日産・サニートラック(2代目・B120型)を三浦半島で試乗。トラックなのにファン・トゥ・ドライブ #06
自動車ライター・下野康史の旧車試乗記日産が1994年まで国内販売していた2代目サニートラック(サニトラ)に試乗。仕事で使い倒されがちなトラックであるにもかかわらず、いまも旧車愛好家に愛されています。その理由はどこにあるのでしょうか。自動車ライター・下野康史さんがレンタカーを借り受け、その走りをレポートします。
運転することを目的にトラックを借りにいくのはあり? それともなし?
1971年に出て、国内では94年まで販売されたのが日産のサニートラックだ。トヨタ・カローラのライバルだった2代目サニーから派生した貨物車である。
トヨタのパブリカ・ピックアップに対抗して、初代サニートラックが登場したのは67年。その後、後継の“カローラトラック”はつくられなかったこともあり、乗用車ベースの小型トラックとして長く活躍した。
その“サニトラ”は現在も旧車趣味の対象として人気を博している。今回のようにレンタカーでチョイ乗りもできるようになった。引っ越しに使うためではなく、運転することそれ自体を目的にトラックを借りる! サニトラとは、いったいどんなクルマなのか?
80年代のモータースポーツでも活躍したA型エンジンを搭載
乗りに行ったのは、神奈川県横須賀市。旧車を修理、販売する専門店“オートショップCAT”がこの春から始めたレンタカーサービスで、2台のサニトラを用意している。
旧車の部品が積まれた事務所で利用約款の説明を受ける。三浦半島のドライブルートや食事処なども教えてもらえる。サニトラのレンタカー料金は1日7500円とリーズナブルである。
ミンミンゼミが鳴く外に出て、店長のSさんからクルマの説明を受ける。白のサニトラは93年に初登録された個体、ということは、前輪がディスクブレーキに変わった後期型のなかでも最も高年式の(新しい)クルマだ。
ホイールやタイヤはアップデートされているが、1.2リッターの4気筒OHVエンジンはノーマルで、ボンネットの中も新車同様だ。この日産A型エンジンは現役当時から非常によく回り、耐久性にもすぐれる“名機”として知られ、80年代はツーリングカーレースなど、モータースポーツでも活躍した。
本来、サニトラにタコメーターは付いていないが、このクルマには今の電気式タコメーターが装備されていた。助手席に人が乗ると、車内に荷物を置くスペースはないため、500kg積みの荷台にはフタ付きの物入れが備え付けてある。“オリジナル”にこだわることなく、ユーザーフレンドリーな改良が施されているのは好感がもてる。
剛性感が高いボディー、鋭いアクセルレスポンス。サニトラはちょっとしたスポーツカーだった
灯火類の始業点検をすませたあと、店のスタッフ全員に送り出されて走り出す。と、その途端、サニトラが今もクルマ好きの心を捉えている理由がわかった。これはちょっとしたスポーツカーである。
トラックといっても、着座位置や重心感覚は乗用車のサニーと同じだ。エンジンの上に運転台のあるキャブオーバー・トラックとはまったく違う。ふつうのサニー同様、ボディーはモノコック構造で、しかも2ドアふたり乗りのキャビンはコンパクトだから、ボディーの剛性感はむしろサニトラのほうが高い。
キャブレター仕様のエンジンは滑らかで扱いやすく、30年前のクルマという古さは感じさせない。アクセルレスポンスなどは、最新の1.2リッター級エンジンよりすぐれている。
スペシャル装備のタコメーターは、過回転防止のために4000rpmを超すと赤いランプが光る設定にしてあった。しかし、770kgの車重に対して低中速トルクも十分だから、そこまで回せば軽快に加速する。4段マニュアルのシフトは軽く、動きにカチッとした節度がある。クラッチペダルも軽い。積極的にシフトを楽しめるMTである。
ただしトラックだから、足まわりは硬い。平滑な舗装路なら問題ないが、荒れた路面だと、とくにリアサスペンションから突き上げを食らう。しかしそれもスパルタンな旧車のスポーツカーだと思えば許せる。
運転を楽しめるサニトラで三浦半島を走るのは、心地よい
整備の行き届いたサニトラのレンタカードライブは楽しかった。この日、東京は猛暑日だったが、三浦海岸周辺は海風が吹いて、思いのほか過ごしやすかった。試乗車にクーラーは付いていないが、三角窓を開けて走れば、2座キャビンの空気はすぐに入れ替わる。現代のクルマにも三角窓の復活を! 旧車に乗るといつもそう思う。
数ある旧車のなかで、サニトラをレンタカーにしたのは、S店長によると、数ある旧車のなかでまずサニトラをレンタカーにしたのは、なにより“乗りやすさ”だという。たしかにこのクルマは、MTさえ運転できれば、とくに旧車を意識せずに扱える。
ダッシュボードには「高速走行禁止」のステッカーが貼ってある。お店は横浜横須賀道路のインターの近くにあるが、高速道路を走るのは禁止である。しかしそれも旧車レンタカーを提供する側の“見識”だと思う。「三浦でゆっくり乗ってもらいたいんです」とS店長。自動車愛と郷土愛に溢れた旧車レンタカーである。
下野康史
かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。