その旧車、レンタルさせてください

トヨタ・スポーツ800(UP15型)。軽さの追求がもたらした一級品のスポーツカー

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記

下野康史
2024.04.28

文=下野康史/撮影=荒川正幸

2024.04.28

文=下野康史/撮影=荒川正幸

トヨタが1965年から69年まで製造していたスポーツ800を、前回のホンダS800に続いて新潟・三条市の「KYOWAクラシックカー&ライフステーション」で試乗。“ヨタハチ”の愛称でも親しまれ、非力なエンジンを搭載しながら軽量なボディーでライバルに負けない走行性能を誇りました。そんなスポーツ800を自動車ライターの下野康史さんがレンタカーとして借り受け、走りをレポートします。

空力と軽さを追求することで、ライバルに負けない実力を得た

新潟県三条市の「KYOWAクラシックカー&ライフステーション」で借りたもう1台は、トヨタ・スポーツ800。1965年に登場したトヨタ初のスポーツカーである。
現役時代、この車は公道でもサーキットでもホンダS800のライバルだったが、2台のキャラクターはまったく異なる。水冷4気筒DOHC4キャブレターという、濃厚にして精緻な専用エンジンを持つ“エスハチ”(ホンダ S800)に対して、“ヨタハチ”はいわばあり合わせのパブリカ用790cc空冷2気筒OHVを使った。
そのかわり、モノコック構造のタルガトップボディーは一部にアルミを使う軽量設計で、580kgの車重はエスハチより140kgも軽かった。ボディーのタテヨコはエスハチよりひとまわり大きかったのに、だ。
スポーツカーは“軽さ”が命だと筆者は思っている。チカラで走るより、軽さで走るほうが気持ちいいし、楽しい。エンジンパワーに魅力がないとは言わないが、パワーは慣れるし、飽きる。だから、どんどんモアパワーが欲しくなり、それにつれてモアブレーキやモアタイヤも欲しくなる。そして、車はどんどんデブッチョになる。
パワーを増やすなら、車体を軽くしてもらいたい。そんなふうに考える車好きにとって、ヨタハチは実に魅力あふれるスポーツカーである。

スポーツ800の外観

KYOWAクラシックカー&ライフステーションでお借りしたスポーツ800は1965年式。スリーサイズは全長3580mm×全幅1465mm×全高1175mmで、車両重量は580kgだ。発売時の車両価格は59万5000円(東京での価格)
●画像クリックでフォトギャラリーへ

スポーツ800のリア部分

「ジェット機を連想させる」(カタログより)ように曲面を多用したボディー。レンタルは15分3,000円(JAF優待の場合は2,750円 )から。雨天は中止、ガイドの同乗という条件が付く。
●画像クリックでフォトギャラリーへ

のどかな音を奏でて走る、ローテクなエンジン

KYOWAの試乗車は登場年の65年式。博物館から青空の下に出され、トップを外したコクピットに陽が当たる。3本スポークの細いステアリングホイールは直径37cm。今の基準では小径ハンドルの部類だが、このコクピットではむしろでっかく見える。
ダッシュボードに配されたスイッチ類は、おそらくパブリカからの流用だろう。助手席側にかなり大きなアナログ時計が備わるのがおもしろい。
エンジンがかかる。アイドリングが安定すると、45psの空冷2気筒はポロンポロンというのどかな音を立てる、はずなのだが、この車もアイドリング回転数が少し高めに設定されていた。旧車やMTに不慣れな人でもエンストしないようにという配慮である。
計器盤の左端にあるタコメーターはレッドゾーンが5400rpmから始まる。ちなみにエスハチは8500rpmからだ。といっても、試乗時間も距離も限られていた今回、そんな限界性能を確認するようなことはしていない。でも、かつて筆者は長野県で程度極上の69年式ヨタハチに乗せてもらったことがある。木曽ヒノキでつくった空調完備の車庫で暮らすその車は、まさに“軽さで走るスポーツカー”だった。

スポーツ800のインパネ

スイッチ類が少なく、非常にシンプルなスポーツ800のインパネ。最高速度は155km/hだというが、速度計は180km/hまで刻まれている
●画像クリックでフォトギャラリーへ

スポーツ800のシート

S800と同じく、シートベルトやヘッドレストは当時義務化されていなかった
●画像クリックでフォトギャラリーへ

水滴型のフォルムは、いま見ると素晴らしい

子どもの頃、この丸っこいスタイルを正直カッコイイとは思わなかったが、いま歴史のなかでヨタハチを捉えると、スタイリングも素晴らしい。タマゴ型というか、水滴型というか、中から膨らませたようなこのフォルムは、60年前、世界的にも類例がなかった。デザイン的にはトヨタ2000GTよりもオリジナリティが高かったと思う。
今回、気づいたのは、リアクォーターピラーに付く半月形のエアアウトレットだ。車内側のフタを開けると、そこから空気が抜ける。洒落たデザインなので、ただの外装アクセサリーかと思っていた。
そうかと思うと、シート後方の隔壁には車検証ケースを入れておけるような物入れが備わる。トランクもエスハチより広い。日本初のライトウェイトスポーツカーでも実用性能に目配せを怠らないところは、さすがトヨタ車だなあ。なんていう“気づき”を与えてくれるのは、実際モノに触れられる体験試乗ならではである。
試乗できる車はヨタハチ、エスハチを含めて数台だが、KYOWAクラシックカー&ライフステーションには母体である共和工業の金型工場だった館内に、昭和の日本車100台が展示されている。昭和30年生まれの筆者も、たとえばダイハツ・ミゼット以外にこんなにたくさんの三輪トラックがあったとは知らなかった。
2階、3階には家電製品、事務用品、通信機器、カメラ、時計などが所狭しと並べられている。いずれも昭和のものづくりの教材として収集したものだという。そして、そんな消費財の“王様”だったのが自動車だ。KYOWAクラシックカー&ライフステーションは、昭和をモノで振り返ることができる博物館である。

スポーツ800のエンジン

大衆車であるパブリカのエンジンを改良した空冷水平対向2気筒の2U型エンジンを搭載。790㏄の排気量から最高出力45ps、最大トルク6.8kg-mを発揮する

スポーツ800が走る姿

ヨタハチとエスハチ、日本のスポーツカー黎明期の2台に試乗して、それぞれの哲学や違いを確かめるのも楽しい。なお、S800と同様に雨天時はレンタルが中止されるので注意

KYOWAクラシックカー&ライフステーションの車両展示

昭和の車がずらりと並ぶ館内。バイクや3輪トラックも多数収蔵している

壁掛け時計の展示

KYOWAクラシックカー&ライフステーションの展示は車だけに留まらない。時計や雑誌など、昭和の世相を物語る資料がいっぱいだ

スポーツ800をお借りしたKYOWAクラシックカー&ライフステーションには、JAF会員優待があります。詳細はこちらをチェック!

スポーツ800のフォトギャラリーは、こちらをクリック!

ホンダS800の試乗記はこちらから

トヨタ・スタウトの試乗記はこちらから

下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

この記事のキーワード
この記事をシェア

この記事はいかがでしたか?

関連する記事Related Articles