自賠責運用益の使い道に驚き! 知られざる「自賠責運用益拠出事業」に迫る
すべての自動車に加入が義務付けられている「自賠責保険」ですが、その運用益が何に活用されているのかご存じですか? 今回の特集では、運用益を用いてさまざまな事業を支援する「自賠責運用益拠出事業」に着目。ドライバーなら知っておきたい、その仕組みや取り組み内容をご紹介します。
~自賠責保険とは?~
自賠責保険は「自動車損害賠償責任保険」の略称で、不幸にして事故を起こし、加害者になってしまった場合の損害賠償に備えるため、加入することが義務付けられている保険です。
どこから生まれるお金なの? 自賠責運用益の仕組み
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自賠責保険は保険本来の役割に加え、交通事故防止や被害者とその家族の救済など、被害者保護を目的とした事業を支援する役割も担っています。そのために役立てられているのが、自賠責保険の「運用益」です。では、運用益はどのようにして生まれる資金なのでしょうか。自賠責保険では、各損害保険会社が契約者から保険料を預かり、被害者に支払うまでに時差が生まれます。その間、保険会社には一定の資金が滞留し、その滞留資金を運用することで得られる利息を「運用益」と呼んでいます。
自賠責保険は、“損失も利益も出さない”という「ノーロス・ノープロフィットの原則」に基づいて運営されています。そのため、運用益は他の保険の積立金などと区別し、準備金として積み立てることが法令で義務付けられています。積み立てられた運用益は、将来の自賠責保険の収支改善のための財源とするほか、さまざまな事業を支援する「自賠責運用益拠出事業」に活用されます。
医療、教育、アフターケア━━━目からウロコの使い道
2022年度の自賠責運用益拠出事業では、40の事業に対する支援として、総額で約17億8,000万円を拠出しました。事業の内容は、「自動車事故防止対策」や「自動車事故被害者対策」、「救急医療体制の整備」などさまざま。過去に実施された自賠責運用益拠出事業の中から、知っておきたい注目事業をピックアップしてご紹介します。
全世代向け! 5分で認知能力をチェックできる新プログラム
■運転時認知障害の早期発見
最近よく見かける、高齢運転者による交通事故や高速道路逆走などのニュース。こういった事故の要因の一つが、認知機能の低下です。高齢者だけでなく、若年性認知症や軽度認知障害も含めて早期発見することが、事故の防止につながります。そこで一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会は、自身で認知機能をチェックできる「もの忘れ相談プログラム」を開発。タブレットの専用画面で“言葉を思い出す”“立体を違う角度から見た図形を選ぶ”などの5項目に回答することで、認知機能を客観的に測ることができるプログラムです。本プログラムは全国の指定自動車教習所に配備され、高齢者講習受講のために来所した高齢者などが受検しています。
子供の年齢に合わせた教育で、交通安全への理解を深める
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■子供への交通安全教育の普及
歩行中の子供が被害者となる交通事故を未然に防ぐため、一般財団法人日本自動車研究所では自賠責運用益の一部を活用し、子供の年齢に応じた交通安全教育の研究を進めています。空間認識能力やリスク回避能力には年齢差があり、例えば小学校低学年の子供は、“俯瞰図と実際の見え方の違いを理解できない”といった高学年の子供にはない特徴を持ちます。そのため、低学年の子供には映像を見せながら説明するなど、同研究所では子供の発達段階に応じた交通安全教育プログラムを開発しています。
被害者遺族の心に寄り添い、継続的にケア
■グリーフケア研究・活動への支援
大切な人との死別による悲嘆(グリーフ)を抱えた人を支援する「グリーフケア」が、近年注目されています。遺族には「亡くなった人の存在を残したい」という思いがあり、交通事故のような理不尽な死の場合に強く表れるといいます。グリーフケアを研究する関西学院大学では、その気持ちを形にした「生命(いのち)のメッセージ展」を毎年開催。訪れた多くの人にとって「運転に気をつけよう」と考える機会になるとともに、遺族にとっても、遺族同士の交流が生まれるなど、前向きな人生へ一歩踏み出すきっかけとなっているようです。このように、遺族の心をケアして人生を後押しする「グリーフケア」の活動や、その質を高める研究を自賠責運用益拠出事業にて支援しています。
ドクターヘリ搭乗を目指す医療従事者をバックアップ
■ドクターヘリ講習会の開催支援
医師や看護師を乗せて事故現場に急行し、患者を寝かせたまま搬送できるドクターヘリは、交通事故においても重要な存在です。そこで日本航空医療学会ドクターヘリ研修委員会では、医療従事者や運航関係者向けに、ドクターヘリ搭乗に必要な安全知識を伝える講習会を開催しています。これまでは座学が中心でしたが、自賠責運用益の一部を用いて、機体を改造したシミュレーター「Metra(メトラ)」を使った新研修プログラムを開始。機体の揺れや地上との交信を再現するだけでなく、発煙装置による機内火災や、患者搬送中の困難なシナリオを想定した訓練も可能になりました。
高規格救急自動車の寄贈も!
交通事故が起きた際、真っ先に駆けつけてくれる救急車。中でも高機能・高性能な「高規格救急自動車」は、救命率の向上に大きく貢献しています。高規格救急自動車の普及は進んでいますが、車両の耐用期間満了を見据え、自賠責運用益を活用した継続的な寄贈を続けています。