クルマのラゲッジスペースに腰かける女性
写真=逢坂 聡 / 文=大森弘恵 / 撮影協力=さがみ湖MORI MORI、PICAさがみ湖 

車中泊避難、私にもできる? 車中泊好き防災士に聞いた失敗も活かせる基本の備え

災害時に役立つ!レジャーの車中泊経験を“避難準備”に変えるヒント

漠然と「クルマは災害時の避難所になる」と考えていませんか。それは本当に安心なのでしょうか。親子で車中泊旅を楽しむ防災士・三沢真実さんに、「レジャーの車中泊体験」は「車中泊避難」に役立つのかを聞いてみました。3月11日は「防災意識を育てる日」、そして3月、6月、9月、12月の1日は「防災用品点検の日」。この機会に、車中泊避難について考えてみませんか。

目次

遊びの車中泊が防災につながった理由

三沢真実(みさわまみ)さん
防災士、キャンプインストラクター。“キャンプのある暮らし”をテーマに、地球の未来を創造する会社「CAMMOC」創設メンバーで、いち早く“いつものキャンプで無理なく備える”を提案している。息子のアリくんと車中泊をしながら全国各地を旅しているが、「アリの身長が170cm近くなったから、スズキ・エブリイだと手狭になって……」が目下の悩み

三沢真実さんが車中泊を始めたのは2017年から。息子アリくんが4歳の頃からだといいます。それまでは親子キャンプを楽しんでいた三沢さんが、クルマの中で寝泊まりしようと考えたのはなぜなのでしょうか。

「息子が3歳でスノーボードデビューしたところ、スノーボードにハマってくれて。一緒にゲレンデに通っていたのですが、駐車場で仮眠を取っている人が多いことに気づき、同じようにクルマの中で仮眠を取ろうと考えたのが車中泊を始めた理由です。スケジュール的に楽になりました」

今ではキャンプもするし車中泊もする。三沢親子の旅のスタイルのひとつとなり、遊びの選択肢が広がったといいます。

軽バンのラゲッジに車中泊道具をセット

気温や期間、目的によって何を持って行けばいいのか考える車中泊旅は、楽しみながら備える「SDGs防災キャンプ」と根本は同じ

そんな三沢さんが防災を意識しはじめたのは2019年のこと。

「きっかけは2019年に発生した『令和元年東日本台風』です。自分たちが住んでいる地域で豪雨となり、キャンプの用品やノウハウが防災につながったことを実感しました。同時に、このことを多くの人に伝えたいと思って防災士の資格を取得したんです」

ガールスカウト出身で当時、すでに20年以上のキャンプ経験をもつ三沢さんらCAMMOCは「SDGs防災キャンプ」と名付け、いつものキャンプ道具で楽しみながら備える啓蒙活動を始めます。

電気も何もない森の中で、テントや寝袋など自分が必要だと思う道具を持ち込み一日を過ごす。見方を変えれば、キャンプは楽しい防災訓練でもあるのです。

「自分なりに準備して出かけて、失敗しては改善して。防災視点では、モノを取捨選択していく過程がキャンプも車中泊も似ているなと思っています」

一度で完璧な準備はできない! 失敗を笑い飛ばして車中泊避難に役立てよう

本の表紙を斜め上から撮影

三沢さんらCAMMOCによる著書『ラクして備えるながら防災 フェーズフリーな暮らし方』(辰巳出版)には防災のヒントが多数

「レジャーのための車中泊では、1泊分の必要なモノを厳選して出発します。でも、一度で完璧に準備できる人はそんなにいなくて、車中泊好きのみなさんも結構失敗経験が多いんですよ」

失敗や反省を踏まえて準備すれば、次の車中泊では過ごしやすくなる。経験を積み重ねることでどんな時にどんなモノが必要なのかが見えてきて、いざクルマへ避難するぞというときも慌てずに準備できるというわけです。

軽バンのラゲッジドアを開けて、ラゲッジに座ってくつろぐ女性

ベテランキャンパーであっても最初の車中泊は想定外のことばかり

実はキャンプ経験豊富な三沢さんでも、最初の車中泊ではテント泊とは違う寒さに驚いたそう。ガラス面を覆う防寒シェードとキャンプ用マット、冬用寝袋を用意したものの、底冷えがひどく、眠れなかったそうです。

「車中泊時にはエンジンを止めるので、カーエアコンは当てにできません。夏は窓とリアゲートにメッシュをかけて風通しをよくする、冬はブランケットを追加するなどいろいろ工夫しました。遊びのための車中泊なら何度失敗してもOK」

クルマの窓にメッシュシェードをセットしている風景

蒸し暑さに備えた窓用メッシュは、エアコンに頼らず快適にするための一工夫

レジャーであれば、寝苦しいときにはあきらめて帰宅してもなんら問題ありません。なんなら近くのホテルやキャンプ場のコテージを利用してもいい。失敗は笑い飛ばし、次に生かせばいいという考え方がステキです。

結局、1年後には断熱材を入れるなど、より車中泊向きとなるようカスタムしていますが、今も本格車中泊カーのように走行充電やFFヒーターなどは搭載していません。

取り返しのつかない失敗を防ぐために覚えておくべき2つのこと

車内のテーブルにのせたトーストなどの食事

車内での煮炊きは厳禁。火気使用の調理は必ず車外で行うこと。火を使わずに食べられるモノを用意しておくのも防災テクのひとつ

「ただし、火災や一酸化炭素中毒は取り返しのつかない結果になりかねません。狭い車内での煮炊きは絶対にやめてください。また、車中泊旅ではRVパークやキャンプ場など車中泊できる場所を利用するのはもちろんですが、冬の降雪時はマフラーが雪で塞がれないようにすることも忘れずに」

後付けできる小さな換気扇もありますが、それを使ったとて一酸化炭素の危険は高いまま。バーナーを倒すなどやけどの危険もあるので、煮炊きをする際にはクルマの外で行うのが最低限のルールです。

また、燃料やバッテリー、扇風機やLEDなど充電式の小物、虫よけなどのスプレー缶などは高温になりやすい車内に積みっぱなしにしないことも重要。

「車中泊体験が防災に役立つといっても、だれもが車中泊旅を好むわけではないでしょう。だったら自宅の駐車場で一泊してみては? 自分のクルマではどうすればシートがフラットになるか、寒いのか暑いのか、家族みんなで眠れるのか……多くの発見があると思います。眠れなかったら自宅に戻って、改めて対策を考えればいいだけ。気軽に試してください」

車中泊避難なら住宅街でもプライベート空間を確保できる

車中泊スタイルの車内とキャンピングカーが並ぶ駐車場風景

あるイベントで行われた車中泊体験。駐車場でもプライベート空間を作れるのが車中泊のいいところ

「車中泊避難と一口で言ってもいろいろなシーンがあります。自宅が危険だから安全な場所でクルマを避難所代わりにすることもあれば、出先で災害にあって帰れず、そのまま車中泊する場合もあります。

寝袋やマット、LEDランタンなど車中泊で使う道具はキャンプと共通ですが、車中泊のほうが場所を選びません。災害時は住宅街の駐車場でも車内でプライベート空間を確保できる。たとえば、車内であれば赤ちゃんの授乳もしやすいんです。ペット連れも車中泊避難に向いています」

自立するテントであれば舗装された場所でも設置できますが、ペグで固定できなければ風が吹くとひとたまりもありません。その点、クルマなら地面の影響を受けにくいんですね。

「場所を選ばない車中泊避難ですが、そこが増水や雪崩、崩落などのない本当に安全な場所であるかを知っておかないといけません。最低限、自宅周辺のハザードマップを確認しておきましょう」

健康と安全を守る車中泊避難・5つのポイント

普通のミニバンも、工夫すれば大人が手足を伸ばして眠れるスペースを作れる

最後に、車中泊避難で注意すべきポイントを教えてください。

 1.体を水平に保てる場所を選び、足先までまっすぐ伸ばした姿勢で眠る。水分をしっかりとってエコノミークラス症候群を予防

 2.エンジンをかけたまま寝ない。エアコンに依存しないで過ごせるよう工夫する

 3.情報収集やライトの充電用に500Whクラスのポータブル電源を用意

 4.車内をのぞき込まれないようシェードを使う。とくに女性や子供はひとりで行動せず、フードで性別がわかりにくいようにするなど防犯意識をもつ

 5.ドアの開閉音や警報音、ペットの鳴き声など、周囲への配慮を忘れない

「日頃から気にしておきたいのが給油タイミングです。災害時には給油渋滞がおきるので、普段からクルマの燃料が半分になったら満タンにするよう心がけておくと避難時に困りません。また、自宅で食品や燃料をローリングストックしている人は多いでしょう。これらはバッグなどにまとめて保管しておけばサッと持ち出せます」

土の上に駐車している軽バンの横向き写真

できるだけ平らでぬかるみなどのない場所を選んで車中泊。「マットなどで補正はできますが、案外大変。地面が平らなところを選ぶほうがいいですよ」(三沢さん)

こうしてポイントを教わると、車中泊経験さえあれば万全というものではないとわかります。みんなが不安に思う災害時だからこそ周囲への配慮・協力は不可欠ですし、車中泊が防災にどう役立つのかを意識していることも非常に重要なのです。

次回(3月9日公開予定)は車中泊避難のために三沢さんが選んだ道具を紹介します。

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