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人命救助のために生まれた水陸両用モンスター「レッド・バスティオン」|特集
構成=グランマガジン社/協力=山武郡市広域行政組合消防本部/コメンテーター=Kaori(重機女子オペレーター)

陸も水も泥の中も進む水陸両用のモンスター! 人命救助の最後の砦「レッド・バスティオン」とは?

【特車図鑑】世の中を支える唯一無二の特殊な乗り物たち
コメンテーター=重機女子オペレーター Kaoriさん

建設現場や災害現場、そして輸送の最前線など、人知れず活躍する特殊車両たち。特別な作業のために開発されているだけに、その機能も形状も、どれも常識を超えたものばかりだ。今回紹介する車両は、千葉県の山武郡市広域行政組合消防本部に配備されている「中型水陸両用車(レッド・バスティオン)」。

レッド・バスティオンは、陸上だけではなく、通常車両では進入不可能な泥濘地(でいねいち)や瓦礫(がれき)、深水域をも難なく走破する全地形対応のモンスターマシン。米Hydratrek(ハイドラトレック)社製ベースのタフなシャシーに宿る、油圧駆動の走破メカニズムと特殊装備の全貌に迫る。

目次

水害現場の「最後の砦」! 水陸両用車「レッド・バスティオン」

レッド・バスティオンが水上を走行している写真

水上では、車両後方に装備されたプロペラ2基を駆動して最高速度5km/hで航行する。構造上、波などで変化する水面状況への対応は難しいため、基本的には増水した道路や静水域での運用に限られる

一言で説明すれば、水害による被災者救助のための水陸両用車。困難な災害現場において「最後の砦(バスティオン)」となるべく、保有する山武郡市広域行政組合消防本部が命名した。

ゴムクローラーと2基のプロペラ(スクリュー)を備えており、陸上は前者で、水上は後者でそれぞれ推進し、浅瀬などでは両者を同時使用しながら走行。車両の大きさに対して比較的軽量な車体と、重量を分散する幅広のクローラーにより、通常の車両では困難な泥濘地や凹凸のある不整地なども問題なく走破する。

山武郡市広域行政組合消防本部に配備された経緯と地域的理由

レッド・バスティオンの外観写真(リアビュー)

リアのオープンデッキは、左右それぞれに折り畳まれたシートを展開することで6人乗り(水上は4人)となる。コンパクトなプロペラとクローラーの組み合わせが水陸両用を可能にしているポイント

2010年以降から顕著になってきた豪雨水害。2014(平成26)年8月の広島土砂災害、2015(平成27)年9月の関東・東北豪雨、2017(平成29)年7月の九州北部豪雨や2018年(平成30)年7月の西日本豪雨など、毎年のように日本各地で水害が頻発し、対策強化が求められていた。

こうした経緯を受け、総務省消防庁は高度な機動性を発揮する中型水陸両用車を全国の消防本部のうち6本部に配備。今回取材した山武郡市広域行政組合消防本部は、沿岸部や山間部など水害や土砂災害が起こりやすい地域特性を有することから配備が決まった。

レッド・バスティオンの操作方法はどうなっているの!?

運転操作を行うためのコントロールレバーの写真

左右の各レバー操作にアクセルレバーも加えて前進・後進をコントロールする。状況次第でプロペラも作動させるため、運転には慣れが必要だ。なおサスペンション未装着のため、走行時の衝撃を緩和すべくシート下にはエアクッションを組み込んでいる

コックピットの構造は、一般的な車両と大きく異なる。車輪を転舵させて方向を変える方式とは異なり、ステアリングの代わりに左右それぞれのクローラーを駆動させるためのレバー2本を設置。またアクセル操作もペダルではなく、左右レバーの下部に設置された小さなレバーで行う。

操作に必要な免許と訓練について

レッド・バスティオンの運転席

良好な前方視界を有するコックピットは2人乗り。基本的には左側に座った隊員が操縦担当となるが、アクセルレバーの操作やプロペラを作動させる際などは、右側に座った隊員が一部の操作を受け持つ場合もある

消防車も含めた一般的な車両は、ステアリング、アクセルペダル、ブレーキペダル、変速機を適切に操作して動かす。だがレッド・バスティオンはタイヤではなくクローラーでの駆動。走行時はクローラーの回転数をアクセルレバーで調整しながら左右レバーを動かし、進行方向や速度を変更する。陸上移動には大型特殊自動車免許が必要だ。

水上ではプロペラを使用するため、重機とはまったく異なる独特の操作技術が必要になる。水上航行での操縦は二級小型船舶操縦免許の所持者のみ可能。全操作を手で行うため、乗りこなすには高度な操作の習熟が必要となるほか、大型特殊自動車免許と二級小型船舶操縦免許の両方が必要になる。

山武郡市広域行政組合消防本部では、所定の試験に合格した専門資格を持つ隊員が運用。現在、前席担当11名、後席担当14名の計25名が登録されている。

ゴムクローラー(陸上)と プロペラ(水上)の切り替えについて

後部にあるプロペラの写真

後部に設置されたプロペラは、船舶のスクリューに相当する推進装置。サイズ的な制約もあることから推力自体はさほど大きくないが、あくまで目的は水上での救助活動であるため、能力的には十分だ

クローラーは道路の舗装を傷めにくいゴム製で、車両重量の分散に優れる幅広タイプを採用。泥濘地でも沈み込みにくく、凹凸が多い不整地でも安定した走破性を発揮する。クローラーとプロペラの切り替えはそれぞれ専用のスイッチを操作して行うが、現場の状況によっては両者を併用するケースもある。最高速度はクローラー時が20km/h、プロペラ時は5km/h。

【レッド・バスティオンのディメンション】

レッド・バスティオンの正面の写真

レッド・バスティオンの真横の写真

レッド・バスティオンの真後ろの写真

全長4920mm×全幅2430mm×全高2710mm、車両重量3650kg。救助車両の中では比較的軽量な中型に属する。車体はクローラーを備えた下部と、艇体状の上部をドッキングさせたような構造となっており、車体全体の浮力も手伝って水上では完全にボートとして機能する。燃料(軽油)が満タン状態であれば最大10時間程度の連続稼働が可能だ

【レッド・バスティオンの特徴を紹介】

フロントに装備されたウインチの写真

ウインチは、万が一不整地で動けなくなった際の自己脱出用装置として機能するほか、他の車両などを救助するためにも使用する

ヘッドライトと照明灯の写真

ヘッドライトは、外側がハイビーム、内側がロービームとなっている。フロントウインドー上部には赤色点滅灯と、広い視界を照らす作業灯を配置。LEDならではの圧倒的な明るさが、視界の悪い夜間救助作業で威力を発揮する

後席の写真

リアデッキ部左右に格納されているシートは、各3人掛けの横向きに座るベンチタイプ。右側の周囲はフローティング担架がしっかりと固定できるよう補強されており、現場の状況に応じた確実な被災者救護を行える

エンジンの写真

総排気量3620ccのディーゼルターボエンジンを搭載。一定回転数で使用することが前提のセッティングとなっており、最高出力(パワー)よりも徹底的に低回転域のトルク特性を重視した設計だ

クローラーの写真

クローラーは軽量なゴム製。金属製履帯に比べてしなやかで、アスファルトなどの舗装路面を傷めにくい。構造上、駆動輪(スプロケット)は最後部に配置されており、クローラーを介して全輪へと効率よく駆動力を伝達している

ウインチは、万が一不整地で動けなくなった際の自己脱出用装置として機能するほか、他の車両などを救助するためにも使用する

ヘッドライトは、外側がハイビーム、内側がロービームとなっている。フロントウインドー上部には赤色点滅灯と、広い視界を照らす作業灯を配置。LEDならではの圧倒的な明るさが、視界の悪い夜間救助作業で威力を発揮する

リアデッキ部左右に格納されているシートは、各3人掛けの横向きに座るベンチタイプ。右側の周囲はフローティング担架がしっかりと固定できるよう補強されており、現場の状況に応じた確実な被災者救護を行える

総排気量3620ccのディーゼルターボエンジンを搭載。一定回転数で使用することが前提のセッティングとなっており、最高出力(パワー)よりも徹底的に低回転域のトルク特性を重視した設計だ

クローラーは軽量なゴム製。金属製履帯に比べてしなやかで、アスファルトなどの舗装路面を傷めにくい。構造上、駆動輪(スプロケット)は最後部に配置されており、クローラーを介して全輪へと効率よく駆動力を伝達している

レッド・バスティオンの移動手段は?

搬送車に乗せている写真

レッド・バスティオンのみでの長距離移動は不可能なため、専用の搬送車がセットで配備されている。クローラーのバック走行による積載は、位置を合わせるだけでも相当な熟練の技を要する

ナンバープレートを取得しており、公道などでは最高20km/hでの走行が可能、さらに路面を傷めにくいゴムクローラーを備えているため自走も可能だが、それはあくまで救助現場周辺に着いてからの話。現場付近まではスライド式荷台を備えた専用搬送車に積載して移動する。積載後は車体側と搬送車側にそれぞれ4か所設置されたフックをワイヤーでがっちりと固定する。

過去の出動実績は?

水上を航行している写真

予想される実際の救助現場に近づけるべく、市内にある調整池で航行し、要救助者役の隊員を配置するなど、訓練とはいえ常に緊迫した空気のなかで行われている

これまでの出動実績は、2019(令和元)年10月25日の大雨災害で3件、2023(令和5)年9月の台風13号接近に伴う災害で1件の計4件。前者の災害では、大雨による冠水で孤立した日向幼稚園から園児らを無事に救出した。

【中型水陸両用車レッド・バスティオン】のスペック
●全長×全幅×全高:4920 mm×2430 mm×2710 mm ●車両重量:3650kg ●総排気量:3620cc ●エンジン:クボタ製 VT3600Tターボ(ディーゼル) ●走行速度:20km/h ●航行速度:5km/h ●燃料:軽油(40L) ●最大稼働時間:約10時間 ●船体材質:アルミニウム ●乗車定員(陸上):8名 ●乗車定員(水上):6名

重機女子オペレーター Kaoriさんが語る
中型水陸両用車「レッド・バスティオン」の魅力

Kaoriさんの写真

命を救うだけでなく、子供たちに「夢」を与える存在

山武郡市広域行政組合消防本部が保有する水陸両用車で、直近では2019年10月25日の千葉県山武市を襲った記録的大雨の際、孤立した幼稚園に取り残された園児たちを無事に救出した実績を持つ。その救出劇の様子はYouTubeにも残っており、緊迫した状況でありながら、どこか安心しているような園児たちの姿には思わず心が和む。

こうした緊急車両は、災害から人々の命を救うだけでなく、子供たちに「夢」を与える存在でもあるのだと改めて実感させられる。

以前本コーナーで紹介した水陸両用車「レッドサラマンダー」は火に強い伝説の火トカゲ、今回の「バスティオン」は人を守るための「砦(とりで)」を意味する。名前からしてとにかく格好いい。私たちが作業現場で使っている「草刈機まさお」や「クサカルゴン」にも、もう少し格好いい名前を付けたくなってしまった(名付け親のみなさん、ごめんなさい!)。

重機女子オペレーター Kaoriさん(株式会社KSK 代表)

Kaoriさんの顔写真

親方として現場で作業を行うKaoriさんは、重機が好きすぎて自ら会社を設立。「ユンボの楽しさを伝えたい!」という思いから、テレビ出演やイベントでの講演のほか、建設業界で働く女性たちが集まるコミュニティサイトなども運営している。

●Instagram:@kao.ksk
●公式LINE(建設業に関わる女性限定):@925dxxzs

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