「ルー流茶道でお茶を気軽にエンジョイ! 」 ルー大柴先生の茶道論
私の推し活語ります【後編】お笑い芸人から俳優、ミュージシャン、文化人まで幅広いジャンルの著名人が「今、とくに夢中になっている趣味」をテーマに、まさかと思うような意外な偏愛嗜好について論じます。 第6回は50代から茶道を始め、今では大柴宗徹(そうてつ)として師範の免状を持つタレントのルー大柴さんが考案されたルー流茶道についてお伺いしました。
もっと手軽に気軽に茶道を始めてみたい
前回のコラムを読んでくれた皆様がこれから茶道を始めたいと思ったら、まずは流派を探して門下生になるのが良いと思います。
茶道は流派によって所作や特徴が異なります。私は遠州流という江戸時代初期の大名茶人、総合芸術家として有名な小堀遠州(こぼりえんしゅう)を流祖とする武家茶道を学んでいます。
特徴はサウザンド利休(千利休)の「わび」「さび」に王朝文化の雅(みやび)を持ち込み、独特の美意識を醸成させた「綺麗(きれい)さび」と呼ばれるもの。武士の茶道ということもあり男性が着物を着て凛々(りり)しく行う茶道で、とても迫力がある。
また遠州流では水差しや茶釜、茶杓(ちゃしゃく)などのお道具もすべて用意されています。お稽古で使うお茶碗、茶筅、茶器などすべて、私などとても買えないほど高価で歴史的にも価値の高い“本物”を使います。最初は触ることすらためらうほど怖かった。
流派に入って本格的にお茶の点(た)て方を学ぶのは難しい、時間がないという方も多いでしょう。また若い人たちが興味を持っても、お金もかかるし格式が高いのでなかなか決心しづらい。もっと手軽に気軽に茶道を始められたらと思いませんか。
そこで私はルー流の茶道というのを考えました。
正式な作法とはいかないけれど、インスタントのセットでどこでもお茶を点てられる。それがルー流茶道です。私も舞台公演で1か月ほど地方に行くときは、楽屋で共演者にお茶を点てて差し上げています。
釜や柄杓(ひしゃく)がなくても抹茶、茶碗、茶杓、茶筅とポットの湯などがあればお茶が点てられるインスタントなセット。
正座せずにテーブルとイスでお点前をして、フランクな感じで飲んでいただく。たとえばお茶碗も素焼きの安い物で良い。もし外国だったら小さなカフェボールのようなものでも良いでしょう。私も以前に外国の方にお茶を点てる機会があって、とてもリスペクトされたことがあります。またお茶をドリンクする前に主菓子(おもがし。茶席の濃茶<こいちゃ>に出す和菓子。 練り切り・まんじゅうなどの甘みと量感のあるもので、時候や歳時に合わせた形や銘を持つものを用いる)をお茶と一緒に一口食べるのですが、これも甘い物であればチョコレートでもOKです。
ただし、お茶はなるべく良い物を選んでください。できればスーパーマーケットなどではなくてお茶屋さん、もしくはデパートにある缶に入っているお抹茶にしましょう。
このようにルー流茶道ではハードルを低くして、まずはやってみようという気持ちになることが大事だと思っています。シャカシャカやればお茶は点つ。今はネットでお茶の点て方も調べられる。もっと気軽に、硬くならずにお茶を楽しんでほしいのです。
石川県金沢市の窯元、大樋一平さんが焼かれた飴色の大樋焼(おおひやき)。お客様からいただいたルーさんお気に入りの茶碗。
おもてなしの気持ち
それと機会があれば茶人の点てたお茶を飲むことによってハートをウォーミングしてほしい。私もお茶をいただいたときに「こんなにおいしいお茶いただいてありがとうございます」と、とてもイノセントで純粋無垢(むく)な「おもてなしの気持ち」に満たされて感謝します。
「おもてなし」というのはお客様に対して心を込めて接するということ。人と人とのコミュニケーションの間に点てるお茶というのがベリーインポータント、重要だと思います。このお茶を一服飲まれた方が幸せな気分になる。ほっとする。そこに非常に魅力を感じます。これはやってみないとわからないかもしれない。
大柴宗徹。その真剣なまなざしはルー大柴のときには見られない?
茶道は所作を究め、同じ動きを繰り返すことに美しさがあります。このルーティンを繰り返すことで自分の中の静けさを取り戻し、心を落ち着かせることができます。茶道によって冷静さを保ち、そして何より幸せを感じることができる。茶人としてお茶を点てて、お客様に喜んでいただける幸せを得て、逆に客としておいしいお茶をいただき、ほっとする幸せが得られるのです。
人間は慌ただしいものです。常に洪水のような情報が溢(あふ)れ、外国では戦争が起きています。そんな現代だからこそ、あえてこの茶道というお茶を点てるコミュニケーションで、穏やかな気持ちを取り戻したいと切に願います。
そしていつの日か、野点(のだて)といって屋外で茶または抹茶をいれて楽しむ茶会を外国で開きたい。外国の広場でお茶を点てて、たくさんの方に飲んでいただきたいというのが夢です。私は50歳になって茶道を始めましたが、挑む気持ちがあれば年齢は関係ないと実感しています。この夢も叶(かな)うように挑んでいきたいし、もっと茶道の奥深さを多くの人に知ってもらいたいです。
ルー大柴
るー・おおしば 1954年新宿生まれ。日本語と英語をトゥギャザーした話術を使う独自のキャラクターで活躍。芸能活動のほか、2007年NHK『みんなのうた』に採用された「MOTTAINAI」をきっかけに、富士山麓の清掃や地域のゴミ拾いなど環境活動にも積極的に取り組む。趣味はドジョウやメダカの採集、水墨画。遠州流茶道師範、山野美容芸術短期大学客員教授。