取材・文=佐藤直子(ENCOUNT)/撮影=鈴木大喜/スタイリング=村上四季枝

「フェラーリがあるからこそのオカダ・カズチカ」トップレスラーの車哲学

新日本プロレスのトップレスラーとして、国内外で絶大な人気を誇るオカダ・カズチカ選手(35)。若かりし日にはメキシコやアメリカで修行を積み、ルチャリブレからストロングスタイルまで多彩な技を身に付けました。191cm・107kgという体格から繰り出す、力強くも華麗な技の数々でファンを魅了し、IWGPヘビー級、IWGP世界ヘビー級など獲得したタイトルは数知れません。

「レインメーカー」の異名を取るオカダ選手は、「新日本プロレスにカネの雨を降らせる」と語り、自らの顔が入った紙幣をばらまきながら入場する姿はプロレス界随一の華やかさを誇ります。また、大の車好きとしても知られており、今回は、フェラーリの気まぐれに翻弄(ほんろう)されながらも愛情を注ぐ、オカダ選手の車との歴史をたどります。

インタビューに応えるオカダさん

――早速ですが、オカダさんのカーライフはJAFなしには語れないとか。

めっちゃ助けられています! 何回バッテリーを上げたことか……もう数え切れないくらい。さすがに1日のうちに何回も、ということはないけれど、趣味の釣りに行ったとき、泥道にハマって引っ張り出してもらったこともあります(笑)。JAFさんのおかげで安心しながら運転を楽しんでいます。

――そもそも車に興味を持ったきっかけは?

父親の影響ですね。父は古いフェラーリ308(1975~1985年製造)を買って、自分で修理したり手を加えたりして乗っていたんです。よく一緒にドライブに行きました。ただ、エンジン音は「ウワァーンウワァーンウワァーン」ってものすごく大きいのにスピードが出ない。横から無音のプリウスにスーッと追い抜かれたときは、さすがにツッコみましたね(笑)。僕も今、フェラーリ488 GTB(2015~2019年製造)に乗っていますが、それは父親を乗せたいからという理由もあります。

――車好きを受け継ぎましたね。免許を取るのも待ちきれなかったのでは?

僕は15歳でプロレスの世界に入って、2007年に19歳で闘龍門から新日本プロレスへ移籍しました。合宿所生活で買い出しに行くこともあったので、まずは原付の免許を取って、翌年再デビューした後に中型バイクの免許を取りました。車の免許を取ったのは、2010年にアメリカでの武者修行が決まってから。だから、初めて車を運転したのはアメリカだったんです。

――いきなり左ハンドルですか。

そうなんです。左ハンドルが普通という環境で、僕のカーライフが始まりました。滞在したのはフロリダ州オーランド。ディズニーワールドのある街です。温暖な気候のフロリダは高齢の住民も多くて、割とのんびり気楽に運転できましたね。フロリダでは車なしの生活は考えられないくらいで、買い物へ行くにも、ジムへ行くにも、全部が車。日常生活の必需品でした。

――フロリダではどんな車にお乗りでしたか。

日産・マキシマの中古車です。現地の選手仲間から「壊れないから日本車がいいよ」って勧められて、一緒に買いに行きました。アメリカ滞在中の約2年はその1台で過ごしました。途中で壊れつつも何とか持ちこたえてくれて。

でも、日本への帰国が決まった途端、後ろから追突されて廃車になってしまったんです(苦笑)。相手の不注意による事故だったのですが、車を売る手間が省けたと前向きに捉えましたね。

――アメリカでの思い出が詰まった一台と、まさかの別れでしたね。お怪我(けが)もなく何よりでした。

マキシマとはいろいろな場所に行きました。オーランドから海まで出掛けたり、ケネディ宇宙センターの近くへスペースシャトルの打ち上げを見に行ったり。

――アトランティスの打ち上げですか。

はい。ケネディ宇宙センターはオーランドから車で1時間ほどの距離なので、記念に近くまで行って、打ち上げの様子を見てみようと車を走らせたんですよ。気持ちよくハイウェイを走っていたら、途中でエンジンの動きがおかしくなって……。確かにその少し前、調子が悪いので修理をしてはいたんです。なので「これはマズい。家に帰ろう」とUターンして引き返し始めたら、ついにエンジンが止まってしまって。仕方ないから友人に電話したら、自動車保険会社に連絡してくれて、日本語対応できる担当の方と電話で話をすることができました。

でも、「どうしました? 今どちらにいらっしゃいますか?」と聞かれても、「いや、わかりません。わからない場所で止まっちゃいました」としか答えられない(笑)。路肩でそんなやりとりをしていたら、偶然にもハイウェイを囲うフェンスの向こうが車の修理工場で、従業員の方が「どうしたんだ?」って声を掛けてくれたんです。僕の英語では説明しきれなかったので、電話口の保険会社の方に説明してもらい、皆さんに救われたという(笑)。

結局、その時のスペースシャトル打ち上げは中止になり、帰りのハイウェイは大渋滞で、なおもレッカー車に牽引(けんいん)されて帰るという苦い経験をしました。おかげで、車で問題を引き起こすんじゃないか、エンジンが止まるんじゃないかというトラウマが残りました(笑)。

椅子に腰かけるオカダさん

――なかなかのエピソードをお持ちですね(笑)。では、日本に戻って最初に買った車は?

シボレーのコルベットC6(2005~2013年製造)です。アメリカ帰りだったのでアメリカの車に乗りたかったのと、やっぱりプロレスラーとして格好いい車に乗りたかったんですよね。ちょうどIWGPヘビー級王者になったタイミングだったので、4人乗りのセダンより2人乗りのスポーツカーだろうと、いろいろな車を見た結果、カマロもあったんですけどコルベットにしました。

――コルベットはアメリカン・スポーツカーの象徴的存在ですよね。

そうですね。本当にフィーリングでした。ただ、このコルベットもよくランプが消えたり、ウインカーが倍速で点滅したり、かなり整備工場のお世話になりました。こうして考えてみると、僕ってクルマ運がないのかな?(笑)

――コルベットにはどのくらいお乗りになりましたか。

2年くらいですね。コルベットって外見はいわゆるスポーツカーで格好いいけど、中はすごくシンプル。僕はそこが好きでした。趣味でバス釣りに行くときも、コルベットで出掛けていました。最初は丁寧に釣り竿を積み込んでいたのに、最後の方はルアーが天井に突き刺さっちゃって、それを取ったら天井がビリビリになってしまったり(笑)。

――コルベットで釣りに行くとは、さすがです。

赤いコルベットで、颯爽(さっそう)と乗り付けてましたよ!

――コルベットの次はフェラーリを購入なさったとか。

はい。父親がフェラーリに乗っていた影響で、僕もずっと欲しいと思っていました。念願のフェラーリ488 GTBをオーダーして買ったのが2016年。再びチャンピオンに返り咲いたことにも後押しされました。7年ほど経ちますが、今も乗り続けています。

――オカダさんが考えるフェラーリの魅力とは。

楽しいですよね。乗っていて楽しい車。運転席に座ったときの視線の低さも好きなところです。フェラーリだからスピードを出したいというわけではなく、プロレスラーとして夢を与えられる車だと思うんですよね。だからこそ、楽しいなって。

――フェラーリに乗って試合会場へ向かうと気合いが入りそうです。

都内や近郊の試合会場にはフェラーリに乗って行きます。特にタイトルマッチのときは、スーツを着て運転席に座り、エンジンを掛けた瞬間から“プロレスラー”オカダ・カズチカが始まりますね。家でスーツを着るだけでは、まだスイッチは入らない。フェラーリを運転しながら会場が近づくにつれ、気分が高まっていきます。

ただ、試合で腰を痛めたり、脚を怪我したりしたときは、座席の低さが辛いんですよ。「ウオォ、ここに座るのか……ギックリやっちゃうんじゃないか?」って(笑)。ある意味、体を張って乗っています。

街に立つオカダさん

――「プロレスラー=スポーツカー」というイメージは、先輩方の影響ですか。

漫画の『タイガーマスク』ですかね。主人公の伊達直人が乗っている赤いスポーツカーの印象が強くあります。

アメリカでは巡業が多かったのでレンタカーに乗る選手がほとんどでしたし、ハマーやピックアップトラックのような大きな車に憧れる選手が多かったですね。新日本の先輩方はみんな大きな黒いベンツに乗っていて、道場の駐車場はベンツ、ベンツ、ベンツ、またベンツ、という感じでした。そこに一際目立つ白いキャデラックが停まっていると「あ、(山本)小鉄さんがいるな」ってわかるんです(笑)。

――昨年お子さんが生まれ、育休を取っていらっしゃいました。ご家族が増えた今、車は2台持ちですか。

妻の車があるので、そちらにチャイルドシートを付けて乗っています。さすがにフェラーリにチャイルドシートは付けられないので。ただ、僕は誰よりもフェラーリを普段使いしている自信があるんですよ。所有はしているけど、全然乗らずに飾っておくだけという人もいるじゃないですか。僕は試合会場にも乗って行きますし、釣りの集合場所にもフェラーリで乗り付けますから(笑)。

もちろん、買った当初は「雨の日は絶対乗らない、汚さないぞ」という感じでした。でも、今は大雨でも気にせずバンバン乗っています。やっぱり乗ってこその車。乗りたくて買ったものですし、乗って愛してあげないと。たまにバッテリーが上がってしまう気まぐれもありますけど……愛情が届いてないのかな(笑)。

実はこの前、フェラーリの横顔の部分に手を突いた勢いで、腕時計でガリガリッと傷つけちゃったんですよ。さすがに気分が落ちたけど、傷は付くものだし、それもまた車の味だと思っています。

――普段使いのフェラーリ、いいですね。ドライブにもよく出掛けられますか。

一度巡業に出ると長い間乗れないこともあるので、バッテリーが上がらないようにドライブに出掛けることがあります。端子を外していないので、2週間に1回はエンジンを掛けるように言われているんですけど、できないときもあってJAFさんのお世話になるという……(笑)。

バッテリー上がり対策のドライブでも、乗っていると楽しくなりますね。普段は通らない道を通って「こんな道もあるんだ」「ここに出るのか」って新しい発見もありますし、高速道路に乗れば景色も楽しめますし。

光の中に立つオカダさん

――お好きなドライブコースはありますか。

ありきたりかも知れませんが、レインボーブリッジをお台場方面に向かって渡ると、左側に広がる東京の景色が好きですね。あれは世界に誇れる景色ですよ。僕は海外に行くことも多いので、あの景色を見ると「東京っていいところだな」と改めて感じます。先日、反対にお台場からレインボーブリッジを渡ったとき、ちょうど東京の街が夕日に照らされて、工事現場のクレーンが黒い影として浮かび上がっていたりして、「すごくいい景色だな」って見惚れました。

――ドライブするときはラジオや音楽は聴きますか。

僕はラジオを流しています。この前もラジオに出演していた方が、おいしいお寿司屋さんの見極め方について話をしていて、すごく興味深かったので、その方の本を買ってしまいました(笑)。ラジオはランダムな情報を得られるのが楽しかったりしますね。

もちろん、そのときの気分次第で音楽を聴くこともあります。どういう気持ちで運転しているのかに合わせて、ラジオなのか音楽なのか。それとは別に、今日はちょっと車の音を聞きたいな、というときもありますし。

――フェラーリのエンジン音がたまらないという方もいますね。

車内に響くエンジン音だけではなく、たまに窓を開けて、外にはどんな音が響いているのか聞くこともあります。あ、こんなうるさい音がしてるんだなって(笑)。道を歩いているときにうるさい車が来たと思って振り向くと、それがフェラーリでちょっとショックなときもあるんですよ。僕も迷惑掛けてるんだなって(笑)。

――フェラーリのあらゆる側面を愛していらっしゃるんですね。そんなフェラーリは、オカダさんにとってどんな存在でしょう?

正直、なくてもいいものだとも思うんですよ。家族も増えたことだし、もっとみんなで乗りやすい車にすればいい話。でも、フェラーリは“プロレスラー”オカダ・カズチカのイメージを作ってくれたものでもある。だから、もう手放せなくなってしまったというか。フェラーリがあるからこそのオカダ・カズチカであり、オカダ・カズチカだからこそフェラーリはなくてはならないもの。試合会場にフェラーリで入る姿を見た子供たちに「格好いい。僕もプロレスラーになりたい!」って思ってもらいたいですし、欠かせないものになりましたね。だから、手放す気はないですし、この先も常にフェラーリは持ち続けたいと思います。

――オカダ・カズチカの一部でもあるんですね。

そうですね。フェラーリがなかったら、“レインメーカー”のイメージも崩れてしまう気がします。違う車に乗っていたら違うイメージになっていたかもしれないし。スポーツカー、フェラーリだからこそのレインメーカー。逆に、セダンに乗るレインメーカーは想像できませんよね(笑)。

――確かに(笑)。フェラーリ以外にも乗ってみたい車はありますか。

釣りで使うバスボートを手に入れたいんですよ。だから、ボートが引っ張れる車に乗りたいですね。釣り仲間はみんなランクル(トヨタ・ランドクルーザー)を持っているんですよ。家族も乗れる車なので、次はそこを狙いつつ、フェラーリとの二刀流でいこうと思います。

あとは父親が乗りたい車に乗らせてあげたいですね。車をいじるのが大好きで、フェラーリを手放した今はマニュアルのルノー・メガーヌを買って、ガチャガチャ整備してますよ。旧車が好きなので、僕のフェラーリは運転したくないそうですが(笑)、いろいろな車に触れさせてあげたいと思います。

オカダ・カズチカさんがドライブで聴きたい5曲

  • SPiCYSOL「Honey Flavor」…夏にこの曲をゆっくり聴きながらドライブしたいです。
  • レッド・ホット・チリ・ペッパーズ「These Are the Ways」…テンポがゆっくりめなので安全運転します! サビはちょっとノってしまいますが(笑)。
  • ONE OK ROCK「Eye of the Storm」…見に行ったONE OK ROCKのライブがこの曲から始まったので、この曲からドライブをスタートしたいです。
  • OK Go「I Won't Let You Down」…歌いながらドライブしてしまいます。
  • ダフト・パンク「Fragments of Time(feat. Todd Edwards)」…夜景を見ながらカッコよく走りたいです。

(クリックすると、音楽配信サービスSpotifyで楽曲の一部を試聴できます。)

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サインパネルを持つオカダさん

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応募期間は終了しました。

※オークションサイト、フリマアプリなどでの転売を禁止します。

オカダ・カズチカ

おかだ・かずちか 1987年11月8日、愛知県出身。新日本プロレス所属プロレスラー。15歳でプロレススクール・闘龍門へ13期生として入門。2004年8月29日にメキシコでデビューを飾る。2007年に闘龍門から新日本プロレスへ移籍。早くから頭角を現し、2010年には米オーランドに拠点を置くTNAで修行を積み、翌年に自らを「レインメーカー」と名乗り凱旋帰国。以来、新日本が誇る主要タイトルであるIWGPヘビー級王座、IWGP世界ヘビー級王座を戴冠。その他、G1 CLIMAX、NEW JAPAN CUPでの優勝歴も持つ。今や押しも押されもせぬトップレスラーとして、絶大な人気を誇る存在となった。

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