一本桜のイメージ

歴史が息づく名桜から、秘境に佇む千年桜まで——西日本の厳選一本桜5本をご紹介

歴史が息づく名桜から、秘境に佇む千年桜まで——西日本の厳選一本桜5本をご紹介|特集
須藤英一

春、一本桜が咲くたびに、その土地の歴史や文化が思い起こされます。戦国武将ゆかりの桜、千年の時を生きる兵庫の巨木、岡山の皇族伝説が残る名桜——西日本には、圧倒的な存在感を放つ一本桜が点在しています。写真家・須藤英一さんの推薦による、車で訪れたい厳選5本を巡る旅。桜前線を追いかけながら、春の絶景へと走り出しましょう。

目次

又兵衛桜(奈良県宇陀市)

奈良県宇陀市の又兵衛桜

又兵衛桜(またべえざくら)は奈良県宇陀市大宇陀本郷にある見事なしだれ桜で、樹齢約300年ともいわれる名木である。樹高約13m、幹回り約3mで見事な形で広がり、春には淡いピンク色の花が滝のように咲き誇る。その姿はまるで一本の巨大な花の滝のようで、多くの観光客や写真愛好家を魅了している。映画やドラマのロケ地としても使用されたことがあり、古い町並みや歴史的な建造物とともに宇陀市の魅力を盛り上げている。

又兵衛桜と呼ばれる理由は、後藤又兵衛という武将に関係している。黒田氏や豊臣氏に仕えた武将で大坂夏の陣(1615年)で戦死したと伝えられているが、一説には大阪城落城後にこの地へ落ちのび、ひっそりと余生を送ったという伝説がある。桜が咲くこの地が後藤家の屋敷跡にあることから地元では「又兵衛桜」と呼ばれ親しまれている。開花時期は例年4月上旬から中旬にかけてで、早朝や夕暮れ時には、やわらかな光に包まれた桜がより美しく映え、夜にはライトアップも行われる。

奈良県宇陀市の又兵衛桜の夜桜

樽見の大桜(兵庫県養父市)

兵庫県養父市の樽見の大桜

兵庫県で最大のエドヒガンザクラである「樽見の大桜」は養父市大屋町樽見にある。樹齢1000年といわれている風格のある老木で、高さ13.8mという巨大な樹形を持ち、枝張りは東西14.4m、南北21.1mあり、四方八方に広がる枝ぶりが非常に美しい。例年4月上旬から中旬にかけて満開となり、桜の淡い花びらと山の緑が見事なコントラストを生み出し、その姿はまるで春の雲が山の斜面に舞い降りたかのような景色を作り出す。

場所は大屋町樽見の集落から見て南側の山の中腹にあるため、駐車場から徒歩で山道を200mほど歩いて登ることになる。樹齢が1000年を越えているため、樹勢が衰えてきたことから平成9年頃から本格的な治療を開始した。土壌改良やジャングルジム支柱の設置などを行い、養父市が維持管理を続けている。現在では多くの花や葉が茂るようになり、その周囲には大桜の実から育った子桜が育ちはじめている。

醍醐桜(岡山県真庭市)

岡山県真庭市の醍醐桜

岡山県の天然記念物に指定されている醍醐桜(だいござくら)は樹齢が700年とも1000年とも伝えられる。山里の原風景の中の小高い丘の上で、天に向かってそびえ立つ姿には圧倒的な存在感がある。種類はアズマヒガンザクラ(ヒガンザクラの一種)で樹高18m、幹周り7m、根本周囲9m、枝張りは南北20mである。見頃は4月上旬から中旬で、開花時期にはライトアップされ、周辺には露店も並び、地元の特産品などが販売される。

この桜の名前の由来は、鎌倉時代後期に後醍醐天皇が隠岐へ配流される途中、この地に立ち寄り、美しく咲き誇る桜を称賛したことに由来すると伝えられている。以後、「醍醐桜」と呼ばれるようになった。この醍醐桜には「子桜」と呼ばれる若木がすぐ近くにあり、親桜とともに成長を続けている。県道から細い山道を3kmほど走るが、毎年満開の季節になると多くの花見客で混雑し、周囲が渋滞することもある。

ひょうたん桜(高知県仁淀川町)

高知県仁淀川町のひょうたん桜

高知県吾川郡仁淀川町(旧吾川村)にある「ひょうたん桜」は、樹齢約500年ともいわれるエドヒガンザクラの巨木で、県内でも有名な一本桜である。県の天然記念物に指定されていて、高さ21m、根元の幹回りは約6mあり、ツボミの形がひょうたんに似ているため、いつしかこの名で呼ばれるようになった。見頃は3月下旬から4月上旬で、周辺は「ひょうたん桜公園」となっていて遊歩道が整備されているため、ゆっくりと散策できる。

仁淀川町といえば「仁淀ブルー」と呼ばれるどこまでも美しい水の色が有名な仁淀川が流れる地域であり、仁淀川はこれまでに何度も全国の一級河川の「水質が最も良好な河川」に選定されている。そんな仁淀川の支流を望む斜面の中にひときわ大きく立つこの桜は、昔から住民に愛され大切にされていた。樹齢500年という歴史を感じさせるその風格と、山里の風景に調和した美しさがこの桜の魅力であり、枝を大きく広げ春になると満開の花が空を覆うように咲き誇る。

一心行の大桜(熊本県南阿蘇村)

熊本県南阿蘇村の一心行の大桜

阿蘇山の麓、熊本県阿蘇郡南阿蘇村にある一本桜が一心行の大桜である。樹齢は約400年で樹高14m、枝張り東西21m、南北26mの大きなヤマザクラ。開花時期は3月下旬から4月上旬頃で淡い薄紅色の花を咲かせる。遠くからも目立つ巨大な桜だが、台風や落雷などの被害で年々元気がなくなってきている。そのため地元では桜保護への理解と保存対策への協力を呼びかけるため、大桜周辺の公園化を進めている。

一心行という名前の由来だが、この桜は戦国時代この地の城主であった中村伯耆守惟冬(なかむらほうきのかみこれふゆ)が戦火に散り、その後惟冬公と家臣たちの御霊(みたま)を弔うための菩提樹として植えられた。そして一心に行をおさめたことから名づけられたと言われている。1849年の山津波や1953年の大水害などにも耐え、約400年の時を経て国内でも最大級の大きさになった。

一心行の大桜の昼間の様子

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一本桜・東日本編のイメージ

【2025年版】一本桜ドライブ絶景5選|東日本の名桜を巡る春旅

須藤英一

1956年東京生まれ。アバコ撮影スタジオを経て1981年フリーカメラマンに。1985年から雑誌『アウトライダー』でツーリング写真の撮影を開始。以来、日本の道や風景をテーマにした写真を撮り続けている。『秋冬色の風景ドライブ―絶景の道を求めて』(2009年/JAF出版社)、『新・日本百名道』(2014年/大泉書店)など著書多数。 日本の絶景・Japan Beautiful Landscape

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