歩道から車道に移った自転車との事故。その危険に気づいていますか?
※写真はイメージです。車種などは記事内容と関係ありません。
過去の交通事故から、安全運転の方法を探る事故ファイル。今回は、急に歩道から車道へ飛び出した自転車との事故について取り上げる。
※JAF Mate 2018年10月号「事故ファイル」を再構成して掲載しています。
道路交通法上、「軽車両」と位置付けられる自転車。車道と歩道の区別のあるところでは、車道通行が原則であり、歩道通行は「例外」である。例外とは、①「歩道通行可」の標識等があるとき、②歩道に「普通自転車通行指定部分」の道路標示があるとき、③自転車の運転者が13歳未満の子供か、70歳以上の高齢者、身体に障害のある人、④安全な通行を確保するためにやむを得ないとき、である。
しかし、車より速度も強度も劣る自転車の通行場所がすべての車道に確保されているとは限らず、歩道を走っている自転車も少なくない。運転免許が不要な自転車は、老若男女を問わず、誰でも気軽に乗れる便利な移動手段である反面、道交法で定められたルールやマナーなどを学ぶことなく運転している人もまた、少なくない。
ドライバーが自らの常識や知識などを基準にして、「当然、わかっているだろう」などと、自転車の行動を都合よく推測した瞬間、悲劇は起きるのだ。
3年前の梅雨入り後のある朝、茨城県のとある市道で1件の事故が発生した。ほぼ真っ直ぐに延びる車道の左寄りを走っていた自転車に、後ろから走ってきたワンボックス車が追突したのだ。これだけ聞けば、ドライバーの脇見運転を思い浮かべるかもしれないが、この事故はそう単純なものではなかった。
現場の片側1車線の市道には、白い破線のセンターラインと車道外側線が引かれ、両サイドには、縁石で区切られた歩道が設置されていた。朝夕の時間帯であっても走行車両は多くなく、歩行者の姿を見かけることは滅多にない。ワンボックス車のハンドルを握る30歳代前半の男性にとって、事故の危険や不安を感じさせることなどない、とても走りやすい道路であった。
一方、ワンボックス車の前方を走っていた自転車にとっても、走行車両や歩行者の少ないことは安全、安心につながることであった。そのとき歩行者がいなかったことが、自転車に乗る男子高校生を歩道へと誘導してしまったのか、自転車は「例外」に該当しない歩道を走り続けていた。しかし、ワンボックス車が近づいたとき、男子高校生は突然、縁石の切れ目から車道へと進入し、車道の左寄りを走り始めようとしたのである。車道を走る車両の存在や動きを無視したような合流は、ある意味、車道への飛び出しと同じだ。
ガシャーンッ……。周囲に衝突音が響いた。対向車も後続車もなかったことで、ワンボックス車のドライバーは遠くへ視線を置いており、歩道を走る自転車の存在にまったく気づいていなかったという。そのため、交差点でもない場所で、自転車が左側の歩道から飛び出すようにして、車道の左寄りに合流してきたことにも気づかず、自転車に追突してしまったのである。この事故により、男子高校生が重傷を負った。
事故の原因がドライバーの漫然運転による前方不注視であることは免れないだろう。しかし、きちんと前を見て走っていたとしても、交差点でもないところで、突然歩道から自転車が目前に合流してきたとしたら、事故を回避できると断言できるドライバーは少ないのではないか。これは他人事ではないのだ。
茨城県警交通総務課の渡辺由昌総括理事官によれば、歩道から車道へと飛び出した自転車と他の車両による事故は多くないが、死亡事故となる危険性が高いものだと警告する。
「歩道から車道への飛び出しは、車は当然見ているだろう、よけてくれるだろうなどという、自転車側の思い込みによるものと思われます。ドライバーは、歩道を通行している自転車を見かけたら、飛び出してくる可能性もあると思って、よく見ることが肝要です。また、右側の歩道を自車と同一方向に走っていた自転車が、対向車線を斜めに突っ切りながら目前に飛び出してきて、衝突してしまったという事故も少なくありません。同一方向に進む自転車に対しては気も緩みがちですが、左右に関係なく歩道を走る自転車には、常に注意することを忘れないでください」(渡辺総括理事官)
飛び出す自転車のほうが悪いなどということではなく、ひとたび事故が起きれば、被害が大きいのは自転車側であり、過失割合に関係なく、人を傷つけたという事実は、一生消えないのだ。
こうした事故は、路線バスと自転車というパターンが多く、ある路線バス運転手は、いつも行っている事故防止策をこのように語る。
「朝のバス専用レーンは、自動二輪車や自動車は原則通行できません。しかし、自転車がガードレールなどの隙間から急にバス専用レーンに入ってきて、それが実に怖い。歩道の歩行者を避けるためなのでしょうが、イヤホンで音楽を聴いたり、スマホを操作したりしている人も多く、こちらをまったく見ていないのです。歩道か車道かに関係なく、自転車を見かけたら、2mを最低ラインに、自転車との間隔を取れるだけ取るようにしています」
歩道から車道側に切り下げられた急傾斜などでバランスを崩した自転車が車道に転倒し、走行車両にひかれるという事故も少なくない。死亡率の高い自転車とのあらゆる事故を未然に防ぐことにもつながる、このプロドライバーが実践する防止策を、私たち一般ドライバーも参考にしたい。
- ※歩道の自転車が見えにくいこともあるが、とくに縁石の切れ目では、自転車が飛び出すことを予測しよう。