ひとりで歩く鄙び温泉街。旅情に浸る温泉5選
木造旅館、石畳、外湯文化。夏に訪ねたい静かな湯の町へ全国には数多くの温泉地がありますが、旅の記憶に深く残るのは、便利さや華やかさだけでは語れない町の風景だったりします。川沿いに並ぶ木造旅館、湯煙の立つ路地、石畳に落ちる街灯の明かり、浴衣姿で外湯へ向かう人の背中。
ひとりで歩くからこそ、そんな温泉街の空気が静かに染み込んできます。今回はソロドライブで訪ねたい、旅情と郷愁に満ちた鄙(ひな)びた温泉街を5か所紹介します。
ソロドライブをしたのは
栗原悠人さん(一人旅研究会)
くりはら・ゆうと 旅情・郷愁探訪家。1995年生まれ。旅情と郷愁を求め、日本全国のひなび空間・退廃的空間・秘境・温泉などを巡る。撮影した写真や動画を一人旅研究会 ウェブサイトやX、YouTube等で紹介している。著書に『ノスタルジック写真集』(マール社)、7月16日に新刊『いますぐ行きたい日本の旅 愛すべき日本のノスタルジア』(実業之日本社)を刊行。
1. 群馬県/四万(しま)温泉…最古の木造湯宿と渡り廊下に出会う、上州の湯の町
渡り廊下が頭上を通る
このお宿の高い所からも渡り廊下が伸びている
日本最古の木造湯宿建築、積善館
夜の積善館
群馬県の四万温泉は山あいの川に沿って細長く形成された温泉街で、全長は3.5kmに及びます。温泉街はいくつかの地区に分かれており、新湯(あらゆ)地区にはなんと、日本最古の木造湯宿建築である積善館本館が建っています! 周辺には、かつての煙草売場跡を残す昔懐かしい木造商店があり、道路の上をまたぐ渡り廊下にも目を奪われました。温泉の効能、湧出量、温度に恵まれ、環境も良いことから、保養地として活用され、青森県の酸ヶ湯(すかゆ)温泉、栃木県の日光湯元温泉とともに「国民保養温泉地」の第1号に指定されています。
2. 山形県/銀山温泉…夕暮れの明かりに包まれる、大正ロマンの温泉街
夜。幽玄な姿の旅館が並ぶ姿にワクワクする
赤い欄干の橋を渡った先の圧巻の木造旅館
川をまたぐ橋が連続して並ぶ
夕暮れ時。宿から漏れる灯が美しい
雨が降る朝の銀山温泉街
山形県の銀山温泉は銀山川の両岸に木造旅館が軒を連ねる、大正ロマン漂う温泉街です。3階建て、4階建ての木造建築が並ぶ姿は圧巻。「こんな風景が日本にまだ残っているんだ」と惚れ惚れしました。特に夕暮れ時の、ガス灯が灯(とも)り、川面と石畳にやわらかな光が落ちる光景が人気で、国内外からの観光客の姿が絶えません。幻想的な町並みを見れば、これだけ混むのもうなずけます。人混みを避けるなら早朝が狙い目。冬季は混雑対策として入場規制が実施される場合があるため、訪問前に最新情報をご確認ください。
3. 和歌山県/湯の峰温泉…熊野古道の途中で浸かる、“入浴できる世界遺産”
夕暮れ時の湯の峰温泉街を歩く
画面中央に写るのがつぼ湯
つぼ湯で自撮り
川沿い。湯煙もくもく
温泉の香りが心地よい
入浴可能な世界遺産の温泉があるのをご存知でしょうか? 和歌山県田辺市の熊野古道沿いにある湯の峰温泉は、日本最古の温泉ともいわれ、多くの旅人が熊野詣の道中で身を清めた場所。「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されており、中心部にあるつぼ湯は世界で唯一、入浴できる世界遺産なのです! つぼ湯への入浴は当日予約制。白濁した極上の湯に身を沈めた後、温泉街を散策しました。川沿いには湯煙が立ち、明かりが町を照らします。辺りに優しくにじむ明かりを見ているとどこかほっとします。私が生まれるずっと前から、熊野詣をする旅人たちがこの地で身を清めていた光景が湯けむりの向こうに浮かび上がるようでした。
4. 山口県/俵山温泉…外湯文化が今も息づく、山あいの小さな湯治場
街灯が優しく辺りを照らしている俵山温泉街
俵山温泉街の案内図
お土産屋さんなどが並ぶ一角
この日は泉屋に宿泊した
翌朝。朝日に照らされて山の緑、石州瓦の橙色が優しく浮かび上がる
山口県俵山温泉は小規模な旅館が肩を寄せ合う、古き良き湯治場。細い路地に足を踏み入れれば、奥深くへ吸い込まれるような街並みが続き、鄙びた温泉街を愛する人には、たまらない空間が広がります。そして気になる泉質は、「全国平成温泉番付」において西の横綱にも選ばれているほど! その泉質を守るため、多くの宿が内湯を持っていません。そのため、宿泊客は浴衣で路地を歩く、昔ながらの外湯文化を楽しめます。温泉街の原風景に浸りたいなら、ぜひ訪ねてほしい場所です。
5. 大分県/湯平(ゆのひら)温泉…石畳と赤提灯が旅情を誘う、大分の名泉地
素敵だ……。この景色は自作の写真集の表紙にも起用した
こんな感じの温泉街の風景が好きだ
温泉街の中心である、石畳の通り
幽玄な雰囲気が漂う
散策後、銀の湯で汗を流した
大分県の湯平温泉は石畳の坂が続き、郷愁へと誘う温泉街。一歩温泉街へ足を踏み入れると、赤提灯が軒下に灯され、石畳をやわらかく照らす光景が目に飛び込んできます。薄暗がりの中、ボヤっと浮かぶ光の赤い点が坂に沿って奥へ奥へと続いていく様子は、常世(とこよ)への入り口ではないかと錯覚するほどの妖麗な雰囲気です。これほど美しい光景が広がる温泉街は、国内を探してもそう出会えません。提灯は2021年の豪雨災害からの復興を願って設置されたのだとか。ここで感じた旅情は、華やかな観光地のそれとは異なりますが、静かに、しかし確かに胸の奥へと染み込んでくるのでした。
まるで異世界。鄙びた温泉街へようこそ
温泉街の魅力は、名湯や名宿だけでは語り尽くせません。古い旅館、路地を照らす街灯、外湯へ向かう人の姿、湯を運ぶ配管までもが重なり、その町だけの空気をつくっています。湯に浸かり、町を歩き、昔から受け継がれてきた温泉文化に触れる。そんな静かな旅情を味わいたい方は、次のソロドライブの目的地に、少し鄙びた温泉街を選んでみてはいかがでしょうか。
一人旅研究会が選ぶ、旅情に浸れる鄙び温泉街5選マップ
一人旅研究会さんのソロドライブ記事はこちらから
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