奈良監獄ミュージアムby 星野リゾートとは? 漫画と実録で体験した“美しき監獄”の違和感
旧奈良監獄を活用した新スポットを取材。展示や建築の見どころと体験をレポート
奈良といえば大仏や鹿——そんなイメージをくつがえす、新しい観光スポットが誕生しました。旧奈良監獄を活用した「奈良監獄ミュージアムby 星野リゾート」です。
“美しき監獄”と呼ばれる歴史的建築の中で、展示や体験を通じて見えてくるものとは。
戸惑いと違和感を抱えながら歩いた現地の様子をレポートします。
奈良に“監獄”を見に行く理由
中央看守所から放射状に収容棟が伸びる「ハヴィランド・システム」を採り入れた建築(写真提供=奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート)
奈良出身や奈良在住の人が自虐的に口にする「奈良は鹿と大仏しかない」。not奈良県民のわたし・藤谷(from山口県)はそんな言葉に曖昧に微笑み返すことしかできません。なぜならマジで知らないから。
最後に奈良に行ったのはいつだったか。最後に泊まったのは中学の修学旅行、というかそれが最初で最後です。東大寺には行った記憶がありますし、鹿にまみれた記憶もあります。30年前のことですが、元気すぎる鹿たちのことは昨日のことのように思い出せます。やっぱりそれ以外知らないんじゃないか。
そんなわたしですが、JAF Mate Onlineのご厚意によって取材旅行で奈良へ行くことになりました。しかも泊まりで。JAF Mate Online・編集T氏はこう力説します。
「インバウンド観光客で盛り上がる京都だけでなく、奈良にも注目が集まっています。新しいホテルや観光施設もオープンしますし」
なるほど理解しました。で、今回の取材はどこなのでしょう。お寺でも鹿でもない場所とは? と編集T氏にたずねると、笑顔でこう返ってきました。
「監獄です!」
「ええんか?」
と、いうわけで「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」の取材を行うことになりました。このミュージアムのテーマは「美しき監獄からの問いかけ」だそうです。むしろ問いかけたいのはこっちですよ。
「ええんか?」
明治の近代建築「旧奈良監獄」とは
旧奈良監獄の表門。アーチ型の入り口とサイドに円塔を備えた建築美(写真提供=奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート)
1908(明治41)年、明治五大監獄(千葉、金沢、奈良、長崎、鹿児島)の一つとして、山下啓次郎氏の設計によって建てられた(写真提供=奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート)
ミュージアムの入り口には、アートディレクター佐藤卓氏が手がけた鍵がモチーフのシンボルマークがあしらわれている
ミュージアムゲートから保存棟「第三寮」へと歩く。塀の中の広い敷地は、かつて受刑者の運動場としても使われていた
旧奈良監獄は、いわゆる「明治五大監獄」のなかで唯一全貌が残されている重要文化財でもあります。役目を終えた今でも、どことなく張り詰めた空気が漂っているように感じました。建物の手前にある運動場に目をやると、奥のほうに藤棚が。おそらくは奈良少年刑務所時代から存在しているものなのでしょう。高い塀に閉ざされた場所だからこそ、季節を感じてもらうために設置されたのかな、など、さまざまな想像が膨らみます。
旧監獄の内部へ。保存棟で独居房を見学
保存棟の第三寮を見学。天窓から自然光が差し込み、思いのほか建物内は明るい
独居房に入る。窓には鉄格子と金網が二重に取り付けられている
展示エリアへ
旧奈良監獄の建築模型
受刑者の日常生活を紹介する映像を観賞
奈良監獄ミュージアムは、保存棟の「第三寮」とA棟、B棟、C棟の展示エリア、カフェやショップのあるD棟に分けられています。
まずは、保存棟へ。かつて受刑者を収容していた第三寮。フィクションでしか知ることのできなかった監獄の第一印象は「思ったよりずっと明るい」でした。廊下や独居房には窓が設けられており、自然光が入ってきます。
われわれ取材班一行を案内してくださったスタッフの方いわく、できるだけ当時のままの姿を残すため、改変は最低限に留めているとのこと。つまり明治時代からここで過ごした人たちも、同じようにこの光を感じていたのかも……と思いを馳せました。
展示で知る“塀の中”の暮らしと更生
布団の畳み方や受刑者が使う日用品を展示する部屋
全国の刑務所で使われている食器のラインアップがわかる展示
塀の向こう側を眺めている受刑者を模した像が佇む
雑居房の日常をイメージしたジオラマ展示
自らの獄中体験を作品化した漫画家の花輪和一氏ファンの蟹めんまさん。原画の展示にテンションが上がる
展示の最後にある、刑務所で過ごす人やアーティスト、身近な人などへのメッセージを書き、ポストに託す「むすびの部屋」
展示エリアのA棟は日本の行刑制度と旧奈良監獄の歩みを紹介する8つの展示室が設けられていました。旧奈良監獄は「美しき監獄」と呼ばれていますが、この「美しさ」には明治の人たちの切実な思いが込められていたのです。
旧奈良監獄が竣工したのは1908年(明治41年)のこと。当時の明治政府は、諸外国と結んでいた不平等条約を改正し、対等な関係を築くことを悲願とし、日本が近代的な法治国家であると国際社会に認めてもらうために、当時の欧米の水準に合わせた「人権を重んじる監獄」の建設を目指したのです。
そして、終戦翌年の1946年に改称し2017年まで稼働していた「奈良少年刑務所」は日本初の総合訓練施設として、社会に出てから困らないように、実践的なカリキュラムを組んで更生をサポートしていたのだとか。なお、ここでは受刑者を「生徒」と呼んでいたとのこと。その話を聞くと、運動場にあったあの藤棚にも、なんらかの罪を犯してここに来てしまった人たちを、ひとりの「生徒」として見守ろうとする意志によるものだったのかもしれませんね。
B棟展示は現在の刑務所の暮らしを「規律」「食事」「衛生」「作業」「更生」「お金」「自由」の7つのテーマに分けて解説。普段はなかなか覗くことのできないいわゆる「塀の中」の生活を知ることができます。
C棟は、元は医務所だった建物をギャラリーとして活用。監獄や自由をテーマにしたアートや、受刑者による絵画や俳句、手紙などを展示する「刑務所アート」の作品が展示されていました。なお、受刑者の作品を額装して美術として飾ることは珍しい試みなのだそうです。
ほかにも、実際に服役経験のある漫画家・花輪和一先生の『刑務所の中』の原画も展示されており、「私、エッセイマンガを書き始めたきっかけはさくらももこ先生と花輪和一先生なんです!」と高まっているめんまさんは、単行本片手に(あまりにも準備が良すぎる)記念撮影。監獄の中でも推し活に余念がない、さすがである。
カフェとショップへ。“旧監獄”を持ち帰る体験
ミュージアムカフェでは、赤レンガをモチーフにした「レンガカレーパン」(600円)や「チーズケーキ1908」(600円)、奈良の柿を使ったご当地ソーダ「富有柿サイダー」(600円)などを販売する
ミュージアムショップでは、佐藤卓氏デザイン監修によるオリジナルグッズ、お菓子のほか、刑務作業で作られた文房具や日用品を買うことができる
巾着、ステッカー、ポストカード、お菓子など、お土産にちょうどいいグッズが豊富
最後に案内していただいたD棟にあるミュージアムショップには、旧奈良監獄をモチーフにしたデザイン性の高いアイテムが並んでいました。ヴィジュアル系ファン的には、真っ黒な生地に格子窓がついている傘に心惹かれました。そして、その一角、「Made in Prison」とクレジットされた棚には、木工製品や文房具、バッグなど、いわゆる「刑務作業製品」がずらり。
「ええんか?」の正体を考える
「Made in Prison……間違ってないけど、なんかかっこよく言っている!」と思わずツッコミを入れたくなったのですが、ここでふと気が付きました。ツッコミを入れたくなるということは、つまり自分の中に何かしらの『違和感』があるということなのだと。しかし、それこそが、わたし自身の先入観なのかもと、刑務所とは自分と関係のない世界であると、無意識の線引きをしていたのではないでしょうか。そんな問いが自分のなかで生まれたのです。
取材の冒頭で「ええんか?」と口走ったわたしですが、なぜ戸惑うのか。そして、なぜ「かっこよく言っている」と思うのか。その感覚の奥にあるものを見つめてみることが大事なのかもしれません。
奈良監獄ミュージアムby 星野リゾート
/奈良県奈良市般若寺町18/入場料2,500円(日本在住者・大人)、1,500円(大学生・高校生)、700円(小学生・中学生)/ウェブサイトより事前予約推奨/見学時間の目安は約90〜120分
アクセス/JR奈良駅(西口11番)、近鉄奈良駅(2番)から直通バスで「奈良監獄ミュージアム前」 下車
蟹めんまさんと藤谷千明さんのプロフィール
蟹めんま
かに・めんま 漫画家・イラストレーター。大阪芸術大学卒。奈良県出身・在住。小学生の頃ヴィジュアル系バンドに目覚め、バンギャル歴は約28年。著書に『バンギャルちゃんの日常(全4巻)』(KADOKAWA)、『今日もライブに行けません!~アラフォーバンギャル、魂のV系語り~』(ぶんか社)、共著に『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)などがある。
X:@kanimen
藤谷千明
ふじたに・ちあき 1981年生。フリーライター 。ヴィジュアル系やオタク・サブカルチャーについての記事を執筆。著書に、アラフォーオタク4人で都内の一軒家を借りて暮らす実体験をつづったエッセイ『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎文庫)がある。同タイトルでコミカライズ全2刊も刊行(作画:泥川恵/幻冬舎コミックス)。そのほかの著書に、対談集『推し問答!』(東京ニュース通信社)、共著に『バンギャルちゃんの老後』(ホーム社)、『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)、3月24日に単著『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』(中央公論新社)を発売。TBS『マツコの知らない世界』V系回出演。
X:@fjtn_c
- 蟹めんま&ライター藤谷コンビが贈る「奈良グルメ&宿泊ガイド2026」は5月22日(金)公開予定
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