漫画家・しげの秀一の愛車遍歴 『頭文字D』ではAEスプリンタートレノ、『MFゴースト』では86GTを満喫!
「MFゴースト」「頭文字D」「バリバリ伝説」…クルマ、バイク乗りたちのレジェンド漫画家にインタビューバイク漫画の金字塔『バリバリ伝説』、クルマ好きのバイブル『頭文字(イニシャル)D』をヒットさせ、モータースポーツブームけん引の立役者となった人気漫画家・しげの秀一さん。2017年からはヤングマガジンで『MFゴースト』を連載中で、単行本の累計発行部数は580万部を突破し、最新刊21巻が販売中です(2024年12月時点)。アニメ『MFゴースト 2nd Season』も大ヒットに終わりました。
『MFゴースト』は、『頭文字D』から続く近未来・202X年に、クルマの自動運転が普及して内燃機関自動車が製造中止となり、電気自動車が主流となった日本が舞台。実在する公道で開催される無観客公道最速レース「MFG」が、各レースカーに追従するドローン映像によって全世界に配信される中で、戦うレーサーたちの姿を描いています。連載も佳境を迎えているというしげのさんに、これまでの作品、そしてクルマとの関係性について語ってもらいました。
初めて購入したクルマはハチロク! そこから続くトヨタ編歴
しげの先生も乗っていたハチロクこと、通称パンダトレノ。『頭文字D』ファンから今も根強い人気がある
──しげのさんの作品では、多くのクルマが精密に描かれています。クルマへの愛情は人一倍あるに違いないとファンの読者は考えていますし、しげのさんが乗ってきたクルマについても興味津々だと思います。これまでどんなクルマに乗りましたか?
世間の方に思われるほどは多くないかもしれないですね、長く乗るタイプなので。いの一番に買ったクルマがハチロク(トヨタ・スプリンタートレノAE86)なんです。そこから、しばらくはトヨタ車に乗ることが多かったですね。
──言わずと知れた、『頭文字D』の主人公、藤原拓海の愛車ですね。どのタイミングで、ハチロクを購入されたのですか?
デビュー作発表直後に初代を購入して、10年ぐらい所有していたと思います。何度かぶつけたり壊れたりするんですけど、修理してずっと乗っていました。ほかには、トヨタ・スターレットにも乗りましたね。ハチロクを最初に買ったのに、なぜかTE71(トヨタ・カローラレビン)に回帰したときも(笑)。トヨタ・プリウスにも乗っていました。
トヨタ・ソアラと同時期に、ロータス・エスプリ ターボを所有していたこともあります。当時エスプリ ターボは、スタイリッシュなデザインが、エッジがあって良かったんですけど、今思えばちょっと……な車でしたね(笑)。雑な作りというか……。この製品にこんな値段付けて売っていいのかっていう(笑)。
──所有車は、国産オンリーというわけではなく?
メルセデスにも3台乗りました。また、ポルシェ・マカン にも一時期乗っていました。いまは『MFゴースト』の中に出てくる車と同じ赤いトヨタ・86GTのターボ仕様に乗っています。
──1995年から連載の『頭文字D』のときはAE86で、2017年から連載中の『MFゴースト』のときは86GTとは、ハチロク愛がすごい! 作品に連動したクルマに乗りたくなるものですか?
身近に置いていたほうが取材が楽ですし、このあたりの写真がないなっていうときに、すぐパシッて撮れるじゃないですか。クルマの背景もそうですけど、たくさん撮って資料として使うものですから。
86GTターボ仕様とアストンマーティンDBXの2台がメイン!
圧倒的に楽しいクルマは…
──現在はどんなクルマに乗っていますか?
今は86GTのターボ仕様と、アストンマーティンのSUVなどに乗っています。アストンマーティンは近所をちょい乗りすると駐車場に苦労する大きさなので、ゴルフとか高速道路に乗る長距離とか。実家が新潟で、年に何回も帰るので、そういうときに使います。ほとんどは86GTターボですね。
──所有車それぞれの乗り心地を教えてください。
アストンマーティンはSUVなんですよ、DBXっていう。意外なぐらいよくできているんですよ。乗り味もいいし、タイヤが太いので路面の条件が良くて、轍(わだち)がなければ、すごく乗り心地がいい車です。V8エンジンなのでパワーもありますし、リラックスした優しい感じで乗れるので、ゴルフ帰りや疲れているときに包み込んでくれる、リラックスさせてくれる感じがありますね。
でも、圧倒的に楽しいクルマは86GTターボですね! 五感を刺激するというか、ブローオフバルブがいちいちうるさいんですけど(笑)、プシュー! って音がいいんですよ。その音を聞くために、わざと回転数を引っ張ってからギヤを上げた シフトアップしたり、スロットルをためて引っ張ったりして! 足回りにもかなりお金をかけて改造しているので、思い通りに操れるしバランスも良くて、ずっと乗り続けたいなと思っています。
──クルマを購入するうえで、こだわる点はありますか?
86GTターボは「赤」と決めていましたね。基本的にマニュアル限定で、最初から改造することが前提ですから、足回りは徹底的にやろうと思っています。『頭文字D』のときには、白黒パンダトレノでしたけど、『MFゴースト』は昼間の話なので、カラー原稿や、絵にしたときに映える赤に。アニメを見て「やっぱり赤が最高だな!」と思いましたね。
86GTは「やっぱり赤が最高!」。『MFゴースト』の片桐夏向がレースで使用する86GTは、作中でターボ仕様にチューンアップ
──所有車以外で、記憶に残るクルマはありますか?
もちろん魅力的なクルマはいっぱいあって、欲しいなあと思ったクルマは多数あるんですけど……。ドイツ車は好きですね。前にもお話ししたようにポルシェ・マカンに乗ったときもあるし、メルセデスも3台乗りましたし。 ポルシェはいいなと思います、すべてにおいて。それと……またトヨタ車びいきですけれど(笑)。レクサスのSUVは一連のシリーズみんな好きですし、アストンマーティンに乗っていなかったら、レクサスに乗っていたと思います。
──クルマだけでなくオートバイにも乗られていた。
オートバイは、休眠状態のホンダ・CB400が実家にあるのですが、自分はそそっかしいので、いま乗ったらケガするなと思うんです。乗りたいと思うときもあるんですが、あえて封印しています。『バリバリ伝説』でオートバイを題材にしたのは、当時大好きでしたし「クール」だと思ったからです。
これまでのお気に入りは、CBR400ですかね。ホンダ・NS 400にも乗ったことあるし、ホンダ・NSR 250も持っていましたね。2ストロークエンジンのバイクはね……怖かった。うかつに全開にすると恐怖感がありましたね。なので、4ストロークで制御できる感じのCBRは好きでしたね。
──オートバイからクルマに興味を持つようになったきっかけは?
たまたま初めて買ったクルマがハチロクだったのもあります。レーシングドライバーの土屋圭市さんが有名になった頃、でハチロクも巷(ちまた)ですごく賑わっていましたね。チューニング雑誌『CARBOY』や『OPTION』などが競ってハチロクを特集していましたし。中古車市場でも割安で。ツインカムエンジンで、いまのクルマに比べ笑っちゃうぐらいパンチ力があって、よく回るエンジンでした。回していて、乗って楽しいクルマでしたね。あと、意外と曲がらないので……足回りをチューニングしたり、ドライビングテクニックで丁寧に荷重移動をやってあげたり、ブレーキを強化してあげると、だんだん思い通りに操れるようになってくるんですよ。運転技術向上プラスチューニングで、思い通りにクルマを操縦する楽しさを、その頃覚えたのが良かったんじゃないですかね。
──クルマの運転免許は、高校卒業後すぐ取得された?
19歳のときでしたね。大学をやめて漫画家のアシスタントを始めたばっかりで、それまでオートバイに乗るぐらいがせいぜいの財力でしたから。
『バリバリ伝説』『頭文字D』は榛名山での経験がヒントに
──しげのさんが漫画家のアシスタントをやっていた事実を知らない方もいると思うのですが。
アルバイト先で「漫画家志望なんだ」っていうのを話していたときに、知り合いに漫画家がいるからアシスタントをやってみない?って言われて、ひおあきら先生という、『宇宙戦艦ヤマト』のコミカライズ をしていた方の下でアシスタントをしていました。いい人でしたね、優しくて。まさに『宇宙戦艦ヤマト』のお手伝いをしました。
──出身が新潟県だそうですが、新潟といえば、関越自動車道を走ると、途中に『頭文字D』作中に出てくる秋名山のモデルとなった榛名山(はるなさん=群馬県)が見えますね。
(題材にしたのは)土地勘があるからなんでしょうね。『バリバリ伝説』を連載していた当時、練馬に住んでいて、仕事で寝不足でも明け方になったら「走ろう」という気持ちになって(笑)。関越(自動車道)に乗って1時間強ぐらいで渋川伊香保インター出口なので、夜中に高速を走って、空が白むころに榛名山頂上に着くと、一般車が増える前ぐらいまで何回も往復していました。
──『頭文字D』や『バリバリ伝説』は、そんな経験が反映されているんですね。
まめに峠に通った体験を描いたといっても過言ではないですね。『頭文字D』を描くにあたって取材はほとんどしなかったので。
──連載中の『MFゴースト』を含め、これまでの作品には、かなり精密な描写が感じられます。精密なデータを取っていると思っていました。
いや、そんなことはないです(笑)。ただ、クルマ好きは普通に走っていたらみんな知っているようなことばっかりだと思っているんです。特にスポーツカーが好きで、スポーツドライビングが好きな人だったら全部常識なことばかりだと思うんです。ライン取りとか荷重移動だったり。
──編集者にデータを取ってもらったり、監修してもらったりすることもなかった?
『頭文字D』のときは、自分の日常を日記に書くように、ネームを7、8本すぐ書いて、当時の担当に見せたらすぐ通りました。最初の10年ぐらいは、取材といっても漫画に登場するコースの写真を撮っていたぐらいで、知識として詰め込む取材というのは何もしなかったですね。なんとなく自分が知っている範囲で全部描けていて、特別なことを描いている感じではなかったです。自分もハチロクで走っていたし、こういうときはこうなんだろうとか、FF(駆動)の友達のクルマと走った経験もあったのでいろいろわかるんですけども。
──体が吸収して覚えていくような……。
でも、仕事からの「逃避」でクルマに逃げていましたから(笑)。初めの連載で余裕もなかったですし、いつもテンパっていて追い詰められていたので、仕事を忘れる瞬間みたいな感じで乗っていましたね。
──よくドラマで「作家さんがいなくなりました」というシーンですね(笑)。
僕はクルマで逃げていた(笑)。もう時効だと思うけど、本当に逃げて帰らないときもありましたね(笑)。最初の週刊連載で「落ちた(原稿が締切までに間に合わなかった)」かも……という。今にしては考えられないですね。初めてもらった連載だし、ベテラン作家さんと違って要領も分からないところで、いっぱいいっぱいでしたね。
『頭文字D』とは違う話だと始めた『MFゴースト』
描けば描くほど気が付いたら…
『頭文字D』ファンにはたまらない名シーン。パンダトレノの雄姿を思い出す
──そんな若手時代があって、『バリバリ伝説』『頭文字D』を描きあげられて、今回の『MFゴースト』に続いていったんですね。連載中の本作は、読者からは『頭文字D』から脈々と続くDNAみたいなものを感じていると思われていますが?
ファンは『MFゴースト』を読むと、『頭文字D』の血脈が受け継がれているなぁ、とすぐ連想するとは思うんですが、続編かと言われたら続編じゃない、新作です。そのあたりで自分の中にこだわりあって、ミエミエの続編で始めるのも、前作ファンに媚びている感じがして……。作家のプライドとして、それはつまらないなと思ったので、世界観だけ一部乗っかって、自分の中ではまったく新しい話を構築したつもりだったんですよ。ところが、ストーリーが進むにつれて、どんどん『頭文字D』の世界観が強くなってきて……。抵抗しても引っぱられちゃうんです。自分でも不思議なんですけどね。『頭文字D』とは違う話だと思って始めたのに、描けば描くほど気が付いたら『頭文字D』の影が迫ってきて逃れられないんですよ(笑)。
特に、アニメは『頭文字D』寄りのテイストで作られているんです。あれを見ると、「やられたな」と思うんですけれども。むしろ正直に、こうやっていたほうが、ファンには喜んでもらえたんじゃないかと思うこともあります。アニメの制作陣は意図的にやっていますからね。当初は抵抗していたのですが、最終回が近づくにつれて一切抵抗はなくなっています。いま最終盤のエピソードを描いているのですが、「これは普通に『頭文字D』だね」っていう感じです。しょうがないですよ。どちらも僕が作ったんだしね(笑)。
──『MFゴースト』の舞台は、榛名山から一転して海を臨む神奈川県ですが。
コースの舞台は、小田原を中心に真鶴、芦ノ湖、熱海で、ほぼ神奈川県です。単にドライブが好きで、しょっちゅう走っていたんですよ。最後に付き合った彼女が、鎌倉、江ノ島が好きで、しょっちゅう連れて行かされたというか。それで土地勘ができたんです。新連載用に新たに取材をしなくても、あのあたりに詳しくなっていたから、まあいいやと思って(笑)。
──風光明媚(めいび)な所だし、道路や景色の描写も精密ですね。
熱海や箱根もそうですけど、関東に住んでいる人だったら実際に見たことがある景色が出てきますよね。そこまで計算してはいなかったんですけど、走っているところが出てきたと思うと喜んでくれるファンも多くて。現実味を感じてくれる効果はあったと思いますね。
主人公・片桐夏向のイメージは
『逃げ恥』の星野源!?
──主人公・片桐夏向(かたぎりかなた/カナタ・リヴィントン)を描くうえで、思い入れはありましたか。
普通の若者では嫌だったんです。トッポくて元気な主人公というのは型にはまっていて嫌だったんですよ。若いんだけど、きれいな言葉遣いをする主人公にひかれていて。連載開始当時、すごく好きだったドラマで『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系=通称・逃げ恥)の主人公・星野源さんを見ていたら、普通の日本の若者が、とても丁寧な言葉遣いでしゃべるんですね。こんな、ですます口調できれいな言葉遣いをする若い男って魅力的だなと思いました。そのイメージがあって、片桐夏向をですます口調でしゃべる主人公にしました。
でも、普通に日本育ちで、ですます口調でしゃべっていたら、単に育ちがいいだけという感じでつまらないし……。それで、外国人という設定にすると、誰かにきれいな日本語を教わっていれば、それが普通になっちゃうんじゃないかと思いました。イギリスに住んでいたけれど、 教えてもらったのがきれいな日本語という。外国人に教える日本語会話教室では、絶対べらんめぇ口調の日本語は教えないじゃないですか。必ず、きれいな正しい文法の日本語を教えると思うんです。だから日英ハーフの片桐夏向は、カタコトでもきれいに聞こえると思って設定しましたね。自分も気に入っていて、成功したと思っています。
──連載を始めるにあたり、世界観をかなり作り込んだという印象です。
そう思うでしょう? 実は行き当たりばったりなんですよ(笑)。ここまで読んできた人は、「これすごくきれいに仕上がっているな。めちゃくちゃ精密に(ストーリーを)組み立てたんだろうな」って、みんな思ってくれるんですよ。でも、そんなことは全然ないです(笑)。
ドローンが追従し、リアルな実況にする設定で
近未来の世界観が成立した
閉鎖された市街を名車たちが走り、ドローンが追従! 唯一無二の世界は、意外な発想から誕生した
──連載開始が2017年。あのころ、ドローンが時速300kmでレーシングカーに追従する設定は、どこから発想したのですか?
ドローンって、あの当時はまったくポピュラーじゃなかったですよね。ドローンに関しては「先見の明」があったと言われれば、そうかもしれないですね。『頭文字D』で不満だった部分がひとつあったんですよ。『頭文字D』では、ところどころにギャラリーを配置しましたが、結局、当事者2人のバトルを全部追えるのは、当事者たちしかいなくて。それに対する感想だったり説明だったりを言える人が当事者以外にいなくて表現に結構苦労した部分があるんですよ。
ドローンで最初から最後まで追従する設定にしたら、事細かにレースのてん末を描ける。そうすればレース解説者が読者に説明するのがとても楽になるんですよ。ドローンという設定は必須でしたね。リアルな実況にすることで、世界観が成立するんですよ。無観客でインターネット配信というレースイベントの設定ですから。
──世界観設定では、202X年、世界のクルマは電気自動車(EV)化されていますが。
あの設定を作った時点では、2024年にはEV化がもっと進んでいると思っていたんですが、実際はEV推進に少しブレーキがかかっていますよね。当時は、もっと諦めて描いていたところありました。僕はガソリンエンジンのクルマが好きで、電気自動車に関して現状は「まだまだまだまだ(笑)」って思っていますし、そんなに市民権を得るとも思っていません。「(EV時代は)まだ来るわけないよ」という願望はありました。なので、EVやハイブリッド車を除外して、ガソリンの内燃機関だけでレースをやろうという設定を作りました。
内燃機関はなくならないし、
EVとの共存の時代が続くと思います
──自動車業界の未来は、どうなると考えますか?
内燃機関はなくならないと思いますし、EVは行き詰まっていますけど、技術革新次第でまた一気に進むと思います。共存の時代が続くんじゃないですかね。メインはハイブリッドになると思うんですけど、ハイブリッドで行けない環境はいくらでもありますから。世界中が電気自動車に置き代わることはありえないですよね。砂漠だったり、充電インフラが充実していなくて、これからもしないだろうというエリアは地球上に残るだろうし。その中で電気自動車の良さだったりガソリン自動車の良さだったり、選べた方がユーザーも楽しいですしね。
──米国カリフォルニアでは、自動運転のタクシーが普通に走っている状態だと聞きます。自動運転について、どう思いますか?
自動運転も、やっぱり共存だと思います。発展してくれればこんなにありがたいことはないです。目的地にドライバーが疲労しないで安全にたどり着ければ、それは言うことないです。お国柄もあると思います。アメリカの都市部だったら、道路が広いですし区画整理も単純ですけど、東京都心部で自動運転となると……。当分考えにくいですよね。実験が始まったら事故が多発すると思いますよ。それでもいつか実現するときが来ると思いますが、そのときは法改正だったりシステム見直しだったりが必要だろうし、大きなハードルもたくさんあります。
そのハードルを越えた時代が来たときに誰が幸せなのかな? とも思いますけどね。自動運転の時代が来ても、手動と切り替えてTPOで“ここは自動運転に任せたくない”みたいに運転を選べるようにしてほしいです。でも、手動と自動が混在したら、それが事故の原因になってしまう可能性もあるし……。日本国内で自動運転が本当に普及するのは高速道路ぐらいかな。
──しげのさんにとって運転は、楽しさが優先ですか?
そうですね。そうでなければ運転していないですね(笑)。夏場にゴルフに行って汗をかくと、帰りの運転で足がつりそうになるんです(笑)。それでも楽しいですね。
レース名「MFG」とは何なのか…
タイトルの意味も、夏向の恋も回収して
『頭文字D』の登場人物が次世代をけん引する『MFゴースト』、往年のファンが胸を熱くする展開も
──『MFゴースト』の話に戻ります。漫画を描くうえで、読者にどうわかりやすく読ませるかについて苦心されることはありますか?
2台が競走して勝ち負けが発生したときに、何が起こったかに最低限のエビデンス(事実)を出したいですね。片桐夏向の何が優れていて、どういう状況でそれが生かされたのかということを読者に伝えてあげたい。それがあったほうが、よりドッグファイトがカッコよく見えるし、勢いで行けばいいんじゃなくて、一つひとつの事には、ちゃんと理由がありますっていうのが、僕のカーアクション漫画の基本といいますか、外さない原則としてこだわっているところです。
──『MFゴースト』も出場する各ドライバー一人ひとりの個性がドライビングにつながるところが魅力ですね。
こういう走り方をするっていうようなところも含めて、個性があったりすると、それがまた面白い。いくつかパターンを考えて採用しています。
──そのバックグラウンドの中に、たとえば片桐夏向のドライビングの師匠が藤原拓海(『頭文字D』の主人公)だったり、“DNA”が受け継がれている。
高橋啓介(『頭文字D』の主要キャラクター)の教え子も出てきたりします。ファンにすごく愛されているんですね。その割に活躍させてはいないんですけど…… 。読者は『頭文字D』から脈々と続く“血統”みたいなものが好きみたいですね。連載が完結しそうなところまで来て言うのもなんですが、もうちょっと活躍させてもよかったかなあ(笑)。「諸星瀬名(もろぼしせな)」って、いい名前もあげたのに……。ある程度成績は残していますけど、若干見掛け倒しだったかなあ(笑)。メインは最強の3人(片桐夏向、ミハイル・ベッケンバウアー、沢渡光輝)という設定で、プラス割って入る“第4の男”が諸星瀬名で、4人全員キャラクターを立てていく流れは難しかったですね。もちろんチャレンジはしたんですけども、諸星瀬名には泣いてもらって……。
──連載は佳境ですが、お話しできる範囲で、これからの展開を教えてください。
ほぼほぼ描き終わっているので(笑)。いま最終戦のレースをやっていて、雑誌に掲載されているのもファイナルラップです(取材時点)。勝てそうで勝てなかった主人公が、最後にどうなるか。 それだけじゃなくて、せっかく解説を(『頭文字D』に登場する)高橋啓介がやっているんで、主催するレース名「MFG」とは何なのかというのもひとくさりして、『MFゴースト』のタイトルの意味を回収して、なんとか語りつくせたと思うんです。
もう一つ、ドラマで大事なことは、主人公とヒロイン(西園寺恋/さいおんじれん)との恋愛がどうなるんだっていうところに決着をつけてあげれば、もう大団円です! もうあちこちで言っているからいいかな(笑)。2人の恋愛ドラマとして読んでくれたファンの人だったら、にやけてしまうハッピーエンドになるかな!
『頭文字D』『MFゴースト』の世界観を受け継ぐ
「本当の決定版」をやる構想も
──『MFゴースト』完結後に描きたいことなどありますか?
『頭文字D』の最終回を迎えたあとは、何も考えられなくて。2、3か月ぼんやりしたけど何も浮かんでこなくて……。あわてましたけれど、今回はそこまでじゃないと思います。『バリバリ伝説』や『頭文字D』の長い連載をやったあとには、短いのをちょっとやったんですよ。クルマやオートバイに関係ないような恋愛漫画だったり、あんまりウケなかったけど野球漫画もやったことあるんです。自分の中で一回“散らす”んですね。硬直した自分の頭の中を柔らかくするリハビリで。
いま考えているのは、短いので「農業漫画」をやろうかなと! 漫画家を目指し夢敗れた30代半ばの男が、実家の農業を継いで絶望するんだけど、その絶望の中で希望を見つけるみたいなストーリーをぼんやり考えています。
それをやったら、『頭文字D』『MFゴースト』の世界観を受け継ぐ「本当の決定版」をやれないかという構想があります。描き終わるたびに「もうクルマはやれねえ」って言っているのにね(笑)。結局、ファンの人が一番喜んでくれているのがこれだなと思うから、しょうがないかな。『MFゴースト』の最終話を読んでくれたら、「この続きはないだろうな」と読者はわかると思うんですけどね。ただ、世界観の続きはあると思います。片桐夏向と西園寺恋の続編ストーリーは……ないかなあ。ちょっともったいないですけど、キャラクターを捨てるのもまた大事ですから。
──漫画を描くうえで、若いころと今で考え方が変わった部分はありますか?
基本的にはレースで、ライバルに勝つというモチベーションが強い主人公たちがクルマを操っているので、かつては現実にあってはいけないような、法規を無視したような荒っぽい運転描写もありました。若い頃と今でそれほど描き方は変わっていないですが、ただ強いて言えば、舞台をいじりました。『頭文字D』のときには、現実世界の一般公道で深夜に走っていましたけど、さすがにそれをもう一回やることは、自分の中の「大人」が許さなかったですね。
だから、『MFゴースト』では、近未来の架空のモータースポーツを作り上げて、「これは違法ではありません」っていうエクスキューズ(免除)が自分の中にあったので、ああいうふうに描けました。『頭文字D』と同じ世界観でやれと言われたら、しんどかったですね。時代が変わってコンプライアンスを求められる部分もあるので……。
『MFゴースト』では、舞台を公道レースからモータースポーツにして、沿道に観客のいないクローズドなコースという前提で、という設定を作らないと、限界走行のドラマはやれなかったですね。
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しげの秀一
しげの・しゅういち 1958年、新潟県出身。1981年漫画家デビュー。1983年、『バリバリ伝説』を週刊少年マガジンで連載開始し、バイクブームの先駆けとなる。連載終了後も、多くのバイクファンに影響を及ぼした。1985年に同作で講談社漫画賞少年部門を受賞。1995年からは週刊ヤングマガジンで『頭文字D』を連載。『頭文字D』は、主人公の藤原拓海が父・文太の愛車ト ヨタ・スプリンタートレノ(AE86)を受け継ぎ、走り屋たちと速さを競う物語。リアルなドライビングテクニックが描かれ、多くのファンに支持されている。こちらも1998年からアニメ化、2001年には映画化。2017年から『MFゴースト』をヤングマガジンで連載中。