東北秘境宿5選。一度は泊まりたい名宿を訪ねる
青森青荷温泉、山形肘折(ひじおり)温泉、宮城東鳴子温泉、福島和泉屋旅館、岩手花巻温泉郷…東北の秘湯ガイド東北の町々や山あいにひっそりと佇(たたず)むひなび宿。木造の廊下を歩くと、遠い昔の旅人の足音が聞こえてくるようです。ゆらめくランプの明かり、雪に閉ざされた景色……。心地よい静けさが郷愁を誘います。初めて訪れるのにわが家に帰ってきたような安心感。長年旅人に愛されているひなび宿は、訪れる人の心を静かに癒やしてくれるのです。
ソロドライブをしたのは
栗原悠人さん(一人旅研究会)
くりはら・ゆうと 旅情・郷愁探訪家。1995年生まれ。旅情と郷愁を求め、日本全国のひなび空間・退廃的空間・秘境・温泉などを巡る。撮影した写真や動画を一人旅研究会 ウェブサイトやX、YouTube等で紹介している。著書に『ノスタルジック写真集』(マール社)など。
1. 青森県/青荷(あおに)温泉…ランプに照らされる、旅情満点のお宿
宿泊した部屋
ストーブをたいて、外の雪景色を眺める
夕飯
雪景色の健六の湯
紅葉の健六の湯
●ランプの宿 青荷温泉
/青森県黒石市沖浦青荷澤滝ノ上1-7 Tel.0172-54-8588
“ランプの宿”として知られる、非日常空間を体感できるお宿です。宿の敷地には電気が通っておらず、非常用設備を除いて照明はすべてランプで、携帯の電波も通じません。夜はランプの淡い光が宿を包み、木造建築と相まって昔ながらの旅情が味わえます。豪雪地帯にあり、冬は専用バスでしか行けない秘境感も魅力です。複数ある浴場の中で、私のお気に入りは健六の湯。広々とした窓からは、新緑、紅葉、雪景色など季節ごとに異なる景色が見え、訪れるたびに感動します。
2. 山形県/三浦屋旅館…豪雪地帯のひなび温泉街、肘折(ひじおり)温泉街の名宿
外観。町歩きも楽しい温泉街だ
玄関。雪を下ろす音が聞こえた
とても急な階段
宿泊した部屋
濃厚な成分の温泉
●三浦屋旅館
/山形県最上郡大蔵村南山490 Tel.0233-76-2046
山形県最上郡大蔵村にある肘折温泉は、開湯から1200年以上の歴史があります。木造の旅館や共同浴場が軒を連ねる、ひなびた雰囲気が素敵です。屋根から雪下ろしをする風景が見られるのは豪雪地帯ならでは。一定のリズムで聞こえる「ドスン」という音に雪国旅情を感じます。三浦屋旅館は廊下が外側に配され、部屋は内側にあるため、冬でも比較的暖かく過ごせる造りになっています。1月中旬の訪問でしたが、温泉が熱めだったので冷えた体にとても染みました。
3. 宮城県/高友旅館…超濃厚な温泉が楽しめる宿
高友旅館の入り口
館内図。廊下が入り組んでいる
スケルトンタイプの鍵、好き
黒湯。独占できたのはよい思い出
朝風呂。神々しささえ感じる空間
●東鳴子温泉 高友旅館/宮城県大崎市鳴子温泉鷲ノ巣33−1 Tel.0229-83-3170
東鳴子温泉にある大正期創業の木造旅館です。館内は横にも奥にも増築を重ねた複雑な造りで、昭和の趣を強く残す客室が旅人を迎えます。個性的な泉質の黒湯が特に人気で、油分を含む独特な香りの温泉は全国的にも珍しく、湯上がり後も数日身体に香りが残るほど強烈です。宿泊した際、黒湯の色が夜と朝で異なっており、自然の神秘を感じました。館内にはいくつもの浴室がありますが、辿り着くまで入り組んだ廊下を歩くため探検気分で湯巡りが楽しめます。
4. 福島県/和泉屋旅館…戦後、進駐軍も宿泊した国の登録有形文化財の木造ひなび宿
正面から。ザ・木造旅館
玄関
奥には洋間や会議室がある
お部屋で夕飯
朝。霧が立ち込めていた
●和泉屋旅館 /福島県南会津郡南会津町田島上町甲4047 Tel. 0241-62-0048
福島県の会津田島駅付近はかつて大火に見舞われ、その後に広い通りと看板建築が並ぶ現在の町の姿へ生まれ変わったといいます。和泉屋旅館は1934(昭和9)年に建てられた木造二階建てで、国の登録有形文化財に指定されています。館内は奥行きが深い造りで、廊下は曲がりくねり、和室が並びます。戦後進駐軍の指定旅館にもなっていたため、洋室や応接間などもあります。格式高い和室や細かい彫刻が施された欄間など建築美が随所で光る建築なので、建築好きは訪れる価値ありの旅館です。
5. 岩手県/中嶋旅館…築約100年! 思わず見とれる木造四階建て旅館
とても素敵な外観
歩くのが楽しくなる複雑な造り
随所に意匠が凝らされている
お部屋。落ち着く
豪勢な宿飯
●花巻温泉郷台温泉 中嶋旅館 /岩手県花巻市台1-190 Tel.0198-27-2021
花巻市の花巻温泉郷にはいくつもの人気温泉地があり、そのうちの一つに台温泉があります。温泉街の奥にそびえる中嶋旅館は1928(昭和3)年創業。100年近くも前からある木造4階建ての堂々たる外観は圧巻です。夜になると、美しい建物の荘厳さに窓から漏れ出す照明の明かりが加わり、幽幻な姿に魅了されます。館内では吹き抜けの階段や入り組んだ廊下にくぎ付けに。名物である岩盤をくり抜いて作られた天然の岩風呂に浸かり、源泉かけ流しの湯を楽しみました。
不便こそ旅の醍醐味! ひなび宿の魅力
ひとりの旅人を迎え入れてくれる素敵なお宿。時にはお湯が出なかったり、洋式便座がなかったり、電波が通じなかったり、不便に思うこともあるかもしれません。でも、「便利」は旅で追求しなければならないものでしょうか? 新しい宿には出せない時間経過による風情と、長く愛されてきた建物に触れること。これが「ひなび宿」の魅力です。その贅沢を求めて、また次のお宿を目指すのです。
一人旅研究会流、旅程のたて方
行き先をどんなふうに決めているか、私なりのやり方をご紹介します。まず、行き先を探すときは以下の5つを情報源に行きたい箇所を探し、地図に落とします。
- 1 . Xでフォローしている方々の投稿
- 2 . ストリートビューや航空写真
- 3 . 特定のジャンルに特化した旅行系個人サイト
- 4 . 書籍
- 5 . 現地に行ってみて偶然出会える景色
そうして行きたい場所がある程度まとまったら、その地域を訪れています。また、泊まりたい宿・星空スポットがある場合は目的地として固定。新月の日、日没・日の出時間等を確認しつつ、「その場所がもっとも綺麗に見える日時」を考えて旅程を組みます。宿に泊まる日もあれば車中泊の日もあります。最終目的地に着くのが深夜だったり出発が朝5時だったり、ご飯をとる時間がなかったり……と、一人ドライブなのでやりたいように旅程を組んでいます。
- ※現地の詳しい情報は、各自治体ウェブサイトなどをご参照ください