脳を調べて本音がわかる!? 運転と脳の働きを調査してみました!
クルマに関するさまざまなことを調査してみる「JMO特命調査団」。記念すべき第1回目は、運転と脳活動の関係について調査してみました。人によって違う「運転」に対する意識や考え方の差を、わかりやすく可視化することはできるのか!? 血流量から脳の活動状態がわかる「HOT-2000」という機器を使って、いざ実験です!
テストコースは芦ノ湖(あしのこ)スカイライン!
車をこよなく愛し運転を骨の髄まで楽しむ人、移動手段として車を駆る人、運転は得意じゃないけど生活のためにハンドルを握らざるを得ない人。車の運転に対する思いは人それぞれですが、「嫌よ嫌よも好きのうち」なんて言葉があるように、「好きじゃないって言ってもホントは運転を楽しんでるんじゃないの?」、反対に「運転が好きでたまらないって公言していても、頭の中の本音は違うんじゃないの?」という疑問を抱いたのが我々、JMO特命調査団なのです。
このとらえどころのない疑問を解消すべく幾度もの会議を重ねた調査団員たちは、遂にひらめきます。「人の本音がわからないなら、脳に直接聞けばいいじゃないか!」。そこで我々は、脳トレでおなじみの川島隆太博士がCTO(最高技術責任者)を務める脳のスペシャリスト集団・株式会社NeUに今回の調査への参加を依頼。血流量から脳の活動状態がわかる「HOT-2000」というガチンコの機器を使って、運転中のドライバーの本音をあぶり出します。
テスト内容は、
- 運転に慣れている「熟練ドライバー」
- 一般的な運転歴を持つ「ノーマルドライバー」
- ほとんど運転したことがない「ペーパードライバー」
の3人のモニターに、ワインディングコースである芦ノ湖スカイラインを走ってもらい、運転中の脳を計測するというもの。「ドライバーとして運転しているとき」と、「助手席に座ってただ乗っているとき」で差が出るのかも検証するため、3人には以下の2パターンを試してもらいました。
- 1.自分で運転してドライブ(以下、運転テスト)
- 2.助手席に座ってドライブ(以下、助手席テスト)
HOT-2000は近赤外光という光を用いて前頭葉の血流量を計測し、脳の活動状態を判断します。今回の実験ではおでこの真ん中と、左のこめかみ部分の2か所の血流量を計測しました。
今回の調査に使用した脳活動計測装置「HOT-2000」。脳の血流量変化をリアルタイムでモニタリングすることが可能。
おでこの真ん中の血流が増えたときは、「ドライブ日和で気持ちいいな、うまくカーブが曲がれて心地いいな、運転が楽しいな、景色がきれいだな」といった「ポジティブ探索状態(いろいろと興味のあることを探索している状態)」が、左のこめかみの血流が増えたときには「あそこにカーブがあるから速度を落とそう、凍結注意の看板だ」といった「思考」が活発化していると判断されます。HOT-2000では緊張状態を示す心拍数も測れるので、補足データとしてあわせて計測しておきました。
今回参加してくれたモニターはこちらの3人!
- モニター1・熟練ドライバー
泣く子も黙るJAF Mate Online編集長(本当はとてもやさしいデス)。JMO特命調査団の立ち上げということで、記念に参加してくれた。クルマとバイクを愛し、芦ノ湖スカイラインも何度も走っている熟練ドライバー。
- モニター2・ノーマルドライバー
初調査だというのにモニター不足に悩んでいた特命調査団を救うべく、他部署ながら立候補してくれた人格者。マイカーを所有し、運転は日頃からしているノーマルドライバー。
- モニター3・ペーパードライバー
JAF Mate Onlineの編集部員で、ここ十数年はほとんど運転していないペーパードライバー。「芦ノ湖スカイラインを走ります!」というと絶対に断られると思ったので、詳細は伝えずに来てもらった。心なしか顔が引きつっている気がするが……。
※モニター3の運転テストは安全上の観点から、助手席にサポート役に座ってもらい、危険のないよう配慮しています。
- 今回のテスト車両
今回の調査でモニターのみなさんが運転した車両はコペンGR SPORT。コーナーでの挙動も乱れず、「安心して運転できた」とモニターも大満足でした。
さっそくHOT-2000を装着!
セッティングは株式会社NeUの林さんに手伝っていただきます。まずは丁寧に装置をセット。近赤外光による計測に影響が出ないよう、日光を遮るカバーを装置の上から付けたら完了です!
なんだか凛々しい……。かっこいいです編集長!
車内と車外の様子を記録できるよう、360度撮影できるドライブレコーダーとGoProを設置。
スマホは血流量をリアルタイムでモニタリングできるアプリを起動させています。
車に乗り込んでドライビングポジションを合わせたら、データ計測に必要な基準点を定めるために脳の血流量を安定させます。車に乗り込む動作や、テスト参加にあたっての緊張などがあると計測に支障が出てしまうので、実際に走り出す前には心と体をフラットな状態にしておかなくてはならないそう。白い紙に書かれた+マークをじーっと見つめて、無になってもらい……。
忙しい日々を忘れて無になる編集長。
まだまだ無になってもらい……。
いよいよ計測スタート!
モニターの皆さんが芦ノ湖スカイラインでコペンGR SPORTをどのように走らせたのか、ぜひ動画でご覧ください。
芦ノ湖スカイラインから望む抜群の景色を横目に、皆さん気持ちよさそうに走っていました。
さすがは熟練ドライバー、何気ないシーンも様になる編集長の運転。
助手席テスト直前のモニター3の様子。運転テスト前に撮影したプロフィールカットに比べて、今度は自分が運転しなくていいということでこの笑顔。わかりやすい……。
コペンGR SPORTをオープンにして楽しむ編集長。実はオープンカーでワインディングを走れることを楽しみにしていたそうですが、日光の影響を避けるためテストはルーフを閉じて行いました。残念。
熟練・ノーマル・ペーパードライバー、
それぞれの運転に対する本音が浮き彫りに!?
すべての調査が無事終わり、株式会社NeUから解析結果が送られてきました。まずは3人の脳血流データを見てみましょう。オレンジの折れ線グラフがおでこの真ん中(ポジティブ探索状態)、青の折れ線グラフが左のこめかみ(思考)の血流量の推移です。
結果を見比べてみると、みんなグラフにかなりの差がありますが、素人が見ても何がなんだかさっぱりわかりませんね。それぞれの結果を株式会社NeUの分析とともに見ていきましょう。
モニター1
運転席テスト
助手席テスト
モニター1・熟練ドライバー
テストはそつなくこなすも、運転には自分なりのこだわりあり?
運転経験豊富なモニター1の運転テストのグラフは非常に落ち着いていることがわかります。白い紙に書かれた+マークを見てすでに落ち着いていたはずのスタート地点より、さらに落ち着いています。最近スポーツタイプの車に乗り換えたというモニター1。スポーティな乗り味への慣れもあったのかもしれません。
一方、助手席テストはというと、スタート直後から高い数値で乱高下。緊張を示す心拍数もとても高くなっています。これは助手席に乗って車や景色を味わえる状態を「楽しい」と思いつつも、何らかの「思考」を続けていることを示しています。もしかしたらドライバーの運転に対して、「もうちょっとブレーキを早く踏んだほうが」とか「ハンドル切りすぎじゃない?」など、思うところがあったのかもしれません。
モニター2
運転席テスト
助手席テスト
モニター2・ノーマルドライバー
運転にあまり興味がないのかも……。
ノーマルドライバーであるモニター2の運転テストを見てみると、モニター1に比べて、思考を示す青のグラフの数値が明らかに高いです。運転に慣れているモニター1は特に思考を働かせなくても運転できましたが、モニター2は初めて走る道ということもあり、しっかり考えながらでないと運転できなかったのかもしれません。
一方オレンジのグラフは、モニター1と同じく低空飛行。モニター1は普段からスポーツカーに乗り慣れているためその理由もわかるのですが、モニター2のマイカーは一般的なファミリーカーにもかかわらず、ポジティブ探索状態になっていません。もしかするとモニター2は、そもそも「運転を楽しむスポーティな車」には興味がないのでしょうか?
助手席テストに関しては、運転中のよそ見が多かったためか、イレギュラーなグラフに。残念ながらコメントできないとのことです。
モニター3
運転席テスト
助手席テスト
モニター3・ペーパードライバー
脳に本音を暴かれてしまった!!
久々の運転ということもあり、運転テストの前までは不安を口にしていたモニター3。ですが結果を見ると、なんと「ポジティブ探索状態」を示すオレンジの数値が圧倒的に高いではないですか! テスト終了後も「怖かったです~(涙)」と言いながら戻ってきたのに、脳を見てみると実は楽しんでいたことが判明しました。
助手席テストは自分で運転しないからか、落ち着いていますね。運転経験が少ないからか、モニター1のように「自分だったらこうするのに」という思考は少なめなよう。これからは編集部のためにも自分のためにも、バリバリ運転してください!
次にモニターの皆さんがどのタイミングで脳活動を活発化させていたのかを検証します。
モニター1
エンジンの音にテンションが上がる!
今回はモニターがその瞬間にどんなことを考えていたのか後から見返せるよう、録音もしていました。それによると、コース中盤の上り坂でアクセルを踏み込んだときに思わず「いい音ですね~」とこの笑顔。実はつい最近までコペンと同系統のエンジンを積むエッセに乗っていたモニター1。味付けによる音の違いを楽しんだようです。
モニター2
駐車スペースに感動??
あまり運転に興味がなさそうなモニター2の、オレンジのグラフが変動した瞬間は!
……駐車スペース?? きれいな景色でも見えたのでしょうか? 録音を聞いても特に何もしゃべっていなかったのでわかりません……。
モニター3
スリップ注意の看板でワクワク!
助手席テストでも比較的「ポジティブ探索状態」を示すオレンジの数値が高く、楽しめた様子のモニター3。最初に数値が跳ね上がったのは「スリップ注意」の看板を見つけたとき! その先にはカーブも控えており、これから来るワインディングロードに心が躍った可能性も!?
モニター1
突然の雉(きじ)にびっくり!
コチラは車内のGoPro映像から。モニター1の運転テスト終盤、何と道路を横断する2羽の雉に遭遇! しっかりと減速し、雉が去ってから運転を再開した編集長でした。
調査完了!
テスト終了後、夕日があまりにもきれいだったので大学生みたいな写真を撮ってしまいました。何はともあれ、無事に調査も終了。お疲れさまでした!
川島隆太博士にご意見を伺いました!
株式会社NeU取締役CTO 川島隆太博士=東北大学加齢医学研究所教授。研究分野:脳機能イメージング
脳トレブームの火付け役。自身の研究による認知脳科学への知見と、日立ハイテクの脳計測技術を融合し、脳科学の産業応用に取り組む株式会社NeUでCTO(最高技術責任者)を務めている。
今回の調査を見て、率直に「興味深いな」と思いました。特にモニター1の運転テストと助手席テストの比較は、差がはっきり出ていて面白いですね。モニター1は助手席テスト後のコメントで「リラックスして外の景色もいろいろ見られた」ということを語っていたようですが、データ上ではむしろ緊張していたようです。もし私がその場にいてデータを見ていたら「で、怖くはなかったですか?」と聞いて本音を引き出したでしょうね(笑)。
モニター3はペーパードライバーということですが、運転している最中もどちらかというとぼんやり、思考や判断も特にしていないようなので、「運転するときはもうちょっと危機感を持ってください」と言いたいです。
川島博士による脳計測についての詳しい解説、運転と脳活動の関係についてはこちら。
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