JAF Mate Online 安東弘樹さんエッセーのKV
※写真のテスラ車は今回の記事に登場するクルマと同車種ですが、当該車ではありません

テスラの自動運転車から見えてくる、クルマの未来と日本の課題

安東弘樹さんが考えるクルマの進化とは?
安東弘樹

元々クルマの自動運転の普及には懐疑的だったという安東弘樹さんですが、とあるYouTubeをきっかけに、その考えを改めたといいます。今回のエッセーでは、テスラの自動運転技術の進化と、高齢化が進む日本における自動運転の役割など、安東さんが考える「クルマの未来」について綴ります。

目次

安東さんも驚愕! すでに自動運転技術は人間の運転を超えている?

「すごい……」

これは、ある動画をYouTubeで観たときの感想です。それは、アメリカの電気自動車であるテスラのオーナーの日本人インフルエンサー(Tさん)が、アメリカのテキサス州で新しいテスラのFSD(フル・セルフ・ドライビング)Ver.13をインストールされたテスラ・モデルYをドライブしている動画でした。

いえ、正確に申し上げるとドライブではなく、運転席に座って監視している動画といったほうがいいでしょう。そう、Tさんはドライブ(運転)していないのです。出発地でナビゲーションに目的地をセットしたら、その後は完全にクルマが目的地まで走行し、駐車まで完全に遂行したのです。

ただ、経由地の充電スポットでは、テスラ用の充電器の所に止まらず、充電スポットを一周するだけで、その場所を離れてしまいました。Tさんと同乗者は、「おいおい、充電したかったのに」と笑っていましたが、目的地までの距離に対して充電量が十分だと判断したからではないか、とも分析していました。というのも、Tさんは、このモデルYに乗る直前に、同社の「サイバートラック」という巨大ピックアップトラックに試乗しており、そのときにはしっかりと充電スポットの充電器ギリギリの所に止まった経験をしていたので、そのように解釈したわけです。

しかし、かなり交通量の多い時間帯にもかかわらず、高速道路での車線変更はスムーズですし、周囲のクルマの流れに逆らわず、乗っている人間が生理的に違和感を覚えることは皆無なのです。ときには他の「手動運転」のクルマに道を「譲る」という思いやり? 運転すらしているのです。

本当にTさんは何もしていません。それどころか同乗者は「Tさんの運転よりはるかに安心できる」と言っています。Tさんも「(体感として)これ以上、自動運転に求めるものはないレベル」とまで評価しています。その優秀さは映像からも伝わってきました。

安東さんが考え直した自動運転のロードマップ

実は数年ほど前、TBSの後輩のアナウンサーに、「安東さん、ナビに目的地をセットしたら、あとはすべて自動で運転してくれて目的地に着くっていうクルマは、いつ出るんですか?」と聞かれたとき、「公道は大きさの異なるクルマやバイクなどがそれぞれのスピードで走り、車線変更や右左折、駐停車を、経験もスキルも違うドライバーがそれぞれ行う、という不確定要素が多いので、少なくとも10年以内は無理だと思うよ。何しろレールの上を走行する鉄道でさえ、一部の地下鉄や新交通システム以外は人間が運転してるからね」と答えました。

他の人から同様の質問を受けたときも、常にそう答えてきたのです。しかし、この動画を観て、少し考えを改める必要があるのではないか、と感じました。

確かに、完全手放しで動いているクルマの動画を観て、当初は「怖い」と思っていました。しかし、それに見慣れてくると、あまりにもスムーズで安全な走行をしているため、その怖いという感覚が少しずつなくなってくるのです。ですが、もし自動運転車のコンピューターが「バグ」を起こしたら大惨事になるのではないか、と考えます。

その一方で、今、日本では「人間が起こす」逆走や無謀運転、運転操作のミスによって悲劇が毎日のように起こっていることにも思い至りました。

私が頻繁に見ていた別のバイクYouTuberさんは、本人はルールもマナーも守って走行しながら動画撮影をしている最中に、対向車の居眠りによる「車線はみ出し」という「逆走」によって、一歩間違えば即死、という事故に遭っています(その映像は衝撃的でした)。1年以上リハビリを続けていますが、まだ完全に元の状態でバイクを運転することはできません。ほかにも人間は目視ができなければ出会い頭の事故も起こします。しかし、このFSDはGPSなどを活用し、あたかも俯瞰で見たような周囲の道路状況を人間の脳では不可能な速度で検知、解析して、運転操作を判断するのです。

ただ、これまではFSD(Ver.12以前)に任せていたドライバーによる事故が実際に発生してきましたし、なかには死亡事故も含まれています。しかしテスラは事故発生率を公表し、2023年におけるFSDによる事故は100万マイル当たり0.21件、対してテスラ車以外の一般車は1.49件で、圧倒的にFSDによる事故のほうが少ないと暗に主張し、開発を進めてきました。その結果が今回のVer.13の進化だと判断すると、語弊はありますが、公道で「実験、検証」をすることによって、進化を遂げているといっても過言ではないでしょう。

自動運転技術は「移動の自由」を守るのか?

今後、車載コンピューターの「乗っ取り」などのリスクに対するセキュリティー強化など、課題がないわけではありませんが、イーロン・マスク氏がトランプ新大統領と蜜月になったことで、ますます自動運転の開発が進むのではないでしょうか。

もちろん、賛否はあると思いますが、ドライバーの高齢化や公共交通機関の運転手不足、それによる地方での移動の不自由は深刻な問題です。喫緊の課題と言っていいでしょう。

正常に機能すれば熟練ドライバー並みの運転技術と的確な判断、そして、イライラすることも疲労が蓄積することもないFSDが、実際にアメリカの公道を走行しているのを目の当たりにして、私は前述の後輩のアナウンサーに、「自動運転、もう少し早く実現するかもしれませんよ」と訂正メールを送ろうかと考えています。

私は運転が人生で唯一の趣味と言って差し支えないのですが、自分の運転操作機能が衰えてきたことを自他ともに認識したら、迷いなく免許を返納しようと思っています。その際には、運転免許の要らない自動運転も悪くないと思っている今日この頃です。「移動の自由」。これを失うよりはましでしょう。

しかし日本では良くも悪くも、実現は少し遠いかもしれませんね。皆さんは、どう思われますか?


  • 本連載「安東弘樹の運転履歴書」は今月が最終回となります。これまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

安東弘樹

あんどう・ひろき 1967年神奈川県生まれ。フリーアナウンサー。1991年にTBSテレビに入社後、さまざまなテレビ、ラジオの報道やバラエティなどの番組を担当。19歳の免許取得から現在までに、45台以上のクルマを乗り継ぐ経験と知識を生かし、活躍の場を広げている。現在はTBSラジオ「UP GARAGE presents GARAGE HERO’s~愛車のこだわり~」、bayfm78 「MOTIVE!!」など多くのテレビ、ラジオ番組で活躍。2017年より「日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)」選考委員。2024年より日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

この記事はいかがでしたか?
この記事のキーワード
あなたのSNSでこの記事をシェア!