JAF Mate Online 安東弘樹さんエッセーのKV
2024年のル・マン24時間レース表彰台の様子

「ル・マン24時間レース」と「大湯都史樹」から見える、日本のモータースポーツの立ち位置

安東弘樹さんが広めたい、もうひとつの「クルマの楽しさ」
安東弘樹

2024年のル・マン24時間レースでは、日本のTOYOTA・GAZOOレーシングが2位となりましたが、日本ではTVをはじめ、あまり話題にはならなかったようです。今回のエッセーでは、安東弘樹さんがこうした日本のモータースポーツの現状についてつづります。

目次

日本勢が世界で活躍しても、世間の関心は低い

2024年6月15日(土)~16日(日)、世界三大レースのひとつ、ル・マン24時間レースが行われました。1923年から行われているこのレース、紆余曲折を経て2012年から正式にWEC(世界耐久選手権)の一レースとなり、これまで数々の激戦が繰り広げられてきました。欧米ではもちろん、日本でも、その名前くらいは知っている、という方は多いのではないでしょうか。

今回のル・マン24時間レースでは最後の最後まで、日本のTOYOTA・GAZOOレーシング(以下GR)7号車とフェラーリ50号車が優勝を争い、最終的には24時間走ってわずか14秒差でフェラーリ50号車が優勝しました。GR7号車は、予選でのトラブルでクラス最下位からのスタートだったにもかかわらずトップ争いに加わり、最後は、もう一歩のところまでフェラーリを追い詰めるという激走を見せてくれたのです。

2024年のル・マン24時間レース2位のTOYOTA・GR7号車と3位のフェラーリ51号車の写真

2位のTOYOTA・GR7号車(写真左)と3位のフェラーリ51号車(写真右)

ゴールの瞬間はリアルタイムで観ていましたので、まさに感動と興奮のレース観戦となり、悔しいながらも満足して眠りにつきました。

そして翌日。ここ日本では残念ながら、例年通り? あまり話題にはなりませんでした……。昨年も今年同様にフェラーリが優勝、GRは2位で、その前までは5年連続でGRが優勝していましたので、多少はテレビでもニュースになってはいましたが、ニュース項目のひとつ、といった扱いでした。そして今年は激戦を繰り広げての惜敗となりましたが、MLBの大谷選手の活躍とは比較にならない小さな扱いでした。

ル・マン24時間レースでは、日本のドライバーが運転する日本のチームが優勝を争っているので、もう少し関心があってもよさそうなのですが、日本におけるモータースポーツの人気は、30年以上前のバブル期がピークで、それ以降は残念ながら下がったまま現在に至ります。

もちろん日本でもモータースポーツファンは一定数存在し、国内外のレース観戦者数が減っているわけではないのですが、テレビやネット配信などを観る人の数が少ないのは事実です。

その結果、F1の中継権利を持っているフジテレビでも、その放送は地上波→BS→CSと移ってきたというわけです。最近はプロ野球でさえ、同じような変遷を辿っていますので、趣味や興味の多様化が進んでいるといえばその通りなのですが、その中でもモータースポーツの人気が、よりニッチになっているといえるでしょう。

安東さんも危惧する、大湯都史樹さんの 「登りつめても景色が変わらない」世界

そんなことを考えている中、私は、あるテレビのキー局の配信番組で、レーシングドライバー大湯都史樹(おおゆ・としき)さんの特集を観たのです。大湯さんは現在、スーパーフォーミュラ、スーパーGTの2つの日本最高峰のレースに参戦しており、間違いなく日本のトップドライバーです。

その大湯さんが、その番組で言っていたのは、「カートからステップアップして、日本最高峰のドライバーになってみても、これまでの人生と景色が何も変わらなかった。だから、それを変えたい」という言葉でした。

ちなみに欧米でF1や世界選手権に出場しているドライバーはもちろん、たとえばアメリカではNASCARやINDYカーシリーズなどの国内で人気のレースに出場しているトップドライバーも、まさにスターであり、その報酬額も日本とは比べものになりません。

そのため、大湯さんは髪型やファッションにも気を配り、時にはレース会場で被り物をしてまでファンサービスを心掛け、できるだけレースというものに親近感を持ってほしいと、常に努力しています。

「何か面白いコスチュームを着て面白いことをやっているけど、何の競技? と、そこから入ってもらってもいいと思っています」。そう語る大湯さんの真剣さが伝わってきました。

さらにレースにおいては、危険にならない範囲でアグレッシブなドライビングを披露し、とにかくお客さんに楽しんでほしいと、さまざまな発信を続けています。

大湯都史樹さんの写真

現在26歳のトップドライバー、大湯都史樹さん

そして、隠さず「ドライバーとしてスターになりたいんです」と言う姿勢に、私はこれまでも注目してきました。そこで自分が担当するラジオ番組に出演していただいて、その真意について深く聞く機会を得たのです。この番組は6月30日と7月7日に放送しましたが、もし聴いてくださった方がいらっしゃったら嬉しいです。

まだ26歳の青年が真剣に日本のモータースポーツの現状と将来を危惧して、まさにもがいている、その姿を見て応援せずにはいられません。

かつては「日本グランプリ」が地上波テレビで生放送され、バブル期にはF1の生中継もとてつもない視聴率を獲得していた日本。中嶋悟さんや鈴木亜久里さん、また星野一義さんなどのレーシングドライバーが、クルマ関連企業以外のCMにまで出演するほどの知名度のことを考えたら、今の若いドライバーである大湯さんが「景色が変わらない」と言う寂しさは十分に理解できます。今、F1のレギュラードライバーである角田裕毅選手でさえ、日本ではそう感じているかもしれません。

今の日本でクルマに関しての報道といえば、あおり運転、逆走や踏み間違いによる事故、ガソリン価格の高騰、相次ぐ車両価格の値上げ、メーカーによる型式認証不正など、ネガティブなものが多く、残念な流れになっています。

私自身はクルマが好きで運転が好きで、各種のモータースポーツを観て楽しいと思っています。何とか、この楽しさを広げていくべく、クルマに関係ない番組などでもできるだけ、さまざまな言及を重ねているつもりです。まだまだ力及ばずですが、皆様のご協力もいただいて、大湯選手のような若いドライバーの景色を変えていきましょう!

安東弘樹

あんどう・ひろき 1967年神奈川県生まれ。フリーアナウンサー。1991年にTBSテレビに入社後、さまざまなテレビ、ラジオの報道やバラエティなどの番組を担当。19歳の免許取得から現在までに、45台以上のクルマを乗り継ぐ経験と知識を生かし、活躍の場を広げている。現在はTBSラジオ「UP GARAGE presents GARAGE HERO’s~愛車のこだわり~」、TOKYO MX「バラいろダンディ」、bayfm78 「MOTIVE!!」など多くのテレビ、ラジオ番組で活躍。2017年より「日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)」選考委員。2024年より日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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