文=下野康史 / 撮影=奥隅圭之

ユーノス・ロードスター 人馬一体感はいまも変わらず #01

自動車ライター・下野康史の旧車試乗記
下野康史

自動車ライター・下野康史さんが懐かしい旧車を借り受け、その走りをレポートします。 今回はマツダ・ロードスターの、初代モデルをドライブ。 デビューから34年を迎えるこの車は、どんな走りを見せてくれたのでしょうか。

“30年以上オチ”ながら低走行の広報車をドライブ

日本の伝統工芸である能面をイメージしてデザインされたという初代ロードスター。コンパクトで無駄がなく、それでいて張りのあるデザインが印象的だ。

日本の伝統工芸である能面をイメージしてデザインされたという初代ロードスター。コンパクトで無駄がなく、それでいて張りのあるデザインが印象的だ。

マツダからレンタルしたのは、1989年式のスペシャルパッケージ装着車で、パワーウインドーとパワーステアリングが標準装備となる。サイズは全長3,970mm×全幅1,675mm×全高1,235mmとコンパクトだ。

マツダからレンタルしたのは、1989年式のスペシャルパッケージ装着車で、パワーウインドーとパワーステアリングが標準装備となる。サイズは全長3,970mm×全幅1,675mm×全高1,235mmとコンパクトだ。

自動車メーカーが新型車の広報宣伝用に用意する車を“広報車”という。メディアがニューモデルの試乗や撮影で借りる車がこれである。マツダには歴代ロードスターの広報車がある。4代目になる現行モデルと同じように、古いロードスターを借りて乗ることができるのだ。新型車を売ってナンボの自動車メーカーがなぜ“旧車”の広報車を用意しているのか? なんてことを考える前に、まずは乗ってみることにした。

“ユーノス・ロードスター”の名で初代ロードスターが登場したのは1989年。試乗車も同年10月初登録の正真正銘のオリジナルロードスターである。走行距離は24,000km余り。“大古”車ながら、驚くほど低走行の個体を広報車として貸し出せるレベルにメーカー自らが仕上げたものである。

幌を閉じてもオープン時と変わらないスタイリングのまとまりを見せる。リアスクリーンはビニール製。

幌を閉じてもオープン時と変わらないスタイリングのまとまりを見せる。リアスクリーンはビニール製。

ドアノブは専用品。レンタルした車のドアロックはリモコンではなく、キイを挿して行う。この車には集中ドアロックも装備されていなかった。

ドアノブは専用品。レンタルした車のドアロックはリモコンではなく、キイを挿して行う。この車には集中ドアロックも装備されていなかった。

今の“重い軽自動車”よりも軽量で、操縦感覚も軽い

寒い早朝、まずは高速道路でロケ地へ向かうため、幌(ほろ)をかぶせたままで走る。小さなドアレバーを引いて、2座席のコクピットに乗り込む。クラッチペダルを踏み、挿し込んだキイをひねってエンジンを起こす。今のクルマではすっかりやらなくなった“儀式”である。ライトレバーのツマミをひねると、ボンネット先端にヘッドランプが飛び出す。運転席からだと四角いシルエットを見せるポップアップヘッドランプは初代ロードスターだけのビジュアルだ。

見た目だけでなく、走り出してもほぼ新車である。筆者は34年前の新車のロードスターを経験しているから、キツネにつままれているみたいだった。初代ロードスターはMGミジェットやオースチン・ヒーレーなど1960年代の英国製ライトウェイトスポーツカーを心情的お手本にしている。2023年の路上でその頃の古い英国車に乗るのは、心配のかたまりだろうが、この和製ライトウェイトスポーツカーは朝のコールドスタート直後から快調そのものである。

高速を降り、ソフトトップを開けて走る。ファミリア用をブラッシュアップした1.6リッターエンジンは120馬力。車重は950kgしかない。歴代ロードスターのどれよりも軽く、今の“重い軽自動車”より軽い。タコメーターの左半分、4,000回転も回せば十分に軽快な加速を見せる。モーターのようにスムーズに回る、というエンジンではないものの、それだけに“回し甲斐(がい)”はある。7,000回転を超すトップエンドでの滑らかさは、新車時より軽く感じた。

1.6LのB6-ZE型エンジンは120馬力とそれほど高出力というわけではないが、軽い車重と低めのギアリングが相まって十分な動力性能が楽しめた。

1.6LのB6-ZE型エンジンは120馬力とそれほど高出力というわけではないが、軽い車重と低めのギアリングが相まって十分な動力性能が楽しめた。

黒一色で統一されたインパネ周りでは、エアバッグがないMOMOのステアリングホイールが目を引く。カセットテープが聴けるカーオーディオも懐かしい。

黒一色で統一されたインパネ周りでは、エアバッグがないMOMOのステアリングホイールが目を引く。カセットテープが聴けるカーオーディオも懐かしい。

新車さながらとはいえ、虎の子の広報車だから、いたわって走ったが、オープンエアのなか、フツーに流していたって気持ちいい。信号待ちで止まるときの軽いブレーキングでも、ペダルには確かな制動フィールが伝わってくる。

5段MTのギアレバーはシフトノブを入れても長さ10cmほどしかない。シフトフィールはやや渋くてハガネの手ごたえを感じさせるが、停車中でも手慰みに動かしてみたくなる。
直径36.5cmのステアリングホイールにはエアバッグが付いていない。そのため、ハンドル自体が軽い。それが操縦感覚の軽さにも効いている。

89年といえば、イケイケドンドンだったバブル景気の絶頂期である。そんななか、「人馬一体」を謳(うた)い文句に登場した初代ロードスターは「クルマの原点」だなと感じた。あれから34年、ほぼ新車の広報車に乗ってみると、その歳月分だけさらに原点感が強くなっていた。そして新車の時よりいっそう楽しく感じた。

自動運転的なドライブサポート機能は当然まったく付いていない。レーンキープアシストが備わる最新のクルマと違って、高速道路では神経を集中してちゃんと走らせないといけない。“走る”のではなく、“走らせる”のだ。人馬一体ってそういうことなのだと、再認識させられた。

歩行者保護のため、突起物を極力なくす方向にある現在の新車には装着されることがなくなった、リトラクタブルヘッドライト。丸いライトは60年代の英国製ライトウェイトスポーツカーを思い起こさせる。

歩行者保護のため、突起物を極力なくす方向にある現在の新車には装着されることがなくなった、リトラクタブルヘッドライト。丸いライトは60年代の英国製ライトウェイトスポーツカーを思い起こさせる。

ライトがポップアップした姿を運転席から眺めると、ボンネットにライトが突起する独特の姿が印象に残る。これも現在の車では見られなくなった光景だ。

ライトがポップアップした姿を運転席から眺めると、ボンネットにライトが突起する独特の姿が印象に残る。これも現在の車では見られなくなった光景だ。

2代目・NBロードスターの試乗記はこちらから

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下野康史

文=下野康史(かばた・やすし) 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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