直線道路日本一グルメ記事のキービジュアル

ジンギスカンに焼き鳥、とりめし…日本一長い北海道の直線道路でローカルグルメドライブ

国道12号・美唄市、奈井江町、砂川市、滝川市を走る

北海道の札幌市と旭川市を結ぶ国道12号は、北海道内の主要都市を結ぶ重要な幹線道路のひとつで、明治時代、北海道開拓の一環として開通した歴史があります。そのうち、空知(そらち)地方を通る29.2kmの区間は、現在も「直線道路日本一」と冠されています。
今回、北海道出身の編集部員が、この国道12号の日本一長い直線道路をドライブし、途中にある美唄市、奈井江町、砂川市、滝川市に立ち寄り、北海道開拓の歴史を感じる郷土料理などをいくつか紹介します。

目次

そもそもなぜこんなに真っすぐな道路になったのか?

1886年(明治19年)、最初に現在の三笠市から旭川市の間で道路の工事が始まりました。当時の工事復命書から「なるべく直線で作るように」という記述があったため、途中にある美唄市と滝川市の間に日本一長い直線道路が誕生したそうです。当時は道路ができたところに街が造られていくという状況だったため、開拓のスピード感も含めて、条件的にこうした直線道路を造りやすい環境だったのでしょう。

直線道路ドライブのスタート! 美唄市伝統のおもてなし料理「とりめし」を食す

直線道路日本一のモニュメント

美唄市側の起点に立つモニュメント。ここから29.2kmの直線道路が続く

今回のグルメドライブは、この「直線道路日本一」の看板がある美唄(びばい)市がスタート地点。私(編集部員)の地元にもほど近い、ここ美唄市の名称の由来は、アイヌ語で「ピパオイ(沼の貝の多いところ)」から来ているとのことですが、漢字で書くと「美しき唄のまち」とも読めるところが趣深いです。

最初にここ美唄市で味わいたいグルメが「とりめし」。明治期の北海道開拓の頃より、来客をもてなす際などに食されてきた郷土料理といいます。

しらかば茶屋の入り口。美唄市はパリオリンピック柔道メダリスト・永山竜樹選手の地元でもある

このとりめしを求め、親子三代にわたってお店を受け継いできたという、しらかば茶屋を訪問します。

しらかば茶屋の「とりめし定食」

しらかば茶屋の「とりめし定食」(950円)。鶏ガラスープを使った塩ラーメンセットも人気という

しらかば茶屋では、8時間以上かけて丁寧にとった鶏ガラスープに玉ねぎやねぎを加え、しょうゆや砂糖などで味を調えながらお米を炊き込みます。お米は美唄産のななつぼしを使用。炊きあがったご飯に、別に味付けした鶏肉と玉ねぎだけを加えて完成です。

見た目はシンプルですが、目前に置かれた瞬間に漂う、鶏の旨みと玉ねぎの甘さがご飯に凝縮されたほのかな香ばしさに、食欲をかき立てられます。

とりめし

とりめしを一口ほおばり、また一口。かみしめるたびに、どんどん旨みが増していくような味わいです。これは、やみつきになりそう。

しらかば茶屋の三代目となる佐伯優太さん(左)と、祖母の良子さん(右)

しらかば茶屋の三代目となる佐伯優太さん(左)と、祖母の良子さん(右)

現在お店を任されているのは、三代目となる佐伯優太さん。おいしさの秘訣は「手を抜かないこと」と言い切ります。

とりめしの鳥ガラスープ仕込み

スープの仕込みは弱火でじっくり行うことで、鶏ガラの旨みを余すことなく出しているとのこと。あえて鶏肉と玉ねぎ以外の具材は入れないことで、開拓当時の姿を再現しているといいます。

しらかば茶屋店内のサイン

ここにしかない味わいを求めて、道内各地から訪れるリピーターが多いというのも納得です。

しらかば茶屋

  • 北海道美唄市茶志内町3区
  • 0126-65-2768

【ちょっと寄り道】美唄市が誇るもう一つの郷土料理「美唄焼き鳥」

美唄焼き鳥

持ち帰りだとこのようなアルミホイルにくるまれており、温かいままで食べられる

かつて市内にあった炭鉱で働く「炭鉱マン」をはじめ、多くの美唄市民が愛してきた「美唄焼き鳥」。近隣にある私の実家も含め、家族や親戚が集まるときには、数十本、あるいは百本単位で食卓に並ぶことも珍しくありません。

その特徴は、一串に数種類のモツ(レバーやハツ、砂肝、キンカンなど)、鶏皮、モモ肉、玉ねぎが入った「もつ」と、ムネ肉の「せい」の2種類しかないシンプルなところ。そのため美唄焼き鳥は、串一本で鶏一羽が味わえるとも称されています。

直線道路日本一の中間地点、奈井江町で出会った「ずどーん」とは?

直線道路日本一中間地点のモニュメント

札幌市から69km、旭川市から65㎞の距離に位置し、国道12号のほぼ中間地点にあるのが空知郡奈井江(ないえ)町。奈井江町では、明治22(1889)年から開拓が始まったそうです。

ハウスヤルビ奈井江

この奈井江町で、直線道路日本一のちょうど中間地点に位置するのが、ログハウス調の道の駅「ハウスヤルビ奈井江」。この施設内にある喫茶みみずくに、ドライブの休憩がてら訪れました。

喫茶みみずく

喫茶みみずくでは、運営母体のないえ福祉会で栽培しているしいたけを用いた「しいたけカレー」も人気

今回取材したのは8月上旬。北海道とはいえ夏真っ盛りで、日中は暑い! と感じることもしばしば。この喫茶みみずくで今年2024年、そんな季節にふさわしい新メニューが出たとの情報をキャッチしたので、さっそく注文してみました。

ずどーんソーダ

奈井江町らしさを表すキャッチコピーとして「ずどーん」の普及を目指している

それがこの「ずどーんソーダ」! 一見なんの変哲もないクリームソーダです。フレーバーもメロンといちご、ブルーハワイと、いわゆる定番の味です。ここで開拓の視点(?)から見てほしいのは、中身ではなく器。さらに言えば、ジョッキに書かれた文字とのこと。

「ずどーん、というのは、2022年に奈井江町が新たに打ち出した、街のキャッチフレーズなのです」と、喫茶みみずくを運営する社会福祉法人 ないえ福祉会の大前真弓さんが教えてくれました。これまで奈井江町が培ってきた歴史や風土といった資源を生かしつつ、さらに新しいこと、面白いことにチャレンジしていくという、町を挙げて取り組む姿勢や意気込みを表した言葉、それが「ずどーん」。目の前を通る道路のように一直線! とも通じる響きです。

今年、2024年にはこのジョッキを使ったアイデアメニューのコンテストも行われ、今回いただいた「ずどーんソーダ」も、その一環として登場したとのこと。これもまた現状に甘んじることのない開拓精神の表れと言えるのではないでしょうか。

ずどーんソーダ

「ずどーんソーダ」は、奈井江町主催の2024年ずどーんジョッキアイデアコンテストで見事大賞に選ばれた

そんなことを考えつつ、ジョッキに入ったクリームソーダを「ずどーん」と勢いよく味わってみました。さながらブルーハワイは空の青、メロンソーダは草原の緑、ソフトクリームは白い雲。そんな眼前に広がる奈井江町のイメージにふさわしい、爽やかなメニューで涼をとり、次の目的地へと向かいます。

喫茶みみずく

  • 北海道空知郡奈井江町字奈井江28-1(道の駅ハウスヤルビ奈井江内)
  • 090-2813-1686

別名「スイーツロード」。砂川市で出会った開拓時代のおやつ

空知地方における都市と炭鉱を結ぶ交通の要所として、明治23(1890)年に「まち」としての第一歩が始まったという砂川(すながわ)市。国道12号と並行する道央自動車道には、日本国内で2番目となるハイウェイオアシス(一般道からもアクセス可能な公園や商業施設と一体化したSA・PA)が設置され、ドライブの休憩地点としてもにぎわっています。

この砂川市で国道12号といえば、直線道路日本一もさることながら、炭鉱全盛期より市民の癒やしとして、数多くのお菓子店が沿道に立ち並んでいることに由来した愛称があります。その名も「スイーツロード」。

北菓楼 砂川本店の駐車場入口

北菓楼 砂川本店の駐車場には左折してから入る

何とも甘い気分に浸りながらドライブできそうな道路ですが、それはそれとして気を引き締めつつ、一路目的の「北菓楼 砂川本店」へ向かいます。

北菓楼 砂川本店の外観

北菓楼は、ここ砂川市で1991年にオープンした全国的にも有名なお菓子店。私も北海道に帰省した際、東京へ戻るときのお土産としてよく購入するのが、人気商品の「北海道開拓おかき」。正月明けに各家庭で飾ってあった鏡餅を細かく砕いて、揚げて食べていたという、開拓時代のおやつを復活させたものだそう。

北菓楼 砂川本店の店内

広い店内には豪華な喫茶フロアも併設されている

おかきの原料となるもち米や塩をはじめ、それぞれ味付けに用いている甘エビやいか、秋鮭、帆立、昆布など、北海道産の食材を用いています。

北菓楼の「開拓おかき」

左から「甘エビ」、「昆布」、「帆立」。おかきと一緒にそれぞれの具材を使った珍味も入っている

お皿に出された開拓おかきをひとつまみ。口に入れた瞬間にひろがるそれぞれの味わいに加えて、もち米でできているはずのおかき自体も、噛めば噛むほどに味わいが増していくのが何とも不思議です。

北菓楼の堀 幹さんによると、この開拓おかきは「それぞれの味に合わせて、おかき自体を別に作っています」とのこと。おかきは共通で、別にフレーバーをまぶしていると思っていたのですが、それは大間違い。お餅をつく段階でそれぞれの原料を練り込んでいるとのこと。それによりおかきの中まで、それぞれの味の旨みがしっかりと染み込んでいたのです。

なんとも手間のかかった作り方ですが、お菓子作りに真っすぐ取り組む姿勢があってこそのおいしさであることを実感しました。

北菓楼の「バウムクーヘン 妖精の森」

北菓楼 砂川本店では「バウムクーヘン 妖精の森」も人気

北菓楼 砂川本店

直線道路日本一のフィナーレ! 滝川市で北海道を代表するグルメに舌鼓

美唄市から直線道路を北上した今回のドライブも、ここ滝川(たきかわ)市でついに感動のフィナーレを迎えます。滝川市の名称の由来は、アイヌ語の「ソーラプチ(滝下る所)」から来ているとのこと。明治23(1890)年に北方の警備と開拓を担う屯田兵が配置されました。

直線道路日本一のモニュメント

滝川市側の起点に立つモニュメント。道路はこの先ゆるやかな右カーブとなっている

国道12号はさらに北上して旭川市まで続くのですが、直線道路日本一の区間としては、滝川市の中心部に入る手前でゴールとなります。ですが、今回のテーマであるご当地グルメの代表格ともいえる料理を見逃すわけにはいきません。

松尾ジンギスカン本店の外観

これまで29.2kmの道のりをひたすら真っすぐ走ってきた道路をついに左折し、直線道路日本一との別れを惜しみつつ、最終目的地の「松尾ジンギスカン 本店」を目指します。

明治の開拓時代に衣類用の羊毛を取るために羊が飼育されたことがきっかけとなり、今では北海道を代表する郷土料理として広まった「ジンギスカン」。

松尾ジンギスカンの「特上ラムジンギスカン」

今回食したのは柔らかな赤身のモモ肉で人気の「特上ラムジンギスカン」。野菜付きで1,650円

かつて羊の生産地であった滝川市で、1956年に創業した株式会社マツオが手掛ける「松尾ジンギスカン」は、たれに羊肉を漬け込むスタイルで、北海道の家庭にジンギスカンを普及させたと言っても過言ではないほど有名です。

松尾ジンギスカンのたれ

写真の順番が前後したが、「最初に鍋の周りに野菜を敷いて、たれを入れてから肉を焼きはじめるのがセオリーです」(株式会社マツオ 川崎輝三さん)

この「たれ」は、地元の名産品であるタマネギやリンゴに、ショウガやしょうゆなどを加えたもので、創業からのこだわりである「子供も大人も家族全員で味わえる」やさしい味を生み出しています。

松尾ジンギスカン

このたれに漬け込まれたジンギスカンを一口ほおばると、これまで食してきたジンギスカンとは比較にならない肉質の柔らかさに驚きました。私は北海道にいるときだけでなく、東京の自宅でもお店でもしばしばジンギスカンを食べますが、これは我がジンギスカン人生、初の感覚です。

松尾ジンギスカン

「肉は焼きすぎないのがポイント」(川崎さん)

ご飯とジンギスカン

羊肉の旨みとたれの味わいがあいまって、白いご飯が止まりません。これは大人も子供も大好きな味です。

松尾ジンギスカンのもう一つの特徴として挙げられるのが、羊肉を焼くと同時に、漬け込んだたれを合わせて野菜を一緒に煮るというスタイル。

松尾ジンギスカンのジンギスカン鍋

2022年に25年ぶりのモデルチェンジを行い、現在使用中の松尾ジンギスカン6代目オリジナル鉄鍋

そのため、ジンギスカン鍋にも工夫を重ねています。熱伝導率の高い南部鉄器を用いて、従来の鍋にあったヘルメット状のアーチ部分を少なくして周辺を深くするなど、「鍋料理としてのジンギスカン」をより進化、かつ深化させています。

松尾ジンギスカン

ぐつぐつと煮える野菜を見ていると、ジンギスカンは鍋料理だったんだ、という実感も湧いてくる

煮ることで野菜もふっくらして食べやすく、これまでの肉とたれの味わいに、野菜の甘みが加わることで、さらにまろやかになり、かつコクが増していきます。これは自信を持って子供に野菜を食べるようすすめられます。

また、川崎さん定番の締めは、たれが濃くなったころに投入するうどんとのこと。繰り返しになりますが想像してみてください。肉、野菜それぞれの旨みがさらに凝縮されたたれがうどんに染み込んで……これだけでも一つの料理となりそうです。さらに「うどん以外に、もちやフライドポテトも合うのですよ」(川崎さん)とのことですので、ぜひ一度お試しあれ。

松尾ジンギスカン 本店

北海道の直線道路で出会ったのは「開拓の大地の恵み」

北海道を代表するグルメ、ジンギスカンを堪能し終えたのは、すっかり日も落ちたころ。今回の直線道路日本一のドライブでは、美唄市、奈井江町、砂川市、滝川市を巡り、北海道の開拓の歴史を経ることで生み出されたであろう、特色あるご当地グルメをいくつか満喫することができました。

そこでふと気が付いたのは、今回食した料理は大体「色が茶系」ということ。これは北海道開拓の原点ともいえる、大地の色を表しているのではないでしょうか。この大地が芽吹くことでさまざまに色付き、数多くの魅力を生み出している。そんな空想に一瞬浸りました。

ドライブの目的はさまざまですが、道によってつながる街々と、そこで出会えるご当地グルメ。北海道の新たな魅力を開拓した気分で帰路につきました。

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