自動車盗難、最強の窃盗ツール「ゲームボーイ」による最新の手口とは?
特定車両が狙われる!? 盗難被害からクルマを守る秘策を大公開自動車盗難事件が後を絶ちません。テレビのニュースでしばしば報道されていますが、驚きなのは、そのほとんどが自宅駐車場で被害にあっているということです。「朝起きたらクルマがなくなっていた」、「クルマが消えて、積んでいたチャイルドシートなどが路上にばらまかれていた」といった悲痛な声も多く耳にします。そんな自動車盗難の現状と最新の手口、そして愛車を守るために必要な盗難対策とは……。カスタム&カーライフ情報誌『スタイルワゴン』の元編集長で、現在同誌のWebサイトを担当する小林章さん、千葉県警の市川 慶さんに伺いました。
被害は千葉県、愛知県など大都市圏に集中
自動車盗難事件は、地域と車種にある特徴があることが明らかになっています。第一に地域が千葉県と愛知県に集中していること。そして第二に、被害にあうのは高級車と呼ばれるクルマがほとんどという点です。まずは自動車盗難の現況を、具体的な数字から紐解いてみました。
小林 章(以下、小林):警察庁生活安全企画課が公表している資料によると、令和5年における車両盗難の都道府県別認知件数は、千葉県・愛知県・埼玉県・茨城県・神奈川県・大阪府で全体の63.3%を占めており、大都市とその周辺での被害が多いということがわかります。
併せて車名別の盗難台数を見てみると、令和6年上半期の1位はトヨタ・ランドクルーザー、2位がトヨタ・アルファード、3位がトヨタ・プリウスとなっており、上位10台のうち8台がトヨタ車(レクサスを含む)という驚きの結果になっています。ランドクルーザーやアルファードといえば、納車に時間がかかることでも広く知られ、一時は「納車までに1年以上」の時間がかかると言われていました。それほど待っても欲しいとされる人気車だけに、車両盗難にあった被害者の心情は計り知れません。
【令和6年上半期における車名別盗難台数の状況】
※「盗難台数」とは盗難等車両手配がなされた車名が明らかな車両であり、未遂等を含まないため、犯罪統計における自動車盗難認知件数とは異なる
資料=警察庁生活安全企画課
中古市場での価格高騰、海外でも人気が高く狙われやすい「ランドクルーザー」
近年県内での被害が拡大し、独自に車両盗難に対する注意喚起を積極的に行っているのが千葉県警察本部。その実情を千葉県警察本部生活安全総務課の市川 慶さんに伺ってみました。
小林:警察庁生活安全企画課の資料によりますと、令和5年、自動車盗難の都道府県別認知件数で最も多かったのが千葉県。あまりうれしくないデータだと思いますが……。
市川 慶(以下、市川):千葉県が多い理由としては、高速道路の発展や海に囲まれているという土地柄、盗難後に海外に輸出しやすいという地理的な問題もあるのではないかと思っております。実際に盗難被害が多いという現状に間違いはなく、千葉県警としても積極的に注意喚起を行っております。特にランドクルーザー、アルファード、レクサスに乗られている方には、自動車販売店でチラシを配布するなど防犯対策の強化を呼びかけています。
千葉県警が配布する自動車盗難防止啓発チラシ
小林:対象をかなり絞っていますね。
市川:千葉県内で起きている自動車盗難の分析結果を見てわかる通り、盗難が多い車種がかなり限定されています。盗難被害車種上位5種すべてがトヨタ車で、なかでもランドクルーザーの被害は群を抜いています。海外で非常に人気が高いということもあり狙われているようです。ランドクルーザーは中東、アルファードは中国での需要が高く、狙われやすいと言われています。
盗難被害車上位5種(千葉県/令和6年上半期)
現在新車購入できるランドクルーザーは、300、250、70の3モデル。すでに販売終了モデルではありますが、近年特に被害が多いのが「ランドクルーザープラド」です。市場価値が高く人気があり、狙われやすくなっているのが現状です。納車後数日で盗難被害にあってしまったという報告も……。
一戸建て、自宅駐車場での発生が約3割
小林:実際にどういった場所、状況下で車両盗難は起きているのでしょうか?
市川:発生状況で一番多いのが一戸建て住宅の駐車場で、全体の30%弱となっています。発生時間は夜中が多く、朝、クルマがなくなっている状況に気づくというパターンが多いようです。
小林:一戸建ての住宅というのは人けが少ない、郊外が多いのでしょうか?
市川:実は住宅街の方が被害にあわれています。車両盗難の多くが複数犯による犯行のようで、事前の下見をかなり念入りに行っているようです。駐車場に防犯カメラはあるのか? 盗難対策はされているのか? そのうえで犯行に及んでいるようです。
ハンドルロックや警報装置、複数の盗難対策で被害を防止
小林:車両盗難における手口が年々巧妙化しています。「リレーアタック」に始まり「CANインベーダー」、そして「ゲームボーイ」と言われる最新の手口まで。これらに対抗するためにすべき対策は?
市川:千葉県警としてもさまざまな情報を収集していますが、まずは「自分のクルマが狙われている」ということをもっと認識していただきたく思っています。注意喚起するためのチラシでも強く訴えていますが、二重三重、複数の対策を立てることが重要です。
アナログ的な対策も実は効果的で、ハンドルロックやタイヤロック、駐車場への柵やチェーンの設置なども有効な防犯対策。ただしハンドルロックやタイヤロックが100%安全かというとそうではありません。ハンドルロックを切断する、ということもありますので。重要なのは「このクルマを盗むには時間がかかりそう」と思わせること。
車両盗難における犯行時間は数分と言われています。時間がかかればかかるほど失敗の可能性が高く、そういったリスクを負わないのがプロの手口。ハンドルロックや警報装置、防犯カメラの設置など複数の対策をすることで「このクルマを盗むには時間がかかりそうだからやめたほうがよさそうだ」と思わせることが重要です。最近は純正のセキュリティーが装備されているのでそれで十分、と考えられている方もいますが、それだけでは不十分だということを強く認識してほしいと思います。
「CANインベーダー」や「リレーアタック」の具体的な手口はこちらから
最新手口にはエンジン停止タイプのデジタルカーセキュリティーが有効
小林:車両盗難の現状を踏まえれば、愛車を守るための盗難対策は今すぐにでも検討したいところです。特にランドクルーザー、アルファード&ヴェルファイアに乗るオーナーは必要不可欠ということが千葉県警への取材でもよくわかりました。そんなランドクルーザーやアルファードに乗るオーナーから問い合わせが殺到しているのが、カー用品店「A PITオートバックス東雲店」が強く推している「デジタルセキュリティー」。最新の防犯対策をA PITオートバックス東雲店の浮田義之さんに解説していただきます。
浮田義之(以下、浮田):A PITオートバックス東雲店で取り扱い始めて数年になりますが、この1年で100台以上のクルマに取り付けてきたのが、エンジンの作動を強制的に停止させるスマホ連動型のデジタルカーセキュリティーです。「ゲームボーイ」や「CANインベーダー」「リレーアタック」等のデジタル盗難に対抗するセキュリティーシステムで、セキュリティーを作動させるとエンジンをかけられなくし、車両の乗り逃げを防ぐというものです。専用のスマホアプリでセキュリティーがON /OFFできるうえ、クルマに異常が発生した場合は即スマホに通知してくれますので、いま最も信頼できるセキュリティーのひとつと言えると思います。実際ランドクルーザーやアルファードに乗るユーザーさんからの問い合わせも多く、関心を抱いてくださった方のほとんどが導入しています。
ただ、デジタルカーセキュリティーを導入していただいても、やはりハンドルロックやタイヤロックといった物理的セキュリティーアイテムの同時購入も推奨しています。車両盗難は、対策する→対策方法を解析する、を繰り返してきた歴史があります。デジタルカーセキュリティーを導入したから100%安全とは言い切れませんので、一番重要なことはクルマを乗り逃げされないようにさまざまな対策を講じることです。デジタルセキュリティーは最後のとりで、まずはハンドルロックやタイヤロックなどでクルマを守れば、盗み出すことに時間がかかるということをアピールできます。結果、被害にあいにくいという状況を作り出すことができます。
店頭に陳列されているセキュリティーグッズ
ハンドルやタイヤを固定することで、物理的に運転できないようにするハンドルロックやタイヤロックは、防犯対策をアピールすることができるので、盗難抑止効果も非常に高い。価格は1万円前後のものが多い、さまざまなサイズがありますので、自分のクルマに取り付け可能かどうかスタッフにご相談ください。
店頭に並ぶスマートブロッカー2
東雲店で取り扱っているデジタルカーセキュリティーのひとつがオートバックス専売商品の「スマートブロッカー2」。専用スマホアプリでセキュリティーのON/OFFをコントロールし、エンジンがかからないようにロックする。スマホの通信プランによって利用できる機能が異なり、ドア開け検知メール通知や衝撃検知メール通知、自動車位置追跡システムなどを搭載。アプリ機能は随時追加&アップデートされる最先端のセキュリティーシステムだ。
防犯カメラの設置も有効な手段。最近は自宅駐車場に手軽に設置できるソーラー電池タイプの防犯カメラなどもラインアップしている
A PITオートバックス東雲店の浮田義之さん
●A PITオートバックス東雲店/東京都江東区東雲2丁目7-20 Tel.03-3528-0357 https://www.apit-autobacs.com/shinonome/
その全貌が明らかにされていない「ゲームボーイ」の正体とは?
小林:いま最も危険な車両盗難手口として、A PITオートバックス東雲店での取材で何度もその言葉を聞いたのが「ゲームボーイ」の存在です。「ゲームボーイ」と聞くと、多くの人は某ゲーム会社が発売していたゲーム機器を思い浮かべるかもしれませんが、姿形がそっくりと言われている車両盗難に使用される特殊機器で、通称「ゲームボーイ」と呼ばれています。まだまだ未解明な部分が多い車両盗難の手口ですが、A PITオートバックス東雲店の浮田さん、さらにはセキュリティー専門店などでも情報収集を行い見えてきたのが、簡単かつ短時間で車両を持ち逃げされる可能性があるということです。
本来は緊急時に解錠を行う機器として鍵専門業者向けに販売されていたのが「キーエミュレーター」というツールです。それが車両盗難ツールとして悪用され、「ゲームボーイ」と呼ばれるようになったそう。その特徴は、スマートキーの電波を利用して即座にキーを生成してしまうもの。スマートキーの電波を傍受、解析、複製した情報によってドアを解錠し、クルマのエンジンをかけて逃げ去るため、従来の「リレーアタック」や「CANインベーダー」よりも短時間の犯行が可能になります。また、ランドクルーザーやアルファードといった最新の高級車が狙われやすいのも「ゲームボーイ」で電波の解析が容易にできるためだと言われています。一方で、最新のスマートキーを採用していない古いモデルなどは「ゲームボーイ」の影響を受けにくいという話もあります。
「リレーアタック」や「CANインベーダー」のように、いずれはより正確で具体的な情報を得られる可能性もあります。ただそれまで対策をせず待っているだけでは、常に愛車が危険にさらされているようなもの。最新のデジタルセキュリティーや物理的な防犯対策の強化など、車両盗難のリスクを大幅に減らす対策はいろいろあります。それらを積極的に導入することが、車両盗難自体を未然に防ぐことにつながります。