日本と世界の道の雑学

地面に突き刺さった道路? その正体は…

高知県香南市の手結港可動橋は、開閉する姿がショーのよう

高橋 学
2024.04.03

写真・文=高橋 学

2024.04.03

写真・文=高橋 学

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

今回のテーマは「可動橋」です。河川に橋を架けると人や車は渡れるようになりますが、それまで通っていた船舶が橋をくぐれずに往来できなくなることがあります。そこで一時的に船舶を避けるように橋桁を動かす構造をもつ橋が考え出されます。これが可動橋です。世界中にはいろいろなタイプの可動橋があり、河川が多く海に囲まれた日本でも数多く見られます。水運の減少や通常の橋より複雑な構造ゆえの老朽化、道路交通の増加などさまざまな理由で、東京都の勝鬨橋(かちどきばし) のように現在は可動せず、通常の橋として使用しているところも少なくありません。

そのような中で今回紹介する「手結港(ていこう)可動橋」は2002年に竣工した新しい可動橋で、もちろん現役で運用しています。

「日本と世界の道の雑学」では道路にスポットを当てたお話をお届けします。これまで何げなく利用してきた道路にちょっぴり興味を持ちながら運転を楽しんでもらえれば嬉しく思います。


橋桁が地面に突き刺さったような不思議な風景

のどかな漁師町と最新の可動橋の組み合わせはどこか不思議さを感じる

のどかな漁師町と最新の可動橋の組み合わせはどこか不思議さを感じる風景です

高知県香南(こうなん)市にある「手結港可動橋」は正式には「高知県手結港臨港道路可動橋」といい、2002年9月に完成しました。全国に数ある可動橋の中でもかなり新しいものです。跳開橋という跳ね上げタイプで、32.8mの橋桁を油圧シリンダーで約6分かけて跳ね上げます。跳開角度は70度と大きく、跳ね上げ時にはまるで空から降ってきた橋桁が地面に突き刺さったような姿で、かなり異様な感じもします。跳ね上げを開始する前には鉄道の踏切のような音を立てながら遮断機が道路をふさぎますので、その一連のプロセスは歴史ある港町の風情の中で繰り広げられる6分間のショーのようです。

昇開橋に設置される遮断機

橋がはね上がる前に遮断機が作動する

歴史的価値の高い手結港

江戸時代初期の風情を今に残す手結港

現役の港ながら江戸時代初期の風情を今に残す手結港

この可動橋によって船舶が行き来する手結港は、実はとても貴重な港です。太平洋に面した港の奥にもう一つの港がある二重の構造になっていて、太平洋側の港は手結外港、その奥の港は手結内港といいます。作られた時期に関しては諸説ありますが、現地の看板によると手結内港は1650年に築港に着工し、1657年に竣工したと記されています。日本初の本格的掘り込み港で、その規模も江戸時代初期のものとしては最大級だそうです。手結外港は大正時代につくられたもので、どちらも現役の港として多くの漁船が係留されています。外港と内港の境にあるのが手結港可動橋というわけです。内港の周囲には幅の狭い道路がありますが、この地域に用事のない車両は可動橋をバイパス的に利用することで、この地域の生活道路に入りこむことなく通過できます。21世紀に入って作られた最新の可動橋は、江戸時代初期から続く港町の風情の保全にも大きく寄与しているようです。

新しさを感じるデザインの橋名板

新しさを感じるデザインの橋名板

昇開橋周辺の道路の様子

橋が上がって通行できない時間帯でも生活道路を利用すれば行き来はできますが、道が狭いので注意が必要です

歴史ある港町で繰り広げられる6分間の開閉ショー

可動橋が通れるのは1日あたり6回です。通行できる時間は以下の通り(2024年3月20日現在)。

  • 6:30~8:00
  • 9:00~10:00
  • 11:00~12:00
  • 13:00~14:30
  • 15:00~16:00
  • 17:00~18:00

通行可能な時間帯を示す標識

標識に通行可能な時間帯が示されています

つまり1日のうち橋を通行できるのは7時間です。この通行可能時間には6分間の開閉時間も含まれますので実質的には6時間弱でしょうか。橋のたもとには見学用の無料駐車場もあり、垂直に見えるほどの角度に跳ね上がる橋を眺めるのは、橋のマニアでなくてもなかなか楽しいものです。たもとから見上げるも良し、江戸時代から続く港越しに見るのも良し、港を見下ろせる操作室の上部から眺めるも良し。どこから見ても絵になる6分間のショーです。

橋の操作室の上から眺めた姿

橋の操作室の上から眺めると江戸時代から続く港の風情とメカニカルな橋の動きが一度に楽しめます(操作室の上には誰でも自由に上がれます)

航空機から見た手結港と可動橋

高知龍馬空港から羽田に向かう飛行機の窓からは、手結外港と内港、そして橋桁が地面に突き刺さったような可動橋が見えました

高橋 学

たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。

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