夕暮れ時はなぜ見えにくい? 薄暮時の視界とライト、安全運転5つのポイント
「見えているつもり」が危ない。早めのライト点灯とハイ/ロービームの使い分けを解説明るさが大きく低下する薄暮時は、交通事故に注意が必要な時間帯。薄暮時に起こる“見えにくさ”の理由と、早めのライト点灯やハイビームの使い方など、安全運転のポイントを紹介します。
薄暮時はなぜ運転しにくい?
9月18日の東京の日没時刻は17時45分。10月18日には17時02分となり、秋が深まるにつれて日没は急速に早まります。警察庁では、日の入り時刻の前後1時間を「薄暮時間帯」としています。
この時間帯は周囲の明るさが大きく変化する一方、目は明るさの変化にすぐには順応できません。さらに「まだ見えている」という感覚から、視認性の低下に気づきにくいのも特徴です。
薄暮時は明るく感じる時間帯でも、周囲の視認性は低下しています
なぜ薄暮時は運転がしにくくなるのでしょうか? それは、「見えているつもり」になってしまうから……。
薄暮時、特に日没後は周囲の明るさが急速に変化します。しかし、人間の目は明るい場所から暗い場所へすぐには順応できません。さらに対向車のライトなど強い光を受けると、まぶしさによって一時的に見えにくくなることもあります。
また、薄暮時は完全な夜ではないため、ドライバー自身が「まだ見えている」と感じやすいのも特徴です。実際の見えにくさと、「見えているつもり」という感覚のずれが重なることで、歩行者や自転車の発見が遅れるおそれがあります。
【専門家解説】危ないのは「暗いこと」ではなく「見えているつもり」
薄暮時の危険は、周囲が暗いこと自体よりも、視界の質が落ちていることにドライバー自身が気づけないことにあります。
人間の目は、瞳孔の開き具合や網膜の感度を絶えず自動調整しています。明るくてもまぶしすぎず、暗くてもある程度は見える。この仕組みは非常によくできているので、日没前後のゆるやかな明るさの変化には、目はかなりの程度ついていけてしまいます。
問題はここから先です。目がうまく調整してくれるおかげで「見えている」という感覚は保たれますが、実際に目に届く光の量は確実に減っています。晴れた日中の屋外はおよそ10万ルクス。それが日の入りのころには数百ルクス、薄明(はくめい)が終わるころには数ルクスまで下がります。桁で言えば4桁の違いです。感覚のうえでは「少し暗くなったかな」という程度でも、物理的にはまったく違う環境で運転していることになります。
さらに人間の脳には、欠けた視覚情報を過去の経験や予測で無意識に補う働きがあります。そのため薄暮時は「見えていない」のではなく「見えているつもりになっている」状態に陥りやすいのです。
「まだ明るいから大丈夫」という感覚は、あてになりません。自分の感覚ではなく時刻で判断して、早めにライトをつけてください。(監修:島崎 敢先生)
ポイント1:暗くなる前にライトをつける
警察庁と都道府県警察では「日が暮れて[見えない]危険を[見える]安全に!」というキャッチで「早めのライト点灯」を提唱しています。早めのライト点灯は、自分の視界を確保するだけでなく、歩行者や他車に自車の存在を知らせる意味でも重要です。オートライトはむしろ積極的に活用しましょう。人の感覚より早く点灯し、つけ忘れも防げます。オートライトのない車や、手動に切り替えている場合は、暗いと感じる前につけることを習慣にしましょう。また、薄暮時はまだライトをつけていない車や自転車も少なくありません。「自分が早めにつける」ことに加え、「相手はつけていないかもしれない」という前提で周囲を確認することも大切です。
ポイント2:ハイビーム / ロービームを使い分ける
ハイビームは遠くまで照らし、歩行者などを発見しやすくします
ロービームは手前を中心に照らします
ハイビームの照射距離は約100m、ロービームは約40m。ハイビームを適切に活用することで、遠くの歩行者や自転車をより早く発見しやすくなります。
一方、周囲の交通状況に応じてロービームへの切り替えも必要です。ハイビームアシストやアダプティブハイビームを備えた車両では自動で切り替えや配光を調整しますが、機能に任せきりにせず、周囲の状況を確認しながら適切に使い分けましょう。
【専門家解説】ハイビームの活用と減速は、セットで
◆ 夜間・薄暮時の基本は「ハイビーム走行」
道路交通法で「走行用前照灯」と位置づけられているのはハイビームのほうで、ロービームは「すれ違い用前照灯」です。他の車とすれ違うときや直後を走るときにはロービームにするよう定められており(道路交通法第52条第2項)、裏を返せば、それ以外は本来ハイビームが基本ということになります。照射距離はロービームが約40m、ハイビームが約100m。歩行者や自転車を早く見つけられるのは、当然ハイビームです。
ただし、切り替えの対象は対向車と先行車だけではありません。自転車も法律上は「車両」ですし、歩行者にハイビームを当て続ければ相手の目をくらませてしまいます。前方に人がいるとわかったら、ロービームに切り替えてください。
そしてもう一つ。ハイビームとロービームの切り替えが頻繁に必要になる道は、それだけ交通量が多く、歩行者や自転車も多い道だということです。「ロービームの照射範囲(40m)では時速50kmだと止まりきれない」という話は、「だからハイビーム」で終わりではありません。「だから速度も落とす」までが一続きです。時速30〜40kmまで落とせば、ロービームの照射範囲でも対応できます。ハイビームを使うこと自体は正しいのですが、それだけで速度を維持してよい理由にはならないのです。(監修:島崎 敢先生)
ポイント3:対向車のライトで歩行者が「消える」ことも
対向車のライトによるまぶしさで、歩行者が見えにくくなることがあります
対向車のヘッドライトと自車のライトが交差した瞬間、目の前の歩行者や自転車が、まるで消えたように見えなくなることがあります。これは誰もが遭遇する危険性のある「蒸発現象」です。自車のヘッドライトと対向車のヘッドライトが重なると、そこにいる歩行者などが一時的に非常に見つけにくくなることがあります。いわゆる「蒸発現象」では、このような見えにくさが起こるため、対向車とすれ違う場面では特に注意が必要です。蒸発現象そのものを完全に防ぐことは難しいため、つねに前方に注意を払い、「歩行者がいるかもしれない」という意識で運転することが大切です。さらに対向車の有無にかかわらず、以下のような歩行者を見落としやすい場所では、特に注意が必要です。
歩行者を見落としやすい7つの注意スポット
◆蒸発現象が起きやすい場所
対向車とすれ違う道路の中央付近
街灯のない暗い道
上り坂の途中や頂上付近、踏切など勾配が変わる場所
◆歩行者・自転車が死角から現れやすい場所
交差点(右左折時)
駐車車両の陰
バス停
店舗の出入り口
薄暮時は、歩行者がいることを前提に、いつでも止まれる速度で走ることが大切です。
ポイント4:ガラスをきれいに保ち、ワイパーで視界を確保する
フロントガラスの水滴や汚れによって、視界が妨げられることがあります
路面やガラスへの光の反射によって、周囲が見えにくくなることがあります
薄暮時は、日中には気にならなかったガラスの汚れや油膜が、光の乱反射によって視界を妨げることがあります。フロントガラスの内外をきれいに保ち、ワイパーに拭き残しがあれば早めにゴムを交換しましょう。雨天時や窓が曇ったときは、エアコンやデフロスターを活用して視界を確保することも大切です。
ポイント5:薄暮時、歩行者からも車は見えにくい
警察庁と都道府県警察は、薄暮時に歩行者は「車との距離や速度がわかりにくくなる」と指摘しています。薄暮時に視覚機能が不安定になるのはドライバーも歩行者も同じです。だからこそ、早めのライト点灯で自車の存在を知らせることが大切です。ただし、ヘッドライトを点灯すると、歩行者からは車が見えやすくなるため、歩行者は『ドライバーからも自分が見えているはずだ』と考えがちです。実際にはまだ見えていないことも多く、その思い込みのまま横断してくることがあります。夜間の歩行者は「気づいてもらっていると思いがち」という点にも留意しましょう。また、歩行者が車との距離や速度を判断しづらいことを踏まえ、急な横断にも備えましょう。
対向車側からの横断にも注意
薄暮から夜間にかけての車と歩行者の死亡事故では、車の右側、つまり対向車側から横断してきた歩行者との接触が多く、特に高齢者で顕著です。ロービームは対向車を眩惑しないよう右側の照射を抑えているため、右から横断してくる歩行者には光が届きにくく、発見が遅れます。歩行速度の低下や、車との距離や速度の把握ミスが要因と考えられますが、ドライバーは、「横断があるかもしれない」という意識を持つことが大切です。
加齢に伴い夕暮れ時の見え方は変わる
加齢に伴い、特に中高年以降では、暗い環境への順応やコントラストを見分ける能力が徐々に低下します。また、白内障になると、通常の視力検査では比較的よく見えていても、まぶしさやかすみ、コントラスト感度の低下などにより、夕暮れや夜間に見えにくくなることがあります。緑内障では、本人が気づかないうちに視野の一部が見えにくくなり、歩行者や周囲の車両などの発見が遅れることがあります。
【専門家解説】『暗順応』と『コントラスト感度』の低下とは?
加齢に伴い、暗い環境への順応や、明暗の差が小さいものを見分ける力は徐々に低下します。特に夕暮れ時(薄暮時)は、明るい昼間から暗い夜へ移行する途中であり、通常の視力検査だけではわかりにくい「見えにくさ」が生じやすい時間帯です。運転時には、次の2つの視覚機能が重要になります。
1. 暗い環境への順応(暗順応)
明るい場所から暗い場所へ移ると、目が暗さに慣れるまでには時間がかかります。この暗順応の能力は加齢とともに低下し、薄暗い環境では歩行者や障害物などを見分けるまでに時間がかかることがあります。
2. コントラスト感度
視力検査で「1.0」が見えていても、背景との明暗差が小さいものを見分ける「コントラスト感度」が低下していることがあります。夕暮れ時は、道路や周囲の景色と歩行者・自転車との明暗差が小さくなるため、視力が良好でも対象物を発見しにくくなることがあります。
さらに、白内障ではまぶしさや光の散乱によって夕方・夜間の見え方が悪くなることがあり、緑内障では本人が気づかないうちに視野の一部が見えにくくなり、歩行者や周囲の車両などの発見が遅れることがあります。こうした変化は自覚しにくい場合もあるため、「昼間はよく見えるから大丈夫」と考えず、夕方や夜間の見え方に変化を感じたら眼科で確認することが大切です。
【ドライバー向け】夕暮れ時の「見えにくさ」セルフチェックリスト
自分の「目の変化」に早く気づき、安全運転につなげるためのチェックリストです。当てはまるものがないか確認してみましょう。
□ 夕方やトンネルに入った瞬間、周囲の状況を把握するのに時間がかかる
□ 対向車のヘッドライトや街灯の光が以前よりまぶしく感じられる
□ 視力検査の数値は悪くないのに、夕方になると標識や歩行者を見つけにくい、あるいは輪郭がはっきりしないと感じる
□ 雨の日の夜間運転で、白線や道路の凹凸が見えにくいと感じる
□ 以前に比べて、夕方や夜間に歩行者や自転車を見つけるのが遅くなったと感じる
このチェックは病気を診断するものではありません。以前より見えにくくなったと感じる場合や、当てはまる項目が複数ある場合には眼科を受診しましょう。また、緑内障などは自覚症状に乏しいまま進行することもあるため、症状がなくても定期的な眼科検診が重要です。(監修:慈恵医大・眼科医・中野 匡先生)
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島崎 敢
しまざき かん 1976年東京都生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックドライバーなどで学費を貯め、早稲田大学大学院に進学し学位を取得(博士・人間科学)。同大助手、助教、防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学特任准教授、近畿大学准教授を経て、2026年より近畿大学教授。主幹総合交通心理士の他、全一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父。著書に『心配学〜「本当の確率」となぜずれる?〜』(光文社新書)等。「アベマプライム」、「首都圏情報ネタドリ!」、「ビートたけしのTVタックル」などメディア出演も多数。トラックドライバー応援Podcast「プロフェッショナルドライブ」を配信中。
島崎 敢公式サイト

中野 匡
なかの・ただし 東京慈恵会医科大学 眼科学講座主任教授、 日本視野画像学会理事、日本緑内障学会理事、医学博士
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