日本と世界の道の雑学

東京・有明の公道で日本初開催のフォーミュラEはどのようなコースで行われたの?

東京ビッグサイト周辺の公道で、フォーミュラEの名残を探す

高橋 学
2024.05.25

写真・文=高橋 学

2024.05.25

写真・文=高橋 学

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今回のテーマは公道を使ったレース「フォーミュラE」。フォーミュラEは電動のフォーミュラカーで競われるFIA(国際自動車連盟)が統轄する世界選手権シリーズです。2024年3月29、30日に公道を使った日本初の世界選手権レースとして東京・臨海副都心(有明)エリアで東京E-Prix(イープリ)が開催され話題になりました。ちなみに公道を使った自動車競技としてはWRC(FIA世界ラリー選手権)や国内のラリー、ヒルクライムなどが行われていて、2020年には島根県で公道での初カートレースとなるA1市街地グランプリが開催されていますが、フォーミュラカーによる公道での世界選手権のレースは初めてとなります。今回は世界最高峰のレースの夢の跡、日常を取り戻したコースを訪ねてみました。

「日本と世界の道の雑学」では道路にまつわるさまざまなトリビアをお届けします。これまで何げなく利用してきた道路にちょっぴり興味を持ちながら運転を楽しんでもらえれば嬉しく思います。

臨海副都心の、誰でも通行できる公道がコースに

レース中の様子

一般道の一部がフェンスで仕切られコースとなりました

コースの日常の様子

日常はこんな感じです

コース全長は2.582km。東京モーターショー(2023年からはジャパンモビリティショーに改称)やコミックマーケット(コミケ)をはじめとする、多くの展示会が催される東京ビッグサイトの周りをグルグル回るレイアウト。ピットや観客席が設置されたコースは駐車場など東京ビッグサイトの敷地内が大半で、実は公道は半分くらい。半公道レースとも言えますが、都心の一般道で実現したことは大きな一歩と感じます。

さて、実際のコースを見てみましょう。一般的なサーキットとの大きな違いはエスケープゾーンやスポンジバリアがないことです。要所に安全対策が施されているとはいえ、一触即発の緊張感の中でのデッドヒートはフォーミュラEならでは。一般道の区間では路面に描かれた「止まれ」の文字や停止線、横断歩道などは世界を転戦するシリーズではお国柄が出る部分とも言えるでしょう。

コースのフェンスの様子

コースは一般道に1枚のフェンスのみ。エスケープゾーンもスポンジバリアもありません。なかなかスリリングなコースです

フェンスが撤去された様子

通常は車道と歩道は植え込みで分離されガードレールがないすっきりとした道路です

路面のペイントや標識に、リアルな公道らしさが現れる

コースには注意喚起を促す赤い舗装区間がありますが、この区間はかなり長くきついコーナーで、実際に走ってみてもしっかり速度を落とさないと危ない反面、安全な速度で走るとけっこう気持ちいいコーナーだったりします。筆者自身も日常生活で使うこともある道路だけに、そこをすさまじい速度で走り抜けるマシンには感動しました。筆者はレース中、取材者としてこの区間に入ることができたものの、ここに観客席が設置されていないのがちょっぴり残念です。スペース的にどこにでも観客席が設けることができるわけでもないところが一般道での開催の難しさかもしれません。

止まれの道路標示の上を走るフォーミュラカー

フォーミュラカーのコースに止まれの路面標示が不思議な感じです。もちろん一時停止などするわけありません

通常は封鎖されたコース

実はここ、駐車場から一般道へ出るために接続部分で普段は封鎖されているようです

赤い舗装の高速コーナーを駆け抜けるフォーミュラカー

赤い舗装の高速コーナーを駆け抜けるフォーミュラカー

同じコースを一般車が走る様子

トラックなどは速度を十分に落としてもかなりロールするコーナーです

多くの観客席が用意された駐車場内のコースも、後から眺めてみると路面が改修されているところがあり、世界一を目指すドライバーたちの夢の跡という感じがします。

タイトなコーナーを攻めるマシン

タイトなコーナーを攻めるマシン。手前に止まれの標示や横断歩道が見えます

落ち着きを取り戻したコース

奥の道路の色を見ると、コースとなった手前側の部分の路面が改修されたことがわかります

これからの可能性を感じる新しい時代のモータースポーツ

今回の舞台となった臨海副都心エリアは、東京ビッグサイトのような展示施設や大きなビルが建ち並ぶもののまだまだ空き地も多く、交通量は多くても人の生活感が薄い場所です。そういった意味では公道レースと聞いてモータースポーツファンが思い浮かべる、F1モナコグランプリやさまざまなカテゴリーのレースでにぎわうマカオグランプリのような市街地レースの雰囲気とはちょっと違います。公道を封鎖して行われる駅伝やマラソンのような陸上競技や、青森のねぶた祭や博多どんたくのようなお祭りのような歴史もありません。

でも、多くのメーカーが世界中で活躍し自動車大国と呼ばれるわが国の道路で車が競走するという、今までなかったのが不思議なくらいのレースが第一歩を踏み出したことは、個人的に嬉しく思っています。

駐車場内のコースを走る様子

世界選手権ながら場所、時間ともにコンパクトでとても親しみやすいフォーマットのレースには新しい楽しさを感じます。周辺への音の問題がないEVレースは開催場所の制限が極めて少なく、これからの可能性も感じました。ちなみに写真のコーナーは路面の白線から駐車場だとわかります

お台場という人気の商業地区と隣り合い、近所に大きな病院もある立地にもかかわらずこのイベントが実現できたのは、フォーミュラEがレースとしては比較的コンパクトな敷地ででき、音が小さく排気ガスも出ない電気自動車によるレースであることは疑う余地がありません。初めてのイベントでしたのでいろいろと改善点も見つかったと思います。それでも個人的には、これまでの魅力的なエンジン音を奏でる既存のレースと共存しながらまったく違う新しいモータースポーツエンターテイメントとして育ってほしいと思います。

ちょっと、いつもの道路の話から脱線した感もありますが、これも日常われわれが利用している道路にまつわるひとコマとしてお伝えしました。

フリーアナウンサーの安東弘樹さんが、日本初開催となったフォーミュラE 東京ラウンドを観戦。公道サーキットならではのメリットと、電気自動車レースならではの魅力とは? 無類のクルマ好きとして思いを語ります。詳細は画像をクリック!

高橋 学

たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。

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