聞き手・構成=張江浩司 / 編集=神保勇揮(FINDERS編集部)/ イラスト=若林 萌

名越康文が選ぶ、運転中の振動と「バラバラこそのかっこよさ」が絶妙に合う曲〈Junior Wells / Messin' With The Kid〉

精神科医の名越康文さんが、とっておきのドライブソング4曲を紹介!
名越康文

音楽好きの著名人たちが、月替わりで自動車やドライブにまつわる音楽との思い出とともに至高のドライブミュージックを紹介します。 今月お届けする4曲の選曲を担当するのは、テレビ・ラジオ出演、文筆業、そして自身のバンド活動など多方面で活躍する精神科医の名越康文さんです。

3曲目
〈Junior Wells / Messin' With The Kid〉

ふさぎ込んでいた時期を救ったブルースの名曲

病院に勤めていた20代後半から30代、精神科救急病棟を立ち上げて責任者にもなっていたのでストレスが半端じゃなかった。公立の精神科専門病院だったので負債が何十億円もあって、しかしコストカットのために病棟を縮小すれば患者さんに迷惑をかける。ふさぎ込みがちになっていました。そんなときは映画『ブルース・ブラザース』のビデオをよく観ていたんです。

冒頭のジョン・ベルーシが刑務所の廊下を歩いているシーンからアガりますよね。何か見せかけではない本物のかっこよさがみなぎっている。現代の「かっこいい」は完璧であることを求められがちじゃないですか。デジタル的とも言えるかもしれない。主演の二人はダンスもバラバラで全然合ってないんですよ(笑)。それなのにかっこいいし、何度見ても飽きない。

話は変わりますが、僕は免許を30歳の頃、母から言われてようやく取ったんです。過酷な仕事でボロボロの状態だったし、20代のときと比べて反射神経も落ちてるから仮免試験に2回落ちたんですよ。さすがに絶望しました(笑)。それでもやっと免許を取って運転できるようになり、車の中ではずっと音楽をかけて歌ったりしてたんです。

ブルース・ブラザースのライブアルバムもよくかけていて、なかでも好きだったのがこの曲ですね。今回選んでいるのはカバー元の原曲です。ブルース・ブラザースは基本カバーバンドなので、自然と原曲が聴きたくなったわけですが、もう一つの理由は、ブルース・ブラザースは歌い方がラフでかっこよすぎて本当のピッチがわからない(笑)。それで原曲を探してジュニア・ウェルズにたどり着いたわけですが、これはこれでパーフェクトなかっこよさでびっくりしました。僕が出会ったリズム&ブルースの最高傑作かもしれません。

ブルースの定型ですけど、AメロとBメロを延々と繰り返す。ちょっとズラしたりアドリブを入れながら、このシンプルな構成だけで4〜5分聴かせるわけですよ。本当にいい曲はこれで十分なんだなと改めて思いますね。歌い方やバッキング、ドラムのニュアンスも少しずつ変わるからまったく飽きないんですね。リズム的にもドライブにピッタリだと思いますよ。車の振動に身を委ねながらこの曲を聴くなんて、素晴らしい時間なんじゃないですか。

名越康文

なこし・やすふみ 1960年奈良県生まれ。精神科医、ミュージシャン。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪精神医療センターにて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、99年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍中。「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話https://yakan-hiko.com/nakoshi.html」、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)https://nakoshisemi.yakan-hiko.com/」配信中。

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