ロータス・エリート ファストバック、トレディア、アズテック…クルマ偏愛ライターがオートモビルカウンシル2025で惚れた“隠れ名車”たち
歴史的名車の陰に潜む、国産&欧州の珠玉モデルを深掘りセレクト!開催10周年を迎え、例年以上の盛況を見せた今年のオートモビルカウンシル。その関連企画第2弾は、数々のメジャー級モデルがひしめく会場内において、少々控えめに展示されていた隠れキャラ的な名車たちをピックアップ。あくまでクルマバカ(筆者)目線でのセレクトなので、ユル~く寛大な気持ちで楽しんでいただければウレシイです!
主役は歴史遺産クラスの名車だけじゃない
自分だけのお宝探しも、イベントの楽しみ方の一つ
会場では「どうしてマーチがこんな場所に?」という声も聞こえてきたが、初代日産マーチの原案にイタルデザイン・ジウジアーロが関わっていたのはエンスー諸氏の間では知られた話。とはいえ、ここまで明確にその関与がアナウンスされたケースは珍しい
幕張メッセを舞台に、エンスージアスト系カーマニア諸兄の間では年に一度のお楽しみとしてすっかり定着したオートモビルカウンシル。記念すべき第10回目となった今年は、出展車両台数が過去最多に。筆者も2017年の第2回から毎年足を運んできたが、今年は金曜のプレスデーだけでは飽き足らず、翌日の一般公開日にも会場を訪れたほど、例年以上に見ごたえの増した内容が印象に残った。
このイベントでは自動車文化の変遷において重要な役割を果たしたヘリテージカーが主役とされ、今回の場合、世界的に著名なイタリアのマカルーゾ・コレクションが持ち込んだランチア・ストラトスをはじめとする6台のラリーマシンや、特別ゲストのジョルジェット・ジウジアーロ氏にゆかりのある名車群などが来場者の注目を集めていた。
その一方、そんな華々しいヒストリーは持たないもののクルマ好きの琴線をくすぐる懐かしの一台や、出展元からの詳しい話を聞いて初めて知る激レア車と出くわすこともこのイベントならではの面白さ。そこで今回はショー全体の中では準主役級的なポジションながらも、キラリと光る独自のキャラクターを秘めた面々を集めてみた。「会場に行ったけど、見落としていた!」という方もぜひ、じっくりとご覧あれ。
世界で1台だけの超希少車
ロータス・エリート ファストバック
レーシングカーやキットカーをメインとしていたロータス社が生産する、初めての本格GTカーとなったエリート。ボディー、シャシーともにFRPという斬新な設計が行われていた
英国車の老舗ショップとして知られる愛知県のACマインズが持ち込んだ、世界に1台のファストバックスタイルのロータス・エリート。同車のシリーズ2モデルをベースとした車体は元英国空軍パイロット、トニー・ベイツ氏が手掛けたもので、英国のロータスコレクター、マルコム・リケッツ社によるレストア作業が行われた後、縁あって日本にやって来ることになったという。
後方まで伸びたルーフラインに開閉可能なハッチゲートを装備。ルーフ部以外は標準のノッチバック仕様と基本的に同一のため、フロント周りだけを見てファストバック仕様と気づかず、うっかり見過ごした人もいるのでは?
あれ? シフトレバーの隣にもう1本レバーが!
三菱トレディア
会場出入り口そばの企画コーナーに展示されていた日産マーチ以上の地味さ(失礼!)が逆に新鮮に思えたトレディア1400GL。走行5万kmのワンオーナー車ということで、車体周りは素晴らしいコンディションに保たれていた
1982年にハッチバックの2ドアスポーツクーペ、コルディアとともにデビューした4ドアセダンのトレディア。当時の三菱車の販売チャンネルの一つ、カープラザ店の専売モデルで、初期型は1400、1600、1800、1600ターボという4機種のエンジンをそろえていた。このうちショーに展示されていたのは最もおとなしい82馬力の1400ccエンジン搭載車。埼玉県の自動車販売店、DUPROからの出展。
通常の4速マニュアルシフトレバーの隣に設けられた副変速機「スーパーシフト」のレバー。これは1978年の初代ミラージュ誕生時に実用化されたもので、ギア比が異なるパワー/エコノミーモードを選択することができた。ただし、スーパーシフト側を操作する際にもクラッチを踏む必要があり、8種類のギア比を完璧に使いこなすにはそれなりの熟練を要した
外観、内装ともに独特のデザインで話題に
三菱ギャランΛ(ラムダ)
中心部分が尖った2分割型フロントグリルや国産車初の角型4灯ヘッドライトなど、シャープなマスクは当時の子供たち(筆者もその一人)にも人気だった
三菱車からもう1台紹介したいのが、4ドアセダンのΣ(シグマ)の兄弟車として半年遅れの1976年に発売されたΛ。ブース担当者によると展示車両は三菱自動車が保有しているもので、定期的なメンテナンスが行われ、イベントなどの場でいつでも実走できるような状態に保たれているとのこと。個人的には展示車両のような落ち着いたグリーンより、草刈正雄の愛車としてTVドラマ『華麗なる刑事』で活躍した赤い車体のような派手なボディーカラーのほうが似合っているような気が……(大きなお世話ですね、スミマセン)?
Λの特徴といえばコレ! 当時画期的だった1本スポークタイプのステアリング。ブースに掲示されていたメーカーによる詳しい説明文には単なる奇抜さだけでなく、メーターの視認性を高めることもその形状の目的の一つと記されていた
衝撃のツインキャノピースタイル!
イタルデザイン・アズテック
SF映画に出てきそうな大胆なスタイルを持つアズテック。駆動方式はランチア・デルタ インテグラーレをベースとしたフルタイム4WD
BMW・M1やいすゞ・ピアッツァの原型となったアッソ・ディ・フィオーリなど、誰もが納得できる美しさや優雅さを持ったクルマが並んだジウジアーロの企画展示コーナーの中で異彩を放っていたアズテック。イタルデザイン創設20周年の記念車として1988年のトリノショーでの発表後、50台が生産される予定だったが、ミッドに搭載されたアウディ製5気筒エンジンの冷却対策に時間を要しているうちにバブル景気が終息。そのあおりを受ける形で計画も頓挫してしまった。
運転席と助手席が完全にセパレートされたツインキャノピースタイルが斬新。乗降時はキャノピー部分が上方に跳ね上がり、ドアは横開きに。走行中の会話はインカムを通じて行う仕組みとなっていた
おしゃれなフレンチミニがスポーティーに大変身!
ルノー・トゥインゴ「セラヴィー105」
一見、ノーマルのトゥインゴにルノー・8ゴルディーニ風のアレンジを加えたファッション仕様車かと思いきや、ボディーパネルの大半が自社開発のオリジナル品に一新されていたセラヴィー105
埼玉県の畑野自動車が手掛けたルノー・トゥインゴベースのカスタムカー、セラヴィー105。「コンパクトなボディーサイズにRR(リアエンジン・後輪駆動)のレイアウト、マニュアルミッションが選べる設定。こんな逸材、もっと遊ばなきゃもったいない! と思ったのが開発のきっかけです」と語るのは、同社の畑野代表。ボディーキットは3Dスキャンから金型の製作まですべて同社によって行われた純国産品で、年内受注分はすでに完売となっている。
車名の105はブリスターフェンダーにより105mm拡幅された全幅に由来。滑らかなフェンダーからのプレスラインを生かすべく、前後のドア外板も専用品となっている。あえて目立ち度を抑えるべく、ホイールはルノー・トゥインゴGTグレード用の純正品を装着
生産台数53台という希少なフォーマルサルーン
マセラティ・ロイヤル
3代目クアトロポルテ(映画『ロッキー3』の序盤にロッキーの愛車としてチラリと登場)の豪華仕様として、ごく少数が生産されたロイヤル。車両のオーナーは今でも現役で普段乗りに使用しているとのこと
ミニカーやクルマ関連雑貨の販売コーナーのさらに奥に展示されていたため、初日はうっかり見逃していたロイヤル。全長4910mm、全幅1890mmという堂々たる体格ながら、不要な威圧感を与えないスマートさを備えたボディーのデザインはジウジアーロによるもの。エンジンは300馬力の4.9L V型8気筒を搭載。出展元のマセラティクラブ・オブ・ジャパンはオートモビルカウンシルの常連で、これまでもギブリ(初代)やインディといった、珠玉の名車たちを会場に持ち込んでいる。
後部ドアに設けられたブライアーウッド作りのテーブルやダッシュボードのラ・サール社製オーバル型金時計など、数々の豪華装備が満載されている
メジャー級とはちょっと視点を変えた掘り出しモノ企画、いかがでしたでしょうか。多分に筆者の好みに偏り過ぎた車種構成になってしまった点は率直にお詫びいたします……。マルチェロ・ガンディーニがテーマだった昨年と比較すると、王道路線のスーパーカーの展示は少なかった今回のイベントですが、その反面、興味深いストーリー性を持った車両が数多く見受けられ、じっくり落ち着いて場内を回ることができたような気がします(真性クルマバカの筆者はスーパーカーが多いとテンションが上がり過ぎて、つい駆け足になってしまうのです)。果たして来年はどんなクルマたちが顔をそろえるのか? 期待を抱きつつ、九州から会場に向かうつもりです。
高橋陽介
たかはし・ようすけ 幼少期からのクルマ好きが高じ、九州ローカルの自動車雑誌出版社の編集を経てフリーランスに。雑誌やウェブを中心に、4輪・2輪関連の記事を執筆中。クルマにまつわる映画にも目がない。自身の愛車遍歴はもっぱらマニュアルのスポーツカーだが、後輪駆動とアナログメーターが必須条件のため、購入候補車が年々減っていくのが悩みとなっている様子。