アナタの好みはにっこり笑顔系? キリッとイカツイ系? 時代によって変化するフロントマスクの変遷
技術の進化がもたらした表現の多様化を筆者の独断と偏見でお届け!スタイル、燃費、居住性、エンジンのスペックなど、クルマを選ぶうえでの条件は人それぞれですが、第一印象を左右する重要なポイントとなるのが「顔つき」、すなわちフロントマスク。柔和なソフト系、ちょっと気取ったおすまし系、はたまた精悍さを強調したイカツイ系など、その種類は人間の表情同様、バラエティーに富んだものとなっています。そこで今回は昭和から平成、令和と、時代の流れの中で変化してきたフロントマスクについて、ふんわりゆる〜く考察してみました。 <筆者より> 例として取り上げたフロントマスクの選定、およびそれらのデザインに対する解説は筆者の独断と偏見に基づいたものです。異論も多々あるかと思いますが、お茶でも飲みながら暇つぶし的にお楽しみいただければ幸いです。
- トヨタ・カローラ(1970年)
- ホンダ・1300(1969年)
- ダイハツ・フェローMAX・ハードトップ(1971年)
- 日産・スカイライン(1977年/1979年 )
- マツダ・ファミリア(1977年/1979年)
- ホンダ・アコードサルーン(1977年/1980年)
- スバル・サンバーディアス・クラシック(1993年)
- スバル・ヴィヴィオ・ビストロ(1995年)
- 日産・マーチタンゴ (1996年)
- マツダ・ルーチェ(1981年)
- トヨタ・マークII(1984年)
- トヨタ・ソアラ(1986年)
- 日産・インフィニティQ45 (1989年)
- ユーノス・プレッソ(1991年)
- トヨタ・セリカ(1999年)
- 日産・ジューク(2010年)
- トヨタ・クラウン(2012年)
- トヨタ・プリウス(2023年)
- トヨタ・クラウンスポーツ(2023年)
- トヨタ・ジャパンタクシー(2017年)
- マツダ・ポーターキャブ(1969年)
- ホンダ・TN-V(1972年)
- ダイハツ・ハイゼット(1968年)
- スズキ・キャリイ(1969年)
- 三菱・アウトランダー(2021年)
- トヨタ・ヴォクシー(2022年)
統一規格型が常識だった時代を経て
LEDの普及により多彩なデザインが登場
トヨタ・セリカ(1970年)
丸型4灯ヘッドランプを採用していたセリカ。スポーツモデルらしい凛々(りり)しさの中にも、どこか優しさや温かみが漂う表情
人間の表情を表す言葉の一つに「目ヂカラ」というものがありますが、車の場合、この「目」に相当する部分がヘッドライトで、その造形はフロントマスクの印象を左右する大きな要素となっています。
今をさかのぼること50年ほど前の1970年代、フロントマスクのデザインは主にボンネットと左右フェンダーに囲まれたノーズ先端部の限られたスペース内で行われていました。しかもヘッドライトにはシールドビームと言われる統一規格品(ほとんどが丸型)を用いることが前提ということで、現代の目線から見ると表情のつくり込みにはかなり厳しい制約が課せられていたように思えます。
そんな中でもメーカー各社はライトの外枠部分やフロントグリルの形状、加飾などを工夫することで独自の表情を演出していました。また当時は「フルモデルチェンジは4年に1回、マイナーチェンジは2年に1回」など頻繁な仕様変更が行われていた時期でもあり、丸型ヘッドランプの角型化も流行(マツダ・カペラや三菱・ギャランなど、角型から丸型に変更された例もあります)。それでも、この時代の車の多くはオレンジ色のウインカーがバンパーの両端部分に組み込まれていたため、車種・車格に関係なくどのモデルも表情の印象は基本「にこやか」でした。
70年代も末期になると「異形ヘッドランプ」が登場。それまでの「丸か、四角か」という二択の時代は終わり、表情の表現方法が多彩に。金属製に代わり、低速での接触からの復元力を持たせたウレタン製バンパーの普及も、フロントマスクの新しい流れを切り開いた要因の一つとなりました。さらに80年代からはレンズの素材に加工の自由度がガラスより高い樹脂が広く用いられるようになった他、90年代に入ると小径丸型レンズのプロジェクター式ヘッドランプやHID(キセノン)ヘッドランプを備えたモデルも発売されています。
そして2007年5月には小糸製作所の世界初となるLEDヘッドランプをトヨタが採用し実用化。光源ユニットはコンパクトながら緻密な配光コントロールが可能となり、反射板を貼り巡らせた大柄なヘッドランプケースも不要となったことで電球の時代では考えられなかったようなデザインも続々出現。最近ではイグニッションONと同時に昼間でも点灯するデイタイムランニングランプが2016年10月に保安基準に明記されるなど、フロントマスクのアレンジの幅はさらなる広がりを見せているようです。
出典
一般社団法人 日本自動車工業会 JAMAGAZINE 特集「自動車のヘッドランプ」
株式会社 小糸製作所 KOITOの歩み(沿革)
ホンダ・アコード(1985年)
プレリュード、クイント・インテグラ、アコードなど、80年代中期のホンダはリトラクタブルヘッドライトを多用していた
日産・セレナ(2022年)
フロントのほぼ全面がグリル、という印象のセレナ。本体が小型かつ高性能・高機能のLEDヘッドライトだからこそ実現できたデザイン
にこやかスマイル
規格型ヘッドライトの時代
大きさや形状など、ヘッドライトの選択肢が数種類しかなかった時代。それでも、そのフロントマスクには各メーカー独自の個性があふれていました。
トヨタ・カローラ(1970年)
子犬が笑っているかのような、なんとも愛嬌(あいきょう)のあるフロントマスク。四角い外枠の中に丸型ヘッドライトを組み込む手法は当時の定番だった
ホンダ・1300(1969年)
ホンダ初の小型乗用車で、ドライサンプの強制空冷式エンジンを搭載。角型ヘッドライトはシングルキャブの「77」用で、4連キャブの「99」は丸型ランプが採用されていた
ダイハツ・フェローMAX・ハードトップ(1971年)
内側にフォグランプを備えた4灯レイアウト、その周りを囲む立体的な形状のフレーム、スリットが開けられたフロントバンパーなど、軽自動車らしからぬ迫力を見せる
ちょっとおすまし
角目ブームの到来
1974年に行われたアメリカでの角型シールドビーム導入に関する規格変更をきっかけに、国内でも70年代末期に角型ライトブームが到来します。
日産・スカイライン(1977年/1979年 )
日産・スカイライン(左:1977年、右:1979年)
当時の自動車ファンの間で大論争が巻き起こった「スカG角目化問題」。当初は丸目の前期派が優勢だったが、角目化された翌年春の“ある出来事”をきっかけに形勢は逆転。その出来事とはズバリ、「スカGターボ」のデビュー。さらに同年にはターボの2ドアハードトップ車が刑事ドラマ『西部警察』に特別装備を満載した捜査車両として起用。角目のスカイラインは免許証を持たない子供たちの間でも大人気となった
マツダ・ファミリア(1977年/1979年)
マツダ・ファミリア(左:1977年、右:1979年)
どことなくユーモラスな雰囲気だった発売当時の丸目に対し、角目化で一気にスポーティーな印象に。フロントグリル内のフィン部分も縦型から横型に変更されていた
ホンダ・アコードサルーン(1977年/1980年)
ホンダ・アコードサルーン(左:1977年、右:1980年)
丸型4灯の端正な顔立ちが人気だったアコードもブームの波を受け角型4灯に。しかし3ドアハッチバック車については、マイナーチェンジ後も丸型ライトが踏襲された
なぜ? どうして? 突如大流行に
丸型ヘッドライト+メッキ装飾の「レトロ顔」
1993年のスバル・サンバーディアス・クラシック、95年のヴィヴィオ・ビストロが火付け役となったレトロ顔ブーム。影響は軽自動車だけにとどまらず、コンパクトカーから高級車クラスにまで波及。その大半のモデルはボンネットやフェンダーに「標準車用」がそのまま使用されていたことから、ライト周辺のラインの流れにはチグハグさが見られたものの、いずれも市場での人気は高かった。
スバル・サンバーディアス・クラシック(1993年)
レトロ顔ブームの口火を切ったモデル。スバルの資料によると、イメージとしていたのは1950年代のボンネットバスだった
スバル・ヴィヴィオ・ビストロ(1995年)
大ヒットとなったビストロ。97年にはマイナーチェンジが行われ、スーパーチャージャー仕様も追加された
日産・マーチタンゴ (1996年)
クロームメッキで縁取られた縦型のフロントグリル、メッキバンパーなどを採用。のちにボレロ、ルンバと、一連のレトロ調シリーズを生み出す。このうちボレロの名称やクラシカルな佇まいは2002年に発売されたマーチの3代目モデル(ボレロの発売は2004年)、2010年の同4代目モデル(ベース車と同時発売)にも受け継がれた
おしゃれに洗練
異形ヘッドライトの登場
1981年にトヨタが3代目カリーナで樹脂製ヘッドランプレンズを国内で初採用(クーペの一部グレード)。その5年後には本体部分を含めたオール樹脂製のヘッドランプが市販化されました。
マツダ・ルーチェ(1981年)
兄弟車コスモとともに、空力性能を前面に押し出したフォルムを特徴としていた4代目ルーチェ。幅の広いヘッドライトと小型サイズのフロントグリルとの組み合わせが斬新
トヨタ・マークII(1984年)
ヘッドライトの内側にフォグランプを内蔵した異形レンズを配置するデザインは当時の定番。この時代になるとウレタン製のカラーバンパーはごく当たり前の装備となる
トヨタ・ソアラ(1986年)
ガラス製のレンズながら、初代モデルで異形ヘッドランプの口火を切ったソアラ。2代目ではリフレクター部分を含めた世界初のオール樹脂製異形ヘッドランプを導入した(写真は89年式のエアロキャビンモデル)
より自由に、個性的に
さらなる多様化の時代
バブル景気に沸いた80年代末期から90年代初頭は国産車が経済性のみならず性能面においても国際化を果たした時代。意欲的なデザインも多数登場しました。
日産・インフィニティQ45 (1989年)
ライバルのトヨタ・セルシオに対し、七宝焼のエンブレムをセンターに添えた大胆なグリルレスデザインで挑んだインフィニティQ45。その勝負の結末はご存じの通り。筆者的にはどこか仏像を彷彿(ほうふつ)とさせる穏やかな表情は大好きだったのだが……
ユーノス・プレッソ(1991年)
マツダがユーノスブランドで販売していた「涙滴」型のヘッドランプが特徴のプレッソ。他にもアンフィニ・MS-8やユーノス・500、オートザム・クレフなど、この時期のマツダは独創的なフロントマスクや車体デザインの探究に対し、極めて積極的な姿勢を見せていた
トヨタ・セリカ(1999年)
世界初の量産ハイブリッドカー、プリウスに用いられたツリ目のヘッドライト形状をさらに強調した、超縦長のヘッドライトが特徴。復活の噂があるものの、現段階においてはこれが最後のセリカとなっている(写真はオプション装着車)
イメージスケッチがまんま実車に?
千変万化、百花繚乱の時代へ
昨今では小型で多機能のLEDヘッドランプの普及に加え、グリルやバンパー周りなど、フロントマスクの大半の部分を一体で成型する手法が定番化。これにより昭和の時代では困難だった造形や複雑な曲面も再現可能となりました。
日産・ジューク(2010年)
上段、下段と、2つの顔が積み重ねられたかのような奇抜なデザインで注目を集めたジューク。ファインチューンを施したニスモモデルも投入されるなど、市場での人気は高かった。この特徴をさらに深化させた2代目モデルは残念ながら海外専売とされた
トヨタ・クラウン(2012年)
思わず「でかッ!」と声に出してしまうほどの衝撃を与えた特大サイズのフロントグリル。あまりの大きさに、アフターパーツ市場ではグリルを横切るように上下に分割するカバーも作られたが、世間の反応が登場当初の「戸惑い」から「称賛」へと変わるまで要した時間はわずかなものだった
トヨタ・プリウス(2023年)
ハンマーヘッドと名付けられたデザインテーマを具現化。ボンネット両サイドにコの字型に切れ込んだ部分にLEDデイライトとウインカーを装着。一つの光源でハイ/ロービームを切り替えるBi-Beam LEDヘッドランプはコの字型の下段部の奥に配置
トヨタ・クラウンスポーツ(2023年)
ボンネットのコの字部分はプリウス同様、デイライト/ウインカーだが、ヘッドランプはなんとその下の2本のフィンを備えたバンパーサイドのダクト内に追いやられている。ハンマーヘッド(シュモクザメ)というより深海魚系と言った方がしっくりくるかも?
[ちょっと寄り道/番外編]
トヨタ・ジャパンタクシー(2017年)
イマドキの目つきの鋭いデザインの車を街角で見かける機会が年々増える中、一服の清涼剤となっている(筆者の個人的感想です)のがジャパンタクシー。とにかく印象はすっきりシンプル。3分割構造のバンパーや交換可能なライトレンズなど、補修費の低減に配慮した工夫は一般車にも取り入れてほしいところ。
筆者的にはLEDヘッドランプの上級グレード「匠」より、表情が柔らかなハロゲンヘッドランプの標準グレードが好み。ちなみにこちらのグレード名称は「和(なごみ)」。まさに名は体を表す?
表情豊かな車があふれていた。「昭和の軽トラ」
古ぼけた校舎、口やかましいおばちゃんがいた駄菓子屋、夕焼けに追われるように走った家路。そんな幼少期の情景を思い返すとき、不思議と記憶に刻まれているのが軽トラック。LEDヘッドランプも樹脂製バンパーもなかった時代ながら、各社とも一目で見分けがつけられる「自社の顔」を持っていた。
マツダ・ポーターキャブ(1969年)
目玉パッチリ。まるで動物のぬいぐるみがそのままクルマになったかのような、コミカルなフロントマスク
ホンダ・TN-V(1972年)
「軽トラック初の4灯式ヘッドライト」をうたったTN-V。顔面全体でホンダの「H」マークを表しているようにも思えた
ダイハツ・ハイゼット(1968年)
当時、筆者が軽トラの中で一番好きだったフロントマスク。どことなく不思議なカッコ良さと、未来感が漂っていた
スズキ・キャリイ(1969年)
ハイゼット同様、角型ヘッドランプを採用していた4代目キャリイ。こちらはキリッと引き締まった特撮ヒーロー風の雰囲気
筆者の完全な独断
現行車で最もにっこり系な車、イカツイ系の車
フロントマスク特集の最後は、筆者の勝手な印象で選んだ、現行モデルの中における「にっこり系」と「イカツイ系」の2台をご紹介。
にっこり系
三菱・アウトランダー(2021年)
フロントマスクは「ダイナミックシールド」という近年の三菱車のコンセプトを反映したもの。同様の流れを汲んだデリカD:5が勇ましさを感じさせるのに対し、アウトランダーは縦型ヘッドランプの周囲に丸みが付けられ、にこやかな表情に仕立てられている
イカツイ系
トヨタ・ヴォクシー(2022年)
真正面からの表情はかなりのイカツさ。ボンネットの下段部分はウインカー/車幅灯で、ヘッドランプは恐竜がガバッと口を開けたような広大なバンパーダクト内に隠すように埋め込まれている。菱形のグリルデザインに溶け込んだフォグランプもインパクト抜群!
フロントマスクに関する考察、いかがでしたでしょうか? 今回は人間や動物の表情に例えつつ面白おかしく振り返ってみましたが、見た目の印象だけでなく自動車を構成する部品の技術的な進化や衝突安全性に関する基準の移り変わりなども、フロントマスクのデザインにさまざまな影響をもたらしているようです。さらなる技術革新が進む自動車業界において、これから先はどんなフロントマスクが出て来るのか? 一人の車好きとして大いに興味を持ちつつ、その進化の過程を見守っていきたいと思います。
高橋陽介
たかはし・ようすけ 雑誌・Webを中心に執筆をしている自動車専門のフリーライター。子供の頃からの車好きが高じ、九州ローカルのカー雑誌出版社の編集を経て、フリーに。新車情報はもちろん、カスタムやチューニング、レース、旧車などあらゆるジャンルに興味を寄せる。自身の愛車遍歴はスポーツカーに偏りがち。現愛車は98年式の996型ポルシェ911カレラ。