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レトロなパイクカー特集のキービジュアル
構成=ダズ/文=高橋陽介

Be-1、フィガロ、ミラジーノ、オリジン…レトロなフォルムがお洒落でかわいかったクルマたち

根強い人気を誇るレトロなパイクカーが大集合!

技術の進化やトレンドの移り変わりにつれて、さまざまに変化してきた車体デザイン。近年、市場ではミニバンタイプの他、目線の高さや余裕の車内空間を兼ね備えたSUVタイプが主流となっています。そんななか、少数派ながら独特な存在感を放っているのが丸形ヘッドライトやクロームメッキのバンパーなどを備えた、パイクカーとも呼ばれるレトロスタイルの車。今回は現在でも丹念に探せばその中古車を見つけることができる、新旧のパイクカーを集めてみました。


ノスタルジックな世界観と、古き良きデザインワークが大きな特徴

ビュートのリアイメージカット

日産マーチの後部にトランクスペースを追加するとともに、違和感のないボディラインに仕立てられた光岡ビュート

パイクカー(※)という呼称を初めて用いるとともに、そのキャラクター作りに先鞭をつけたのは日産Be-1。発売が開始されたのは1987年。世はまさに空前のバブル景気前夜ということで、この時期には200馬力を超える大排気量ターボ車(トヨタ・スープラ、ソアラ)や4WS(4輪操舵機構:ホンダ・プレリュード)、スポーツ4WD(日産ブルーバードSSS-R、三菱ギャランVR-4他)など、高性能・高級志向を前面に打ち出したモデルが続々登場。それまでの「日本車=実用性や耐久性は申し分ないが、趣味性は乏しい」という海外からのイメージを打破するための劇的とも言える発展・進化の波の真っ只中にありました。

そこに忽然と現れたのが、Be-1。エンジンやシャシーなど基本コンポーネンツは同社のマーチで、オートマチック車は設定されていたものの、装備はパワステ、パワーウインドーなしという簡素なものでした。それでもBe-1のレトロなデザインは大いに話題を集め、限定台数の1万台は瞬く間に完売。以後、パオ(1989年)やフィガロ(1991年)と続く日産パイクカーシリーズを生み出す布石としての役割を果たしました。

その後、光岡自動車から2代目日産マーチのハッチバックボディ後部にトランクを設け、3ボックスセダン化させたビュート(1993年)が登場。スバルもサンバー ディアス・クラシック、同ヴィヴィオ ビストロ(いずれも1995年)を相次いで投入し、市場にレトロ顔ブームを巻き起こすことに。以後も現在に至るまで軽自動車からセダン、ワゴン、スポーツタイプなど、幅広いカテゴリーにおいて内装・外装をはじめさまざまな形でクラシカルなテイストを取り入れた車が作られています。

電動化や自動運転技術の進化など、現在は100年に一度の大変革期にあると言われる自動車業界ですが、若者の間でアナログレコードやフィルム式カメラが醸し出す『味わい深さ』が見直されているように、どこか素朴で親しみやすいパイクカー的なキャラクターに魅力を覚える人は少なくないはず。

今回紹介するクルマの一部にはプレミア級のプライスボードが付けられている例もあるようですが、その強烈な個性と独特な世界観に興味を持たれた方は一度購入を検討してみてはいかがでしょう?

(※)日産自動車の広報資料によると、「パイク」とは「槍の先」を意味し、少量生産を前提に、強い個性と遊び心があり、尖った性格の車を指す、と記されています。

すべてはここから始まった
偉大なる元祖パイクカー

日産Be-1(1987年登場)

Be-1のフロント

デザインテーマはノスタルジックモダン。ノーマルルーフと写真のキャンバストップの2種類が用意されていた

1985年の第26回東京モーターショーに参考出品。あまりの反響の大きさから、その2年後の1987年1月に正式発売となったBe-1。生産台数は1万台限定で、月販400台という販売計画が立てられていたが、発売開始2週間で6,000台の注文が殺到。3月には受注締め切りとなるなど、文字通りの大ヒットモデルとなった。その愛くるしいフォルムからアパレルや小物など、Be-1のロゴを取り入れた関連商品も作られた。

Be-1のリア

フロントに劣らずユーモラスな印象のリアビュー。ハッチバックではなく、リアウインドー下部分から開く独立したトランクスペースを備えていた

Be-1に続くパイクカーシリーズ第2弾
リゾート気分、冒険心がテーマ

日産PAO(1989年登場)

PAOのフロント

三角窓やルーフレール、金属製の前後バンパーなど、未開地を走る探索車風の演出が取り入れられていた

業界に大きなインパクトをもたらしたBe-1から2年後に発売されたPAO。ベースとなったのはBe-1同様、K10型マーチ。ドアやリアゲートの取り付けヒンジ部分や、車体外板の強度を高めるためのリブをあえて露出させるなど、無骨さを逆手に取ったデザインを採用。1万台の限定販売だったためプレミア騒動が起きたBe-1の教訓を生かし、PAOは3か月の予約期間を設け、申し込み者すべてに車両を渡すという販売形態が採られた。ちなみに、申し込み総数は5万1657台に上った。

PAOのリア

リアゲートはガラス部分とパネル部分が上下に分かれて開閉。内張りを省略し、スチールパネルが剥き出しとなっていた内装も特徴的だった

お洒落で優雅なパーソナルクーペ
日産パイクカーシリーズの集大成

日産フィガロ(1991年登場)

フィガロのフロント

「刑事コロンボ」の愛車(プジョー403)の雰囲気も漂うスタイル。ベースはマーチだがBe-1、PAOとは異なりターボエンジンを搭載。ミッションは3速ATのみ

日産パイクカーシリーズの第3弾として1991年2月14日に発売されたフィガロ。素朴さや遊び道具らしさを表現していたBe-1、PAOとは異なり、フィガロは大胆なまでにノスタルジックなお洒落さや優雅さを全面にアピール。車体形状もフロント2座を優先したノッチバッククーペで、サイドウインドー周りを残すセミオープントップも採用。販売は総数2万台を3回に分けた抽選制としたが、初回分の8,000台枠だけで21万を超える申し込みが殺到した。細部まで手の込んだ作りから現在でも人気が高く、中古車市場では驚きの価格で取引されているケースも。

フィガロのリア

ミニマムながらリアシートも存在する。リア上段のヒンジ付きカバー部分はオープントップの格納場所で、トランクはその下段部に位置する

丸目&メッキグリルでイメチェン
丸形のテールランプもカワイイ!

日産 マーチ ボレロ(1997年登場)

マーチ ボレロのフロント

ボンネットやフロントフェンダーはベース車のまま、フロントパネルを丸目の専用デザインとしたボレロ

2代目、K11型マーチをベースに、前年に発売されたマーチ タンゴに続いてオーテックジャパンによりレトロ調スタイルに仕立てられた車がマーチ ボレロ。レトロ感はタンゴより強められ、ヘッドライトを丸形とした他、大型のフロントグリルやクロームメッキのホイールカバーなども採用。内装も専用のシート表皮やクラシカルな表示のメーターパネルが備えられていた。翌98年にはグリルデザインを変更したマーチ ルンバも発売されている。

マーチ ボレロのリア

バンパーに追加されたメッキ部分はスチールではなく樹脂。このためメーカーでもオーバーライダーと表記している

人気の高さはベース車以上?
2代、10年にわたるロングセラー

ダイハツ・ミラジーノ(1999年登場)

ミラジーノのフロント

L700系ミラと聞くと、ベースとなった角目モデルより丸目のジーノを連想してしまうほど、幅広い人気を獲得していた

ダイハツ・ミラの5代目モデル、L700系の派生車種として設定されたミラジーノ。先代のL500系にもクラシックというレトロスタイル車が設定されていたが、ボンネットやフロントフェンダーが角目のベース車用のままだったのに対し、ジーノはフロントドアから前方が専用デザインとされるなど、よりまとまり感のあるフォルムに仕立てられていた。販売面でも好調で、2004年のモデルチェンジで登場した2代目はL650型として、ミラシリーズから独立した型式も取得している。

ミラジーノのリア

クロームメッキのバンパーモールやリアコンビネーションランプなど、リア周りもジーノ専用パーツが多用されていた

ありそうでないキャラクターで
レトロ感をさりげなく表現

スズキ・アルト ラパン(2002年登場)

初代アルトラパンのフロント

角度が立ったガラス面は見た目的な特色だけでなく、開放的な室内空間作りにおいても効果をもたらしていた

5代目アルトの派生車種として2002年にデビューしたラパン。丸みを帯びたアルトに対し、直線基調の角張ったボディデザインを採用。なかでも垂直に近い角度のガラス面で構成されたキャビン部分は特徴的で、遠目からでもラパンであることを印象付けた。発売当初は特にレトロ感を前面に打ち出すことはなかったが、2003年にはスズキの往年のスポーツグレード名、SSの名を冠した丸形ヘッドライト+ターボエンジン車や、同じく丸形ヘッドライト+ベンチシートのLが追加されている。

現行ラパンLCのフロント

モデルチェンジを重ねるごとにレトロ感が強められている感もあるラパン。こちらは昭和42年のLC10型フロンテをオマージュしたラパンLC(現行モデル)

パイクカー旋風の数年後に起こった
レトロ顔ブームの火付け役

スバル・サンバー・ディアス クラシック(1993年登場)

サンバー ディアス クラシックのフロント

リアエンジン車なのに大型フロントグリル? という違和感を忘れさせるほどのヒット作に。ヴィヴィオ ビストロとともにレトロ車ブームを作り上げた

1990年に発売された5代目サンバーのマイナーチェンジ時に登場したクラシック。1950年代のボンネットバスをモチーフに丸形ヘッドライト、縦型グリル、横長のバンパーなど、フロントパネルを専用デザインに変更。ルーフをアンティークアイボリー仕上げとした2トーンカラーもレトロテイストを演出。乗用タイプのディアスの他、後に4ナンバーのサンバーバン/トラックにもクラシック仕様が設定された。

正統エンスージアストもびっくり
普段使いができるクラシックカー

光岡ビュート(1993年登場)

初代ビュートのフロント

これが日産マーチだとは思えない変身ぶり。ご存じの通り、光岡自動車はビュート発売の翌年、ZERO-1をもって国内10番目の乗用車メーカーとしての認可を受けている

日産シルビアやフォード・マスタングなどをベースに往年のクラシックカーの復刻版とも言えるクルマを作ってきた光岡自動車が、1993年に発売したビュート。ベースはK11型日産 マーチだが、その面影が見受けられるのはキャビン周りのみで、車体前後は英国のスポーツサルーンの名作、ジャガー・マーク2をモチーフとした完全専用設計。一見、カーマニア向けのモデルようにも思えるが、車にそれほど詳しくない女性ユーザーにも好評を博し、ベース車の変更を行いながら現在でも販売が継続されている。

ビュートの内装2点

日産マーチの扱いやすさをそのままに、ウッド調のパネル類や上質な素材を用いたシートなど、高級感にこだわったインテリア

大御所メーカーが手掛けると
パイクカーはここまで本格的なモノに!

トヨタ・オリジン(2000年登場)

オリジンのフロント

パネル接合部の精度や塗装仕上げにも匠の技を投入。エンジンは3リッター・直列6気筒2JZ-GEが搭載されていた

トヨタの国内自動車生産累計1億台達成の記念事業の一環として作られたオリジン。モチーフとなったのは1955年に初の純国産車として発売された初代クラウンRS型。ベースがプログレということもあり、オリジナルに対しかなりワイドトレッドなフォルムとなっているが、観音開きのドアや左右まで回り込んだリアガラスなどを忠実に再現。フェンダーパネルなど多くの部分が熟練工によるハンドメイドとなっている。限定台数は約1,000台。発売当初の価格は700万円とされていた。

名車の血統を受け継いだ走破性能
レトロなフロントマスクも人気

トヨタ・FJクルーザー(2010年登場)

FJクルーザーのフロント

見た目はポップな印象だが、ラダーフレームシャシーやトランスファーを備えたパートタイム4WDシステムなど、本格的な走破性能が秘められていた

2006年にアメリカで先行発売された後、およそ4年の期間をおいて国内導入となったFJクルーザー。ネーミングはランドクルーザー史上屈指の名車とされているFJ40に由来したもので、丸形ヘッドライトやその周囲を取り囲むような形状のフロントグリル、ホワイトのルーフパネルなど、デザインにもFJ40のテイストが色濃く取り入れられていた。エンジンは4リッターガソリンのみで、価格も当時で300万円オーバーと高額だったが、4駆ファンのみならずトレンドやファッション感覚に鋭い若者の間でも好評を博した。

重厚感たっぷりのフロントマスク
ジャストサイズの4ドアセダン

光岡リューギ(2014年登場)

初代リューギのフロント

ビュート(現行型名はビュート ストーリー)の兄気分的な存在がリューギ。角度の立った大型フロントグリルやボリューム感を強調したフロントフェンダー、縦長のテールランプなど、60年代のブリティッシュサルーンの面影が漂うデザインにより写真だけでは車体のサイズ感の想像が困難だが、実車は1500ccのトヨタ・カローラアクシオがベース。ハイブリッド車の設定に加え、カローラ・フィールダーをベースとしたワゴンボディも選択が可能となっている。

初代リューギのリア

縦長のテールランプやオーバーハングを延長させることで、トランクリッド部に奥行き感を持たせるなど、大胆な手法が際立つリアビュー

現行モデル リューギワゴンEXの2台絡み

ベース車の仕様変更にともない、2019年に現行のリューギEXと、写真のリューギワゴンEXに車名が改められた

今でも新車販売中のレトロ系オシャレ車もある

トヨタ・ランドクルーザー70(2023年再登場)

2014年にもランドクルーザー70誕生30周年記念として、1年間という期間限定で復刻された70。昨年、再び復刻された最新版では2.8リッターディーゼルエンジンを搭載(2014年版はガソリンのみ)。ファンからの要望に応え、ヘッドライトも丸形に変更。販売も限定ではなく通常モデルとして扱われている。

ホンダ・N-ONE(2012年登場)

現行N-ONEのフロント

2020年にフルモデルチェンジされた現行モデルのN-ONE

初代N-ONEのフロント

2012年に登場した初代モデルはN360のかわいらしいデザインを現代によみがえらせた

ハイト系、セダン系とさまざまな種類が存在する軽自動車の中で、ひときわ光る個性を放っているのがホンダ・N-ONE。愛らしい丸目のスタイルはNコロの愛称で親しまれた同社のN360がモチーフ。2020年に行われた8年ぶりのフルモデルチェンジでも基本デザインは初代を踏襲。RSグレードには6速MTを設定するなど、同社のタイプRシリーズにも通じるマニアックな一面を持つ。

パイクカー特集、いかがでしたでしょうか? 絶対的な流通台数が少ない車種ゆえ、日頃はあまり意識することはないかもしれませんが、こうして一同に集めてみると実に賑やかで、どれも独自のキャラクターにあふれています。性能面においては現代の最新モデル勢には太刀打ちできないかもしれませんが、眺めているだけで思わず口元がほころぶような温かみという点では、これらの車たちも決して負けていないと思います。

高橋陽介

たかはし・ようすけ 雑誌・Webを中心に執筆をしている自動車専門のフリーライター。子供の頃からの車好きが高じ、九州ローカルのカー雑誌出版社の編集を経て、フリーに。新車情報はもちろん、カスタムやチューニング、レース、旧車などあらゆるジャンルに興味を寄せる。自身の愛車遍歴はスポーツカーに偏りがち。現愛車は98年式の996型ポルシェ911カレラ。

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