監修=千葉県警察本部 生活安全部 生活安全総務課/構成=ダズ/イラスト=オゼキ イサム

車の盗難から愛車を守れ!最新の盗難手口を警察が徹底解説

被害多発!車の盗難・車上ねらいの最新手口 【前編】

「防犯カメラが捉えた、レクサスLXを一戸建て住宅の車庫から盗む怪しい人影……」衝撃的な車両盗難の現場映像がYouTubeで拡散され、話題を集めました。盗難されたクルマは解体され、パーツごとに海外へ不正輸出される場合もあるといいます。 愛車を盗難・車上ねらいから守るためにはどうすればいいのか? この企画では、たいせつな愛車を守るために知っておきたいことを、前後編2回に分けて専門家に伺っていきます。 前編となる今回は、車両盗難や車上ねらい被害の現状からその手口まで、被害の実態をカスタム&カーライフ情報誌「スタイルワゴン」の元編集長で、現在同誌のWebサイトを担当する小林章さん、千葉県警の横田秀俊さんに解説いただきます。

目次

発生件数は年々減少するも、被害額は増加傾向に!

小林章(以下、小林):日本損害保険協会が発表した実態調査結果によると、2021年の車両盗難による保険金の支払い件数は2,425件。2019年の3,800件から大きく減少しています。これは車上ねらいも同様。

いっぽうで、1件あたりの支払い保険金額の推移は年々上昇しており、高級車を狙った盗難事件が以前よりも多く発生しているということがわかります。盗難や車上ねらいの発生件数が減っているとはいえ、一概に安心できる状況ではないということです。

また、昨今気になるのが、新車の納期遅れや中古車市場の高騰。不安定な世界情勢の影響もあり、自動車製造に必要な半導体などの部材不足が起きています。結果、通常であれば1〜3か月程度で納車される新車が半年待ち、車種によっては1年待ち、という話も珍しくありません。もし大事にしている愛車が盗難にあってしまったら、大きなショックを受けることはもちろん、代わりになるクルマがすぐに手に入れられない状況なのです。

日本損害保険協会による「第23回 自動車盗難事故実態調査結果」

日本損害保険協会による「第23回 自動車盗難事故実態調査結果」

あのハイブリッドカーも! 狙われやすいのは高級車だけじゃない

小林:車両盗難や車上ねらいには、実は“狙われやすいクルマ”があります。そのなかでも、レクサスLXやアルファードなど、やはり高級車が狙われやすいのは間違いありません。こうした高級車は、日本国内で人気なのはもちろんですが、海外でも非常に人気が高く、高値で取り引きされるため、窃盗団に狙われやすいのです。

ほかにも、2019年から2021年の車名別盗難状況において、ランドクルーザーとプリウスは必ず上位に名を連ね、全体の約2割を占めています。とくにプリウスは、ハイブリッドカーの心臓でもあるモーターやバッテリーなどが高価で転売できるため、解体して海外へ売られているようです。

日本損害保険協会による「第23回 自動車盗難事故実態調査結果」

日本損害保険協会による「第23回 自動車盗難事故実態調査結果」

「朝起きたらクルマが消えていた…」自宅駐車場での被害が多発!

実際にどんな状況下で車両盗難や車上ねらいが起きているのか? その実情を、近年県内での被害が拡大しているという、千葉県警の横田秀俊さんに伺いました。

横田秀俊(以下、横田):7月末までのデータになりますが、千葉県における2022年の盗難事件では、自動車盗難届けが389件、車上ねらい届けが906件。2021年の盗難多発ランキングでは、千葉県が全国で1位という、あまりうれしくないデータが出ております。

小林:どういった状況下で車両盗難や車上ねらいは起きているのでしょうか?

横田:車両盗難・車上ねらいともに、発生する時間帯がもっとも多いのは深夜です。これは被害が起きてから、実際に気が付くまでに時間がかかってしまうというのがひとつの理由です。「朝起きたらクルマがなかった」という被害報告がけっこうあります。

そして実は、被害発生場所でもっとも多いのが自宅駐車場。その割合は、4割以上にのぼります。路上で被害に遭うイメージが多いかもしれませんが、自宅駐車場が多い結果となっています。

駐車場に停まっているクルマの写真

朝起きたら自宅駐車場からクルマが忽然(こつぜん)と消える……。嘘のような状況で多くの被害が起きている。

いま急増中の窃盗手口「CANインベーダー」って一体なに?

小林:被害件数自体は年々減っていると言われていますが、盗難や車上ねらいの手口も変化してきているのでしょうか?

横田:数年前は自動車の鍵穴をこじってドアを開け、配線を直接つないで強引に車両を盗んでいく被害が多くありました。近年は自動車メーカーも盗難対策を講じており、暗号コードを認識しなければエンジンが始動しない「イモビライザー」を標準化するクルマが増えています。結果、被害総数は減っていますが、そういった機能を無効化するための手口が新たに考えられ、いまなお被害が続いている状況です。

小林:盗難対策が講じられてもクルマが盗まれてしまう。窃盗団はいったい、どんな手口で車両を盗んでいくのでしょうか?

横田:昨今、多く見られるのが「CANインベーダー」と呼ばれる手法。これは、クルマの配線に専用端末を直接接続し、「CAN(コントローラー・エリア・ネットワーク)」と呼ばれるクルマのシステムに侵入して、ドアを解錠しエンジンを始動させる手口です。わずか数分でクルマが持ち去られてしまいます。

それと、従来からの手口として有名なのが「リレーアタック」。これはスマートキーから発生される微弱な電波を拾って行われる盗難手口で、スマートキーを持っている人や保管している場所に犯人が近づき、スマートキーから発信されている微弱な電波をキャッチする特殊な機器で、車両側にいる共犯者に電波を増幅して中継し、車両を解錠、エンジンを始動させてクルマを盗む手口です。

CANインベーダー

最近のクルマは電子制御化が進み、車内の隅々までCAN(コントローラー・エリア・ネットワーク)が張り巡らされている。このCAN配線に機器をつなぎ、クルマの頭脳にあたるECU(エンジン・コントロール・ユニット)を乗っ取り、鍵の解錠やエンジンを始動する。

リレーアタック

ボタン操作不要で、クルマの施錠・解錠ができるスマートキー。そんなスマートキーから常時発信されている微弱電波を特殊な機器で傍受、さらに増幅・中継しながら、車両の解錠やエンジンを始動させる手口。玄関口に保管したスマートキーも狙われるという。

コードグラバー

千葉県警の取材では挙がらなかったが、数年前から増えている手口。ドアの施錠・解錠をする、キーレス機能を使用した瞬間を狙い、スマートキーのIDコードを盗み取る。ドア開閉はできても、エンジンの始動はできないので車上ねらいで悪用される場合が多いといわれている。

CANインベーダーやリレーアタックから愛車を守るためには

横田:リレーアタックに関しては、スマートキーの電波が漏れなければ被害に遭うことはありません。スマートキーを節電モードにしたり、電波を遮断するポーチや金属缶に収納するといった対策があります。

そしてリレーアタック、CANインベーダーともに有効なのが、基本的な盗難防止対策の強化です。まずは照明やセンサーライトを設置するなどの駐車場の防犯対策、それから盗難防止装置、ハンドルロックやタイヤロックといった物理的に盗難を防止するための機器の利用です。どれも確実に窃盗団から愛車を守れるというわけではありませんが、防犯対策をすることで、簡単に車両盗難ができなくなります。盗む側の時間がかかり、捕まるリスクも高くなるため、結果ターゲットになりにくくなるのです。つまり盗難のリスクを下げるためにも、防犯対策をしていただきたい、ということです。

スマートキーの電波を遮断する金属缶への収納。確実に電波が遮断されているか、金属缶にスマートキーを入れたままクルマに近づき、施錠・解錠されるのかも確認したい。

駐車場の防犯対策もしっかりと行いたい。照明やセンサーライトによって、愛車の監視機能を強化しよう。防犯カメラも非常に効果的だ。

物理的にハンドルやタイヤを動かなくする、ハンドルロックやタイヤロック。「防犯対策をしています!」というアピール力も強く、抑止効果が非常に高い。


自宅駐車場での被害が約4割超えという、車両盗難・車上ねらいの実情。自宅だからと決して油断せず、基本的な防犯対策もしっかり取り入れていく必要がありそうです。

次回のテーマは、より具体的な対策方法について。大切な愛車が盗まれないために知っておきたい盗難対策やおすすめグッズを多数ご紹介します。

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