩温泉近くの秘湯『日中温泉』のある日中集落から名付けられたとも言われている。しかし、わずか5駅の路線は旅客数の減少により、1日の本数が徐々に減っていき、ついには朝方と夕方の3往復しかしなくなったため、『日中は走らない日中線』と呼ばれることになる。1984(昭和59)年に鉱山の閉山や、自動車の普及により廃線となった。
国鉄初の単線用鉄製ラッセル除雪車として製造された。旧熱塩駅に展示されている車両は『キ287』だ
1938(昭和13)年に開業した旧国鉄日中線は、当初、栃木県今市市から山形県米沢市を結ぶ壮大な計画である『東北中央縦貫鉄道・野岩羽線(やがんうせん)』の一部区間として開通したものだった。野岩羽線は当時の下野(しもつけ)、岩代(いわしろ)、羽前(うぜん)の呼び名を一文字ずつとって命名された。
当時の豪雪時期の写真では、機関車に押されたラッセル車が雪をかき分けながら熱塩橋を渡っていた
この計画によって部分的に完成した日中線の区間は、豪雪地帯ということもありラッセル車による除雪も行われていた。そのため、終着駅の旧熱塩駅にはラッセル車が静態保存されている。
しかし、本来であれば米沢市まで工事が進むはずだった計画は、日中戦争の激化や太平洋戦争の開戦などをきっかけに頓挫してしまった。終戦後にも建設運動が行われたが、路線の利用客減少から自然消滅してしまった。もし、工事が続いていたら、東北を縦貫する路線が完成していたと思うと残念である。
両サイドにあるハネのような部分で、雪を跳ね飛ばし後方飛散を軽減している
旧型客車の『オハフ61 2752』は再塗装され、中に入ることもできる
ウッド調の内装は、木造客車を鋼体に改造したなごりなのかもしれない
歴史と風情が残る旧熱塩駅舎(日中線記念館)
現在は日中線記念館として、当時の資料などが展示されている旧熱塩駅舎
旧駅舎のホーム側には、木製の標識や入り口の柵がそのまま保存されている
旧熱塩駅舎には日中線の資料が多く残っている。展示車両はもちろんだが、駅舎はほとんど当時のままだ。周囲は公園化され、たくさんの桜の木が植えられており、満開のシーズンには多くの人が訪れる。また、鉄道遺構として大変貴重な転車台跡も残っている。
入り口の造りなどは、当時から欧風で人気があった。2階建てだが、2階への階段はなく、はしごを使って入るというもの
当時の貴重な資料や、イベントが行われた際の写真などが飾られている
廃線前の最後の車両に装着されていたプレートが飾られていた
当時のコンクリート造りのホームは残っているが、レール部分は芝生エリアになっていた
旧熱塩駅に展示されている車両は、ラッセル車の『キ287』と客車の『オハフ61 2752』の2両のみ。しかし、共に旧国鉄日中線で実際に利用されてきたものだ。
転車台跡が残る。当時は複数人による人力で回転台を回していたようだ
ターンテーブル跡の近くには、車止めの跡が残っている
レールは取り外され、舗装路に変わってしまっているが踏切の跡が残っている
旧国鉄日中線の線路跡は『しだれ桜』を楽しむ遊歩道へ!
会津加納駅跡に残る線路跡。道路の分岐点にあり、草が茂っていて見えにくいが枕木も残っていた
現在、旧国鉄日中線の線路跡は、レールが残っている場所はほとんど見られない。会津加納駅跡では唯一、レールを見ることができるが、道路の分岐点にあるため気づかれないような場所だ。しかし、線路跡では『しだれ桜』の植樹を行うプロジェクトが進んでおり、遊歩道として整備が進められている。
上三宮駅跡は道路に面しているが、標識が立てられている
当時の上三宮駅の標識ではなく、当時の位置情報として新たに造られたものだ
日中線の線路跡は、現在では農道として使われている。緩やかなカーブが当時の線路の証拠だ
会津加納駅跡から上三宮駅跡までの農道は長い直線が続く
現在進められている『しだれ桜』の植樹によって路線跡が残り続ける
桜並木は植樹が続く予定とのこと。桜を目印にすれば日中線の線路を探さずに済みそうだ
喜多方駅に近くなると『日中線しだれ桜散歩道』と名称が変わる。会津村松駅跡も標識のみだ
JR喜多方駅に近くなるにつれ、しだれ桜の数も多くなり、道の様相も変化する。日中線の跡は自転車歩行車道として整備されている。3kmほどの区間は約1,000本の『しだれ桜』が並び、多くの観光客が訪れる人気のエリアだ。道中には、当時を再現した踏切や、レールの一部をオブジェとして展示している。
遊歩道の真ん中に設置されたレールと踏切信号は当時の面影を再現したものだ。線路は渡ることもできる
展示されている蒸気機関車は『C11 63』で、実際にこの路線を走っていたものだ
除雪機能を備えたディーゼル車の展示もされている
機関車の裏には除雪用スカートが装着され、豪雪地帯の走行車だったことがわかる
今回紹介した旧国鉄日中線は、桜並木でも有名なスポットだ。2025年の桜シーズンは終わってしまったが、来年、喜多方駅から続く線路跡をたどりながら花見を楽しんでみるのもいいだろう。旧熱塩駅方面は田園風景とのコントラストを楽しむこともできる。また、喜多方周辺のお米や日本酒は、日中線によって広く流通し、知られてきた歴史もある。まさに喜多方の産業文化を支えてきた路線だった。
桜並木の道はJR喜多方駅に接続するため大きく湾曲している
日中線跡の桜開花情報はリアルタイムで掲示されていた
今回訪れた廃線の場所はMAPで確認を
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