サンルーフの画像
構成=ダズ/文=吉川賢一

サンルーフはなぜ、採用車種が減ったのか?

昔は憧れのオプション装備、今は独自の進化を遂げる

1978年、ホンダ・プレリュード(初代)に国産車として初めて電動サンルーフが採用された。オープンカーでもないのに、心地良い風や青空を直接感じられるあの雰囲気は、モデルチェンジした2代目が「デートカー」として人気となったプレリュードの、魅力のひとつでもあった。

こうして当時の若者に大いに受け入れられた電動サンルーフは、その後、デートカーや高級車にとどまらず、当時ブームだったRVやミニバンにも採用が広がるなど、1990年代前半にかけて、人気アイテムへと成長。バブル景気に沸いていた当時、多くの日本人が憧れたクルマの贅沢装備のひとつとしてもてはやされた。

しかしながら2000年頃から徐々に減少していき、いまでは電動開閉するサンルーフはその姿を減らしている。なぜあれほどもてはやされた電動サンルーフが衰退したのか。そこには、ある事情があった。

目次

誰もが憧れたサンルーフ。現行車では高級車を中心に残る

ホンダ・プレリュードのサンルーフ

1978年に登場したホンダの初代プレリュード。ロングノーズ・ショートデッキのスタイルは「大人のパーソナルクーペ」の色気があった

フルオープンにすれば車内に光が差し込み、風の流れや周囲の音、匂いまで楽しむことができるサンルーフ。オープンカーほどではないものの開放感を満喫でき、それでいてサイドウインドーを開けたときよりも、隣のクルマの走行音や駆け抜ける風などが必要以上に入ってこないので、快適なオープンエアを楽しむことができる。

開閉方式には、チルトアップ式(後方が浮き上がるタイプ。開放面積はわずかだが、換気には十分)とスライディング式(屋根に設置されているガラス面が後方にスライドするタイプ)があったが、チルトアップとスライディングの両方ができるものが多かったように思う。なかには手動タイプもあったが、主流は電動でガラスを開け閉めできるタイプであり、チルトアップ式であれば、冬でも寒さを感じることなく換気をすることができた。

しかしながら、2000年頃になると、サンルーフは徐々に避けられるように。バブル崩壊以降の景気低迷による消費の減退によって、贅沢装備であったサンルーフに、開発する側も使う側もお金をかけることができなくなってきたためだ。また、ガラス製かつスライド機構があることでかなりの重量物であったため、燃費悪化の要因であり、環境性能が求められるようになった2000年代には、メリットよりもデメリットが上回るようになってきたことも要因だった。愛煙家が減り、換気の必要性が減ったことも関係しているだろう。

当時のサンルーフにはまた、屋根の一部をくりぬいてしまうことでボディーの強度が低下すること、ゴムパッキンの劣化によって雨漏りしてしまう可能性があること、外気温や日差しの影響を受けやすくエアコンの負担が大きくなるなどのデメリットもあった。また、そもそも、最初こそ開けて開放感を楽しむものの、飽きてしまえば次第に使わなくなる装備でもあった。

そんなサンルーフだが、近年は主に開閉機能を持たない「パノラマルーフ」としての人気が復活している。開閉機能を省くことで構造がシンプルになり、コストを抑えることができるうえに、開口部をより広くとることもできるようになったのだ。また、技術の進化によって、強度と耐久性、耐熱性能を高めた樹脂材が登場し、これをパノラマルーフに採用することで、ガラスに比べて半分程度の重量で実現できる(=重量増加による燃費悪化や重心高による操縦安定性の低下を少なくできる)ようにもなった。

樹脂製だけでなく、ガラス加工の技術も進化した。ガラス製でありながら軽量化も実現した調光機能をもつパノラマルーフが登場。調光機能によって、夏の日差しを和らげながら、冬には暖かい日差しを届け、従来のサンルーフでは必須だった日よけが不要となったことで、同時に軽量化にも成功した。また左右の席それぞれに電動シェードを設け、右側だけ明るくして左側は暗くするというような自由度の高い使い方ができるクルマも登場した。

従来のサンルーフでは、採光が欲しければ日差しを我慢する必要があったが、これらの登場で採光と日よけを両立することが可能となった。クルマに乗る人にとって、車内の明るさや開放感は、移動の心地良さに直結する非常に重要なもの。新材料の登場や技術のブレークスルー、そしてあまり使わなかった開閉機能を断捨離したことで、サンルーフは弱点を克服し、ユーザーにとって嬉しいかたちに進化した結果が、「開かない」サンルーフだったのだ。

当時話題となった懐かしのサンルーフ&ガラスルーフ車8選

国産初の電動サンルーフ(ホンダ・プレリュード)

ホンダ・プレリュードは、スイッチ操作ひとつで開閉できる電動サンルーフのほかにも、見やすさに配慮した集中ターゲットメーターなどの新技術を採用していた

国産初のサンルーフ車はソフトトップのスライド式/ホンダ・N360(1968年)

ホンダ・N360サンルーフのフロント

日本車メーカー初の本格スライド式サンルーフを装備したホンダ・N360〈サンルーフ〉。耐久性のある高級レザーを使ったソフトトップ形式を採用

サンルーフはワンタッチで開閉が可能。開口部の有効寸法は710×705mmもあり、前席から後部座席の上部まで開放できた。スライディング方式でこれほどの広さがあったのは当時、N360〈サンルーフ〉だけだったという。なお、サンルーフのレールは、高精度のアルミサッシを採用。軽くて丈夫なうえ、錆びずに美しい見栄えが長く続くよう配慮されていた。また防水性や気密性も高く、いかなる悪天候にも耐え得る構造であった。

国産初の電動サンルーフを備えた/ホンダ・プレリュード(1978年)

ホンダ・プレリュードのフロント

後に「デートカーの代表車」と言われるようになるホンダ・プレリュード。初代モデルに備わる電動サンルーフは、当時のホンダ技術の粋を集めたアイテムのひとつだった

今では数えるほどしかない国産2ドアクーペだが、1970~80年代は国産2ドアクーペが多く存在した。他社のクルマは若者が好みそうな華々しいスポーツカーを目指すなか、1978年にデビューしたホンダの初代プレリュードは、派手さを抑えたエクステリアやラグジュアリーなインテリア、落ち着いた乗り味などで、シックな大人の世界観を創出していた。その雰囲気づくりに貢献したアイテムのひとつが電動サンルーフだ。

取り外し式で開放感抜群だった/マツダ・サバンナRX-7(1979年)

マツダ・サバンナRX-7のフロント

ロータリーエンジンを搭載したピュアスポーツカーとして、1978年3月に誕生した初代サバンナRX-7に備わる2ウェイサンルーフ

「運転する楽しみの追求」をテーマに開発されたサバンナRX-7。コンパクトなロータリーエンジンをフロントミッドシップに搭載したことによる低くてシャープなフロントデザインや、空気力学を重視した低く大胆なウェッジ形ボディー、そしてグラスハッチバックなど、洗練されたデザインは当時、世界中から称賛された。採用されたサンルーフはチルトアップに加えて、取り外してフルオープンにもできる2ウェイ方式を採用。開口部は765×490mmで当時国産車では最大クラスだった。

世界初のアウタースライド式を採用/ホンダ・バラードスポーツCR-X(1983年)

ホンダバラードスポーツCR-Xのサイド

世界初の電動アウタースライド・サンルーフを採用したバラードスポーツCR-X。アウタースライドレールなしに、サンルーフがルーフの上をスライドして開く構造

FFライトウェイトスポーツという新ジャンルを切り開いたバラードスポーツCR-X。世界初の電動アウタースライド・サンルーフは、全閉時にはルーフにビルトインされる独創のメカニズムを採用。車室内の居住性を犠牲にすることなく、広い室内空間が得られた。操作は電動の押しボタン式スイッチで行うため力も不要。チルトアップのみも可能な構造であった。

こんなのありましたね! オープンエアを取り込むルーフベンチレーション

ホンダ・バラードスポーツCR-Xのルーフベンチレーション

天井から空気を取り込む、オーバーヘッドスタイルのルーフ・ラム圧ベンチレーション

バラードスポーツCR-Xの特徴は電動アウタースライド・サンルーフだけではない。飛行機のように天井からフレッシュなエアが降りそそぐように空気を車内へ導入するベンチレーションも用意されていた。風量を2段階で切り換えることが可能で、風向きを調節することで快適な自然換気を行うことができた。なお、設定されていたのは発売当時の上級グレードにあたる1.5iグレードのみで、ルーフベンチレーションか電動アウタースライド・サンルーフのどちらかを選ぶことができた。

スバル・インプレッサWRXのルーフベンチレーション

ルーフベンチレーションは1994年に発売されたスバル・インプレッサWRX STiバージョンにも採用されていた

軽自動車初の電動サンルーフ/ホンダ・トゥデイ(1988年)

ホンダ・トゥデイのフロント

軽自動車初のチルトアップ機構付電動サンルーフ(サンシェード付)

1988年2月のマイナーチェンジで大きく変わったホンダ・トゥデイ。エンジンの直列3気筒化やヘッドランプデザインを丸形から上写真のような薄形異形へと変更したほか、軽自動車として初のチルトアップ機構付電動サンルーフ(サンシェード付)をオプションで設定していた。新鮮な空気を入れたいときにはチルトアップを、太陽の光を浴びたいときにはアウタースライド式のルーフをフルオープンにできた。サンルーフのガラス色は当時流行していたブロンズ(色付きガラス)で、サイズは845×514mmと大開口であった。

圧倒的な開放感を得た後席サイドのガラスルーフ/三菱・デリカスターワゴン(1986年)

三菱・デリカスターワゴンのフロント

「走るリビングルーム」こと、3代目デリカスターワゴンに採用されたクリスタルライトルーフ

1986年6月に登場した、デリカシリーズ3作目となる「デリカスターワゴン」。オンロードはもちろん、オフロードでも高い走破性を誇るミニバンであった。また「走るリビングルーム」をテーマに、マルチシートシステムやマルチオーディオシステム、マルチエアコンシステムに加えて、クラス初のクリスタルライトルーフを採用。運転席の頭上にはサンルーフ、2列目から3列目にかけて電動シェードを備えた広大なガラスエリアを採用し、車室内は非常に明るく開放的な居住空間であった。


三菱・デリカスターワゴンの車内

シェードを開けた車内は、まるでスイスの登山電車、ベル二ナ急行やゴールデンパスラインのような開放的な雰囲気が感じられた

長さ1500mmのガラスルーフ/日産・ラフェスタ(2004年)

日産・ラフェスタのフロント

圧倒的な開口面積で明るい車室内を演出した、ラフェスタのパノラミックルーフ

2004年12月に発売された日産・ラフェスタ。最大の特徴が、パノラミックルーフと呼ぶ固定式のガラスルーフを全車標準装備したことだ。ガラスの大きさは長さ1500×幅800mm(開口部は長さ1360×幅670mm)にもなり、フロントシートの頭上から、サードシートの目線の上までカバーすることが可能。紫外線を100%遮断するUVカット機能付プライバシーガラスによって、日焼けの心配は無用だった。ワンタッチで開閉できる電動シェードも付いていた。

日産・ラフェスタのパノラミックルーフ

圧巻の開口部面積を誇るパノラミックルーフは一枚の大きなガラスだ。ボディー剛性への影響はガラスエリアの縁の部分を対策補強してカバーされている

前後スライド可能なツインサンルーフ/日産・エルグランド(2010年)

日産・エルグランドのフロント

フロント側、リア側ともに電動チルトアップ&スライド機構を搭載したE52エルグランドのツインサンルーフ

2010年8月に発売となった日産・エルグランド(E52)にメーカーオプションとして設定されていた、フロント側・リア側ともに電動チルトアップ&スライド機構付きのツインサンルーフ(UVカット断熱機能付プライバシーガラス)。3列目までのすべての席で圧倒的な開放感が楽しめた。なおリア側の電動サンルーフには挟み込み防止機能(挟まれたときの反転機能)も設定。万が一、セカンドシートの同乗者がリアサンルーフから手を出していた場合、運転者が気づかずにサンルーフを閉めてしまうことに配慮していた。

日産・エルグランドのツインサンルーフ

フロント側はスイッチを押し続けると閉じる「マニュアル作動」、リア側はスイッチを押すと全閉する「オート作動」としていた

スイッチひとつで透過と調光のモードが切り替わる 最新のガラスルーフ

トヨタ・ハリアーの調光パノラマルーフ

クリアモードと障子越しのような柔らかな光が差し込む調光モードが、瞬時に切り替えられる、ハリアーの調光パノラマルーフ

2020年6月に発売されたハリアーにオプション設定された、トヨタ初採用となる調光パノラマルーフ。スイッチ操作で開け閉めできる電動シェードも備わる。最大の特徴は、シェードが開いている状態で、ガラスが透明になる透過モードと白濁する調光モードとをタイムラグなく切り替えることが可能なことだ。音声認識操作にも対応している。液晶調光フィルムには、電気で透明と白濁をコントロールできる、透明な高機能性フィルムシートを使用。赤外線は65%、紫外線も99%以上カットする特性を持たせている。

技術の進化によって、大開口かつ軽量なガラスルーフや、調光可能な新素材を用いたサンルーフなども登場してきた。大きなサンルーフは、クルマの中にいるとは思えないほどの明るくオープンエアな雰囲気が味わうことができる。クルマを初めて手にする方、乗り替えを検討されている方は、検索キーワードに「サンルーフ付」も加えてみてはいかがだろうか。

吉川賢一

よしかわ・けんいち 日産自動車の元開発エンジニアの経歴をもつ自動車ジャーナリスト。クルマの新技術の内容やその背景にあるストーリーの面白さを伝えるため、大手自動車メディアで情報発信している。無類のレース好き。趣味である10分の1スケールRCカーで毎月レースに参戦中。

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