巨大伊勢海老天丼に地魚グルメ三昧! バイクで伊豆大島一周の旅
通勤駅から行けるリゾートアイランド!? 伊豆大島を満喫日々の仕事に追われ、「趣味だったバイクも、ずいぶんご無沙汰だな……」、「離島のリゾート地に行きたいな…」、「おいしい海鮮が食べたいな……」とぼんやり思いと欲望を巡らせつつも、離島は日数も費用も負担が大きいし、しばらく乗っていないバイクはちょっと不安だし……と心中で言い訳を募らせていた。
そんなある日、ふと見つけた東京都は伊豆大島の旅行情報。都心から高速ジェット船にて最短1時間45分で行ける伊豆大島は、多彩な地魚グルメに温泉も充実、さらには島内を一周できるその名も「伊豆大島一周道路」が整備されていて、交通量も多くなく絶景が楽しめるのだとか。こ、これはリターンライダーの第一歩にもうってつけ。のんびりと安全走行を楽しみつつ魚介を満喫、さらに通勤駅からサクッと行ける島なんて、夢のシチュエーションすぎる! 伊豆大島へ、いざ行かん。
贅沢すぎる! とれたて魚のフィッシュバーガー
スターフィッシュバーガー750円、大島牛乳カフェオレ500円
平日の午前8時30分。通勤するビジネスマンを横目に、JR山手線浜松町駅から徒歩8分の船着き場・竹芝ふ頭から高速ジェット船に乗り、一路都心から約120㎞離れた伊豆大島へ。高速ジェット船は水中翼で浮き上がって航行するため、波の影響を受けにくいのだとか。心配していた船酔いもなく、午前10時15分に伊豆大島の岡田港に到着すると、さっそく潮と緑の香りに迎えられた。
まずは、遅めの朝食のため岡田港から歩いてすぐの「スターフィッシュ アンド コーヒー」へ。漁師でもある店主の平野さんが営むこのカフェの名物は、水揚げされたての白身魚を使ったフィッシュバーガー。大きく肉厚な魚のフライはうまみが強く、透き通った白身に確実なフレッシュさを感じる。採れたての魚を揚げるとこんなにもおいしいのかと、衝撃を受けた。「伊豆大島は海流が複雑でいろんな魚が揚がるので、そのときどきでバーガーで使用する魚も違います。メダイやブダイ、イサキのときも。きょうはハマフエフキという魚で、島ならではですね」とのこと。澄んだ甘さを感じる伊豆大島特産の「大島牛乳」を使用した大島牛乳カフェラテとともに、大満足の朝食となった。
「スターフィッシュ アンド コーヒー」の店名の由来を聞くと、「いい質問ですね」とにんまりの平野さん。大ファンというプリンスの曲名から取ったそう。言われてみれば、プリンスのレコードやイラストがあちこちに……
カフェをオープンして3年目。観光客だけでなく島の若者の集いの場にもなっているそう
●STARFISH AND COFFEE/
大島町岡田6 TEL. 04992-7-5871
https://starfishandcoffee.website/
「伊豆大島一周道路」は、時速40㎞制限でゆったりと走行を楽しめる。リターンライダーにはもってこい
朝食の後はレンタルした125㏄のバイクで、いよいよ「伊豆大島一周道路」を中心に久しぶりの走行を楽しむ。少しずつ感覚を取り戻すとともに、向かい風が当たる感触や、道路沿いの松林の匂いに気づく。全身で島の個性を堪能しつつ「バイクのこういうところが好きだった」ことを思い出した。
動物園とも野生とも違う、楽園に暮らすうさぎと戯れる
人気うさぎのボアちゃんは、柵のこちら側に来ると餌をもらえることを覚え、自らおねだりに来ることが多いのだそう。かわいい……
木々のトンネルを抜け、同島の四季の花々が楽しめるという「椿花ガーデン」へ。南国を感じる巨大なソテツの木やビビッドな色合いの花を眺めつつ、たどり着いたのは園内の「うさぎの森」。広々とした空間でのびのび過ごす放し飼いのうさぎは見るからに幸せそうで、そっと背中をなでると、心なしか記憶の中のうさぎよりもふわふわと柔らかい。
「ここのうさぎは、みんな自分の巣穴を持ってのびのびと暮らしていて、来年には100羽にもなりますよ。来場者からも『動物園のうさぎとも、野生のうさぎとも違う』と人気で、年間パスポートを買って、毎週船で通っているファンもいる。ここはうさぎの楽園ですよ」と園長の山下隆さん。「椿花ガーデン」を築いて40年以上にもなるそうだが、いまも椿や紫陽花の手入れや品種改良に試行錯誤を続け、理想の園づくりを日々楽しまれているそう。「シーズンには約400品種、2000本の椿が楽しめますよ」の言葉に、あらためて椿の季節の再訪を誓った。
天気が良ければ海の向こうに富士山が望める「富士見の丘」は、見晴らしも最高
●椿花ガーデン/大島町元町津倍付41−1 TEL. 04992-2-2543
【JAF優待】
伊豆大島産食材を満喫。椿油オイルフォンデュの味とは?
豊富な温泉があることで知られる伊豆大島だが、1986年の三原山が噴火するまでの島の源泉は「三原山温泉」のみだったという。島内で最も歴史ある三原山温泉の源泉を使用した、その名も「大島温泉ホテル」へ。
三原山の外輪に位置するこちらのホテルで、温泉と並ぶ名物が「椿フォンデュ」。卓上で串に刺した食材を揚げる料理「オイルフォンデュ」は、一般にオリーブオイルなどを使用するが、ここ大島温泉ホテルでは、なんと贅沢にも特産の椿油を使用するという。椿のタネを圧搾した椿油をほんの少し口にしてみると、さらりとしてわずかに香ばしい風味がある。
今回は、伊豆大島産の食材をたっぷり楽しめるコースを選択。季節などによって食材は変わるそうだが、今回は伊勢海老をはじめ、ホタテ、メダイなど海鮮のほか、伊豆大島産の野菜がずらり。ふつふつと温まった椿油に、海老の大ぶりの身に衣をつけ沈めること数十秒。さくりと軽い衣に、密度の高い海老の味。椿油は、伊豆大島産の中でも食品に適したグレードの高いものをブレンドして使用しており、鮮度にもこだわっているという。「次は鯛、今度は明日葉を揚げて塩で……」と自分のペースで調理する楽しさもあり、近海産の金目鯛やカンパチ、サザエの刺身などとともに、大満足の夕食となった。
椿油のフォンデュは、揚げ物なのに一種さわやかな風味を感じてどんどん食が進む
立派な海老は、頭も揚げてミソなどを食べることができる。天つゆや島産の塩での味変も楽しい
1965年創業の歴史あるホテル。天気が良ければ、客室などから雄大な三原山を臨むことができる
●大島温泉ホテル/大島町泉津木積場3-5 TEL.04992-2-1673
【JAF優待】
まるで異星? 日本唯一の「裏砂漠」へ行こう
●裏砂漠第1展望台
伊豆大島には、日本で唯一の「砂漠」があるという――。火山灰と「スコリア」という黒い火山岩に覆われた三原山の東側一帯は、国土地理院が発行する地図に、日本で唯一「砂漠」と記されており、遮るもののない幻想的な風景が広がっているのだとか。それはぜひ見なければ! 伊豆大島一周道路を走行し、島の南東側から「月と砂漠ライン」という左右にうっそうと草木が茂る道に入り約5分。裏砂漠の入り口駐車場にたどり着いた。
駐車場が完備されているが、島内のレンタカー店によってはクルマが傷付く懸念から「月と砂漠ラインの走行は禁止」という場合もあるので要確認
ここからは徒歩のみ。砂漠へ向かう心づもりで、多めに水分を持っていくほうが無難
ここからは特別保護地区のため車両の乗り入れは禁止。バイクを止め、登山道を徒歩で進む。木々に覆われたけもの道のような登山道を抜けると……黒い地面に覆われた荒涼とした光景が一面に広がった。
目の前に広がる茫漠とした景観に圧倒され、しばしその場に立ちつくすものの……とにかく風が強い! 伊豆大島は日本でも有数の強風地帯なのだとか。見慣れない黒い火山岩に覆われた地面と薄曇りの空。足の裏から伝わるザクザクとした感触、そして強風というシチュエーションが相まって、砂漠というよりは異星探索をしているような不思議な感覚になった。
この日の最大風速は11m/s。街中ではさほどではないが、遮るもののない砂漠ではダイレクトに風に弄(もてあそ)ばれる
地面を覆いつくす、黒いスコリア。自然保護のため、採取は禁じられている
伊豆大島の魚を食べつくせ!
至上の伊勢海老天丼、地魚の寿司を堪能
裏砂漠を堪能した後は、一周道路を時計回りに南下し波浮(はぶ)地区へ。1801年に開港した島南部の波浮港は、島の発展の礎となり、明治から昭和にかけて、与謝野鉄幹・晶子夫妻や林芙美子、幸田露伴ら、多くの文化人が訪れたそう。たしかに、海を望む明媚な地はある種理想郷のようで、文化人の筆を進ませたことが想像に難くない。
たびたび目にする大島一周道路の看板が、方向音痴にとってはありがたい!
一見すると岩と見間違える「筆島」は、元は大きな火山のマグマが波の浸食などに耐えて残った岩頸(がんけい)。地元のパワースポットにもなっているのだそう
「山の上」と呼ばれる見晴らし台周辺から、木漏れ日の差す踊り子坂を下り、波浮港へ
地魚にぎり(2,300円)、べっこうにぎり(一貫260円)。地魚にぎりのこの日のラインナップはカンパチ、イサキ、キンメ、アカイカ、ホウボウ、ナワキリなどの9種類。一年を通して近海で取れた魚を提供しているそうで、どれも抜群に鮮度がよく、魚の個性が楽しい
「スターフィッシュ アンド コーヒー」で伊豆大島の魚の魅力を教えてもらったからには、ぜひ寿司を、そしてもっと伊豆大島の魚介を堪能したい……その一心で、伊豆大島でも屈指の人気という波浮地区の人気寿司店、「港鮨」へ。
名物の「べっこうにぎり」は、島唐辛子の入った醤油に白身魚を漬けた、べっこう色がまぶしい伊豆大島の郷土料理。ヅケの寿司というと濃い味と重めの舌触りの印象があるが、ここの島寿司はピリッとした辛みと醤油の味の中に、白身魚の鼻を抜ける香りもしっかりと感じ、歯触りも軽やか。「気づかれました? べっこうにぎりはお店や家庭によって漬ける時間も違うんです。長く漬けるとねっとりした食感になるんですが、うちはご注文を受けてから短時間だけ漬け込んでいます。魚はカンパチやメダイ、イサキなど、その時に揚がった白身の魚。きょうは真鯛ですよ」。港鮨大将の奥様、西川望美さんがにこやかにおいしさの秘密を教えてくれた。
そして港鮨の逸品、伊豆大島産伊勢海老の天丼を注文。箸で持ち上げるのが難しいほどずっしりとした、伊勢海老一匹の天ぷらにかぶりつく! ぷりぷりを通り越してぶりんぶりんの弾力ある歯ごたえに、伊勢海老ならではの濃厚なうまみ、うまみ……。口の中一杯が伊勢海老という、まさに幸福、口福の瞬間! つやつやのご飯に、じゅんわりとたれの染みた野菜天に……と夢中でかき込むなか、椀に手を伸ばすとまた衝撃が。こ、こんなに伊勢海老のミソの味って濃厚なの!? これだけで一食進みそうな、丸ごと伊勢海老味の味噌汁がたまらなくおいしい。一気呵成に箸を動かし、夢見心地な満足感に包まれた。
火山の影響で海底が入り組んでおり、伊勢海老が大きく育つのだとか。ずっしりと重みを感じる……(伊勢海老天丼 3,600円)
港鮨大将の西川竜也さんは、約10年間港区京橋で修業し、ここの寿司店を継いだそう
●港鮨/大島町波浮港1 Tel.04992-4-0002
夕陽に照らされる地層大切断面で2万年の歴史を思う
●地層大切断面
島ツーリングも終盤に差し掛かり、いよいよ伊豆大島一周道路も後半の島南西部「地層大切断面」を臨む道を走行。伊豆大島有数の観光スポットというここは、約1万5000年の間に繰り返された大噴火の噴出物が堆積してできたという100層にも及ぶ地層。伊豆大島の歴史がそのまま見て取れる雄大さだ。バームクーヘンのような見た目からSNS映えするスポットとしても人気で、最寄りのバス停「地層断面前」のデザインもバームクーヘンを模していてカワイイ。しばしバイクを止めて断層を眺め、太古に思いを巡らせた。
一層ごとの地層が、百数十年に1回の噴火によってできたものだそう。思わず見入ってしまう
同所は島のトレードマークともなっており、島内の洋菓子店には地層を模したバームクーヘンが販売されている
東京都に、こんな場所があるなんて知らなかった。125㏄のバイクでゆるやかに島を一周した1泊2日で、見たことのないものを見て、食べたことのないものを食べて、風を体に受け、匂いを感じ、五感を取り戻したような充足感に包まれた。通勤駅からうっかり船に乗ってしまえばこの島に戻れると思うと、出社する日もなんだかワクワクする。