写真・文=高橋 学

道路そのものが観光資源に⁉ “シーニックバイウェイ北海道”とは?

高橋 学

今回のテーマは「シーニックバイウェイ北海道」です。ちょっと聞き慣れないシーニックという言葉は「景観(Scene)」の形容詞「シーニック(Scenic)」と、脇道・寄り道を意味する「バイウェイ(Byway)」を組み合わせたものです。「シーニックバイウェイ北海道」は北海道の大自然を走る道路を観光資源として活用し、活力ある地域をつくる取り組みを制度化したもので、2005年にスタートしました。実はこの制度は1989年にアメリカで制定されたシーニックバイウェイプログラムを参考にして生まれたもので、地域住民や企業、行政が手を取り合って現在道内の14の地域と3つの候補地域、そこを走る道路が指定されています。 「日本と世界の道の雑学」では道路にまつわるさまざまなトリビアをお届けします。これまで何げなく利用してきた道路にちょっぴり興味を持ちながら運転を楽しんでもらえれば嬉しく思います。

目次

道路が観光資源という新しい考え方

これまで観光資源というと美しい大自然や貴重な神社仏閣などの文化遺産、近代的な巨大テーマパークなどを指すことが多く、道路はあくまでそこへアクセスする手段として活用されるものの、それ自体を観光資源として捉えることはあまり多くはありませんでした。もちろん、きちんと整備されて走りやすく風景が美しい人気の道路はこれまでも全国にあり、中でも北海道はドライブルートとしての人気がとても高く、ツーリングを楽しむライダーにはすでに定番となった感もあります。

しかし今回紹介する「シーニックバイウェイ北海道」のように都道府県単位で組織的に道路を観光資源と考え、その魅力を地域住民、企業、行政が手を組んで磨き上げていこうとする取り組みは珍しいものです。その取り組みは地域団体による沿道の除草や除雪、清掃活動やイベントの開催、PR活動はもとより、美しい景観にはそぐわないような門型標識柱の撤去や防護柵の撤去・改善など、道路管理者でないとできないようなことにまで及び、その徹底ぶりが感じられます。

北海道内に指定されているシーニックバイウェイ

北海道内に指定されているシーニックバイウェイ(画像提供:国土交通省 北海道開発局)

シーニックバイウェイの表示

国道番号の案内標識とともに設置されたシーニックバイウェイの表示(支笏洞爺ニセコルート/喜茂別町)

十勝シーニックバイウェイ 十勝平野・山麓ルートを走ってみました

石狩川を渡る国道273号

石狩川を渡る国道273号。雪の残る山々が美しい

十勝シーニックバイウェイ 十勝平野・山麓ルート は、帯広の北側、上士幌町を中心とした地域にあり、今回はこの地の主要幹線、国道273号を走ってみました。

この国道273号は1987年に廃止された旧国鉄士幌線と並走する道路で、鉄道橋の跡を数多く目にします。今や観光地として人気のタウシュベツ川橋梁(きょうりょう)跡もこの士幌線の跡地で、国道から200mほど離れたところに展望台も用意されています。しかしながら今回訪ねた5月中旬には直近にヒグマの目撃情報もあり、一人旅だった筆者はたった200mの林道散策が怖くて見学できませんでした。

ちなみに、この地はかつて原始林に覆われた断崖絶壁だったそうで、走行中も大自然の雄大さを大いに感じるとともに、ここに鉄道や道路を通した先人たちの苦労も感じられます。そんなことも考えながらこの風景の中をドライブするのは、まさに雄大な自然と歴史を一気に楽しめる観光そのもので、シーニックバイウェイ北海道の魅力を満喫できました。

第五音更川橋梁

旧士幌線の廃線とともにその役割を終えた第五音更川(おとふけがわ)橋梁は、1938年に完成した長さ109mのコンクリート製アーチ橋。国道273号沿いには橋梁跡など旧国鉄士幌線の痕跡が数多く見られます

シーニックバイウェイ「秀逸な道」

十勝シーニックバイウェイ 十勝平野・山麓ルート「秀逸な道」選定区間

青い空、白い木の幹と新緑が美しい白樺並木を眺めながら直線道路をドライブするのは気持ちいいものです(十勝シーニックバイウェイ 十勝平野・山麓ルート「秀逸な道」選定区間)

シーニックバイウェイに選ばれたルートの中でも特に魅力的な景観をもつ道路は「秀逸な道」として認定されています。2024年5月現在、選定区間に12、候補区間に6つの「秀逸な道」があり、その区間には標識が設置されていてドライバーやライダーにわかるようになっています。それにしてもアメリカ生まれのシーニックバイウェイのなかでも特に選ばれた道のネーミングが「秀逸な道」とはなかなかお堅い表現ですね。今回走った国道273号でも、かつての旧国鉄士幌線の十勝三股(とかちみつまた)駅跡地あたりから三国峠展望台までの13kmが「秀逸な道」に選定されています。

緑深橋から眺める松見大橋

国道273号緑深橋(りょくしんばし)から眺める松見大橋。ドローン撮影ではなく実際にこう見えます(現在、緑深橋上から安全に眺められるような対策が施されていますが、この対策は10月下旬までの試行実施とのことです)

「秀逸な道」の終点

「秀逸な道」の終点。こちらは英語でSee you! 北側から南下する人はここが「秀逸な道」のスタートです

名所旧跡などを訪ねる旅もとても楽しいものですが、車やバイクで走ることそのものを楽しむことを主眼とした「シーニックバイウェイ北海道」は、雄大な自然の中、整備された道が延々と続く北海道ならではの魅力にあふれていました。なにより走る楽しさや気持ちよさを観光の軸と捉え地域住民と企業、行政が一丸となって取り組んでいることは自動車ファン、バイクファンにとって嬉しいものです。北海道旅行を計画する際は一度ウェブやパンフレットなどで「シーニックバイウェイ北海道」について情報収集してみてはいかがでしょうか。

高橋 学

たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。

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