自動運転技術の向上にも一役? AI搭載フォーミュラカーが自律走行で競うレースがあった!

2024年4月にアブダビで開催「A2RL」とは?
安東弘樹

スーパーフォーミュラのマシンがベースとなっている、AIを搭載した自律走行マシンのレース「A2RL」をご存じですか? 自動運転技術の向上にもつながるという、同レースの現状と将来の期待について、安東弘樹さんが語ります。

目次

実は日本も深い関わりを持っている自律走行マシンの仕組み

皆さんはA2RLというレースをご存じでしょうか?
おそらく初めて耳にした、という方が多いのではないでしょうか?
A2RLとは「Abu Dhabi Autonomous Racing League」の略で、直訳すると「アブダビ自律走行レーシング リーグ」になります。

A2RLは、UAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビの先端技術研究機関であるUAE先進技術研究評議会でプログラム開発を担うASPIRE(アスパイア)社が、将来のモビリティの可能性を広げることを目的に開催するレースで、2024年4月27日に決勝が行われました。

自律走行レースとは、 そう、ドライバーが乗っていないレーシングマシンによるレースで、本来、ドライバーが座る場所に、GPS、各種センサーや、マシンをコントロールするコンピューターなどが鎮座しており、マシンは「自分で」走るのです。繰り返しますが、マシンは人が遠隔操作をするのではなく、自律走行をします。

実は、このレース、日本とも関わりが深く、車両はASPIRE社が開発したソフトウェアを搭載する日本のスーパーフォーミュラ(SF23)のマシンがベースとして提供されています。

スーパーフォーミュラ(SF23)のマシンがベースのA2RL車両

写真提供=A2RL

参戦チームは各チームのプログラマーやエンジニアが開発した自律走行ソフトウェアとアルゴリズムを追加搭載し、その技術を競います。
賞金額は225万ドル(約3億5000万円)で、今回はアジア、北米、ヨーロッパから8チームが参戦しました。

もう一つ、日本メーカーとして関わっているのがYOKOHAMAタイヤ。ASPIRE社の活動に賛同し、スーパーフォーミュラにワンメイク供給している「ADVAN A005」を供給しています。
しかも同タイヤは従来タイヤと同等のグリップ性能を維持しながら、サステナブル原料を使い、同社の新たな挑戦として、参加しているのです。

A2RL車両で使用されるYOKOHAMAタイヤ

ちなみに、このレース、レース1とレース2が行われ、レース1では元F1ドライバーのダニール・クビアト選手が、この自律走行マシンと競う、というものでしたが、やはりクビアト選手は真剣に走ってはおらず、うまくバトルを演出しておりました(笑)。
しかし、演出されているとはいえ、ちゃんと抜きつ抜かれつ、という走行をしており、将来の自動運転への可能性を感じさせる光景ではありました。

1台止まれば全車が止まる? どうなるドライバー不在レースの行方

肝心のレース2は自律走行マシンだけのレースです。
予選では、スピンをしたマシンがあると後続のマシンは回避するのではなく 停止してしまう など、まだまだ人間とは違う判断をしてしまうAIの特徴が出てしまい、中断が続出。
予想を上回る数の観客の皆さんは、そのたびに大きな声援を送るなど、温かい目で見守っている雰囲気が伝わってきました。

しかし予選では直線で時速250km前後までスピードが出て、 コーナーを完璧なラインで走行し、スピンをした際のオンボード映像を見ると、スピンが始まった瞬間にカウンターを当てており、かなり高度な制御がされていることがわかります。

予選の結果、イタリアのチームが1番、2番グリッドを独占し、3番はドイツチームで4番グリッドもドイツ(スイスと混合)チームとなりました。
各チームは各国の大学を主体とした研究チームで、中国やシンガポール、アメリカなど、世界各国のチームが競い合いました。
いよいよ決勝が、ナイトレースとしてスタート。

A2RL車両

全8周のレースでしたが、途中、トップを走っていたイタリアチームのマシンが突然スピン。コース上で止まってしまうと、他のマシンも止まってしまい、またしても中断となります。
その後再開したレースでは、6周目にドイツチームがトップのイタリアチームをオーバーテイクし、そのままフィニッシュ。

A2RL、最初のウィナーはドイツのTUM(ミュンヘン工科大学)となりました。
途中までトップを走っていたイタリアチームのマシンは、TUMに オーバーテイクされた瞬間に止まってしまい、後続の別のドイツチームにも抜かれ、最終的に決勝はドイツのワン・ツーフィニッシュとなったのです。

  • 前を走る車を追い抜いて順位を上げること

自律走行マシンは未来のF1になれるか!?

まさに、今回のレースが、この自律走行マシンレースA2RLのスタートラインとなりました。
正直、まだ見せるレースにはなっていませんでしたが、将来的には、自律走行マシンによるレースが 一つのカテゴリーになり得る、という「片鱗」は見せたと思います。

観客としては、ドライバーではなく「マシン」そのものを応援する、という形にはなりますが、1950年に開催された初めてのF1世界選手権 を観戦した人と同じような、あるレースが始まる瞬間、という歴史の証人になった気持ちで今回のA2RLを観た気がします。
このレースのフィードバックは一般車の自動運転に生かされる、ということですので、今後も注目していくつもりです。

皆さんも公式チャンネル配信のアーカイブを、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか?
将来、「最初の自律走行レースは、こんなふうだった」と語る日が来ると思いますよ!


安東弘樹

あんどう・ひろき 1967年神奈川県生まれ。フリーアナウンサー。1991年にTBSテレビに入社後、さまざまなテレビ、ラジオの報道やバラエティなどの番組を担当。19歳の免許取得から現在までに、45台以上のクルマを乗り継ぐ経験と知識を生かし、活躍の場を広げている。現在はTBSラジオ「UP GARAGE presents GARAGE HERO’s~愛車のこだわり~」、TOKYO MX「バラいろダンディ」、bayfm78 「MOTIVE!!」など多くのテレビ、ラジオ番組で活躍。2017年より「日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)」選考委員。2024年より日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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