北海道裏観光地まとめ5選 廃駅、炭鉱跡、噴火遺構…激渋スポットをめぐる
一人旅研究会が厳選する北海道ひっそりドライブ7月に掲載した「夏の北海道郷愁スポット」に続き、今回も北海道特集です。 前回とは趣向を変え、往時の繁栄をしのぶような、「喜怒哀楽」でたとえるなら「哀」寄りのスポットをご紹介します。私にとって旅は、「喜」「楽」を感じるために行くものですが、陰のある部分や寂しい感情に触れることも醍醐味(だいごみ)だと思います。夏が終わりに近づき、少ししんみりする季節。愁いを帯びた、物悲しいとき。人気観光地としてキラキラとした北海道とは別の、裏の顔を見てみませんか?
-
ソロドライブをしたのは
栗原悠人さん(一人旅研究会)
くりはら・ゆうと 旅情・郷愁探訪家。1995年生まれ。旅情と郷愁を求め、日本全国のひなび空間・退廃的空間・秘境・温泉などを巡る。撮影した写真や動画を一人旅研究会 ウェブサイトやX、YouTube等で紹介している。著書に『ノスタルジック写真集』(マール社)など。
1. 別海町 / 旧標津(しべつ)線光進(こうしん)駅跡…自然に返りつつある美しい廃駅
復元された駅名標
コンクリート製のホームには植物が生い茂っている
現在、線路は取り払われている
ホームへ続く階段
ここに鉄道が通っていた
森の中にひっそりと残された光進駅跡。1989年(平成元)に廃線となった標津線の駅で、当時から防風林に囲まれた静かな場所にあり、周囲には人けがありませんでした。「秘境駅」という言葉が生まれる前から光進駅は秘境駅と呼ぶにふさわしい空間だったのでしょう。線路があった場所には草木が育ち、かつて駅だったことを想像するのが難しくなっています。この場所に列車が止まり、駅を必要とした人たちの生活が確かにあったと想像すると、なぜか胸がぎゅっとします。
2. 鹿追町 / 然別湖(しかりべつこ)湖底線路…湖に続く、魅惑の線路
『千と千尋の神隠し』で見たような光景
湖に向かって線路が延びている
湖の透明度が高くて奇麗だ
北海道鹿追町の然別湖。市街地から離れた山あいに広がるこの湖には、まるで異世界に続くような湖底に沈む線路が存在します。鉄道が通っていた線路ではなく、冬前に船を湖から引き揚げ、春に湖に戻すために使われているものだそうです。透き通る水の中に沈む線路は、空や山々を映す湖面と一体となり、まるで『千と千尋の神隠し』のワンシーンのような幻想的な美しさを見せてくれます。
3. 新得町 / 石勝(せきしょう)線…線路下をくぐるコンクリート通路から見える夏
青い空と白い雲。勢いを感じる緑の夏色
狩勝峠をめざす廃線跡。1966年まで列車が通っていた
昔線路だった部分は遊歩道になっている
コンクリート通路の上を石勝線が走っている
通路越しに夏を見つめる
札幌、旭川、帯広の間は険しい山岳地帯が続き、かつては交通の難所でした。 鉄道(根室本線)で帯広から滝川へ向かう際は、新得駅を過ぎた後に狩勝峠の相当な高低差を乗り越えなければなりません。勾配に弱い鉄道が峠を越える仕事は相当なもので、急勾配を緩和するための新線が1966(昭和41)年に作られたほどです。この周辺では、線路の下を通る道路のために、ボックスカルバート(※)が通されています。緑に包まれた通路を抜けた先には夏空と山並みが広がり、人工物と自然が美しく調和した風景に癒やされました。
※箱型のコンクリート構造物のこと
4. 夕張市 / 旧北炭清水沢火力発電所…見学可能な大迫力の産業遺産
旧北炭清水沢火力発電所の外観
計器類は一か所にまとめられている
床から天井までは7~8mほどあり、かなり高い
大きな窓が並ぶ
窓の外から差し込む光が美しい
1926(大正15)年、夕張での北海道炭礦(たんこう)汽船株式会社による炭鉱開発に伴い建設された清水沢火力発電所。ここで生まれた電力は、当時としてはかなり遠方まで届けられていたといいます。周辺の炭鉱の閉山が相次いだこともあり1992(平成4)年に役目を終え、産業遺産としてその歴史を静かに伝えています。重厚な建屋の造りと鉄骨の構造美は、時を経てもなお圧倒的な存在感を放ち、炭鉱の歴史と美しさを今に伝えています。 内部が見学可能(事前予約制)ですので、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
5. 洞爺湖町 / 有珠山(うすざん)噴火遺構…噴火被害で打ち捨てられた場所
沼地化した旧国道230号
一台のクルマが水没していた
火山活動で隆起した道路
噴火で折れてしまった電柱
かつてのアパート最上階からは大きな木が飛び出していた
2000(平成12)年の有珠山噴火により、住民たちはこの地を離れざるを得なくなりました。噴火が落ち着いた今では遺構として整備され、当時の被害を物語る建物や風景を間近に見ることができます。熱泥流が堆積した地には静けさが漂い、西山山麓の旧国道230号沿いには、噴火によってできた沼地に白い廃車がぽつんと残されています。背後には水没した家屋も見られます。噴火の前、日常的にこのあたりの道を走っていたあのクルマは、今、いったい何を思い続けているのでしょうか。
風化が進む激渋スポットを訪ねる
人口減少や産業構造の変化、そして災害などにより、私たちの知っている風景は変化し続けています。人工物は、人の手が介在しなければ数十年もたつと自然と同化していきます。今回取りあげた場所は、まだ人のいた頃の存在感が残っているほうですが、既に風化してしまった場所もあります。特に炭鉱産業が盛んだった北海道では、1万人以上が住んでいた街ごと自然に返っているところもあって、移り変わる景色を目の当たりにすると胸が締め付けられます。そこが誰かの故郷だったことに思いをはせ、しのぶのもひとつの旅のあり方だと思うのです。
ソロドライブで見つけた面白い道路標示
折れ曲がった「止まれ」
「軽」の略字
道路標示には、ユニークなものや地域性を感じるものがあります。たとえば、「幅員減少」は栃木県などでは「巾員減少」と、省略された字が用いられていることが多いです。また、「止まれ」の文字が道路の形状に合わせてやむを得ず曲がって書かれている標示、駐車場で「軽」自動車の「車」が省略された標示を見かけることも。 普段あまり気にすることはないかもしれませんが、ちょっと注意してみると、面白い標示が見つかるかもしれませんよ♪