川島隆太博士に聞く 脳活動の「計測」と「運転との関係」

「脳トレ」でおなじみ、脳科学のエキスパートである川島隆太博士に、「脳活動を計測するとはどういうことか」「運転と脳活動はどのような関係にあるのか」を伺いました。特命調査団での調査をより深く理解したい方は、ぜひご覧になってください!

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株式会社NeU取締役CTO 川島隆太博士=東北大学加齢医学研究所教授。研究分野:脳機能イメージング
脳トレブームの火付け役。自身の研究による認知脳科学への知見と、日立ハイテクの脳計測技術を融合し、脳科学の産業応用に取り組む株式会社NeUでCTO(最高技術責任者)を務めている。


脳の活動を計測するにはさまざまな手段がありますが、私は脳神経細胞の活動を「脳血流」により測定し、解釈する研究を長年行ってきました。ここでは「脳血流による脳活動の計測とは何か」や、「運転と脳活動の関係」をご紹介します。

これまでの研究で、脳が特定の働き(A)をしているときには、大脳の特定の領域(A')が活発化することがわかっています。さらに、活発化した領域は、エネルギーとなる酸素やブドウ糖が送り込まれるため血流量が増加する、ということもわかっています。

上記を踏まえ、ある瞬間に脳がAという働きをしているかを調べたいときには、A'にHOT-2000(株式会社NeUが提供する携帯型脳活動計測装置)などから「近赤外光」という光を照射し、反射して戻ってくる光量を計測します。反射して戻ってくる光量が少なかったら、光を吸収する血液の量が多くなったと判断できるので、「A'に照射した近赤外光の戻りの光量が少なくなった→A'の血流量が増えた→A'が活発化した→Aという働きを活発に行っている」という論理で、脳の活動状態を計測するのです。

付け加えておくと、脳の特定箇所が活発化したからといって、それが良い悪いという話にはなりません。たとえば興味のあることを探そうとしている「ワクワク探索状態」を示すデフォルトモードネットワーク(DMN)の計測では、活発化すれば幅広いものに興味を持っている状態で、活発化しなければ何かに集中している状態、という判断になります。あくまでもその箇所がどう活動をしているかを知ることが、脳の血流計測なのです。

この計測方法を用いて、運転と脳活動についても研究してきました。そのなかでわかってきたのは、運転中の脳はあまり活動的ではないということです。特によく通る道を乗り慣れた車で走っているときには、脳は基本的にリラックス状態。「認知・判断・操作」を司る背外側前頭前野の活動も活発ではありません。ただし危機回避が必要な交差点や急カーブなどでは、リラックス状態は解除され、背外側前頭前野も活動的になります。

例外として普段とは違う車、たとえばオートマ車に乗っている方がマニュアル車に乗ったときなどは、背外側前頭前野は活動的になります。シビアなクラッチワークが必要なスポーツカーで実験を行った際は、少しでもタイミングがずれるとシフトショックが発生してしまうため、皆さん「認知・判断・操作」に気を使っていたのか、特に背外側前頭前野の働きが活発になっていました。

もっとも、これも慣れてしまうと活発化しなくなると推測されます。あくまでも都度判断が必要な状況だから「認知・判断・操作」が活発になるのであって、慣れて作業としてこなせるようになれば、リラックスして運転できるようになるのだと思います。

ちなみにバイクでも実験を行ったことがあるのですが、こちらもクラッチワークが必要なマニュアルのバイクでは背外側前頭前野が活発になった一方、オートマのスクーターでは車と同じく背外側前頭前野は活発化しませんでした。

脳血流では「共感」「好き嫌い」「言語的思考が優位なのか、非言語的思考が優位なのか」などさまざまな脳の活動が計測できます。これからもいろいろな調査ができるといいですね。

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