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眠気対策イラスト
監修=遠藤拓郎 / 文=釼持陽子 / イラスト=桔川シン

仮眠、窓を開ける、歌う…どれが効く? 長距離ドライバーの眠気対策を睡眠専門医が解説

眠気に負けない安全運転の知恵
遠藤拓郎

レジャーやキャンプなど、お出かけに最適なシーズンがやってきました。いつもより長距離・長時間の運転が増える旅行シーズンは、より一層、安全運転を心がけなくてはいけません。そこで、長距離ドライバーのみなさんが取り入れている眠気対策を、編集部が独自にリサーチ。上位に挙がった対策について「効果があるのか」を、睡眠専門医に聞きました。

目次

長距離ドライバー108名に眠気対策をリサーチ

遠方の目的地に到着するまで、常に安全な走行が求められる長距離ドライバー。夜間の走行や長時間の運転などで気が張り詰める中、睡魔に襲われないためにどんな対策をしているのか気になるところ。今回は、長距離を運転しているトラックドライバー、バス運転士の108名にアンケートを実施。日頃から習慣にしている眠気対策を聞きました。

アンケート調査協力=福岡県トラック協会、熊本県トラック協会、鹿児島県トラック協会、西日本鉄道株式会社(30代~60代までのトラックドライバー・バス運転士 合計108名が対象)

Q.眠気対策として「最も頻繁に取り入れている方法」はどれですか。

トラックドライバーの回答

〈トラックドライバーの回答〉

長距離バス運転士の回答

〈長距離バス運転士の回答〉

トラックドライバーの回答では、「SAなどで仮眠や休憩をとる」、「窓を開ける」などが上位に。乗客を乗せて走行し、立ち寄るSA・PAや時間が決まっているバス運転士は、乗車中にできる対策が限られます。そんな中で、SA・PAに立ち寄った際に「体を動かす」、「コーヒーを飲む」などの眠気対策を行っていました。回答が多かった5つの対策をピックアップして、詳しく解説します。

【対策1】最強の仮眠法で眠気を吹き飛ばす

長距離トラックドライバー94名のうち、36.2%が実践していたのが「SAなどで仮眠や休憩をとる」ことでした。

・眠気が来たら迷わず最寄りのPAなどで20分の仮眠
・仮眠をとると頭がすっきりする
・まばたきやあくびが出たら速やかに最寄りの駐車スペースで休憩
・2時間に10分程度の休憩をとる

このように自然な眠気に逆らわずに、仮眠や休憩を適宜取り入れていることがわかりました。睡眠専門医でスリープクリニック調布院長の遠藤拓郎先生に、仮眠や休憩の覚醒効果についてお聞きしました。

「日本は、OECD(経済協力開発機構)に加盟している33か国中、最も睡眠時間が短い国です。それでも長寿で健康なのが日本人の特徴ですが、一つだけ問題があります。それが、昼間の眠気が抑えられず、事故やミスが増えること。そこで有効なのが、ドライバーの方も取り入れている15~20分程度の仮眠です。これを“パワーナップ”と言います。パワーナップによって計算能力が回復して、眠気が軽減したという実験結果があり、効果が証明されています(※1)」(遠藤先生)

眠気が吹き飛ぶ最強の仮眠法・4つのポイント

1. SA・PAなどで停車し、パワーナップ前にホットコーヒーを飲む
2. 靴下を脱いで素足になる
3. できるだけシートを倒して仮眠をとる
4. スマホでタイマーをかけて20分経ったら起きる

パワーナップのやり方

眠気が吹き飛ぶ最強の仮眠法"パワーナップ"のやり方

「人間は体温が上がって急激に下がるタイミングで眠くなります。そのためパワーナップ前にホットコーヒーを飲み、体温を上げると仮眠に適したコンディションに。カフェインの覚醒効果は飲んで20分程度で現れるため、ちょうど20分でパワーナップを終え、眠気がすっきりします。20分以上寝ると深い睡眠に入り、反対に目覚めが悪くなります。また、心臓と頭をできる限り同じ高さにするとリラックスしやすく、体温を効果的に下げるために靴下を脱いで仮眠をとるのもポイントです」(遠藤先生)

【対策2】冷たい風に当たり体温放出を促進

トラックドライバーの回答で次に多かった眠気対策が、「窓を開ける」ことでした。

・窓を開けて常にフレッシュな空気を取り入れるようにしている
・涼しい風が入ると目が覚める
・夜間走行時、眠くなったら窓を開けて冷たい外気に当たる

ドライバーのみなさんも、運転中にすぐにできる方法として自然とやっている人が多いようです。

「人は上がった体温が下がるときに眠くなるため、眠気防止には体温を上げないことが何より大切。夏の日中の運転は、運転席に日差しが入り体温が上昇しやすいため注意が必要です。そこで窓を開けるのは有効。上がった体温を下げるときに体の末端、つまり手足や顔の毛細血管が開いて発汗するのですが、そのときに大事なのが風。気化熱といって、汗が皮膚から蒸発する際に熱が奪われるので効率よく体温が低下します。眠気が来たら、窓を開けて風に当たってみましょう」(遠藤先生)

【対策3】体を動かし脳を覚醒&眠気を一掃!

トラックドライバー、バス運転士ともに上位に挙がった眠気対策が、SA・PAに立ち寄った際に「体を動かす」ことでした。

・疲れてきたらSAに停車して外に出てストレッチ
・頭がボーッとしてきたら車の外に出て体を動かす
・トイレに行くために歩く

ストレッチで体を伸ばしたり、外に出て歩いたりして心身ともにリフレッシュする時間を取り入れているようです。

「SA・PAに寄ったときには、トイレに行ったり買い物をしたりして、体を積極的に動かしましょう。脳が目覚め、眠気をとる効果があります。体が温まると眠くなるので、毛細血管が集まる手足から熱を逃がすことがポイント。そのためストレッチをするときは、手はグーではなくパーにして、熱を発散しながら全身を伸ばすのがおすすめです。また、車から降りるときに靴下を脱いでサンダルに履き替えるなど、足先の風通しを良くすると体温が低下し、覚醒効果がアップします」(遠藤先生)

【対策4】コーヒーや眠気対策ドリンクを飲む

目が覚める成分といえばカフェイン。長距離ドライバーのみなさんも、コーヒーや眠気対策ドリンク、エナジードリンクなどの飲み物を活用していました。

・運転開始からコーヒーを飲むのが習慣
・コーヒーを飲むと目が冴える
・一番眠気が来る時間帯にエナジードリンクを飲む

中には、眠気対策ドリンクを飲む習慣はあるものの「効いているかはわかりづらい」という回答も。

「パワーナップのやり方でもご紹介したように、カフェインには覚醒効果があります。人間は疲労がたまると脳内で『アデノシン』という物質が生成されます。この物質が眠気の原因のひとつ。カフェインには、アデノシンの働きをブロックする効果があるため、摂取してから20分程度で眠気がすっきりしてきます。眠気対策ドリンクやエナジードリンクもコーヒーと同じく、カフェインが入っています。居眠り防止に、カフェインの力を活用してみてください」(遠藤先生)

【対策5】発声刺激とノリで脳のマンネリ化をブロック

続いて、トラックドライバーの回答で、「車の中で歌う」という回答も目立ちました。

・音楽が好きなので歌って眠気を覚ましている
・窓を閉めて大声で歌っている
・歌うと眠気が来ない気がする

一人で運転している長距離ドライバーにとって、歌うことは比較的取り入れやすい方法のようです。

「人間は受け身の状況が続くと眠気が出てきます。音楽を聞くことも有効ですが、同じ刺激がずっと続くと、私たち人間の脳はその刺激に慣れてしまう馴化(じゅんか)という現象が起こります。似たような曲を聞き続けるのではなく、いろんなジャンルの曲を聞いて脳のマンネリ化を防ぎましょう。さらに、聞くだけより自分で声を出して歌うほうが脳は覚醒します。運転に支障がない範囲で、好きな歌を歌ってテンションを上げることは、眠気防止に良い方法といえるでしょう」(遠藤先生)

車中で大声で歌う人

冷水で顔を洗う、ツボ押し…少数派の眠気対策の効果は?

ここまで取り上げた5つの対策のほかにも、次のような少数派の回答も集まりました。覚醒効果はどうなのか、遠藤先生に聞いてみました。

・ガムを噛む
・眠気対策のツボを押す
・歯ごたえのある食べ物を食べる
・トイレに行った際に冷水で顔を洗う
・太ももをつねる(停車時)

「五感を刺激するものには、すべて目を覚ます効果があります。五感とは、視覚(見る)、聴覚(聴く)、味覚(味わう)、嗅覚(嗅ぐ)、触覚(皮膚感覚)の5つの感覚のこと。そのため、ガムを噛んで味わったり、冷水やツボ押しなどで皮膚に刺激を加えたりするのは、眠気対策としては正解です」(遠藤先生)

ガムを食べる、冷水で洗顔、ツボ押しをする人

ガムを噛む、冷水やツボ押しなど皮膚への刺激は目覚ましに有効

渋滞に巻き込まれたら…ラジオ、音楽、ひとり言で目覚まし

交通量が増える旅行シーズンに困るのが、予期せぬ渋滞に巻き込まれること。運転に慣れている長距離ドライバーのみなさんも、渋滞時にはついイライラしてしまうようです。そんなときに取り入れている方法を教えてもらいました。

・イライラしないようにラジオや好きな音楽を聞く
・周りの景色や人物を観察する
・渋滞で停車時間が長い場合に、手の届く範囲で車内の清掃をする
・ラジオDJの発言に対して勝手に一人で会話する
・ラジオを少し大きめの音にして聞く

自身も運転する機会のある遠藤先生によると、「渋滞時はドライバーにとって四重苦のストレス」と話します。

「渋滞時は、車間距離が近いこと、アクセルとブレーキの踏み替えが意外と多いことなどから、より集中力・注意力を要します。にもかかわらず、同じ風景が長時間続くため脳はマンネリ化し、窓を開けても風は入りににくく車内が暖かくなりやすい。その結果、眠くなりやすく、事故が起こりやすい状況です。そのため、先にご紹介したように“五感に刺激を与える”方法を、こまめに複数取り入れてみてください。また、渋滞時に限らず、助手席の同乗者と楽しく会話をすることも眠気覚ましになります」(遠藤先生)

運転中の眠気防止は睡眠の質がポイント!
頻繁に眠くなる人は睡眠時無呼吸症候群に注意

運転中の居眠りはあってはならないこと。そのためには、夜の時間帯に質の良い睡眠がとれていることが前提です。アンケートによると、大半のドライバーが「日頃から6~8時間の睡眠をとっている」と回答。「5時間睡眠」と回答した人はいませんでした。

「成人は、7時間睡眠が理想的であることが、さまざまな研究で明らかになっています。しかし人によってはそれより長い人も短い人もいます。長いほうがいいと思って無理やり長時間寝ようとすると、睡眠の質が下がり逆効果になることも。夜の睡眠時間はもちろん大切ですが、運転時に眠気を感じたら無理せずパワーナップで仮眠をとることが大事です」(遠藤先生)

そして、車を運転するすべての人が注意したい病気が、睡眠時に呼吸が止まったり浅くなったりする「睡眠時無呼吸症候群」です。

「睡眠時に低酸素状態になるので、日中にとても眠くなります。睡眠時無呼吸症候群は事故発生と関連していることが明らかになっています。症状が中等症になると事故発生率は1.5倍、重症になると2.5倍になるという報告があります(※2)。車を運転する人で、パートナーからいびきを指摘されたことがある方は、睡眠時無呼吸症候群の予備軍かもしれません。自分や家族のためにも、医療機関で検査を受けましょう」(遠藤先生)

交通事故防止のためには「午後出発」がおすすめ

夏休みなどに家族で遠出する際、早朝に出発することが多いと思います。早く家を出る分、旅先を満喫できる点ではいいのですが、朝早すぎると睡眠時間が足りない状態で車を運転することに……。

「日帰りの予定は仕方がないですが、宿泊予定があり時間に余裕があるならば、午後の出発をおすすめします。早朝出発が危ないのは、睡眠不足だけではありません。夏の午前中の日差しは強く、運転席が暖まりやすいため体温が上がって眠くなります。一瞬の居眠りが命取りになることがあります。それに比べて午後の光はそれほど体を温めないので、事故防止の観点から考えると、午前中はゆっくり準備して、午後の時間帯に運転するのがいいでしょう」(遠藤先生)

これからやってくる夏の旅行シーズン。命を守って安全に目的地に到着するために、“睡眠専門医お墨付き”の長距離ドライバーの眠気対策を参考にしてみましょう。

※1)The effects of a 20-min nap at noon on sleepness, performance and EEG activity. Hayashi M, Ito S, Hori T.lnt J Psychophysiol. 1999 May;32(2):173-80.
※2)Severity of sleep apnea and automobile crashes. Findley LJ, Fabrizio M, Thommi G, Suratt PM. N Engl JMed. 1989 Mar 30;320(13):868-9.

眠気対策についての記事はこちら

遠藤拓郎

えんどう・たくろう 医学博士・スリープクリニック調布院長・スタンフォード大学医学部客員教授。日本睡眠学会総合専門医。祖父、父、本人の親子3代にわたり、100年以上、睡眠の研究を続けている。睡眠専門医スリープドクターとして、メディアでも活躍中。日本人の睡眠改善の最適解をまとめた新刊、『最強の昼寝法「スーパーパワーナップ」~日本人の睡眠処方箋~』(扶桑社)が発売中。 https://www.sleepmedicine-tokyo.com/

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