電動アシスト自転車との出会い頭衝突事故
写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
過去の交通事故から、安全運転の方法を探る事故ファイル。今回は、信号機のない交差点で起きた、自動車と電動アシスト自転車の衝突事故について取り上げる。
見通しの悪い交差点に、電動アシスト自転車が進入してきて…
終わりの見えないコロナ禍が続くなか、感染防止対策の一つとして、老若男女を問わず、移動手段に自転車を利用する人が増えているという。
また、コロナ禍に入る少し前から高齢ドライバーによる重大事故が頻発したこともあり、運転免許を自主返納する高齢者が急増。
その結果、車に代わる新たな移動手段として、電動アシスト自転車を利用する高齢者も増えているという。当然ながら、利用者が増えれば事故も増える。
自転車が絡んだ事故といえば、社会問題にもなった「対歩行者」の事故件数がなかなか減らないことも問題だが、割合から見れば、今も圧倒的に多いのは「対自動車」。
なかでも特に目立つのが、信号機のない交差点での出会い頭の衝突事故。
道路交通法上では「車両」同士の事故となるが、どちらに違反があるかに関係なく、被害は自転車側に集中する。
2022年2月中旬のある晴れた日の午後、静岡県静岡市内を横断する片側1車線の市道を白色の軽自動車が東進していた。
軽自動車のハンドルを握るのは50歳代後半の男性。
平日の昼過ぎということもあり、路面店が点在する住宅街を通り抜ける生活道路は車も人も少なく、仕事で毎日のようにこの道を走る男性ドライバーが事故の危険や不安を感じることはなかった。
ほぼ真っすぐに延びる道を、規制速度の時速40㎞を少し超えるスピードで東進する軽自動車。
前方の路面に標示されたダイヤマークを視認するまでもなく、見慣れた信号機のない交差点の手前にのみ設置された横断歩道の周辺に歩行者がいないことをチェックしつつ、速度を変えることなく直進し続けた。
「ガシャン!」
静かな住宅街に鳴り響く衝突音。
事故は起きた。
軽自動車の左側、センターラインのない道幅の狭い交差道路から、時速10~15㎞のスピードで交差点内に進入してきた電動アシスト自転車が、軽自動車の助手席側のドア前部へ突っ込むように衝突したのである。
警察の調べによれば、電動アシスト自転車に乗っていたのは、現場近くに住む80歳代後半の男性だった。
軽自動車と出会い頭に衝突した後、アスファルトに投げ出されるように転倒した男性は、関節脱臼と骨折等による全治6か月の重傷を負った。
「タイミングが少しずれて軽自動車の前面ではねられていたら、死亡事故になっていた可能性は高く、また高齢者の場合は、倒れ方によっては死に至ることもあり、負傷事故で済んだことは不幸中の幸いでした」(清水警察署・増井健吾交通課長)
事故現場の交差点は、すべての角に民家やアパートが建ち、非常に見通しが悪く、軽自動車が東進していた市道側にはカーブミラーが、電動アシスト自転車が南進していた道路側には「止まれ」の標識と路面標示が設置され、停止線も引かれていた。
「当然、自転車は停止線の手前で一時停止し、交差道路の状況を確認すべきでした。一方、白色の中央線が引かれた市道は、自転車側より明らかに広い道でしたが、交差点内まで中央線が引かれていたり、標識によって表示されている『優先道路』ではなかった。見通しが悪い場合は徐行する義務を負いますので、軽自動車も交差点に入る前に十分減速し、徐行すべきでした」(増井交通課長)
どちらにも違反があったとされる今回の事故。
どちらか一方でもきちんとルールを守ってさえいれば、事故は未然に防げたとも思われるが、その原因もまた、住宅街の閑散道路を通行する車両や歩行者はいないだろうという両者の思い込みによるものだったという。
「どちらも現場近くに住み、この交差点の交通ルールについては理解していたようです。自転車の高齢男性も、車と同様に自転車も停止線の手前で一時停止しなければならないことは知っていたが、交差する市道を車が走っていることはほとんどないので、少し減速はしたが、止まらずに交差点内へと進入してしまったと言います。また、軽自動車の男性も横断歩道を渡る歩行者など滅多にいないし、交差道路側の車両は一時停止するだろうと思っており、逆に自転車の男性は、もし車が来たとしても止まってくれるだろうと思っていたようです」(増井交通課長)
当然ながら『〇〇だろう運転』は事故のもとでしかない。
事故を未然に防ぐためには、危険を予知する『〇〇かもしれない運転』が基本であることを忘れてはならない。
特に、自転車に対して絶対的な強者である自動車のドライバーは要注意だ。
自転車利用者もしっかり事故防止の意識を持ち、ルールを守ろう
静岡県では『静岡県自転車条例』を施行し、2019年10月1日から自転車保険への加入と、児童・中学生の自転車通学時のヘルメット着用を義務化するなど、自転車事故対策には積極的に取り組んできたという。
しかし、2022年に入ってから自転車関連事故が急増したことを受け、静岡県警察本部は、新たなキャッチフレーズ『しずおか・自転車事故防止3つの柱+1(プラスワン)』を掲げ、対策強化に乗り出している。
1の柱は「交差点では、周りに気を付けよう!」。
自転車事故の約7割が交差点で発生しており、必ず安全を確認すること。
2の柱は「一時停止場所では、しっかり停まろう!」。
2021年中に県内で発生した自転車事故の5件に1件が自転車利用者側に主な原因があり、その40%が一時停止違反によるものだったという。
「止まれ」の標識や標示がある場所では停止位置でしっかり一時停止し、左右の安全確認を徹底すること。
3の柱は「急がず、ゆっくり走ろう!」。
通勤・通学の時間帯に、スピードを出して走行する自転車が散見されるという。
見通しの悪い交差点や歩道では徐行し、坂道ではスピードの出し過ぎに注意すること。
そして、最後の「+1」は高齢者に向けて、「電動アシスト自転車の特性(加速・車重)を理解しよう!」というもの。
2020年以降県内では、電動アシスト自転車乗用中の死傷者数が増加しているという。
安易な加速や意図しない急加速に注意し、通常の自転車より重量があるため、歩行者との事故では大きな被害を与えてしまうことを忘れないこと。
「自転車事故の起きやすい場所や状況等をもとに、特に注意してもらいたいことを3つの柱+1として掲げていますので、これをそのまま実践していただければ、事故を減らすことはできるし、日々の安全運転にもつながると思います。また、自転車関連事故の件数は高校生を中心とした10代の若者に多く、死亡事故となると高齢者の割合が高いということを捉え、高校生と高齢者を対象とした交通安全教室を定期的に実施し、各警察署による街頭指導なども行っています。ドライバーも自転車利用者も、まずは相手の立場に立って考えてみてほしい。『見えないときほど危険』であり、『いつも大丈夫は、今日も大丈夫ではない』ということを肝に銘じていただきたい」(静岡県警交通企画課・多田義人課長補佐)
事故防止に即効薬はない。事故防止の意識、安全意識を持ち続け、忘れないことが肝要だ。
見通しの悪い交差点では、ドライバーは交差点の手前で十分減速し、徐行しなければならない。
自転車であっても、『止まれ』の標識や標示がある場所では停止位置で一時停止し、左右の安全確認を徹底しなければならない。
電動アシスト自転車は重くふらつきやすいため、バランスを崩しそうな場合は、必要に応じて自転車を降りて押して歩くとよい。