自分を見失っていたとき、原点に返ったLAの3時間ドライブ〈Donny Hathaway / What's Going On〉
アカペラボーカルグループRAG FAIRの土屋礼央さんが、とっておきのドライブソング4曲を紹介!音楽好きの著名人たちが、月替わりで自動車やドライブにまつわる音楽との思い出とともに至高のドライブミュージックを紹介します。 今月お届けする4曲の選曲を担当するのは、アカペラボーカルグループRAG FAIRのメンバーで、ソロ活動やテレビ・ラジオ出演など多彩な活動を続ける土屋礼央さんです。
2曲目
〈Donny Hathaway / What's Going On〉
アメリカで片道3時間車を走らせ、憧れのライブハウスへ
RAG FAIRでデビューしてから年に数日しか休みがないスケジュールが続いていた2006年、無理を言って1週間ロサンゼルスに行ったんです。やりたいことと求められることの齟齬(そご)に悩んでいた時期で、初心に戻りたかったというか。
大学生のときに先輩からダニー・ハサウェイの『LIVE』を貸してもらって聴いたら、曲や演奏はもちろんですけど、観客の歓声とのやり取りも心地よくて、「こういうライブがやりたい」と思うようになりました。このライブ盤にはいくつかのライブハウスで録音されたトラックが収録されているんですが、その一つがLAのトルバドール。電車で行ける場所じゃないので、国際免許を取って飛行機に飛び乗りました。
運転する車はいかにもアメリカンなオープンカーが良かったんですけど高くて無理で(笑)。確かセダンタイプの車を借りました。左ハンドル初体験で、初日はレンタカー店の駐車場で2時間練習して、ホテルに行くだけで疲労困憊(ひろうこんぱい)。そもそも英語もまったく喋れないですし(笑)。翌々日に近くのレコード店で『LIVE』を見つけて、それをカーステレオでかけながら3時間かけてトルバドールに向かいました。当時の『地球の歩き方』には、「この辺りは絶対に一人で歩くな」って書いてあったんですよ(笑)。恐る恐る近寄ったら無料で入れてもらえたんです。後から考えると、関係者用の入り口だったみたいで(笑)。
中は思ったよりも小さくて、200人くらいでパンパンのフロア。その日はアマチュアらしきバンドが演奏していて、40〜50人のお客さんが楽しそうにしてる。その光景が頭に焼き付いて、帰り道にまた『LIVE』を聴いたらすごく立体的に聞こえてきたんです。ダニー・ハサウェイが歌った環境を目の当たりにしたので、解像度が上がったというか。この帰りの3時間は本当に最高だったし、生涯のドライブミュージックになりました。
翌日は野外で行われたドナルド・フェイゲンとマイケル・マクドナルドのライブを観に行って。現地の人しか来ないような会場だったのでいろいろな人に話しかけられたんですけど、やっぱり全然話せない。日本なら「アカペラをやっていて……」とか説明するんですけど、「アイアムミュージシャン」と言うのが精一杯。でもその説明で「結局自分は、シンプルにミュージシャンでいいじゃないか」と思えました。最近、余計な事を考えすぎて立ち振る舞っていたんだなと思えたことも、大きな糧になっています。
土屋礼央1曲目 失恋して北に向かう車中、音楽で初めて涙した夜
〈CARPENTERS / I Need To Be In Love〉
土屋礼央2曲目 自分を見失っていたとき、原点に返ったLAの3時間ドライブ
〈Donny Hathaway / What's Going On〉
土屋礼央3曲目 新鮮な耳でいられるのは、息子とのクルマ時間のおかげ
〈Mrs. GREEN APPLE/ 私は最強〉
土屋礼央4曲目 皿洗いのときも、サーキットへ連れていってくれるテーマソング
〈Brian Tyler / Formula 1 Theme〉
土屋礼央
つちや・れお 2001年RAG FAIRのメンバーとして、サングラスと白いファーを巻いた印象的なスタイルでデビュー。瞬く間に学生からの支持を受け、アカペラ史上最高の動員数を全国各地で記録する。紅白歌合戦、オリコンシングル1、2位独占するなどアカペラブームの立役者となる。現在のレギュラー出演番組は「鉄旅・音旅 出発進行!~音で楽しむ鉄道旅~」(NHKラジオ)、「レジェンドの目撃者」(NHK BS1)など