偏愛アカデミー

「レッツ適当! 思いつきで北海道へ」ヒャダイン先生の適当旅論

わたしの推し活語ります【前編】

ヒャダイン
2022.05.07

文=ヒャダイン

2022.05.07

文=ヒャダイン

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お笑い芸人から俳優、ミュージシャン、文化人まで幅広いジャンルの著名人が、「今、とくに夢中になっている趣味」をテーマに、まさかと思うような意外な偏愛嗜好について論じます。

第2回の前編は音楽クリエイターのヒャダインさんに、日々の疲れを癒やすために目的もなく適当に行く場所を決めるという「適当旅」について書いていただきました。


今だからこそ一人「適当旅」のススメ

適当、というのは一人旅の醍醐味ではないでしょうか。好きなところに行き、予定していたところに行かず、無駄に時間を使い、好きな時刻に寝る。まあなんて自分勝手なんでしょう。私は誰の顔色もうかがわないこの「適当旅」が大好きです。ぜひ皆さんと適当旅の魅力をシェアしたく、この度エッセイを書いております。私の過去の適当旅をご紹介しながら説明していきますね。

私のベスト適当旅が2017年の道東一人旅でした。ある日午前5時に目が覚めたんですね。「あれ、今日と明日休みだよな」とベッドで思い出し、おもむろにスマホをいじっていたら「待てよ、今から適当旅行けるんじゃねえか」。偏愛するANAのアプリを立ち上げて今から飛び立てるフライトを検索! 貯めたマイルが火を吹くぜ! すると出てきたのが「たんちょう釧路空港」。出た、道東。7:40のフライトをマイルで購入。パジャマから急いで着替えて車に飛び乗り羽田へと。朝だから道も空いていて快適です。ほぼ待ち時間もなく搭乗手続きを済ませ、いざ北海道へ! 機内で爆睡、CAからの飲み物サービスも断り、惰眠を貪るとあっちゅうまに釧路へ。なんと9時半前。さっきまでベッドの中にいたのに、今北海道って。どこでもドアかドラクエのルーラか。この実感のなさも適当旅の魅力の一つです。

とりあえず空港でレンタカーを借りて街なかへと出発です。予備のETCカードが財布に入っているので挿入。常に財布にETC、これは適当旅人の必須アイテムですね。釧路に関して唯一知識があった「和商(わしょう)市場」へ赴(おもむ)き勝手丼の朝食です。勝手丼、というのは市場の真ん中で白米だけの丼を買い、いろんな店舗で魚介の一口大サイズを購入して白米の上にのせるというもの。新鮮なウニやサーモンを贅沢にのせていきます。まあそこそこ値段はするのですがこれがうまい! 市場の中で食べるという非日常さもあり、おいしさもひとしおです。

おなかいっぱいになってニコニコと市場を散策、お土産をもう買っておきます。大阪に住む両親にカニを発送したり、なんだかんだしてたら時間が過ぎていき、お昼前に市場を出発。レンタカーにて地元のラジオをつけて、さてどこへ行こうか。そう。適当旅なので東西南北どこに行くかまったく決めてないんですね。まあ知床(しれとこ)とか行ってみるか、と進路を東へ。
秋の北海道。風も心地よく窓を開けて歌でも歌いながら楽しいドライブです。東京では絶対に見ることができない広大な風景に感動して奇声をあげたりしながら進んでいるとラジオから「今日から厚岸町(あっけしちょう)で牡蠣(かき)まつりが始まります。ぜひ皆さんいらっしゃってください」と耳寄り情報が。私、牡蠣が大好きなんですよ。特に厚岸の牡蠣は身が大きくて食べがいがあるんです。ほお! これはこれはと車を路肩に停めて厚岸の位置をチェック。北海道の地理に詳しくないので位置関係がわからないんです。これも適当ですよね。すると厚岸は今いるところから車で約1時間! しかも進行方向はビンゴ。呼ばれてるじゃん、ご縁じゃん、引き寄せの法則じゃん、と勝手に運命を感じてカーナビに厚岸を入力。風に吹かれながら直行すると、おお賑(にぎ)わっている! のぼりが立っているので一発でわかる牡蠣まつり。

牡蠣まつりに着いた直後ののぼり。期待感が高まります。

牡蠣まつりに着いた直後に見つけたのぼり。期待感が高まります。

牡蠣まつりのメイン通り。出店が立ち並びます。

牡蠣まつりのメイン通り。出店が立ち並びます。

牡蠣まつりで恥をかき…?

ウキウキで車を停めて早速会場となる公園へと。いろんな出店があり、牡蠣だけではなくホタテや牛肉など目移りするものばかりです。そのなかでも少し行列ができている店、キミに決めた! 並んでいる店はうまい、という群集心理にまんまと丸め込まれながら待っていると、おやおや、見慣れた感じの機材が寄ってきたぞー。そう。厚岸牡蠣まつりの初日、ということで地元のテレビ局が取材に来てたんですね。まつりの様子をカメラマンが一人で撮っているさなかで私の待つ行列の方向へも。「俺だって東京ではそこそこ知られた芸能人だし、さすがに、ね、わかるよね……」と思っていたのですが、傲慢! 怠慢! 自意識過剰! カメラマンは私がヒャダインだとは気づくことはなく列に並んでいる姿をバチコーンと撮影、何も言わず去っていきました。「まあまあ笑」と焼き牡蠣と蒸し牡蠣をオーダー。LLサイズでふっかふかジューシーな牡蠣をプラスチックトレーにのせて公園の中で賞味。う、うまい! なんだこれ! 海のミルクや!! これ誰も気づいてないと思うけど海のミルクや! これからそう呼ぶべき! 最高やないか!

感動のなか浮き足立って車へと。さてどこに行こうかな。Googleマップを開いて位置を確認。ほう。阿寒湖が近い、と。阿寒湖はアイヌ料理が食べられるんだよね、確か。ジビエも大好きなので今日のお宿は阿寒湖に決定!! ホテル予約アプリを開いて阿寒湖の宿を当日予約です。ご飯は外食するから素泊まりプランです。無事宿が取れたのでノロノロと車を発進、地元のラジオを聴きながらドライブしているとムムム! 一面に広がる草原が目の前に。緊急停車ですよ、こんなもん。ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドのような美しい草原、ゲームの世界って本当にあるんだ、と感動しながら少し草原に腰をおろします。先程の牡蠣で満腹になった、てのもあり少し眠くなり横になる。真っ青な空に秋のウロコ雲、そして果てしない緑の草原でお昼寝です。暑くも寒くもなく自然に包まれて溶けていく。これも適当旅の魅力。好きなだけ時間を使えます。自分が満足するまで草原でゴロゴロ。いつまでも飽きない空を1時間ほど堪能(たんのう)しました。

想定よりもかなり遅く阿寒湖へ到着。阿寒湖自体には興味がないので湖観賞はスルー。適当だなあ。ホテルへ直行して荷物を置きアイヌ料理店へ。アイヌ伝統のポッチェイモやエゾシカを堪能、マリモサワーという緑のサワーもおいしい(もちろん本物のマリモは入っていない)。そんな感じでアイヌグルメを堪能していたら友人からLINEが。「今、北海道いるでしょ」。なんで知ってるの!? 誰にも言ってないのに。GPS仕込まれてる? と疑心暗鬼になりつつ理由を聞いたら「今ネットで話題になってるよ」と。なぬー! しばらくいじっていなかったスマホでエゴサをちょちょい。すると昼間の牡蠣まつりの様子がなんと夕方のニュース番組で放送された、と。しかも完全に一般人として映っていて、ニュースを観た方が「あれヒャダイン、だよね……」と。まじかよ、と放送局の公式YouTubeを確認すると、映ってる! しかもなんか「あ、俺っす、わかりますよね、げへ」感が出ている表情。ひゃー恥ずかしい。でもまあみんなの笑いになったのなら何より。「休暇もタダでは帰りませんね」とマネージャーさんに言われたのを今でも覚えています。

アイヌ料理屋さんで食べた鹿肉料理。パンチがきいておいしかったー。

アイヌ料理屋さんで食べた鹿肉料理。パンチがきいておいしかったー。

さて、適当旅の1日目をご紹介しましたがいかがでしたか。なんでもありなので可能性のかたまり、牡蠣まつりでのアクシデントもあり非常に思い出深い旅になりました。誰に決められたわけでもない、言うなら自分でもかっちり決めていない旅なので思い出が濃いです。あの日、草原に寝転がって眺めた雲の形はまだ目に焼き付いています。2日目も地元の喫茶店に行ったり、トドワラという枯れ木が立つ荒野にトラクターに乗って行ったりと思いつきでさまざまな思い出を作りました。

この適当旅、もちろん家族がいたり予算が厳しかったり運転免許がなかったりと誰しもができるものではないとは思うのですが、この息苦しい昨今、密を避け、気ままに適当旅をしてみるのはいかがでしょうか? 予定調和から大きく外れた非日常が待っていますよ。レッツ適当!

トラクターでトドハラを移動。荒れ地なのでトラクターじゃないと行けないんですね。

トラクターでトドワラを移動。荒れ地なのでトラクターじゃないと行けないんですね。


次回偏愛アカデミーは、

ヒャダイン

音楽クリエイター。1980年大阪府生まれ。本名 前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。さまざまなアーティストに楽曲提供を行い、自身もタレントとして活動。「musicるTV」「久保みねヒャダこじらせナイト」「サウナを愛でたい」「おはよう朝日です」などテレビのレギュラー多数。

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